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天使とサイナス  作者: 七数
3章 【予】
60/63

55話 「オロビアヌス人外戦~4~」

※追記:誤字が多かったので訂正しました。

見逃している部分があるかもしれませんのでその時は笑って許してください

悪我の意思

・対象の五感を普段の3割程度の働きにまで低下させる。

対象と自身の実力差関係無く適応される。

対象が動けば動くほどランダムで五感のどれか1つの機能がさらに低下していき、最終的にその器官は機能を失う。

その1つの器官が失う前に悪我の意思の発動を解除させるほどのダメージを与えれば全ての五感が治る。

だが、その器官が完全に失った後に悪我の意思を解除させても、その器官は治らない。

対象者は自身から1番近い者が選ばれ、1度の発動に消費する天恵が多い。



ナルバンは瞬間的にマレランを掴み、自分の後方に投げ飛ばす。


「おや、優しいのですね。それかただのバカか。」


ナルバンは悪我の意思の対象となり、聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚の機能が低下する。


(これが悪我の意思か…味覚は分からないが恐らく全ての五感の機能が低下している。

それにまだ何かあるな…)


ナルバンの視界はボヤけており、目を凝らしてもハインケルがギリギリ認識できるかどうかだった。

後ろからマレランの声が聞こえるが上手く聞き取れない。


「マレラン…俺は奴の能力で五感が低下している。

先程のような君の動きに合わせることは出来ない。

いいか?無理だけはするな。俺は今から奴のみに全神経を注ぐ。

ついてくることが出来ないなら離脱しろ。」


マレランから返事が聞こえる。

その内容は分からない。

だが、ナルバンの隣から動かず、剣を構えるのがボヤけながらも見える。


(だと思った。お前の教え子はどうしてこうも聞き分けが悪いんだ、アビスよ…)


ナルバンは剣を構え、目を閉じる。

今のナルバンにとってうっすらと見える視覚は邪魔でしか無かった。

頼れるのは自分の直感のみ。

ナルバンはハインケルに向かって身体強化をし、本気で攻撃を仕掛け、ハインケルもまた身体強化をしてナルバンにぶつかる。

先程までとは次元の違う動きにマレランはついて行くことが出来ず、目で追うことすら出来なかった。

目で追えないが確かにそこでは熾烈な攻防を繰り広げており、ナルバンとハインケルがぶつかる度に地面が抉れる。

ナルバンは感覚のみの動きの中で違和感を感じた。

目を閉じていても感じる淡い光が徐々に薄れてきていた。


「あと3分といったところですかね。」


攻防の中でハインケルがそんなことを呟く。

その言葉をナルバンは何となく察した。


(時間経過かなんかで五感の1つが徐々に失っていくのか。

こいつの言い方的に失ってしまったら、悪我を解除しても五感は戻らないと思った方が良いだろう…。

つまり、あと三分以内にこいつに悪我を解除させるほどのダメージを与えなければならない。)


ナルバンはさらに攻撃の速度を上げる。

焦りからではなく、戦いが楽しかったからだった。

本人も気づかないほどに命が懸かっているギリギリの戦いを楽しんでいた。


「3段階目…」


ナルバンは情火の剣に天恵を大量に流し込む。

その量にハインケルも気づいており、防御体勢へと切り替える。


(先程よりも多い天恵消費…当たれば先程の激痛以上のダメージでしょうね。

恐らく、悪我の能力を保つことが出来なくなるほどの…)


