63話 「冷酷、始動」
「スタシアさん…どうかお気を付けて」
「はい!必ず無事に戻ってきます」
「スタシア…」
「おっと、ディシくん!心配は無用だよ!
チャチャッと終わらせて帰ってくるから私を甘やかす準備だけしておいてね!」
北国でメアリー女王含む重要役職の者達がスタシアを見送るために集まっていた。
ヴェルファドと一触即発の中でスタシアはいつもと変わらない明るく冗談交じりの態度を取る。
すぐに終わらせて帰るというのは本気で言っているが
心配は無用 という言葉は嘘だった。
本気で愛している男性に心配されたいなどというディシが聞いたら引かれそうな感情をスタシアは持っていた。
「いや、大して心配はして無い。
スタシアの事だから危険な時とそうでない時に取るべき行動は分かっているだろう。
スタシアなら無事に帰ってくる。
俺は心配はせずに信じて待ってるよ」
心配されたい…そんな事を思っていたスタシアには別の満たされる感覚があった。
心配されるよりも 信頼されてるから心配しない という言葉の方が嬉しかった。
「…ふふっ!そっかそっかぁ!ならディシくんのために早く帰ってくるね!
甘やかす準備しておいてよ?」
「それは決定事項なのかよ」
「ミリィノちゃんも!私が帰るまでに美味しいパンケーキのお店リサーチしておいてね?
一緒に行こ!」
「スタシアさん…」
ミリィノはそんな明るいスタシアの様子を見てディシ同様心配することをやめて必ず戻ってくるという信頼を置く。
「分かりました。必ず見つけておきますね!」
「うん!それじゃあ、行ってきます!」
そしてスタシアを乗せた馬車がヴェルファドへと出発する。
ディシはアビスとナルバンがオロビアヌスへ出発した際と同じような酷い不安感に襲われる。
ユーランシーにスクリムシリが下手に攻めてこないのはスタシアという脅威がいるからでありその存在が今ユーランシーから離れる…それも期限は不明という不安感に駆られる。
だが、スタシアを乗せた馬車を真っ直ぐ見つめるメアリー女王。
その姿はメアリー女王の御母堂様の幻影のようなものを感じる。
ソフィア女王…あの方はユーランシーの歴史の中でも間違いなくミレー女王に一番近づいた御方だった。
「ディシさん…そろそろ行きましょう」
「ああ」
俺はミリィノに言われて西国へと向かう。
メアリー女王はホールディングスに戻るが俺とミリィノとアビスアビス師匠は既に西国の門で馬車に乗って待機しているマレランに会いにいく。
短い期間だがアビス師匠が言っていた通り素直で真面目な子だということが分かった。
ミリィノが愚痴をこぼすのが分かるくらいには剣の才能に秘めておりユーランシーにとっては惜しい人材だ。
歳的にもヨーセルと仲良くできると思ったが結局二人は会うことはなかった。
「マレランさん…本当に一人で問題ないのですか?
スクリムシリは天恵を扱えるものに強い反応を示します。
今や天恵を扱うことの出来るマレランさんが操縦者さんと二人でオロビアヌスに帰るというのはとても危険ですよ…。
アビス師匠も着いていこうかと言っていますし…」
「いえ、問題ありません。
アビス先生も師匠も…ディシさんも本当にこの国が大切で大好きなのだとこの一ヶ月を通して実感しました。
なので俺のためなんかにユーランシーを離れるようなことにはなって欲しくないんです。
一ヶ月本当にお世話になりました。
ありがとうございます。」
「そうですか…お気を付けて。そしてお元気で」
ミリィノはこの一ヶ月、アビスはオロビアヌスを含めて二ヶ月間、マレランと深く関わっていた影響でそれなりに情が湧いていた。
故に別れるのが寂しくもありそうだった。
「マレラン。シラ先生達によろしく頼むぞ」
「はい。アビス先生も…早くスクリムシリなんて片付けてまたオロビアヌスに会いに来てくださいね。
きっとみんな待っていますから」
その言葉にアビスは笑みをこぼす。
「生意気だな。…ああ、必ずまた会いに行く。
それまでにさらに強くなっておけよ」
「はい!」
そしてマレランの馬車は西門から出て行く。
馬車に乗るマレランは自身を見送ってくれる三人の姿をチラッと見たあと、馬車の中で座り涙を少量流す。
「行ってしまいましたね…」
「ミリィノ…あまり他者に関心のないお前が珍しくマレランには情に熱かったな。」
「マレランさんはなんだか…ほっとけないんです。
ヨーセルさんと同じで面倒を見てあげたくなるというか…
自分の子供のように感じてしまって」
「アレルとの子か?」
「な、何言ってるんですか、!アビス師匠!
