61話 「性格の悪い女」
「カエリオン王を場合によっては殺します」
メアリー女王のそんな言葉から始まった新たな任務の説明。
カエリオン王を殺害するという言葉に驚く者はいなかった。
メアリー女王は全てはユーランシーの民が幸せに暮らすことが出来るという新年のもと動いているため、民達の日常を脅かす者に容赦は無い。
それが人を殺める結論に至ったとしてもそこに民の平穏が絡んでいるならなんの躊躇いもなかった。
「具体的にはどのような方法をお考えですか?」
「殺すと言ってもすぐにではありません。
まずは交渉をします。
ユーランシーに対して敵対をしなければこちらも何も手出しをしないという事をカエリオン王に直々に皆さんの中の一人がヴェルファドまで伝えに行ってもらいます」
「ヴェルファドにですか?」
「はい。仰りたいことは分かります。
いくら守恵者といえど敵対国に一人で向かうのは危険だと思うかもしれません。
スタシアさんはどうお思いですか?」
「私は…問題ないと思います。
なんなら私が行けば一番確実だとも思います」
「そう仰ると思いました。
この任務はスタシアさんにお願いすることにしますね。
ですが先程言った通りカエリオン王が交渉に応じなかった場合はカエリオン王を殺害してもらわないといけません。
スタシアさんはそれでもよろしいですか?」
「問題ありません。
メアリー女王のご命令とあらばどんな者でも確実に殺します」
「殺害するのはあくまでも最終手段です。
まずは交渉内容の確認をします。
私がヴェルファドに望むのは二つ。
一つは敵対関係する意向を撤回し戦争を抑止すること。
もう一つはアシュリエル・メアリーに必要以上に干渉しないこと。
この二つをまずは要求してください。
それを呑むにあたってのメリットとしてユーランシーと
ヴェルファドの50年の貿易関税の減税と不可侵条約の締結をします。
ヴェルファドは娯楽国家と言われるほど冒険者が多く、その後楽に使う食料などのほとんどが輸入から取り入れています。
ユーランシーからは酒の原料とワインをヴェルファドにあるものの約35%担っています。
貿易関税の減税はヴェルファドにとっては願ってもない好条件。
そして私に必要以上に干渉しないというのは私のこの命も身体も今や私だけのものでは無いからです。
少し自意識過剰かもしれませんが私の命はこの国の命と思っています。
なので私を欲する理由は分かりませんがこれ以上アシュリエル・メアリーに自身の欲望のまま接触するのはやめてもらいたいということをお伝えください。
スタシアさん、よろしいですか?」
「はい、理解しました。」
「ありがとうございます。
もし断られた際は二つの選択を提示しましょう。
ユーランシーの属国となるか戦争を起こしヴェルファドという名を無くすか。
これすらも断られた場合は最悪の場合の手段を取ってください。
スタシアさんが殺害して良いのはヴェルファドの騎士団長以外の団員、カエリオン王とそれを支持する貴族階級の連中です。
誤っても民や他国の者を巻き込まないようにお願いします」
「心得ています。」
「一つ、よろしいでしょうか?」
「なんでしょうかディシさん」
「カエリオン王を殺害した際はヴェルファドの統治は誰がするとお考えですか?
それをスタシアに決めさせるのは少々責任が重すぎると感じます」
「私の憶測ではヴェルファドには必ずカエリオン王非推進派閥がいます。
その方々とカエリオン王を殺害した後にスタシアさんが改めて交渉してもらいます。
その際の交渉は甘くする必要はありません。
このままヴェルファドが滅ぶか属国になるか。
属国を選ぶと思いますのでそこでスタシアさんが翡翠新派閥の連中を見極めてください。
悪意や嘘があるかどうかを」
「了解しました。」
「決まりですね。
この件はアレルさんとヨーセルさん、フライハイトさん達が帰国した際に決行します。
スタシアさんはアレルさん達が帰国する手紙が届いた段階でもうヴェルファドには行ってもらいます。
数日ですが守恵者がユーランシーに二人のみとなってしまいますが仕方ないものとして考えましょう。」
「その点は問題ありません。
俺とアンジ、カウセルがいますので。」
「ありがとうございます、アビスさん。
他になにか気になる点はありますか?」
皆は特に無いと言うかのように無言になる。
「無さそうなので終わりますね。
お集まりありがとうございます。
この話し合いの内容は我々だけの機密事項としますので口外はしないように」
メアリー女王の言葉に全員が同意し、解散となる。
アビスとメアリー女王はすぐに部屋を出てどこかに行く。
アビスとメアリー女王はオロビアヌスの件で被害報告や輸出入品の数量などの調整などをバルタ王や他国と連携して対応するのに忙しかった。
そのため、一層忙しくなってしまっていた。
「御二方とも大変ですね…」
「ああ、それに加えてナルバンの死だ。
メアリー女王が精神的に辛くなってしまうのも分かる。」
「アビス師匠なんてマレランくんの件もあるのに…倒れちゃうよね」
「仕方が無いさ。二人とも立場上、責任がある
俺たちではあの二人の頭の良さにはついていけない。
力仕事で頑張るしかない」
「そうですね…」
「スタシア…本当にヴェルファドの件大丈夫か?
