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天使とサイナス  作者: 七数
3章 【予】
64/65

番外編 「誕生日」

※本編とはあんまり関係ないです(関係ある所もあります)

※恋愛要素強め、結構長めです。

(今日も疲れた…)


スタシアは灯りがほとんどついていないユーランシー内を天恵で作りだした明かりを持ちながら歩いていた。


(今日の任務…大変だったなぁ。

朝からこの時間までの任務は久しぶりで疲れた…。

明日もまた任務がある…)


「んん!頑張るぞー」


スタシアは任務に疲れることはあっても苦と思ったことはほとんどなかった。

メアリー女王の役に立てるのならいくらでもこの身を削って働くという覚悟を持っている。

そんな覚悟を持っていても任務の際に人の死体を見たりすると少し辛い気持ちになってしまうことがある。


(お風呂入りたいけど…時間ないかな…。)


スタシアはホールディングス内の廊下を歩き、メアリー女王のいる部屋までやってきた。

部屋の明かりは付いており、いつもの事だが相変わらずすごいお方だと尊敬してしまう。

部屋をノックし、返事があり中に入ると髪をお団子に結び、メガネを掛けて、席に座りながら作業に集中するメアリー女王がいた。


「こんばんはスタシアさん。任務終わりの報告ですか?」


「はい!今回の任務の他国とユーランシーの貿易通路に位置する村の防衛力調査と周辺調査を終えたことを報告しに来ました。

周辺調査の際にスクリムシリ 解 が一体、予 が四体現れ無事に問題なく討伐しました」


「ご苦労様です。きっとお疲れでしょうからゆっくりとお休みになさってください」


「ありがとうございます」


「それと、ディシさんがお隣の部屋でお待ちになっておられましたよ」


「ディシくんが?」


(廊下歩いてる時ボーッとしすぎて隣の部屋明かりついてるかどうか見てなかった…)


「分かりました。ありがとうございます」


スタシアはメアリー女王に頭を下げ、部屋を出る。


「ふふっ、相思相愛ですね」


スタシアが出た後の部屋でメアリー女王は優しく笑う。



(どうしたんだろう…珍しい、)


部屋をノックして、中に入るとディシがソファに座って本を読んでいた。


「お疲れ様、スタシア」


「うん…ディシくんどうかしたの?こんな時間まで」


「明日の任務…俺が引き受けるよ」


「え?どうして?そもそもディシくんだって自分の任務が…」


「今日の任務大変だったんだろ?それに加えて明日も遅くまでかかりそうって聞いた。

無理をするもんじゃない」


「でも…」


「それに明日はスタシアにとって大切な日だろ」


「明日…?」


「呆れた…。任務に真面目なのは良いが自分のこともしっかり考えろ。

明日はお前の誕生日だろ」


「あっ…」


忘れていた…

毎年祝ってもらっているのになぜだか毎回忘れてしまう。

日々スクリムシリと戦う毎に大切なものを忘れていってしまってる…そんな感じがしてならない。


「明日、ミリィノがスタシアのためにホールディングスの女王の間を使わせてもらって誕生祭という名の舞踏会をやると言っていたよ。

貴族連中は大賛成…民もそれに合わせて街では祭りを開くとな。

外は暗くて気づかなかったかもしれないが飾り付けなどがあったと思うぞ。」


「そ、そんなことしてまでわざわざ…」


「皆…感謝してるんだよ。

スタシアはまだ子供で沢山同い歳の子と遊びたいだろうに毎日毎日任務任務で…。

こんな若い子に国を守ってもらってるということに民は申し訳なさを感じていたらしいからな。」


「そんなこと感じる必要なんて…」


「いいから、昼間はスタシアの好きな料理が屋台で沢山開かれるから回ってこい。

舞踏会は夕刻かららしいからそれまではゆっくり祭りを楽しめ」


「ディシくんは…?来てくれる?舞踏会」


「どうだろうな…来る頃には終わってるかもしれないな。」


「ヤダ…絶対来て、一緒に踊って!」


スタシアはジッとディシを見つめる。

ディシはそんなスタシアを見て、ため息をつきながらも言う。


「分かった…」


それを聞いてスタシアはニコッと笑い感謝を伝える。



翌日、朝から盛り上がっていた。

スタシアはいつにも増して元気に盛り上がる民達の声で起きた。

子供が走り回る声や大人達が楽しく談笑する声。

スタシア自身もワクワクしながら外へ出ると屋敷の前に民達が集まっており一斉に


「スタシア様!お誕生日おめでと〜〜!!」


と言う。

その迫力に驚いてしまいながらもスタシアは笑顔で明るく ありがとう!皆!! と伝える。


「スタシア!」


すると民の中からヨーセルとミリィノが出てくる。


「2人とも…聞いたよ。これ主催してくれたのミリィノちゃんって。

ありがとっ!」


「良いんです!日頃の感謝を込めてますから!」


「それじゃ、スタシア!今日は楽しも!」



スタシアはミリィノとヨーセルと一緒に街を回る。

スタシアの大好物であるパンケーキの大食い選手権があり、屈強な男たちがいる中でスタシアがダントツで優勝したり、腕相撲大会ではまたしても屈強な男たちがいる中で今度はミリィノとヨーセルが勝ち進み、