向かってくるナルバンに対し、1歩下がりナルバンの動きに全集中力を以てして構える。

だが、目の前にいたナルバンが視界から消え、背後から強い気配を感じる。

すぐに振り向くが既にナルバンの情火の剣はハインケルに触れる寸前だった。

しかし、ハインケルはギリギリの所で長鎌を自分と情火の剣の間に入れる。


「残念でしたね!あなたは私に勝てない!!」


「いつ俺がこの剣の能力が生物だけに効くと言った?」


「っ!!」


ハインケルの長鎌に情火の剣が触れた箇所が溶け始め、長鎌を持つハインケルの手まで広がっていく。


「やりましたねぇぇえ!!その剣を叩き割って…」


ハインケルがナルバンの持つ情火の剣を側面から足で叩き折ろうとするが、ナルバンは情火の剣を自身の進む方向とは逆方向に投げ捨てる。

ハインケルは情火の剣を意図せず目で追ってしまう。

まずいっ と思った時には既に遅かった。

ナルバンは左手のひらを後ろに向けると同時に剣が飛んできて、それを掴み取る。


「良くやった。マレラン。」


マレランはずっとナルバンの動きのみを追っており、

その視線に気がついたナルバンが合図を出したのだ。


「終わりだ」


ナルバンはハインケルに剣を振り抜き、上半身と下半身を切断する。

それと同時にナルバンは五感がすべて戻り、そのままハインケルの上半身を蹴り飛ばす。

建物へと吹き飛び、崩れ落ちる。

ナルバンは膝を着き、大量の汗を流す。

呼吸がしづらく、頭すらも重く感じる。


「ハァ…ハァ…クソっ!首を切り落とせなかった…」


ナルバンは理解していた。

人間と言えど天帝が体を横に切断したくらいで死なないことを。


「アビス先生の同僚さん!」


なんだその呼び方 と心の中でツッコミながらも呼吸を整える。


「マレラン…逃げろ。奴は死んでいない。」


「でも奴は体が…」


「それでも死なないんだ!しくった…殺り切れなかった…」


ナルバンは天恵を一度に大量に使用したことで体が動かなかった。


「逃げれません…俺は仲間を見捨て、敵に背中を見せて逃げるようなことはしません。」


(仲間…か。)


倍以上の歳が離れた子供にそんなことを言われるとは思ってもいなかった。


「アビスに似て生意気だな」


「ありがとうございます」


「ふぅ…、よし、奴を殺すぞ」


「はい。」


瓦礫から片脚だけ再生したハインケルが家の残骸の一部と思わしき木の棒を支えにしながら出てくる。

もう片方の足もセルシャほどでは無くとも2秒とかかることなく生やして再生する。


「やってくれましたね…ここまでイラついたのは久しいですよ」


「俺はお前達天帝やスクリムシリにいつもこれ以上にイラついてる。

どうして人を殺す?罪悪感は感じないのか?

お前も人間だろう?」


「何を言っているのですか?人を殺すことに罪悪感なんてある訳無いですよ?

そもそもなぜ人を殺すことが悪なのですか?