敵対国と言っても人は人だ。
スクリムシリとは精神的負荷が違う」
「私ね…怒ってるの。
カエリオン王…ザブレーサでメアリー女王にあんな無礼を働いただけでなく、自国の危険すら捨ててまでメアリー女王に執着するその傲慢な態度。
絶対に許さない…メアリー女王に危険を及ぼす者は誰であろうと…絶対に、」
(信頼や尊敬の域じゃない…心酔や信仰の域だな。
何がそこまでの感情を引き出させるのか…)
ディシやミリィノは当然メアリー女王を信頼し信用している。
メアリー女王が示す道は必ず正しいと信じているためここまで忠誠を誓っている。
だがスタシアはそれ以上のものがあった。
アビスとはまた別のメアリー女王に対する狂気的な依存。
何故そこまでメアリー女王にスタシアが依存するのかは分からないがその状態のスタシアは普段の明るさなんて見る影もないくらいの冷酷さだった。
「それに私の精神面の心配なんてしなくて大丈夫!
私って性格悪いし!」
「否定はしないでおこう」
「あ!そこは そんな事無いよ、君は素敵だよ って言うところだよ!
ディシくんったら…」
「スタシアさんならきっと大丈夫だと思いますがお怪我に気を付けてくださいね」
「ありがと!ミリィノちゃん。…あっ!」
「どうした?」
「やっぱ精神的に辛いかも…」
「急だな」
「だってヨーセルと会えないじゃん…寂しいなぁ」
「一応アレルもですよ」
「アレルさんは私に厳しいんだもん。怖いし」
「全面的にお前が悪い事の方が多いと思うけどな」
「えへへ!」
「えへへ じゃねーよ」
「あ、この後飲みに行かない?みんな明日任務ある?」
「本当に急な奴だな…」
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フラフラでおぼつかない足取りながらもゆっくり一歩一歩前に進む。
暗い空間の中、正面に見える淡い光が近づいてるのを実感していた。
普通ならば二週間は寝たきりになるはずだった。
天恵の回復も遅く、身体の原型を保つのがやっとだった。
ここまでのダメージを負ったのはセルシャ自身産まれてからほとんど無かった。
自分をここまで追い込んだアビス・コーエンという男…
あれが特異体質と言えど生身の人間だということがスクリムシリとしてのプライドを傷つけた。
でかいドアの前に立つとゆっくりと音を立てながらドアが開いていく。
ドアの先にはでかい円形の机があり、よく見る顔が四人座っていた。
四人はこちらを見ると少し驚いた表情をする。
そして男が一人立ってこちらに寄ってくる。
「セルシャ、大丈夫かい?相当お疲れのようだけど」
「この程度問題無い。座れ。次はユーランシーを攻める。」
全員が席に着く。
「今回のオロビアヌスの件とヴェルファドの件で目的はある程度達した。
ヴェルファドがユーランシーに敵対国として宣戦布告する場合、ユーランシーはヴェルファドが仕掛けてくるのを待っているほど余裕が無い。」
「なぜそう言い切れる?」
「ナルバン・キャス…ユーランシーの騎士団長を殺したからだ。
あいつは守恵者でもなければアビス・コーエンのような特異体質でもない。
だが、ハインケルとほぼ互角にやり合えるほどの力だ。
そいつを殺したことでユーランシーは戦力が大きく削がれた。
そんな中でユーランシーはヴェルファドというハエがまとわりついてくる状況。
どういうことがわかるか?」
「先手を打ってヴェルファドを潰しにかかる…もしくは交渉をする…かしら?」
「そういうことだ。
だが、交渉の線はない。
ヴェルファドの王であるカエリオンと天恵の契りを交じ合わせた。
やつがユーランシーに対して戦争を起こさなければ奴は死ぬ。」
「で、戦争を起こせる もしくは ユーランシーが先手を打った場合、俺たちになんのメリットがある?」