オロビアヌスから戻ってきてからアビス師匠少し変な事言うようになりましたよね、」
「アビス師匠はもとよりこんなもんだろ。
少しおじさんっぽさはある」
「おい」
「だとしてもセクハラはダメですよ?」
「気を付けよう。あとディシ、少し稽古つけてやるから来い」
「悪いなミリィノ。この国頼んだ」
「責任重すぎでは?」
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ヴェルファドに向かう馬車の中…馬車の周辺…馬車を操縦するユーランシーとヴェルファドの交易主すらもが馬車を操縦しながら冷や汗をかき、震えが止まらなくなる程のスタシアの重く苦しい圧。
ユーランシーを出て、皆との会話を楽しむ から カエリオン王に対する殺意 にシフトチェンジしていた。
スタシアは自他認める程に根に持つタイプであり、
ザブレーサにて行われた国王会議の際にカエリオン王がメアリー女王に対して言った言動からオロビアヌスでアビスが聞いたカエリオン王の言動までの全てに対して怒りのキャパを超えていた。
「ふぅ…」
(落ち着かなきゃ…メアリー女王は まずは話し合い というのを望んでいらっしゃった。
メアリー女王のためにも話し合いで解決できるならば腕一本くらいで解決しよう。)
「スタシアさんって前からあのような感じだったんですか?」
「と言うと?」
「見た目によらず…なんと言うか、気が強いというか
悪く言うならば知らない人に対しての同情心が一切ない冷酷な人と言いますか。」
「いや、前はそんなこと無かった…というかスタシア自身は変わってないと思う。
俺と出会った時はただスクリムシリに対して強い恨みと恐怖心がある以外は普通の少女だったからな。
あと昔から努力家ではあったな。
俺が騎士団でスクリムシリと戦っていると知ってから騎士団に入るためにずっと努力し続けてきた。
身体は小さければあまり頑丈な訳でも無いのによく頑張ってたよ。
ミリィノの言う冷酷な一面が出始めたのは多分 信愛 を宿ってからだな。
その一面がスタシア本来の性格から来るものなのか
信愛 の影響によってなのかは分からないがスクリムシリと同等以上に戦えるようになってから今までの吐き出すことの出来なかった感情が出てきているんだと思う。
それがスタシアが身近な人以外に冷たく接する理由だと思うな。」
「今回みたいに他国の人と敵対することになった際に疑問に思ってしまったんです。
この 意思 という力はスクリムシリと戦うための物なのに人に向けて良いものなのかどうかが…」
「言いたいことは分かる。
俺もスタシアもそうだがメアリー女王の意向のままに動いている身としてはそれはさほど重要ではない。」
「私もこういう感情は無くした方が良いですよね」
「いや、ミリィノみたいな良心がスタシアみたいな暴れん坊の抑止力になっているという考え方もできる。
そのままでいてくれ」
「…分かりました」
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目の前の石壁にある三重にもなっている門が開き始める。
少し古っぽくも安心感を感じられるこの壁にはユーランシーを守ってきた歴史がある。
久しぶりだった…約二ヶ月もの間この国に戻れていなかった。
本当なら戻ってこれたことを喜ぶべきことなのだろう。
だが、マリオロからユーランシーへ帰国する際にメアリー女王からの一枚の手紙によって喜びから絶望へと変わった。
私自身あまり関わりがあった訳では無いがその存在は騎士団としてもとても重要であると思わされるほどの人だった。
騎士団長 ナルバン・キャス…意思を持たないながらもその実力はディシやミリィノと劣ることないほどだと一目見て直感した。
手紙を読んでからアレルの顔色が悪くなっていた。
二人が絡んでいるところはあまり見た事が無かったがこの落ち込みようを見るに相当な関わりがあったようだ。
馬車がゆっくりと門の中へと入っていく。
そして馬車が止まる。
私とアレルは馬車を下りると目の前にはミリィノが立っていた。
その表情は少し微笑みながらもどことなく悲しみを含んでいた。
理由は何となく察していた。
「お二人共…お久しぶりです」
