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天使とサイナス  作者: 七数
4章 【解】
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64話 「道化師」

「はぁ…はぁ…はぁ…くそっ、、」


目の前には獣型スクリムシリ 解 …全長20メートルはある。

身体のあちこちから触手を生やし先端を鋭くして攻撃をするスクリムシリにしては珍しいタイプ。

それに加えてこの巨体…足を切断するだけでも何度も同じ箇所に攻撃をしなければいけない程の硬度。


(脇腹が抉られた…いつもならすぐに治癒できるのに焦りから上手くできない…

くそっ、、ここまでか…)


脇腹から溢れ出る血を手で抑えるが止まることなく地面に広がっていく。

当時まだアレルが15歳で騎士団に入団し二年目の年。

常に生き急いでいるかのように焦っており、人間関係は愚か、自分の私生活でさえストイックに生きる程のスクリムシリに対する憎悪。

アレル自身は理解している…

周りの団員から嫌われていることなどは。

アレルは今この状況は周りの気持ちを考えずにただ自分の過去を引きずった結果だと自業自得と思い、目の前のスクリムシリに潔く殺されようとしていた。


(最後くらい…ナルバンさんとちゃんと話せばよかったな)



〜数週間前〜


「アレル・ドレイだな?」


「なんですか?」


「噂通りだな。話しかけてくるなという空気満々だ」


「わかっているのになぜ話しかけてくるんですか?」


「お前…本当はそういう態度は辛いんだろ?」


「っ!!…あなたに何が分かるんですか。」


「何も分からないな。どうでも良い」


「は?」


「俺はお前がそんな態度とる理由なんてどうでも良いと言ったんだ。

俺は立場上お前のようなやつをほっとけない。

お前が俺を拒絶しようと…無視しようと俺はずっと話しかけるぞ」


(なんなんだこの人…)


それからナルバンさんのだる絡みが始まった。

普通こういう役目はテンションが高い明るい人がやるものなのにナルバンさんは全くそんなこと無かった。

いつも低い声で…顔は真顔で暗い。

まるで俺のように他者に興味がなさそうな顔。

だが、毎回俺に話しかけてきて笑わそうとしてきたり手品をして注意を引こうとしてくる。

そんな時でも本当に真顔だった。

器用なのか不器用なのかよく分からないがめちゃくちゃイラついたのは覚えている。

本当にこの人は俺の事を元気づけようとしているのか?と疑問に思ってしまうほどの態度に団長であるナルバンさんをガン無視するようになっていた。

だが、それでも俺が一人で酒を飲んでいるところや剣の技術を磨いているところにも虫のように湧いて出てきてはしつこく話しかけてくる。


人とここ数年まともに話さなかった俺からすれば鬱陶しさとイラつきがピークに達しそうだった。

だが、同時に何故か許せてしまっている自分もいた。

面白くもなんともないはずのナルバンさんの手品やボケに内心少し気持ちが高ぶる…そんな気がした。


「アレル…これから二週間は俺と任務を行ってもらう。」


「は?嫌です、絶対に無理です」


「悪いがこれは個人的な問題ではない。

もうすぐでメルバル総戦がある中でお前のような協調性皆無の奴がいたら勝てる戦いも勝てなくなるだろう。

俺が連携のとり方というものを教えてやる」


「…チッ」


「相変わらずの態度だな。俺以外にするなよ」


そしてナルバンさんとの任務が始まり、俺は当然のように協力などせずに一人でスクリムシリを殺し、報告も何もせずに勝手にユーランシーへと帰る。

そんなことをしてもナルバンさんは一度も俺を怒るような事はしなかった。

俺は自分の積み上げてきた実力を信じており、絶対にスクリムシリなんかに負けないと思っていた。

だから、そんな行動が出来た。

スクリムシリ 解 だって倒せるくらいに強いと思っていた。



だが、そんな訳無かった。

実際に相対して久しく忘れていたスクリムシリに対する恐怖を思い出した。

目の前のスクリムシリは先端の尖った触手を無数に生えさせて俺に向けて突き刺そうとする。

終わった と思い顔を下げるがいつまで経っても俺は痛みを感じることはなかった。

顔を上げると目の前にはたくましく安心感のある背中があった。


「脈が早い…深呼吸をして落ち着かせろ。

そしたら治癒が上手く使える。」


「ナルバン…さん、」


「何度も言っているだろう。団長と呼べ」


ナルバンの右手には剣を持っており、スクリムシリの触手を全て切り落としていた。

音もなく、いつの間にか目の前に立っており、俺の心配までするほど…


(そうか…そうだったんだな…この人の背中は…こんなにもデカかったのか、)


