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天使とサイナス  作者: 七数
1章 【易】
7/12

6話 「単独任務」

基本的にひとまず全体の流れを書いてから投稿して、後で読み直して違うな〜と思ったところを書き直しているので言葉がおかしい箇所がまだあるかもしれないです

昨日の記憶は鮮明に覚えている。それを踏まえた上で謝罪の言葉を考えなければ…。

ふかふかのベッドで目を覚まし、そのベッドからは大好きな人の匂いがする。この匂いを嗅ぐととても安心する。

体を起こし部屋を見渡す。部屋の配置的にベッドの反対側にソファが置いてあり、そのソファにディシが寝ている。

昨日、ディシに不安や不満を沢山聞いてもらってしまった。その上、寝落ちしてしまいベッドを使わせてもらう始末。

謝罪の言葉を考えながらベッドから下りるとソファで寝ているディシも目を覚ます。


「起きたんだな。寝れたか?」


「うん。えっと…ごめんなさい。昨日いきなり…それにベッドまで」


「気にするな。スタシアはまだ子供なんだから頼ってくれ」


私はその言葉に少し肩を落とす。

(まだ子供か…)

私は自分の顔がコンプレックスだった。幼い顔に低身長。

同じ歳でも自分より大人びている雰囲気と美人な顔立ちのヨーセルがとても羨ましい。

私は、大人に見られたいしディシをドキドキさせたい。大好きな人に子供と思われるのは悲しい。


「朝食はうちで食べるか?」


「いいの?」


「もちろん。時間的にもうすぐで呼ばれると思うからゆっくりしといてくれ」


「ありがと」


き、気まずい…。昨日あんな愚痴をこぼした反面、めちゃくちゃ気まずい。

めんどくさい女って思われてないかな…いや、思われてるか…


「ディシ君、今日は任務ある?」


「単独任務が南東の方で」


「そっか…」


「スタシアは?」


「私は北西だから、真反対だね。」


もし方角が近かったらササッと任務終わらせてディシに会いに行こうと思ったけど真反対は流石に遠すぎるからやめておこう。

今日はたしか、ミリィノが北北西から北にかけての任務があったはずだから運が良ければ合流出来るかもしれないし。


「最近、スクリムシリの出現数と強さも上がってるから気をつけるようにな。」


「うん!ディシ君気をつけてね!」


と、そんな会話をしていたら部屋をノックされディシの執事の人が入ってくる。

前から思っていたのだが、どうしてこの人は男装をしているのだろうか…。骨格、天恵の流れ、筋肉の付き方から女性だとすぐに理解できた。

自慢では無いが観察眼だけはある。

ハッ…まさか!?ディシ君とそういう関係?

いやいや、ディシ君に女の影があるとすれば私やミリィノと食べに行ったりくらい…。

いや、最近ヨーセルのことも気にかけてるな…。

色々考えているとディシに呼ばれる。


「スタシア、大丈夫か?朝食できたから行くよ」


「あ、うん!わかった!」


というか、安易にディシ君の前でこんなこと考えていたらディシ君の能力で聞かれちゃうから控えよう。




朝食を食べ終えたあと、私は自身の持つ地区でもあり屋敷がある西国に戻る。

屋敷に戻り、守恵者用の戦闘服に着替える。

白が主体で服の両脇に黒と黄色の縦線が入っている丈の長い服。神父様と系統は似ている感じの服だ。

ズボンはピタッとした黒の長ズボン。

そして、護身用の剣を腰に付ける。

基本、私はスクリムシリを能力でしか倒せないため剣を使うことはほぼない。


着替えたらホールディングスに向かい女王の接待室に行き、今から任務に行くことを伝える。


「お気をつけてください。スタシアさん」


「はい!」


メアリー女王に伝えた後、西国・ウェスト城から任務状と壁外へ出るための許可証を貰う。

そして、西国の三重になっている壁の門でそれらを見せて壁外にでる。


「スタシア様〜お気をつけて!」


「ありがとうございます!行ってきますね!」


国民の方々に毎回送り出して貰える事がとても嬉しい。心配してくれる人がいると必ず生きて帰ってみせると思えるからだ。

今回の単独の任務は壁から約3キロ地点にある廃墟と化した神殿と接するように作られた村にユーランシーで住むようにお願いしに行くというものだ。

ユーランシーは多くの人が住んでいて、近いうちに壁の拡大も視野に入れているためこれから労働力も欲しい。壁の外に住んでいる人には安全を与えられるという互いにメリットがある。