「戦争を起こした場合はそれに乗じて我々全員でユーランシーを潰す。
だが戦争は起こらないだろうな。
ユーランシーは先手を打つ際、ヴェルファドに守恵者を送り込むだろう。
そして、交渉をもちかける。だが、それが断られた場合はその場で守恵者 対 ヴェルファドの戦争が始まる。
その時により攻撃力が高く殺傷能力に優れているのは…」
「信愛の意思者か…」
「そういうことだ。」
「悪いけど僕の方でまとめさせてもらうと…
ユーランシーはナルバン・キャスを失ったことでヴェルファドに構う余裕が無い。
だから先手を打つためにヴェルファドへ信愛の意思者を送り出す。
それでいいんだよね?」
「そうだ。そして、ユーランシーに信愛の意思者が居なくなった際に我々の中から二人がユーランシーに攻撃を仕掛けてもらう。」
「あら、二人なの?」
「今回はあることを達してもらうだけで良い。」
「ある事とは?」
「アシュリエル・メアリーを殺す。
私とハインケルはオロビアヌスの戦闘で戦えるほどの力が回復するかは分からない。
お前たち三人の中から行ってもらう。
スクリムシリはユーランシーの中ではすぐに死ぬから本当の意味での二人のみだ。」
「ならば俺が行こう。」
ジャレンが手を挙げる。
「あら珍しいわねジャレン。
どういう風の吹き回しかしら?」
「久々に身体を動かそうと思ってな。」
「あらそう…なら私も行こうかしらね。
今回が本格的な攻め落としじゃないならランスロットはまだ行くべきじゃないわね。
私は毒もあるし殺せる確率も上がるわね」
「ならその二人で行け」
「一ついいかな?ヴェルファドはもうほっておくということで良いのかな?」
「構わない。
信愛をおびき出すための餌でしかない。
多分だが私を除いたお前たち全員でも信愛を殺すことは出来ない。
むしろ殺される可能性すらある。」
「随分下に見られたものね」
「三人は分かるけど僕もかい?
相性はめちゃくちゃ悪いけどそんな一方的になるとは思えないけど?」
「そのうち分かる。
信愛は能力としてならば私の空虚と似た傾向にある。
明確に違うのは空虚は天恵の技術力で当たるか当たらないか決まるが信愛は対象には確実に当たる。
どこの部位が対象になるかは使用者の天恵の技術力次第。
空虚は対象に当てるために天恵技術力を…
信愛は対象のどこに当てるかのために天恵技術を使う。
お前達では分が悪すぎる。」
「ふーん…いまいち信愛の能力を理解している訳では無いけど…まぁセルシャが言うならばまだ言うことを聞いておいてあげるわ」
「俺とギャラリスがユーランシーに行った場合、
守恵者は三人だろう?
人数不利は相性によっては負けることもあるぞ」
「今、マリオロへ行かせてるお前の側近が契約の意思者を殺せれば1番手っ取り早いがそれが不可能だった場合は奴らの誰か一人が任務をするためにユーランシーを出ていくのを待つんだな。
それか三人とも相手にしろ。」
「無茶言いやがる…だがまぁ、そのスタンスは嫌いじゃねぇ。」
「悪いけど守恵者三人だけじゃないからね。
アビス・コーエンだっている。
あの男いるなら二人とも瞬殺されるよ。
セルシャですらここまでのダメージ受けてるんだから。」
「舐めるな、この程度は大したことない。
アビス・コーエンは普段の実力の半分も出せないだろう。
私との戦闘でそれなりの重傷を負っている。
少なくとも私と同じくらいの期間は万全では無い。
それでも負けるようならお前達はそれまでの雑魚だったという事だ。」
「厳しいわけねぇ。」
「話は終わりだ。解散しろ」
読んでいただきありがとうございます!
体調面が優れずに投稿が遅くなってしまいました。
申し訳ありません




