59話 「乗り越えないといけないこと」
マレランの処遇を決めるための話し合いが始まった。
最初に口を開いたのは貴族連中だった。
「こんなことは話し合う必要もありません!
ユーランシーは古くから天恵という存在を他国から最重要機密事項としていました。
それを破るわけにはいかないと考えます!」
(概ね予想通り。数人の貴族と聖者は反対するだろうな、
既にそこではどのような処遇を求めるかの話し合いも済ませていると考えるべきか。
だが逆にマーレン、アンジ、カウセルがどちらに付くか…メアリー女王はどちらとも付かずに公平に判断するだろうな)
「そちらの言い分は理解している。
だが、俺はオロビアヌスという国でマレランにこの国で行っているような戦闘指導をした。
そしてその甲斐あってマレランは驚くべき成長を遂げた。
だがたとえ強くなったとしても周りの者に対する気遣い、言葉遣い、態度…全てが謙虚であり他者を尊重している。
そんなマレランが簡単にオロビアヌスの連中に天恵のことを話すとは考えずらい。
それに、マレランはもし天恵のことを話したらユーランシーがオロビアヌスに対して取る態度を理解している。
それに関しては説得力があると思わないか?」
「お言葉ですがアビス殿…これは信じる信じないではないんです。
仮にそのマレランという青年が信頼に足る人物だとしても何かのミスで天恵が知れ渡ったら取り返しがつかないんですよ。
リスクは極力回避すべきです」
「双方の意見は何となく分かりました。
具体的にはどのような処遇をお求めですか?」
「ユーランシーにての永久拘束…処刑は最悪の場合と考えています」
「処刑はありえないですね。
仮に永久拘束する場合はオロビアヌスと敵対した際にマレランさんを人質にすることができ、交渉の余地はあるが処刑した場合交渉する余地なく向こうは我々に宣戦布告をしてくると思います。」
「そうですね。ミリィノさんの言う通り処刑という選択はありません。」
「分かりました。でしたら永久拘束が懸命な決断でしょう。」
「アビスさんはどのような処遇をお求めですか?」
「考えはまず二つありますが先に守恵者達の意見をお願いします」
「分かりました。守恵者の皆さんはどのようなお考えですか?」
「私は…どちらとも言えないですね、、
貴族の方々が言うように信頼だけでこの事案を片付けるのは少々リスクが多すぎます。
ですが、アビス師匠の言う通りオロビアヌスが我々と敵対した時にどのような結末になるかというのを理解しているならば様子を見ても良いと思います」
「俺はまだ決まってません。両方の意見で納得した方に加勢します。」
「私から少しいいでしょうか?」
「どうぞ、スタシアさん」
「皆さんは気づいておられないと思いますがマレランくんは既に天恵を自分の力でコントロールして使えるようになっています」
スタシアの言葉にこの場にいるメアリー女王とディシ以外の全員が驚き、困惑の表情をする。
「マレラン…」
「すみません…」
アビスもその一人であり、それを事前に教えなかったマレランに対して呆れ、困惑する。
「そうなると話が少し変わってくるかもしれないですね。
天恵の使い方を知っているか知らないか…無意識に使えるならばこれ以上ユーランシーにとって脅威になることは無いと思いますが使い方を知っているならば可能性は限りなく低いとはいえ高階級…もしくはナルバン団長クラスになる恐れもありますね…」
ミリィノは貴族連中側になりつつあった。
「それもそうだが、逆に考えるべきだミリィノ」
「逆にとはどういう意味ですか?」
「アビス師匠の言う通りマレランが信用に足る人物だとして、力を自分の力でコントロールできるならば誤って天恵を使ってしまう可能性も限りなく低い。
スタシアはそういうことを言いたいんだろう?」
「うん。ディシくんの言う通りだね」
「お言葉ですが限りなく低い可能性でも危険なのは変わりないです。
この問題は守恵者の皆様だけで決められる事案ではありません。
我々、ユーランシー内で騎士団に守ってもらう立場としては他国に少しでも天恵の存在がバレるということはスクリムシリ以外にも敵が生まれる可能性があるということです。
ただでさえ怯えながら生きている中でスクリムシリ以外の敵が存在してもキリがありません」
(言っていることは最もだな。騎士団とそうでない者達…。
普段から天恵を使っている騎士団にとっては他国が天恵を使えるようになっても大した脅威とは思えないだろうが普段から使わない者はそうでは無い…
難しい問題だな)
「まだ私の話は終わってませんよ。」
「スタシアさん、続けてください」
「昨日、私は天恵をコントロールすることが出来るマレランくんに対してそのことを問い詰めました。
そしたら彼はこう言いました。
オロビアヌスに戻りたい…オロビアヌスのみんなと平和に暮らしたいから と。
彼は私にこのことを黙って貰えるように頭を下げてきました。
当然それは断りました…そしたら彼は私に天恵で作り出した剣で襲いかかってきました。」
「マレラン…」
「すみません、、」
(スタシアはこう見えて短気だ…最悪の場合死んでいたかもしれない。)
「それは危険ではないですか!!