決勝では激闘の末、ミリィノが勝利したりと大盛り上がりだった。


そして、少し休憩するために3人は園地に来ていた。

ヨーセルとミリィノは置いてある木の丸太椅子に座りながら園地にいた子供達とスタシアが楽しそうに水遊びをするのを眺める。


「おりゃっ!」


「あっ!やったなぁ!!待て待て!」


「うわぁ〜逃げろ〜!!」



「スタシア、楽しそうですね」


「そうですね…良かったです。

最近のスタシアさんはなんだか焦っているというか何かに怯えているような感じがしていたので…心配だったんです。

でも、こうやって気晴らしが出来て良かった…」


「ミリィノさん…なんだかんだ言ってスタシアのこと1番大好きですもんね!」


「ふふっ、可愛いですもん。こうやって見ると普通の女の子ですからね。

早く、スタシアさんやヨーセルさんがこんな風に普通に遊べるような世界にしたいです。

だから大人である私がいっそう頑張らないとですね」


「ミリィノさんはすごく頑張っていますよ。

でもスタシアが1番好きなのは少し嫉妬しちゃいますけど」


「もちろん、ヨーセルさんのことも大好きですからね?」


「私もミリィノさんのこともスタシアのことも大好きです!」


「えい!」


スタシアが子供に投げた水をまとめた天恵がミリィノに当たり、ミリィノの顔に当たる。


「あっ…」


「…」


「み、ミリィノさん…?」


髪から服まで濡れるミリィノにそこにいる人たちは怒らせてしまったのではと緊張が走る。


「み、ミリィノちゃん…?その…わざとじゃないんです、、」


「隙ありっ!」


スタシアがミリィノに近づいた瞬間、ミリィノもスタシア同様に自身にかかった水を少しだけ集めて天恵でまとめてスタシアにぶつける。


「うわっ!もーずるい〜!」


「えっへん!油断したのが悪いんですよ!スタシアさん!」


「ミリィノ様も参戦だ〜!」


「よーし!みんな倒しちゃうぞ〜!」


ミリィノも混ざりスタシアや子供達と楽しそうに遊ぶ。

そんな光景を見ていたら村で過ごしていた時を思い出すヨーセル。


「ほら!ヨーセルさんも!」


「えっ、私もですか?」


「ヨーセル!早くしないと皆で集中狙いするよ?」


「そ、それは卑怯だ!」


ヨーセルはそう言いながら笑顔でみんなの元へ向かう。




そして夕刻の日が沈み始めた頃…スタシア、ヨーセル

ミリィノはホールディングスへ着いた。

ホールディングスの中に入るとアレルが燕尾服を着て立っていた。

他にも既に貴族連中が少しずつ集まってきていた。


アレルは3人に気が付き近づいてくる。


「お前ら…なんでそんなにびしょ濡れなんだよ」


「えへへ、少し熱が入ってしまって」


「そんな濡れてたら逆に冷めるだろ…。

まだ開始まで時間あるから風呂はいってドレスやら髪やらを使用人に頼んでこい」


「うん!ありがとう!アレルさん!行こ!2人とも!」


スタシアはルンルンでお風呂場へと向かっていき、ヨーセルも軽い会釈をしてスタシアの後を追う。


「アレル…」


「どうした?行かないのか?」


「その…すごく似合ってますね、」


「…そうか、」


アレルはミリィノから目線を外しながら照れくさそうに言う。


「ミリィノちゃん〜?早く〜!」


「今行きます!」




「今日すごく楽しい!本当にありがとう!2人とも」


「そう言っていただけて嬉しいです!