ナルバンさんに向かってスクリムシリは新たな触手を無数に伸ばして攻撃する。

だが、ナルバンさんは腰に付けている剣を抜き天恵を流し込む。


「情火の剣…三段階目」


天恵を流し込むとその剣から意思者の人達と同じくらいの力を感じる。


「アレル…よく見ておけ。お前の求めている力はこういうことだ」


ナルバンさんに向かってスクリムシリは攻撃を仕掛けるが、ナルバンさんはただ一振しただけでその攻撃全てをなぎ払い切断された箇所がドロドロと溶け始める。

その傷はどんどん広がっていきスクリムシリの身体すらも溶かし始める。

そして、そのままナルバンさんは間髪入れずにスクリムシリの真下に入り真上に飛ぶと目におうことが出来ぬ速度でスクリムシリのでかい首を切り落とした。

俺は目を疑っていた。

今までめんどくさいとしか思っていなかった男がここまでの実力を持つ者なのかと。


「いいか、アレル。お前の孤独や辛い経験からお前が他者を寄せ付けないのは構わないし否定もしない。

だが、なぜお前が騎士団に入りたいかと思った気持ちだけは無くすなよ。

それが大切な人を守れなかった罪悪感から来るものならば尚更な。

そしたら今のお前の考えも少しは変わるかもしれない。

今のお前はただ自分の強さを過大評価しているだけの道化師(ピエロ)だ。

お前が他者と協力したくないんじゃない。

お前のような道化師だから他者が協力しないんだ。

勘違いするなよ」


言い返すことなどできなかったし、するつもりも気力も無かった。

ただただ自分が情けなかった。


(勘違い道化師…今の俺にピッタリな名前だな)


この時の俺は何を思ったのか…ナルバン団長に何を感じたのか…鮮明には覚えてないが、一つだけ明確に覚えていることがある。

この人のようになりたい…。



任務終わりにソフィア女王への任務報告を終えた後、俺はすぐにナルバンさんへの元へと向かう。

ナルバンさんはメルバル総戦が近いこともあり忙しそうにしていた。

だが、どうしても頼みたいことがあった。


「どうした、お前から俺に用があるなんて珍しいな。

女なら紹介してやれないぞ」


「違います」


「今のは冗談だ」


「すみません、ナルバンさんのことだからつい」


「やめろ、俺には嫁がいる」


「話を戻します。

単刀直入に言います。俺に戦い方を教えてください」


ナルバン団長はペンを持つ手を止める。

そしてゆっくりと顔を上げて目を見開きながら驚いた表情をして俺を見つめてくる。


「…本気か?」


「本気です」


「アビスやディシがいるだろう?」


「俺はナルバン団長に憧れています。

あなたのようになりたい…あなたのように強くなりたいんです」


ナルバン団長は少し考える表情をした後に口を開く。


「俺は騎士団長という立場だ。

団員は皆等しく見てやらなければいけない。

それに加えてソフィア女王の仕事の補佐やメルバル総戦での団員の配置。

何が言いたいかと言うと俺は忙しいんだ」


(やはり…ダメか)