1つ問題があるとすれば、ユーランシーから少し離れた村の人達がユーランシーに移動するためにはそれなりに人が必要ということだ。移動の際にスクリムシリに襲われても守れるように騎士団員を数名連れていく必要がある。それに、そもそも移動するためには馬車が必要だ。

(ユーランシーでは馬は貴重だからそう容易く動かせるものでは無いからなぁ…。)


ユーランシーの周りは森が多く、私も今木々に囲まれた道を歩いている。

元の身体能力がめちゃくちゃ悪いためユーランシーを出る時は毎回、常に身体強化をしている。

と、その時ガサガサと音がした。

気配的にはスクリムシリ数体が囲んでいるだろうか、

この音的に近い、つまりこの距離でも見えないならあっても 番 ほどだろう。

茂みから獣型のスクリムシリが襲いかかってくる、と同時に私は自分の能力を使う。

信愛の意思 の力を。

飛びかかってきたスクリムシリは空中でグシャッと小さい塊に潰れる…いや、潰したのだが。

私は周辺に気配がないことを確認してまた目的地の方角へと歩みを進める。



数十分ほど歩いたくらいで目的の村に着いた。

私は、冷や汗が流れる。

村の地面や家の壁に肉片が飛び散っていたり顔を半分削られた村人がいた。

死体は新しい…。すぐ近くにいるはず、生存者もいるかもしれない。気配はどこからする…。

私が歩いてきた道をそのまま真っ直ぐ行ったところに目立たないが道が続いていることに気づいた。

スクリムシリの足跡と血痕もある。何かが引きずられた跡も…。

(どうしてっ!)


私はその道を走って走ってやっと開けた場所に出ると草が生え、苔に囲われた石でできた神殿があり、その神殿の入口は階段を登ったところにある。

私の足元にある血痕はそのまま神殿の階段へと続いている。

私は走って階段を上り神殿へ入る。

(っ!!!!)


神殿に入るとスクリムシリ 番 くらいの大きさがムシャムシャと女性を食べていた。

そのスクリムシリの左側の隅に男の子と女の子が丸まって怯えていた。

大きさは 番 だが筋肉の付き方からして 予 以上はある。

スクリムシリは食べるのを止めると子供たちの方を向く。そして大きな口を開けて襲いかかろうとする。


私は身体強化をフルに使い、スクリムシリが子供達を食べる前に抱えて救出する。子供たちは酷く震えており、女の子の方はふくらはぎに噛まれた跡があり怪我していた。


「大丈夫…私が来たから。私の後ろに隠れていてね。」


「ひっ、うっ、…う、うん」


男の子は怖がりながらも頷く。女の子の方は意識が朦朧としている。

早く手当しないと後遺症が残ってしまうかもしれない。スクリムシリが襲った時に能力でスクリムシリを殺しても良かったがそれだとこの子達にトラウマが残ってしまうかもしれない。既に村のみんなを殺されてしまい目の前で人が食べられたのを見てしまっているが少しでも怖い思いをさせたくなかった。


私はこちらに牙を向け、先程食べていた女性の血を歯茎から流す四足歩行の獣型スクリムシリの姿を真っ直ぐとみる。


「人を苦しめた分、苦しめながら殺す」


普段使わない言葉使い、気にする暇もなかった。

ムカついてしょうがなかった。もっと早く来れなかった自分にも、人を平気で殺す目の前の化け物にも。


スクリムシリの左前脚をねじり潰し、左後脚、右後脚、右前脚の順番で潰していく。

足が無くなったスクリムシリは地面に落ちる。

私は最後に頭を上顎と下顎から裂けるように引き裂く。

スクリムシリは血しぶきを上げながら動かなくなる。

私の 信愛の意思 の力。


信愛の意思

意思(能力)