こうして3人だけで遊ぶということも中々ない機会なので私も楽しいですし!」


「うんうん!それに加えて2人の綺麗なおっぱいも見れて幸せ!」


「もう…いきなりとんでもないことを、、」


3人はお湯に浸かりながら談笑していた。


「ディシさん…スタシアの任務を引き受けたんですよね。」


「うん…なんだかそこだけが申し訳ないなって。」


「元々は私が引き受ける予定だったんですけど、ディシさんは私とヨーセルさんでスタシアさんを楽しませてあげろって仰ったのでこのような感じになったんですよね。」


「そうだったんだ…。早く帰ってきて欲しいなぁ…、」


「ディシさんならきっとすぐ任務なんて終わらせて帰ってきますよ」


「そうですね、信じて待ちましょ!」


「…うん!」



3人は風呂から上がり、化粧室に行きドレスや服や髪を使用人に各自でやってもらう。


「スタシアさんもヨーセルさんもとても綺麗ですっ!!すごい!何かに残したいくらいです!!」


「そ、そんなにですか…?ミリィノさんもとてもお綺麗ですよ」


「2人とも可愛い!!」


「というか…」


ヨーセルはスタシアをじっと見つめる…というよりも見惚れてしまっていた。

普段の妹属性フル発揮の可愛いスタシアが目元の軽いメイクのみで美人へと変化していた。

それに加えて清楚感の溢れるハーフアップと大人さを引き立てる薄紅色のドレス。

いつもと全く違う雰囲気にヨーセルは驚いていた。


「ヨーセルさんはこういうスタシアさん見るの初めてでしたもんね!