人を殺すことは悪ではありませんよ?」


ハインケルはナルバンに対して意味不明なことを言われたかのような顔を向ける。


「人を殺すことはその人に対する救いであり導き。

私が人間を殺した時、その殺された人はその運命を全うした善人。

そしてその運命に導いた私も善人。

逆に人を守る行為は罪です。

その人の 死 という人生の最終地点を他者によって邪魔される。

その人の人生の導きを否定しているのですから」


ナルバンはハインケルという男がなぜ天帝という残虐な環境に身を置いて平気でいられるのかを理解した。

この男は常識という認識に自分たちとはまるで違ったズレが生じているのだ。

人を殺す…人の命を奪う行為は当然罰せられるべき行い。

しかし、ハインケルは自分にとって人を殺すのは正しい行いだと根本から思っている。

まさに純粋な悪。


「お前とは分かり合えないな。」


「ええ、分かり合えたところであなた方は殺しますよ。

救いや導き以前に単純にイラつきからですけどね。」


「今のお前にはそんな余裕があるようには見えないが?」


「それはあなたもでしょう?天恵はお互い残り少ない。」


ナルバンもハインケルも互いに意思を使うほどの量は残っておらず、素の力での戦い。

ナルバンとハインケルはそれぞれの武器を生成し、構える。


そして、ぶつかり合う。

決着は一瞬だった。

この戦いを決めたのはナルバンでもハインケルでも無かったのだ。


2人の武器がぶつかり、押し合う。

そこにマレランがハインケルの背後に回り剣を振るう。

だが、ハインケルはナルバンを抑える鎌を片手で持ち、空いたもう片方の手で短剣を生成する。

マレランの攻撃を短剣で受け流し、両腕を切り落とす。


「マレランっ!!」


ナルバンはハインケルを押す力を強めるがまるでビクともしない。


「終わりですよ!」


ハインケルは短剣をナルバンの心臓に向けて突き刺そうとする…ハインケルの短剣を持つ方の腕が切れて地面に落ちる。


「っ!?!?」


マレランは天恵によって腕を治癒し、ハインケルの腕を切り落とした。


「貴様っ!!」


すぐさまマレランの持つ剣を側面から叩き折り、再生した腕を蹴飛ばす。

だが、もう片方の腕を治癒したマレランがハインケルの腹部を本気で殴る。

ハインケルはそれでも倒れずに立ち続ける。


「舐めるなぁ!!」


「マレラン…つくづくお前は俺を驚かせるな。

…破恵」


ナルバンはハインケルの背中に両手のひらを押しつけ、天恵を集中させる。

ハインケルの腹部に風穴が開き、北地側へと吹き飛ぶ。

ナルバンの破恵の威力によって正面の建物が跡形もなく消し飛んでいた。


マレランが倒れそうになるのをナルバンが支える。


「大丈夫か?」


「…はい、何とか…すみません、首、切れませんでした。」


「気にするな。恐らく奴はもう戦えるほどの力は残っていない。

治癒にも時間を有するはずだ」


「…そうですか。

…俺、切られたはずの腕が何故か再生したんです。

しかも、本当に自分の体なのかと思うほど体が軽かった。

剣術祭でジャックスとやった時もこんな感覚がありましたが、それよりも圧倒的に体が軽かったんです。

俺の体に何が起こったんですか…?」


(やはり無意識か…ルシニエと同じタイプか。

俺が知っている今のルシニエより恐らく強い。

天恵の使い方が分からないのに感覚だけでこの強さ…

才能や潜在能力ならばルシニエだが、現段階での総合的な強さならばマレランだな。)