・万物の状態を変化させることが可能。(事象や思考などは不可)

意志・『愛憎(あいぞう)

・対象の命がある限り、腕が欠損しようと上半身と下半身が切断されようと意思によって再生させることが出来る


私がこの意思を宿ったのは恐らく10年前…。

ディシに助けられたあの日にこの意思が宿った。

万物の状態を変化させる…文字通り、対象を潰すことだって出来る部位を引きちぎることだって出来る。

だけど、この意思は天恵の正確な技術が必要だ。そうしないと、意図せず周りの人を巻き込んでしまうかもしれない。

意思 は条件によって宿る。逆を言えば宿る者にその条件が無くなってしまえば 意思 は消えてしまう、

メアリー女王に教えてもらったことがある。

信愛の意思 の宿る条件は心が綺麗でなければいけない。分からなかった…全く分からなかった…。

だけど、綺麗であろうとしている。


スクリムシリを殺した後、2人の子供に駆け寄り怪我の様態をを見る。

男の子はかすり傷程度だったが女の子の方はふくらはぎからスネにかけて穴が貫通していた。

恐らく、あの大きく鋭い牙で噛み付かれたのだろう。


「大丈夫…治すからね。…愛憎」


女の子の傷は再生されていき、傷一つなく穴が塞がる。

男の子の方の傷もかすり傷だがなにかの感染症などに罹ると危ないため一緒に治癒する。

女の子はそのまま眠ってしまっているようだ。


「お、お姉ちゃん…怖かったぁっ!!」


男の子は泣きながら私に抱きついてくる。頭を撫でながらギュッと抱き締めてあげる。

見たところ 5、6歳だろう。この歳でこんな経験をさせてしまった私の責任だ。必ず無事にユーランシーまで送り届けてあげる。

私は女の子をおんぶするために立ち上がる…

(えっ…)


私の…右腕…なんで、取れてるの…。


激痛が走る、右肩から血が吹き出している。

後ろを振り向くと先程殺したはずのスクリムシリから人型のスクリムシリが出てきていた。いや、出てきていたのか?見ていないから分からない…。

(油断してしまった…この子達の無事を見たら安心してしまった…。それよりも、、)


目の前にいるこいつは間違いなく、解 はある。

おかしい、例外はあるとはいえ最近は人型のスクリムシリが多すぎる。

何も喋らないところを見るに以前会ったやつと違い思考する力を持っていないだろう。そうなると意思疎通も出来ない。


「村の方まで走って逃げて!その子を連れて」


「でも、こ、怖いよ」


「大丈夫…君は強い。その子を守ってた。直ぐに私も追いつくから…」


そう言うと男の子は眠っている女の子をおんぶして村の方へと走っていく。


「許さない…私の腕なんてどうでもいい…。でも子供に当たっていたらどうする…。」

腕と服を再生させる。

私の 意思 の欠点は必要以上に疲れることだ。些細な技術を用いるため一瞬のミスで周りの人を巻き込む。

この場に子供がいるとそっちに意識がいってしまう可能性があるためこの場から離す。

対象が生きている…つまり生命体であれば尚更状態を変化させるのは疲れるし天恵の消費も激しい。

相手がそれなりの技術を持つ者、いわゆる天帝レベルになると絶命させるほどの状態変化をすることも難しい。


スクリムシリは瞬きする瞬間に私との距離を詰め、爪を立てて私の顔めがけて腕を振る。

私は左の人差し指をクイッと曲げる。

周辺にある木に付いてある無数の葉が鋭くなり、スクリムシリに飛んでいきその鋭さと速さでスクリムしりの体を貫通する。

腕を振る途中のスクリムシリは身体中が穴だらけになる。まだ息があった。私は右人差し指をクイッと曲げると地面から先程の葉よりも太く鋭い攻撃がスクリムシリの頭を破壊する。