ユーランシーにはアビスという指導者がいる。

それなのにわざわざ騎士団長であるナルバン団長に頼むというのはお門違いだ。


「だから、お前のことを気遣えるほどの余裕はない。

厳しくなっても知らないぞ?」


「えっ、」


「教えてやる。最後まで責任もってな。」


「っ!!ありがとうございます、」


そこからは早かった気がする。

ナルバン団長に戦い方を教えてもらうことで俺はさらにナルバン団長を尊敬するようになった。

教え方が上手く、上達する速度は一人で強くなろうとしていた時とは比べ物にならなかった。

そして、アビス師匠からも気にかけてもらえるほどに強くなり…ある日突然、俺は 意思 を宿った。

何ら変わらない日常だった…いつものように任務をこなしながらアビス師匠と手合わせをし、夜にナルバン団長と飲みに行く。

俺はこの恵まれた環境を何としても守り切ろう…そう決意した。

その時に目の前が真っ白になった。

そして黒い人影が俺に手をさし伸ばしてきた。

何故かその手を払い除けることなどは出来ず気がつけば手を取っていた。

そしてハッとするといつもの部屋の光景。

だが、自分の中には何かが繋がっている…そんな感覚になった。


「それは 意思 だ。」


ナルバン団長に相談をしたら予想外の返答が返ってきた。

意思?俺が?なぜ突然?そう思わずにはいられなかった。


そして俺は守恵者へとなった。

その後すぐに守恵者二人が死に、ソフィア女王が亡くなり、騎士団初の女性が入団し、それに続くように 意思 を宿る女性が二人現れた。

そして今…ナルバン団長も死んだ。

恩人なのにその場に居合わせることも出来ず、ちゃんとした別れも言えぬまま死んでしまった。

相手は 空虚の意思者 だったようだ。

悔しい…辛く、寂しい。

色んな感情が入り交じる中で俺はただ、自分の部屋で静かに涙を流すことしか出来なかった。

立ち直ることなんて出来るんだろうか?

しなくてはならないのは理解している…守恵者として、騎士団員の見本とならねばいけない。

なのに前を向くことが出来ない。

誰か助けて欲しい…俺を救って欲しい…このどうしようもない無力感から…あの時と同じような罪悪感から救って欲しい。


すると コンコン と部屋をノックされる。


「アレル…」


聞き覚えのある声。

今日ユーランシーへ戻ってきた際に一番最初に聞きたかった声。

だが、俺はその名前を呼ぶ声に反応することなく黙り続ける。

ドアがゆっくりと開き、美しく綺麗な女性が顔を覗かせてくる。


「アレル…勝手に入ってごめんなさい。

でも、今のあなたは一人で立ち上がれるほどの気持ちはもう壊れてる。

だから、私が傍にいるよ…」


アレルはそう言われると椅子に座ったまま顔を上に向けて両目を片手で覆う。

だがその手の隙間から涙が流れる。

そんなアレルをミリィノは優しく後ろから抱きしめる。


「大丈夫…私がいる、ナルバン団長の代わりにはなれないけどあなたの心を支えたい。」


「ミリィノ…俺、、まだ騎士団で上に立ってて良いのかな…。

俺はまだ人を守れると思うか?」


「守れるよ…現に私は毎分毎秒…助けられてる。

辛い時にアレルがいるだけで心が救われるの…。

アレルは…私の心の支えだよ?」


アレルはミリィノの方を向くとミリィノを抱きしめる。

腕をがっしりと回して強く抱きしめる。

ミリィノはそんなアレルに一瞬だけ動揺するもすぐに全てをアレルに託した。

アレルはただミリィノに抱きついたまま何を言うわけでもする訳でもなく、ただ気持ちの整理をしていた。


「ありがとう…ミリィノ」


「良いんですよ…アレル」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ただいま」


「マレランッ!!良かった!無事で!」


オロビアヌスに無事に着いたマレランはアイリスやシラ、ノースアヌス学園の皆から囲まれていた。


バルタ王へと諸々の説明や報告を済ませたあとにアイリスから話があると言われて二人きりで会う。

アイリスの寮部屋へと呼ばれたマレランは少し緊張しながらも部屋に入る。


アイリスは真剣な目でマレランを見つめる。

そしてそっとマレランの前にある一本の剣を差し出す。


「これは…」


間違い無かった。ナルバンが使っていた剣だった。

マレランはおかしいことに気がついていた。

ユーランシーにいる時にアビスから色々とナルバンの事を色々と聞いた際にナルバンが使っていた剣のことを教えてもらった。

意思 は稀に物に宿り力を与える。

その剣は主を決め、その主が死んだら剣も消滅すると言っていた。

だが、このナルバンの剣…情火の剣は無くなっていなかった。


「これをどこで?」


「私が内緒で…マレランに渡さないといけないと思ったの。

やっぱりこんなことダメだよね」


「いや、ありがとうアイネス。」


俺はそう言いながら剣に手を伸ばす。

剣に触れた瞬間、何かが起こった。

何か詳しいことは分からないがこの剣の気持ちはわかる気がした。

何よりも…剣が拒絶をしなかったことでこの剣は俺が引き継がなければいけないと決心した。


「マレラン…それって、」


「アイネス…俺、、もっともっと強くなってアイネスを必ず守れるような人間になるから」


「えっと…うん!お願いします!なんちゃって」

読んで頂きありがとうございます!

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