そのような行動をする人物を信用できるとお思いですか!!
唯一の信用という説得手段が失っているでは無いで…」
「少し黙っていただけますか?」
スタシアは女王の間内に満ちるほどの天恵による圧を出す。
その存在感の大きさで聖者や貴族連中は緊張で汗が止まらなくなる。
「スタシアさん、それはやめなさい」
ミリィノがスタシアに対して厳しく指摘するとスタシアは貴族達に対する圧を収める。
「話を続けます。
当然、マレランくんを返り討ちにしました。
アビス師匠に指導してもらったからと言っても数日教えてもらった程度でまだまだ雑魚だったので両手を潰しました。」
(口悪いな…イライラしているか、)
「マレランくん…その時に私を見てどう感じました?」
「スタシアさんにはどう足掻いても…、それほどまでの根本的な差を感じました、、
あの時理解しました…オロビアヌスなんてスタシアさん一人でいつでも滅ぼすことが出来るのだと」
「私はマレランくんを間接的に脅しました。
恐怖によって。オロビアヌスがユーランシーに勝つことなどは有り得ないという前提で、マレランくんは私に恐怖を抱いています。
その恐怖が誤って他言するというようなミスはしなくなると私は思います」
「ありがとうございます、スタシアさん。
アビスさんの二つの考えをお聞きしても宜しいですか?」
「はい、一つはマーレンの言う通り恐怖による信頼です。
これは既にマーレンがしていた。
なのであと一つをやる必要は無いのですが、
アンジの力を使うというのはどうかと考えています」
「ディシさんのですか?」
「アンジ…お前から説明してくれ」
「…分かりました。
俺はまだどちらの意見に賛成という訳では無いという程で聞いてください。
俺の能力は他者と自分の心臓を間接的に天恵を使って繋げるもの。
より深く、多くの天恵を使うことによって他者の考えが大体ですが読めることもできます。
そして他に…相手を縛るという意味でも使えます。
結命によって俺の天恵をマレランの心臓に置いておく事で常時マレランの行動が大まかに分かるようになります。
そして、その天恵がもしマレランによって使われる…もしくは心臓から無くなった場合にも俺に伝わります。
したことは無いですが恐らく出来るものと考えますがこれをするためにはマレランの天恵に溶け込まないように毎日少しずつ圧縮した俺の天恵をマレランに流し込む必要があります。
ですのでこれをする場合は必然的にユーランシーに滞在してもらう必要があるということです」
「どうでしょうか…皆さん。
ディシさんにはこのような力があるみたいですがこれを利用したらマレランさんには天恵を他者に教えるということは出来ないと私は思いました。
ですが欠点もありますよね?」
「さすがメアリー女王です。その通り欠点もあり、
俺の圧縮した天恵を少しづつとはいえマレランに流し込む。
マレランがその天恵に耐えられるかどうかは別の話です。
耐えられなかった場合は即死します。
これに関しては技術など関係なく実力の差で決まるものです。
マレランに俺と同じくらいの力があるかどうかは分かりませんがオススメはしません」
「…無いな。マレランにはまず耐えられない。」
「いえ!アビス師匠!今の俺ならきっと!」
「マレラン、ここはオロビアヌスじゃないんだ。
お前の強さの基準はここでは役になんて立たない。
アンジはお前が何人いようと勝てない。
自分の力を見誤るな」
「っ…、すみません、、」
「でしたらやはりこの青年は拘束するべきです!