スクリムシリはその場に倒れ、私はそれを睨みつけながら見下ろす。

そしてハッとしながら村の方へと向かう。


村に戻り、子供たちを探す。

村に戻っても子供たちの姿は見えない。どこかの家に隠れたのだろう。

私は気配を感じ取り、この村に来た時に歩いてきた道の方に向かう。

その道にある小さな小屋に入ると男の子の方が女の子を守るような形で隅に丸まっていた。


「もう大丈夫…悪いやつはお姉ちゃんがやっつけたから!」


「ほ、本当…?」


「うん!本当だよ!怖かったね。もう大丈夫。」


「っっ、!」


男の子はまた私に抱きつく。


「お姉ちゃん…腕が治ってる」


「うん!お姉ちゃん魔法使えるの!凄いでしょ」


「うん!すごい!…その魔法でお母さんたちは生き返れる?」


「…ごめんね。死んじゃってるから、出来ないの。辛いよね。お姉ちゃんと安全なところ行こう」


「うん」


この子はとても強い。親が死んでしまったのに自暴自棄にならずに自分の身の安全をしっかり考えられる。

私は眠っている女の子をおんぶして男の子と手を繋いでユーランシーへと向かう。





「あ〜やっぱり、信愛 はレベルが違うねぇ。あれで本気じゃないとか…やば。ま、あいつは信愛の力見るためだけだし死んでもいっか。全部は見れなかったけど」

(というか、こちらの存在に気づいてわざと力を抑えてたな…。そんな天恵の技術…どんだけ努力したんだか)



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(ひとまずこれで任務は終わりか。思ったより量は多かったが大した強さでは無いな。)


俺は単独任務を終えてユーランシーに戻ってきた。

ホールディングスに向かい、終わったことと今回の任務での情報をナルバンに報告する。


「これくらいだな。」


「中階級騎士団員が100人以上で勝てるかどうかの量を1人で…か。相変わらずコスパの良いやつだな」


「その言い方はやめてくれよ。そんなコスパのいい俺に負担かけないようにもっとお前も働いてくれ」


「なら、ディシ。お前が俺の仕事するか?机上作業ばかりだが」


「やっぱいいや。今日は疲れたから帰るよ。あ、そうそう。スタシアは?」


「まだ帰ってきてないな。」


「珍しいな。いつもならサッと帰ってくるのに」


何かあったのか?いや、スタシアだから何かあっても冷静に対処するだろう。

と、考えていたら部屋のドアが開く。

スタシアと子供が2人いた。

男の子と女の子…。女の子はスタシアにおんぶされて眠てっており、男の子の方もウトウトとしている。

俺は何となく察してしまった。


「…すみません。私が、遅いばかりに」


ナルバンは落ち込むスタシアを見つめ、口を開く。


「…犠牲になった者はもう戻らない。だが、少なくともその子達を救ってくれた。ご苦労様だ、マーレン」


「はい…」


「ひとまず、その子達はこちらで保護をしよう。お前は疲れているだろう。休め」


「分かりました。」


スタシアが出るタイミングで俺も部屋を出る。


「…大丈夫か?」


「…私は、いつまで経っても役立たず。悔しいよ…」


スタシアの声は悔しさと怒りに満ちておりいつもの明るさは全くなかった。

俺もその気持ちはとてつもなく分かる。ヨーセルの村だってそう。俺が少しでも早く来ていればヨーセルの母親は助かったかもしれない。少しでも多くの人を救えたかもしれない…。スタシアはこの無力感を抱えながらこれから生きていってしまう。騎士団という立場なら避けて通れない道だ。

(スタシアはまだ、17…。こんな思いをさせたくなかった…)


「スタシア…自分が役たたずと思うのも仕方ないかもしれない。けど、お前が救ったあの子供たちや今まで救ってきた人達はお前のそんな姿を見たくないはずだ。無理をしろとは言わないが自分の気持ちを落ち着かせるまで任務は控えても良いんじゃないか?」