「ミリィノさんっ…」
私はミリィノの顔を見ると抑えられない何かが溢れてきた。
そしてミリィノに抱きつき、涙がこぼれる。
「うっ、うぅ、うあぁあ…会いたかった…」
「私もです…本当に、ご無事で何よりです。
おかえりなさい」
「ただいま…です」
「アレルもおかえりなさい。」
「ああ…」
アレルはミリィノを見てもいつもと変わらない表情をしていた。
ミリィノに久々に会えた嬉しさとナルバンを失った辛さが合わさり相殺し、なんの感情も出なかった。
ミリィノはそんなアレルに近づき、背中に腕を回して抱き寄せる。
アレルは無抵抗でミリィノに抱きしめられる。
「今は…ゆっくり休んで。辛かったら、私がいるから」
私達はホールディングスへと向かう。
メアリー女王に帰還したことを伝えに行った。
メアリー女王は無事な私達二人を見て安心した表情をする。
「今はゆっくり休んでください。」
「はい。失礼します。」
「アレルさん…」
「すまないヨーセル、少し一人になりたい。
ディシが任務から戻ってきたら伝えておいてくれ」
「分かりました。」
アレルがここまで心に傷を負っているのは初めて見た。
私はホールディングスを出た後、ミリィノ邸へと帰る。
ミリィノの部屋で紅茶を淹れてもらった。
「アレルさん…大丈夫ですかね、」
「きっと大丈夫ですよ。アレルなら」
「ナルバン団長とはどのようなご関係なんですか?
アレルさんの様子を見るに相当深い関係のようでしたが…」
「私も詳しい訳では無いのですがアレルにとってアビス師匠が師匠だとしたらナルバン団長は恩師のような関係性みたいです。
アビスは小さい頃に少し辛い経験をしたことがあるのはご存知ですか?」
「はい、マリオロで幼馴染とのことなら…」
「その件ですね。
その件からアレルは自分を塞ぐようになり、ただ強くなり続けようとしていました。
その覚悟は家族すらも絶縁するほど…。
そしてアレルは騎士団に入団し、他者と協力をすることなく一人で戦おうとしました。
けど、当然そのような行動を取ったアレルは他の団員から嫌われてしまったんです。
そんな時にナルバン団長がアレルを気にかけてあげたんです。
当然アレルは他の人と同じようにナルバン団長にも冷たく接しました。
ですがナルバン団長はどんなに冷たくされようと決してアレルを見捨てることは無かったんです。
ある任務でナルバン団長と共に行動していた時にアレルはいつもみたいに自分勝手な行動でスクリムシリによって不意打ちを受け殺されそうになってしまったんです。」
ミリィノは紅茶の入ったカップを少し揺らしながら話していた。
ここまで聞いただけでもアレルは私と仲良くなる前よりも酷いくらい協調性が無かったのだと分かる。
「でも、ナルバン団長がアレルを助け、スクリムシリを一人で一掃したんです。
その任務の後からだったと思います。
二人が親しくなったのは。
塞ぎ込んでいたアレルもナルバン団長にだけは心を開いていて、任務もそうでない時もずっと行動を共にしていましたみたいです。
その時にスクリムシリとの戦い方をナルバン団長から学び、アビス師匠から本格的な指導を受け、協調性を必要としないくらい強くなり、意思を宿り今という訳です。」
アレルにとってナルバン団長は心を救ってくれたかけがえのない存在だったということか。
「ミリィノさん…とてもお詳しいのですね。
やはりお二人は仲がよろしいですね。」
「それを言うならばヨーセルさんもアレルと大分仲良くなられましたよね。
アレルがまさか自分の過去を私以外の他人に話すなんて思いもしませんでした」
「いえ、私は直接聞いたという訳では無いんです。
確かに以前よりかは仲良くなりましたがミリィノさんほどではないですよ」
「ふふっ、さすがに私より仲良くなっていたら嫉妬してしまいますね!」
綺麗な笑顔を向ける目の前の女性はどことなく私に対して圧をかけているような気がした。
何か警戒されている?ような気がしてならなかった。
「あの…別にそんな感情はありませんからね?」
「ええ、もちろん。分かっておりますよ」
読んでいただきありがとうございます!
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