凄いですよね!少し顔のパーツに手を加えるだけでここまで変化するなんて」


「はい…なんだかギャップが凄いです…」


「ふっふん!これぞ大人の女!」


ミリィノはいつもと違い髪を下ろして軽く巻き、

オレンジ色のドレスによって性格の暖かさが外見から伝わるようにしている。


ヨーセルは肩まで伸びる髪の毛先部分に軽いウェーブを入れることによって色気が出ていた。

薄紫色のドレスでさらに上品さがあった。


「なんだか…前よりも使用人の方々気合い入ってますね。」


「どしてだろうね。でも可愛いから良いよね!」


「そろそろ会場に向かっておきましょう。」


3人は女王の間へと向かう。

廊下をスタシアが中心でその後ろにミリィノとヨーセルが続く形で歩く。


「うぅ、ヒールが歩きずらいですね…」


「ヨーセルさんはあまり履いた事がありませんもんね。

そのうち慣れてきますよ」


「だといいんですけど…。

それよりも、なんだか視線が凄いですね」


3人が通ると道際にいる招待された貴族の人達が視線を向けて何かを話している。

なにかの悪口?かとヨーセルは思ったが自分たちを見る目が先程スタシアを見た時の自分と同じような目をしていた。


「きっとスタシアさんの事を見ているんだと思います。

スタシアさんはどんな時でも堂々としていてカッコよくて、それに加えて今日はこうした身なりなので目を奪われてしまうのも仕方ないと思います。」


スタシアを見ると確かに堂々と、上品に歩いていた。

まるで自分を見てと言っているかのように。



女王の間に着き、中に入ると既に多くの貴族達が集まっている。

壁際には多種のワインが置いてある白いシーツがひかれたテーブルが並んでおり、そのテーブルには料理も並んでいた。


「あ、アレルさん!」


スタシアがアレルを見つけて近づく。


「ふふーん!」


「なんだよ」


「え、だから、ふふーん!」


「いや分からん」


「もー、乙女心分かってないなぁ。どう?格好!」


「さっきよりかはマシだな」


「はぁ…これだから冷たい男は。」


「殴るぞ」


「私じゃ素直になれないんだったら…」


「え、ちょ、スタシアさんっ、」


スタシアはミリィノの背中を押しながらアレルの前に出す。


「ほら、ミリィノちゃん!アレルさんにどう?って聞いてみて!」


スタシアはミリィノに耳打ちをする。


「え、えっと…アレル、、ど、どうかな?似合うかな?」


ミリィノは顔を赤らめながらもアレルに聞く。


「…」


アレルは無言でミリィノに近づき、首元に手を伸ばす。


「あ、アレルっ!?」


何かを取ると手を戻す。


「毛糸…付いてたぞ。

…いつにも増して綺麗だと思うぞ」


アレルは優しく笑みを浮かべながら言う。


「っ//…ズルい」


「何がだよ」



「完全に二人の世界に入ってるね」


「ねー!というかよく毛糸付いてるの気づいたね。

私気づかなかったよ。」


「確かに…」


「愛だねぇ」


するとドアが開く。

何故かそれだけで女王の間にいる者全員が目を向けてしまう。

ヨーセルは理由を何となく理解していた。

壁越しでもわかるほどの圧倒的存在感…。


コツ、コツ、と1歩ずつ上品に歩き1秒毎にその美しさが増していく。

珍しく髪をまとめずに下ろしており、黄金に輝く髪は足が地面に着く度に綺麗に靡いている。


メアリー女王が女王の座に向かっているところにスタシア、アレル、ミリィノも着いていく。

ヨーセルは着いて行くことはせずにその場で待つ。

普通に遊んだりしているがミリィノとスタシアは守恵者であり一般騎士団兵のヨーセルとは立場が全く違う。

そのため、ここでヨーセルはついて行くような無礼をしないように心がけていた。



メアリー女王が女王の座までの段差を数段上り、女王の座の前に立つ。

その下にはミリィノとスタシアがおり、アレルはその2人から少し離れたところで足を止める。


「お待たせして申し訳ありません。」


「いえ、お時間通りです!

メアリー女王は相も変わらずにお美しいです!」


「ありがとうございます!御二人もとても似合っていて美しいですよ」


「勿体ないお言葉…ありがとうございます!」


「それでは舞踏会を始めさせて頂きますね!」


ミリィノがそう言うと手を パン! と叩く。

その音は女王の間に響き渡る、

その音で部屋の中にいる者全員がミリィノの方を向く。


「皆さん、本日はお集まり感謝いたします。

本日は皆さん知っての通り、舞踏会改め、スタシア・マーレンさんのお誕生祭です。

それでは主役からお言葉をいただきます!」


「皆さん、本日はこのような場を設けていただいたことを感謝します!

小さい時にこの国に来て、守恵者となりこの国にこの身を削ることを誓いました。

信念と覚悟を持ってこの国を守る一角となるように努めますので、私に命を預けてください!

失礼します」


スタシアが言い終わると拍手が鳴り響く。


「立派だな、マーレンも」


いつの間にかアビスは白ワインの入ったグラスを持ちながらアレルの横に立っていた


「アビス師匠…いらしてたんですね」


「弟子の誕生日だ。当然だ。俺はナルバンが来たことに驚いたけどな」


「カウセルに言われたからな。せっかくだ。」


「ここだけ男臭いな…」


「お前もその筆頭だろ…アビス」



「それでは皆さん!手にグラスを持ってください!

乾杯!」


ミリィノの掛け声とともに全員が天井にグラスを上げる。




室内は話声やピヤノの音でいっぱいになる。

踊る者、食事をする者、談笑する者…どこを見ても幸せな顔があった。

だが、ただ一人だけ心から楽しめない人がいた。

この舞踏会の主役であるスタシアは曇った顔を浮かべていた。


(ディシくん…まだ帰ってきてない…)