「…んーん。大丈夫…私は少しでも多くの人が安心して暮らせるようにしないと。だから、少しでも多くのスクリムシリを殺さないといけない。」


スタシアはこうなると頑固だ。休めと言っても休まない。あまり体が強い訳でもないのに…。

俺はスタシアの頭を撫でる。


「お前は十分頑張ってるよ。無理だけはするな」


俺はそう言い残してスタシアと別れる。



北国のミリィノの屋敷に来た。

敷地に入って右側でヨーセルが素振りをしている。

そういえば、ヨーセルは基礎をそもそも習っていなかったのだった。試験の時のあれを思い出す。

(あれがセンスと素力って、才能の塊だな。)


「あ、ディシさん。なんかお久しぶりですね」


ヨーセルが俺に気づき手を止めて挨拶をしてくる。なんだか心無しか明るくなっている?ような気がする。


「だいぶ基礎が固まってきたね。顔つきも騎士団らしくなってきた。」


「ありがとうございます。すごいお疲れのように見えますけど」


「ちょっと忙しくてさ。アビス師匠はどう?」


「丁寧に教えて貰えて、すぐ身につく感じがします。」


「それは良かった。」


「おいアンジ…ルシニエの邪魔するなよ。」


「して無いですよ。少し様子見に来ただけですよ」


相変わらず気配の読めない人だなと思いながらヨーセルの訓練を見守る。


「任務は終えたのか?」


「はい、先程。少し量は多かったですが支障なく終えましたよ」


「そうか。マーレンの報告は聞いたか?」


「いえ…。スタシアと報告する時に偶然会ったのですがスタシアの任務先の村がスクリムシリの襲撃に遭ってしまって、子供二人は助けられたけど他の人は皆死んでしまったという話くらいなら。スタシアは自分を責めていました。」


「マーレンは責任感が強いからな。若いのによくやるもんだ。それとは別にスタシアが村で遭ったスクリムシリの事だ。獣型で 予 程の力だったものが殺した後に人型、それに 解 ほどの力を持っているやつが出てきたとの事らしい。」


「!!…俺が前に見たのは 破 ほどの人型でそれならまだ過去に前例はありましたが、解 ほどの強さで人型は聞いたことがありません。」


「俺たちはスクリムシリについてまだ全然知らないのかもしれないな。アイツらがどこから現れているのかも。」


確かに、今までは殺すことのみを考えていてスクリムシリがどこから現れているかなどは考えたこと無かった。

スクリムシリが現れる根本的な原因が分かればこの悪夢も終わるかもしれない。スタシアだって普通の暮らしが出来るかもしれない。

(皮肉な話だが、スクリムシリが居なくなった時の平和な俺の生活は想像できないな…。)


「まぁ、いい。それより、マーレンを元気づけられるのはお前だけだぞ。アンジ」


「俺だけ?どうして…?」


「呆れたもんだな。俺から答えることは出来ないがマーレンと最初に出会った時の事を思い出してみろ。」


スタシアと…。10年も前の話だ。記憶が曖昧だし、それがなんのヒントになるというのか。


「アビス師匠。終わりました」


俺がスタシアとの出会いの時を思い出そうとしていると素振りを終えたヨーセルがアビスに話しかけていた。

俺がヨーセルを見ると目が合う…と、思ったがヨーセルはすぐに目を逸らしてしまう。

(なんでだ…さっきまで普通に目合わせてくれたのに。なんか嫌われることしたか?)


