62話 「久々」
アビス師匠がオロビアヌスから戻ってきて約一ヶ月、
ヨーセルとアレルがマリオロへ行って約二ヶ月が経った。
アビス師匠がオロビアヌスで負った怪我は徐々に回復しつつあるがまだまだ万全とは言えない状態だった。
アレルからは珍しく多めの手紙が来ており、その内容は報告や知力を持った人型スクリムシリ一体、異質な姿をしたスクリムシリ三体による襲撃のこと、1番驚いたのはヨーセルについてのことだった。
ヨーセルに対しての内容を見てメアリー女王も微笑んでしまうほどの内容だった。
私自身もその内容に嬉しくもあり、少しモヤッともした。
マリオロへ行く前のアレルは無能がどうのこうのと言ってヨーセルを毛嫌いしていたが手紙の内容では
才能、状況判断、技術力においてユーランシーでも必要不可欠となるような力を持っていると手紙には書かれていた。
ヨーセルは自分を嫌っていたアレルを実力で認めさせたという点についても驚いた。
ヨーセルについて他にも褒めている場所があり、
意外と話が面白く一緒に話していて気が楽、
飲みに一緒に行った際に自分と同じくらいの量の酒を飲むため絡みやすい、話が意外と合う、
子供に対する接し方や人間関係が上手く見習うべき点もあると書かれているほどアレルはヨーセルに心掴まれている様子だった。
私は正直あまり面白くはなかった。
もちろんヨーセルとアレルが仲良くなってくれるのはとても嬉しいことだし、良いことでもあった。
だけど、心のどこかにはモヤッとした感情がまとわりついていた。
マリオロでの報告についてはメアリー女王もそれなりに危惧していた。
マリオロでは知力を持った人型スクリムシリ 破 一体と異様な姿をしたスクリムシリ 破 三体からの襲撃を受けたと書かれていた。
それに加えて知力の持った人型は意思のような力も使用したらしく、天帝ではないのか?と思ったがアレル曰くは人型は追い詰められた際にしか意思を使わず、
使った際も不慣れな様子を見せていたそうだ。
アレルの予測としては主としている天帝から何らかの方法で意思の一部の力を使うことが出来たのだろうとのこと。
そんなことが可能なのかだろうか?と疑問に思ったため後でスタシアに聞くことにした。
アレルが戦った人型はオロビアヌスでアビス師匠達が出会った空虚の天帝と同様で身体を天恵のみで構成している純粋なスクリムシリだった。
そのため、意思ありきでも追い込まれるほどの戦いになったそうだった。
最終的にはサイナスを使用して追い詰めてトドメを刺したとの事。
今回のマリオロの被害に関しては半壊までとは行かずとも一部の地区には壊滅的被害が出たそうでそれの影響もあり死者も多かったそうだ。
今回の一件はヨーセルとアレルだったから勝つことが出来たと言っても良かった。
私が行っていた場合は知力のある人型とのタイマンならば苦労せずに倒せることが出来たと思うが三体のスクリムシリの被害が拡大していた。
ディシならば上手いことやればどうになった可能性もあるがリスクが多すぎる。
スタシアは周りに人が沢山いる場では本気を出すことが出来ず、周りを気にしながらの場合は倒すのに苦労を強いられただろう。
そう考えるとメアリー女王の采配は見事だった。
どの道アレルだけでは苦しかったとも思う。
アレルも手紙に記しているようにヨーセルの存在がとてつもなく大きかった。
成長速度が今までに見た事がないほどで、あと数年もしたら私なんてあっという間に超えてしまうのでは無いかと思わせられるほどだった。
(アレル…元気かなぁ、、会いたいな…)
「ミリィノちゃんどうしたのボーッとして。」
「え、あ、気にしないでください。
少し考え事をしていただけですから」
「ふーん…アレルさんの事だ!」
「…違いますよ」
「当たり〜!」
「違いますって!」
「え〜そうかなぁ?もう少しでアレルさんが帰ってくるから早く会いたいなぁとかって思ってるんじゃないの?」
「それは…否定しませんけどね。」
「実際、早く帰ってきて欲しいのは事実だろう。
スタシアだってヨーセルに会いたいんだろう?」
「うん!すごく会いたい!でもさ…私明後日からヴェルファド…アレルさん達帰ってくるの四日後。
ヨーセルに会いたいよぉ!」
「お前は緊張感をもっと持て。
一応ヴェルファドとは緊張状態なんだからな」
「そうだねぇ〜…いっその事こっちの条件を断ってくれた方がササッとヴェルファド崩壊させられるから楽なんだけどなぁ」
「まぁ、カエリオン王は間違いなくこちらの条件は飲まないだろうな。
スタシアの思い通りになりそうでよかったな。」
「スタシアさん、お怪我なさらないように気を付けてくださいね」
「もー、ミリィノちゃんはお母さんかな?