信頼に足るものが無くなった今、オロビアヌスへ帰す理由がありません!」
「一つ、伝えておきたいことがある。
メアリー女王とスタシア以外の者にな。
守恵者、聖者、貴族連中…みな等しく聞け。
これはユーランシーどうこうだけでなくマレランという若者の未来に関わることだ。
その若者の気持ちを重んじることを忘れるな。
マレラン側には俺とマーレンが着いていることを忘れるなよ」
柄ではないが少し脅すのも良いだろう。
実際、マレランが拘束する判決を受けたのなら俺は実力行使をするつもりだ。
「…決まりですね。俺はマレランをオロビアヌスに帰すことに賛成しますよ。
オロビアヌスよりもアビス師匠とやり合う方がごめんです。」
「私は最終的判断は任せます。メアリー女王のお心のままに従いますので」
「との事なのですが貴族の皆さん、聖者の皆さんはどうでしょうか?」
「…我々は納得できません。
守恵者様達が実力行使と言うならばそれで良いでしょう。
それが正しい力の使い方なのならば文句は言いません。
ですが、我々には我々の正義があるということをご理解頂きたい。」
(ごもっともだ。
力はこのような使い方をするべきではないからな。
ただの脅し という言い訳では済まされないな。)
「聖者からは私が…」
ゼレヌスが軽く手を挙げる。
「我々も賛成でもなく反対でもありません。
ただ、日々我々聖者はスクリムシリの出現をいち早く察知する役割で悪意や敵意、自分たちやこの国に向けられる感情を何となく理解することが出来る。
マレランさんにはそのやましい感情などは一切なくただ純粋にオロビアヌスで過ごしたいという願いが感じます」
「ふふっ、そうですね。
皆さんのご意見は聞かせてもらって私から一つ提案なのですがディシさんの力を使うというのはとても賛成です。
ですから期間を儲けてみましょうか」
「期間ですか?」
「はい、ディシさんの能力は実力差でその危険を埋めることが出来る。
ディシさん、天恵を流し込むのにはだいたいどれくらいの時間が要りますか?」
「早くて2週間…くらいですね」
「でしたらマレランさんには今から一ヶ月のうちの二週間を強くなるということに専念してもらいましょうか。
そして残り二週間でさらに強くなりながらも天恵を流し込む、どうでしょうか?」
「メアリー女王…二週間でディシくんと同じくらい強くなるのは流石に…」
「いや、同じ必要は無い…俺と少しでもやり合えれば耐えられるくらいはできるだろう。」
「決まりですね。
マレランさん、これは強制ではありません。
やりますか?」
「はい。やらせてください」
「ふふっ、そう言うと思っていました。
アビスさんは怪我のためにしばらくの休養期間がいると思うのでマレランさんを見てあげてください」
「分かりました」
「他の皆さんは異論はありますか?」
貴族、聖者達は首を横に振る。
「それではこれで話し合いは終わりです。」
「マレラン、着いてこい」
「はい…あの、ありがとうございます。
俺のために、」
「俺は短期間でもお前を教えた身だ。
生徒を守るのが教師の役目だろ?」
「…シラ先生が言いそうなことですね!
さっそく特訓ですか?」
「いや、俺たちはまず行かなければいけないところがある」
「行かなければいけないところ…?」
「そうだ…人を守る立場ならば必ずいつかは体験することだ。
キャスの家族のところに行くぞ」
「…はい。」
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