「ルシニエ、俺と1対1をするぞ。」


「は、はい!」


メルバル総戦まで1週間を切っている。

ヨーセルの伸び代は恐らく今回新しく入団した騎士団員の中で1番ある。

だから、アビスを師匠に置いたが…どうやら正解だったようだ。

アビスと手合わせをするヨーセルの動きは特別試験の時とは比べ物にならないほど良くなっている。

無駄が減っている。天恵の使い方は恐らく自分で試行錯誤しながら体に馴染む使い方を探したのだろう。上達している。

だが、さすがにアビスには手も足も出ないか。


「随分上達したね」


「そうですか?」


「あぁ、正直ここまで成長したのは驚いたよ。」


「アビス師匠のおかげですね。」


何故だろうか、ヨーセルがやけによそよそしい。

本当に嫌われるようなことをしただろうか。俺は…

などと考えていたらミリィノが帰ってきた。


「あ、ディシさんもおられたんですね。」


「ヨーセルの具合を見に来た」


「そうなんですね。良ければお夕飯もご一緒にされますか?」


「いや、俺はもう帰るよ。気遣い感謝するよ」


「そうですか…あ、なら。」


ミリィノはヨーセルに近づいてヨーセルの両肩を押しながら俺の方に近づける。

ヨーセルは俺から顔を逸らし、言葉をつまらせながら言う。


「あ、あの…良ければ、明日、ご一緒に街を回りませんか?」


予想外の言葉に俺はびっくりして言葉が出ない。

明日は任務が無いから元より街を歩こうと思っていたからそれならちょうどいいな。


「や、やっぱり急に誘ったら迷惑ですよね…す、すみません。忘れてくだ…」


「いいよ、行こうか。ヨーセルはまだユーランシーの事分からないだろうしせっかくなら色々一緒に回ろうか」


「ほ、本当ですか?ありがとうございます!」


先程とは打って変わってキラキラした目で俺の目を見つめてくる。

なんなんだ…一体。スタシアといい、ヨーセルといい女性の考えていることがよく分からない。

ミリィノはヨーセルになにか耳打ちをして、屋敷の中にアビスを連れて入っていく。


「明日、朝にディシさんの屋敷に伺います」


「そうか、なら待っているよ」


「はい!それでは、また明日」


「うん、また明日」


俺はミリィノ邸の敷地を出て自分の屋敷へと帰る。

明日の予定は良いとして、スタシアのメンタル的な面はどうしようかと悩むな…

アビスからのアドバイスもよく分からないし、スタシアが喜びそうな事もあまり分からない。

甘いものが好きと言っていたからデザート系の店を紹介するとかでも良いだろうか。

暗くなりつつある、街を俺は考えながら歩く。

皆は夕食の時間だからか歩いている人が少なく昼間の活気づいた光景が無い。

(これもこれでいいな…。)

人が少なくてもすれ違うと挨拶をしてもらえる。

慕ってもらえてるなら嬉しいことだ。

(帰ってからゆっくり考えるか…)