心配しすぎ!」
「心配にもなりますよ…敵対国に大切な人が一人で行くのですから」
「えへへ、ディシくん聞いた?大切な人だって!
羨ましいでしょ!」
「いや、別に。それよりもアレルには手紙を出したのか?」
「はい、既に出しました。
オロビアヌスの件とスタシアさんが任務でヴェルファドに向かうことを大まかに。
詳細は戻ってから改めて教えるという旨を書いておきました」
「ヨーセルはあまり接点があった訳じゃないけど…アレルさんはナルバン団長には恩があったと思うからどういう気持ちなのか…想像も出来ないよね、、」
「私はあまり詳しい訳では無いのですがアレルはアビス師匠から教わる前の基本的な戦闘術をナルバン団長から教わっていたんですよね」
「ああ、理由は分からないがアレルが精神的に辛い時期があってな…その時にナルバンがアレルを支えてあげてたんだ。
それの名残で騎士団を目指すアレルに戦闘術を教えていた。」
「確かに…アレルにとってすごい恩人ですね」
「アレルもあのころと違って大人だ…辛く打ちのめされるかもしれないがきっと立ち直る。
過度な心配や気遣いはしすぎるなよ」
「分かりました」
「あ、マスター!お酒三人分追加で!」
「はいよ」
「というか私のヴェルファドへの送別会なんだからもう少し私になにかないの!」
「何かと言われてもな…お前すぐ帰ってくるだろ」
「スタシアさんはみんなと会えないだけで二キロ痩せるという伝説を持っていますからね。
すぐ終わらせて帰ってきそうですね」
「もー!冷たいなぁ。
それに痩せたのは皆との楽しい食事が出来なくてなんだか食欲無くなったからだよ!」
「あんま変わらねぇよ」
「スタシアさん…一つだけ約束して欲しいのが、ヴェルファドの善良なただ平和に暮らしているだけの民を巻き込まないであげてくださいね。
我々はユーランシーを守る守護者であり、スクリムシリから人を守る立場でもある。
悪では無い人を無闇に殺してしまってはその信念も覚悟も意味をなさなくなりますのね。」
「うん、分かった。約束するね」
「ありがとうございます」
「スタシア…なんかパッとしない顔だが不満か?」
「いや、ミリィノちゃんの言ったことに対しては賛成だしむしろそうするべきと思ってる。
全く別のこと。
なんだかすごく嫌な予感がするの…。
私がヴェルファドに行くことによってとんでもなく危険なことが起こりそうというか…。
行っちゃいけない気がして、、」
(スタシアの予感はほぼ確実に当たる。
嫌な予感…ヴェルファドに天帝とかの可能性は…無いとは断言できないが限りなく少ないだろうな。
スタシアがヴェルファドに行ったことは恐らく天帝とその幹部にも情報が伝わるはず。
だとするならば…ユーランシーが?)
「スタシア、ユーランシーのことは心配しなくていい。
俺やミリィノ、アビス師匠だっている。
自分の任務に集中してくれ」
「…うん。分かった。」
三人で飲んだ翌日、私は自分の屋敷の庭にある訓練場にいた。
そこにはマレランとディシ、アビス師匠がおり、ディシがマレランに天恵を流し込んでいる最中だった。
「正直驚いたよ、マレラン。
アビス師匠とミリィノから指導をされていたとはいえここまでの成長をするとは」
「ありがとうございます」
マレランとメアリー女王が約束した一ヶ月が今日までだった。
マレランは1ヶ月前のあの日からは比べるまでもないほどの成長をしており、ディシの圧縮した天恵を二週間少しずつ体内に含ませてもなんの問題も無かった。
マリオロへ向かう前のヨーセルよりも恐らく今のマレランの方が強いまであった。
「マレランさんは覚えが早くてとても優秀な方ですからね。
アビス師匠がオロビアヌスで気に入ってしまうのも分かります」
「マレランとルシニエは似ているからな…会わせてみたかったがお前は明日マーレンと共にユーランシーを出るんだろう?」
「はい。スタシアさんがユーランシーを出て直ぐに俺もオロビアヌスへの帰国がメアリー女王から認められました。
本当に皆さんのおかげです。
ありがとうございます」
「何度も言っているから分かっていると思うが天恵という存在をばらそうとしただけで俺は気が付くからな。
その時点でオロビアヌスはユーランシーの敵になる。
俺もオロビアヌスやマレランと敵対したくなんてない。
頼んだぞ」
「心得ています。アビス先生にはオロビアヌスで救って貰った御恩がありますし、そんな先生を裏切るようなことは自分もしたくはありませんから」
「ならいい。」
「アビス師匠やミリィノ師匠が時々口に出されるルシニエ・ヨーセルとはどのような人なんですか?