ワイングラスを持ちながら皆が踊るところをボーッと眺める。


「スタシアさん…寂しそうですね」


「ディシさんではなくやはり私が任務を代わるべきでしたね…」


「恐らくスタシアさんなら誰に代わってもらってもこの状況になるのは変わらなかったと思いますよ」


「どうしましょうか…」


「…それでしたら」


メアリー女王が女王の座から立ち上がり、スタシアの方へと歩み始める。


「メアリー女王…?」



「スタシアさん」


「メアリー女王、どうかいたしましたか?」


メアリー女王はスタシアの前で片膝を床に着けて目線を低くしながらスタシアの手を片手で取る。


「私と踊っていただけませんか?」


「えっ…」


メアリー女王のその行動に室内にいる全員が釘付けになる。


「め、め、メアリー女王!?お膝が汚れてしまいますし…

今なんと…?」


「踊っていただけませんか?」


「私なんかがメアリー女王と踊るなんて…」


メアリー女王は遠慮気味に腰が引けるスタシアの腰に手を回す。

スタシアの耳に口を近づけて言う。


「大勢の前で私のお誘いを断るのですか?」


ふふっ とイタズラに笑うメアリー女王はいつもと違い子供っぽさがあった。


「お、お願い…します、//」


そしてメアリー女王はスタシアの肩甲骨辺りに手を回し、スタシアはそのメアリー女王の腕にそっと手を添える。

互いのもう片方の手は掴み合う。


そして、ピアノの音楽が流れ始めると同時に動き始める。

2人は軽快な足運び、一つ一つの無駄の無い動き、

視線の運び方、重心の乗せ方、そして自身に溢れる表情…

この女王の間にいる者ほぼ全員を虜にする。


2人が踊る1分30秒の間、室内は2人のヒールが地面を蹴る音とピアノの奏でる綺麗な音のみが響き渡っていた。

演奏が終わると同時にスタシアとメアリー女王はピタッとポーズを決める。

2人は息切れをしながらも気持ちの良い表情をしていた。


「はあ、はぁ、メアリー女王…」


「ふぅ…、流石ですスタシアさん!初見でここまで完璧に合わせてくるなんて!」


「あ、ありがとうございますっ!メアリー女王の動き…本当に美しかったです!」


「嬉しいです!」


シーンとなっていた皆が思い出したかのように拍手を起こす。

まさしく圧巻の踊りだった。


「どうだ?メアリー女王は」


「凄いですね…あそこまで完璧なダンスは見たことがありません、」


アビスは嬉しそうに笑う。


「お前もいつかはあれくらい踊れるようになるさ」


「アビス師匠…なんだか私を過大評価しすぎではないですか…?」


「弟子に期待して悪いか?」


「確かに…悪くないですね。」




メアリー女王は女王の座に座り飲み物を飲みながら一息つく。


「メアリー女王…すごく素敵でした!

スタシアさんとの相性も抜群で目を奪われてしまいました」


「ふふっありがとうございますっ!

久々に動いたので少々疲れましたけどこれで少しでもスタシアさんが寂しくない思いをしてもらえたら嬉しいですね」


「やはりそれが目的だったのですね。

わざわざありがとうございます!」


「私がやりたくてしたことなので!

日頃からお世話になっているスタシアさんには少しでもこの空間を楽しんでもらいたかったですから」


そしてその肝心のスタシアは気分がすこし晴れたような顔をしながら口にジュースを流し込む。

壁際にある椅子に腰を下ろして、メアリー女王同様に一息つく。


(せっかくこういう場を用意してもらったんだし…楽しまないとだよね。

ディシくんはきっともうすぐ戻ってくるはず!)


スタシアはディシが女王の間のドアを次の瞬間には勢いよく開けて一緒にダンスを踊ってくれる…

そう思うようにすることにした。

だが現実は違く、時間はどんどん経過していった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ディシがユーランシーに戻ってきた時には既に昼間の活気のある街並みではなく所々の飲み屋しか建物の明かりがついていないほど寝静まっていた。


「さすがに…終わってるよな、」


ディシは約束を守れなかった事に対する罪悪感でホールディングスに向かう足取りは重くなっていた。

任務での疲れは相当だったが、終わり次第全力で走って戻ってきた。


ディシがホールディングス内に入り、メアリー女王の部屋まで行きノックをする。

返事があり、入るとメアリー女王がいつものように作業をしていた。


「ただいま戻りました」


「ディシさん…おかえりなさい。

お疲れ様でした、スタシアさんの分の任務を代わっていただいてありがとうございます!」


「いえ…スタシアは楽しめていましたか?」


「…、はい!楽しんでいましたよ!」


「なら良かった。それでは俺はこれで失礼します」


「ディシさん、お願いがあるのですが良いですか?」


「もちろんです、どうしましたか?」


「女王の間のドアの戸締りがしっかりしてあるかを確認してきてもらいたいのですが…」


「分かりました」


「ありがとうございます!」


ディシは部屋を出て女王の間へと向かう。

メアリー女王の事だからしっかり閉まってはいるのだろうがこういった行事をしたばかりだから心配になるのは分かる。

俺は女王の間のドアに軽く触れるとスーッと開く。


(開いてる…)


珍しいこともあるんだなとディシが思っていると女王の間のピアノ椅子に誰かが座っていた。

ディシは部屋の中に入り、そっと近づいてくと普段と髪型や服装は違えど、すぐに分かった。


「スタシア…?」


「…ディシくん、?ど、どうしてここに…。っ!!」


スタシアはディシの顔を見るなり抱き着く。

そして涙を流す…。


「スタシア…ごめんな、約束、守ってやれなかった」


「本当だよ!バカ…ディシくんだけ楽しめないんだったら…代わってもらうんじゃなかったのに…」


ディシはそっとスタシアの頭を撫でる。


「…ありがと、来てくれて…」


「ああ、お待たせ。こっちにおいで」


ディシはスタシアの手を掴み、女王の間の中心へと引っ張る。


そしてディシはスタシアの前に片膝を着き、スタシアの片手をすくい上げるように掴む。


「俺と踊っていただけませんか?」


「はいっ!」


そして2人は音楽が流れず、ただ静まり返った女王の間の中心で踊り始める。

光源は窓から差し込む月明かりのみで視界は決して良いとは言えなかったが2人は完璧に息を合わせながら華麗に踊る。

それを見てくれる人も、歓声や拍手をくれる人も、いない。

だが、スタシアはとても楽しそうに踊っていた。


「とても綺麗だよ、スタシア」

序章【始】 0話 『意思と天恵』の内容を変えました。

表現やセリフなどを増やした程度なので大きくは変わっていませんがご報告しておきます。

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