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

気づいたのは本当に最近だった。こうなるのは当然だったのかもしれない。ディシの事が頭から全く離れなくなった。

アビスとの修行が始まって4日程経った時、ミリィノにお風呂でお湯に浸かりながら思い切って相談した。


「最近、ディシさんが頭から全く離れないんです。助けて貰って感謝はしているのですけどそれ以外になにか別のちょっと心地の悪い感情があって…」


「心地の悪い感情ですか…。恋ではないですか?」


「恋…?」


「きっとディシさんに助けられてその後も関わって行くうちに感謝以上の尊敬の気持ちが芽生えたのだと思いますよ」


「尊敬…確かに。そう言われてみると確かにしっくりくる気がします。」


「そうですか…ディシさんですか…」


「どうかしましたか?」


「いえ、罪だなと思いまして」


「罪、ですか?」


「こちらのお話なのでお気になさらずに。」


生まれてきて17年…小さな村に生まれて同年代の異性などおらず人を恋愛的に好きになることなんて考えたこともなかった。

ディシのことが好きだとわかったからといってどういう風な関わり方をすれば良いかなど全く分からない。


「それでしたら、デートに誘ってみてはどうですか?」


「でーと?」


「はい!意中の殿方とご一緒に街などを周ったり、お食事を食べることです!仲がとても深められて良いと思いますよ」


「ディシさんと…」


頭の中にディシと笑いながらあの活気溢れる街で色々なお店を周る想像をする。

なんだかとても楽しみになってきた。


「凄い楽しそうです!どのように誘ったら良いとかありますか?」


「そうですね…私自身殿方とデートなるものをしたことがないので…。ここはストレートに一緒に街を周りませんか?で良いのではないでしょうか」


「そんな直接伝えて気持ちがバレたりはしませんか?」


「それは心配しないでください!ディシさんなので!」





「ハックション!」


「風邪か?というかそんな典型的なくしゃみすることあるのか」


「誰か俺の噂してるのかもな」


「自意識過剰だな」


「アレル、お前だってミリィノに噂されてたら嬉しいだろ」





「そ、そうですか…でしたら頑張ってみますね!」


ミリィノからアドバイスを貰ってそれから4日経ったくらいに久々にディシがミリィノの屋敷に様子を見に来てくれた。

ディシの目を見るとなぜだか異様に顔が熱くなってしまい思うように顔を合わせられなかった。

鍛錬が終わって、ミリィノさんに後押しされて、勇気をだして誘ったらOKを貰えた。

そして今、私はミリィノさんと急遽オシャレで可愛い服を買いに行き、ディシの屋敷に向かっている。


屋敷につき、ディシの屋敷に入る。

玄関に入ったらちょっとした広いスペースがあるためそこで待っているとシンプルな服に身を包んだディシがやってきた。


「お待たせ。悪いね、わざわざこちらまで来させてしまって」


「いえ!私が誘ったので」


「それじゃ、行こうか」


「はい!」


ディシと私がまず向かったのは料理の店が沢山並んでいるところだ。この店の形は屋台?と言うらしい。

買ってすぐに食べられるからこの国ではとても人気らしい。

私はディシがおすすめしてくれた薄い皮に切られた肉と野菜が挟まっている物を買って食べてみる。

この前、スタシアと食べたオムライスと同じくらい美味しい。


「美味しい?」


「はい!とても!こんな料理村にはありませんでした」


「それは良かった。この国は食に力を入れているからね。」


通りで美味しい食べ物しかないわけだ。

食べることは子供の頃から好きなためこの国は私にとって楽園みたいなものなのかもしれない。

歩きながら食べているとディシが足を止める。


「ちょっとこの店見てもいいかな?」


「もちろんです」


ディシが足を止めた店はオシャレな装飾品がたくさん店頭に並んでいるお店だった。


「ディシ様、どうですか?彼女にひとつ」


「彼女じゃないさ、でも確かに、1つくらいプレゼントしようかな」


何やら店主とディシが話しているようだが内容までは聞こえない。

(何話してるんだろう…)


「どうせならスタシアとミリィノとアンレグの分も買って行ってあげるか」


「そうですかそうですか!でしたらこの4色のネックレスセットオススメですよ!青、赤、緑、黄で渡す相手に対する意味に合わせられるんですよ!」


「ほう。というと?」


「青なら健闘。共に戦場に立つ同士、お互いの心身を気にかけながら頑張ろう という意味です!

赤は感謝。いつもお世話になっている人や力になってくれる人に日頃の感謝を込めるという意味です!

緑は友情。これは騎士団に人気なやつですね!同僚に渡したり信頼出来る仲間に渡したりしてお互いを大事な友達だと再確認するという意味です!

黄は愛情。これはシンプルですね!想い人、愛している人に贈るプレゼントで一生その人の事を愛すという意味です!」


「色々な意味があるんだな…」


(黄は渡せる相手もいないからな…青2つ、赤と緑1つずつにしておくか)


「これ、4色買っていただけたら割引いたしますよ!」


「…商売上手だなぁ。なら4色セットを買わせてもらうよ」


「まいど!ディシ様またお願いします!」




「随分長考されていましたね」


「待たせてごめんな」


「いえ!プレゼントですか?」


「まぁそうだね。日頃からお世話になってる人に渡そうかなって」


(そういえばアレルの分忘れてた。適当に後で買っておくか)