俺と似た境遇の人なんですか?」
「境遇自体は似ていませんが才能や短期間での成長度合いなどが凄く似ていますね。
マレランさんと同じでとても謙虚な方なので凄く気が合うと思いますよ。」
「マレラン…アイネスと付き合っているんだったよな?」
「え、あ、まぁ、はい」
「なら問題ないだろうな。
ルシニエは美人だからな…惚れてしまう可能性もある」
「えっ、アビス師匠…もしかして、」
「勘違いするな。客観的な視点で だ。」
「ふふっ、ディシさん動揺しすぎですよ」
「アビス師匠がそのようなこと言うのはあまり聞いたことがなかったので」
「そうか?まぁ、身近にソフィアがいたからな。」
「確かにですね」
「マレラン、最後にカウセルと手合わせしてみたらどうだ?」
「ミリィノ師匠とですか?」
「ああ、本気でやってみろ」
「私は構いませんよ」
ミリィノとマレランは戦闘場に互いに真剣を持ち向かう合う。
初めて手合わせした時とは違い、構えに隙が少なく、攻撃の手段が絞られていた。
さすがに完璧とは呼べなかったが成長の過程を知っているミリィノからしたらとても嬉しくもあり誇らしい事だった。
(このまま…ユーランシーで育っていけば凄い実力者になるかもしれないのに。
でも…)
ミリィノは一ヶ月前のマレランの処遇を決める会議の際に、
マレランがオロビアヌスで皆と平和に過ごしたいだけ というのを聞いてこの子は自分たちとは違い平和な環境で生きているんだと実感した。
何度かユーランシーでこのまま騎士団員として働かないかと勧誘もしようとしたがその度に自分たちが望んでいる平和の中で生きるマレランを本当にこのような環境に誘って良いのだろうかという感情がチラついた。
それにさらにの懸念点であるオロビアヌスへ戻った際にマレランが剣に対しての情熱が下がってしまうということ。
ユーランシーとオロビアヌスでは剣の実力に総合的な差がある。
ユーランシーで戦い方を学んだマレランはオロビアヌスでは物足りなく感じてしまうかもしれない。
その時にモチベーションが下がってしまうようなことにはなって欲しくなかった。
だから、そのためにも私はここで手を抜くわけにはいかない。
アビス師匠の合図とともにマレランが一歩目を私に向かって踏み出す。
天恵は使っておらずただ自分の力のみで本気で私に向かってくる。
速い、前とは比べ物にならないほどに…けど、私に気を取られすぎて隙が多くなった。
マレランの剣を自分の剣で受け流す。
マレランの剣先は地面へと突き刺さり私は剣の側面を踏みつけ、折る。
そして、マレランの首に剣を近づける。
マレランの額から頬にかけて汗が一滴流れる。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「まぁ、概ね予想通りだな。」
アビス師匠は恐らく私の意図を汲んでいるだろう。
「ミリィノ師匠はやっぱり強いですね!」
「マレランさん…あなたはまだまだ強くなれます。
いつか私を倒せる日まで…剣を握り続けて欲しいです。
これは純粋なお願いです。」
ただの願望…オロビアヌスや天恵など関係なく、マレランという一人の青年に向けてそう言い放った。
マレランは私のそんなお願いをされることが予想外だったのだろう…驚いた表情を浮かべていた。
だが、直ぐにいつもみたいに明るく笑顔になりながら言う。
「はい!必ず倒してみせます!約束ですよ!」
読んでいただきありがとうございます!