ディシからのプレゼント…良いな。誰にあげるんだろうか…。いつか私もプレゼントを貰えるくらい仲良くなれたら良いな。


次に私達が向かったのは広場のようなものだった。

公園…というものらしい。子供から大人まで自由に使える公共の場らしく、確かに子供たちが無邪気に遊んでいる。


「あ!ディシ様だぁ!」


「ディシ様ぁ!!」


子供たちがディシの存在に気づき、走って抱きつく。


「ディシ様!遊ぼ!皆で騎士団ごっこしてたの!」


「お!そうなのか!沢山倒せたか?」


「うん!ディシ様もやろやろ!!」


「んー、俺は今このお姉さんとお出かけしてるからなぁ」


「良いですよ!私は遊んでる様子を見てるので!それだけでもすごく楽しそうなので!」


「良いのかい?それなら、少しだけ遊ぼうか」


「わーい!!やったぁ!!」


子供たちはディシの手を引っ張りながら公園の中へと連れていく。

その光景を見て私は自然と笑ってしまう。

なんて思っていたら私の手を小さい何かが握ってくる。

男の子が私の手を握っていた。

私がどうしようかと戸惑っていると、男の子は私の手をそのまま引っ張ってディシ達の方へ連れていこうとする。


「お姉さんも遊ぼ!」


「え、わ、私も?」


私が誘われるとは思っていなかったため、驚いてしまう。


「ヨーセル!せっかくならこの子達と遊ぼう」


ディシがそう言うならと私もディシと子供たちと遊ぶことにする。




「いやぁ…すっかり遊んじゃったね。ごめんな、せっかく2人で出かけるって約束だったのに」


「いえ!こんなに子供と楽しく遊んだのは本当に久しぶりでとても楽しかったです」


本当に楽しかった…。小さい頃に戻ったかのように沢山遊んだ気がする。

この国の子供たちはとても笑顔が綺麗だ。とても幸せの顔をしている。


「また…あの子たちと遊びたいです!」


「!…そうか!なら、またあの公園に行こうか」


「はい!」


「それと、ヨーセルに紹介したい場所があるんだがそこに行っても良いか?」


「ぜひ」



そうして連れてこられたのは東国にある高い時計が着いた塔。ここは基本中には入ってはいけないらしく、騎士団の高階級騎士団員以上の者のみが入れるようだ。

時計塔の中に入り、階段をしばらく昇っていると最上階に扉があった。

その扉をディシが開けると涼しい風と共にユーランシーの美しい街並みの景色が見える。

こんなに綺麗な景色は見たことがなかった。


「どう?綺麗でしょ」


「…はい!」


「この時計塔は4つの地区に配置されていてね、管理は守恵者がしているんだ。」


「凄すぎます…こんな綺麗な景色今まで見た事がないです、」


「喜んで貰えたなら良かった。それと、これ。」


ディシは先程長考していた店で買った物を私に差し出す。

とても綺麗で美しく太陽に共鳴するかのように輝く青色の石のネックレス。


「これは?」


「ヨーセルへのプレゼント。共にこれからも頑張ろうという意味がある石。スクリムシリとの戦闘中は付けられないかもしれないが良ければ貰って欲しい」


「っ!!ありがとうございます!!大切にします!」


「喜んでもらえて良かった。」


私は心臓がとてつもなく早く動いている。

嬉しすぎて飛び跳ねそうだった。


「ヨーセル…俺たちはスクリムシリからこの綺麗な国を守らないといけない。これからもよろしくな」


そうだ…。浮かれていたが私達はスクリムシリを殺す事が第一の優先事項。

色恋に現を抜かしているだけではダメだ。その姿勢を認めてもらえて初めてディシと対等になれるのだから。


「はい!」


「それと、その服とても似合っているよ」


「…えっ」

ヨーセルには青…。黄色は誰に渡すのでしょうかね。

それより、スタシアの精神面は大丈夫ですかね。


見づらいなどがあるかもしれないです。

できる限り気をつけて書くようにします!

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