「マレラン、君には一度ユーランシーに来てもらう。

悪いが拒否権は無い。」


天恵を使えるようになってしまった以上、ナルバン1人が決定できることでは無かった。


「ど、どうしてですか…?」


「すまないが質問は禁止だ。黙って着いてきてくれ。

安心しろ、悪いようにはしない。

俺とアビスで説得してみるさ。」


ナルバンはマレランが友と泣き笑うところを見かけていた。

この子の居場所はオロビアヌスしか無いと分かっていた。

当然、マレランが良いのであればユーランシーで共に戦いたい…それくらい惜しい実力を持っている。

今のルシニエと共に高めあえる存在になって欲しいという思いもある。

だが、マレランにはマレランの人生がある。

強要はするべきではない。

だからディシやメアリー女王、貴族階級や聖者を必ず説得してみせる。


「分かりました…。アビス先生と同僚さんを信じます。」


「ナルバンと呼べ。その呼び方はやめろ。」


「ナルバンさん、アビス先生になんだか似てますよね」


「どこに目付いてんだ。奴にトドメを刺しに行くぞ。」


「了解です。」


2人がハインケルの吹き飛んだ方に進もうとした瞬間右手側から衝撃音と共に建物が破壊されアビスが飛んでくる。

アビスは顔の前に両腕をクロスして防御の体勢を取ったまま飛んできており、脇腹からは血が出ていた。


「アビスっ!」


「ナルバン…天帝はどうした?」


「北地まで吹き飛ばした。

恐らく戦闘不能だ。今からトドメを刺しに行くところだ」


「そうか…出来れば今すぐにそいつのところまで行ってくれ。」


「ハインケルは負けたのか。情けない。」


アビスが飛んできた方からハインケルとは比べ物にならないほどの異質な気配を感じる。

少女の姿でありながら存在感だけで気を失いほどになるほど。


「…そういう事か。どうやらお前の力を見誤っていたようだな。

ナルバン・キャス。そこのガキの力を極限まで引き出しながら戦い、ハインケルにも有効打となるような攻撃を仕掛けられるような立ち回りをした。

自分を囮にして。」


「だったらどうした?」


「そうでないとハインケルがたかが騎士団長と雑魚1匹に負けるはずがない。

人の使い方が上手いようだな、ナルバン・キャス。

つまらないな。」


ナルバンとマレランは下手に動こうとしなかった。

少しでも動けば殺されると脳の危険信号が訴えかけていた。


「今、マリオロにスクリムシリ破 を潜入させている。

それも限りなく我々天帝に近い実力を持ったスクリムシリだ。

どうやらユーランシーは守恵者をマリオロに送り出しているようだな。

元より、送り出したスクリムシリ 破 が守恵者に勝てるなどとは思っていないが情報くらいなら取れる。

知っていると思うがこの世界の勝敗は3つ大きく関係していることがある。

1つは相性。

私のような天命の意思内でも相性があり、天命の意思以外にも相性がある。

もちろん天命の意思とそれ以外の意思の間にも相性がある。

2つ目は天恵の技術力。

これは言わずもがなだ。

天恵の技術は努力量とは比例しない。

体質的問題、才能、感覚…これらに恵まれてやっと人並みに使えるくらいになる。

だが、ごく稀にそこにいるアビス・コーエンのような天恵を分解する特異体質を有する存在が現れる。

それはそれで面白いものだ。

そして最後に3つ目は情報だ。

相手の能力、力、技術力、得意技、不得意な技、間合い、判断力、視野の広さ、思考力、決断力、速さ。

相手のこれら全てを理解していて負けることなどまず有り得ない。

それこそ私やミレーのような圧倒的な存在が相手ならば話は別だがな。

この世界の人も物も全て私の駒でなければならない。

私の望む世界のためにお前たちは邪魔だ。

駒にもならずにのうのうと生きているだけのゴミ。

教えてやる…世界を変える力というものを。」


セルシャが指を パチンッ と鳴らすとセルシャとナルバンとマレランが瞬時に南地の民が避難する場所まで飛ぶ。


「サイナス・『亡人の唄』」


空虚の意思

サイナス『亡人の唄』

・半径121メートルの円形の範囲を出現させ、3分40秒のカウントダウンが始まる。

3分40秒後に範囲内にいる自分を除いた生命体全てが死ぬ。

範囲内にいる間、地面が使用者の天恵へと変化し動きを鈍らせる。

・このサイナスは1度のみしか使用することが出来ず、

使用した際に使用者の天恵の上限から9割を消費する。

使用してから2週間は体が思うように動かすことが出来なくなり、生活がままなら無くなる。

使用してから最低1ヶ月は戦闘による派手な動きは不可能になる。




「さぁ、終幕と行こうか」


ナルバンは直感した。

この地面に広がった天恵の範囲。

この中にいると死ぬという事に。


「3分40秒までに範囲を出れば生きる。

それまでに出なければ死ぬ。

ナルバン・キャス…お前ほどの実力者ならばそれくらい分かるだろう?

ならばどうする?」


「ナルバンさん…やつが言ってることって…」


「真実だ…この範囲はおよそ100メートルと少し。

範囲内には避難したオロビアヌスの民100人以上は間違いなくいる。

いいか、よく聞け。自分の身を第1優先にするという前提でこの範囲内にいる民を範囲外に避難させろ。

この範囲は恐らく動かない。

奴は俺が引きつけるから何としてでも全員救い出せ。

行け!」


ナルバンはマレランに指示を出す。

そして目の前の化け物に目を向ける。

依然として余裕そうな態度だった。


「ナルバン・キャス…お前は私の手で直々に殺してやろう。」


(残りの天恵は破恵1回分ほど…。

このサイナスはハインケルとは違って大きなダメージを与えたところで解除される代物ではない。

かと言って破恵のみではこいつは絶対に倒せない…。

俺も救出に専念するべきか?いや、こいつがそんなことさせる訳ない。

3分40秒の間にマレランが救出できるのはせいぜい50人程度…。

クソっ、)


ナルバンは剣を生成し、セルシャへと攻撃を仕掛ける。

足が重く思うような速さで動くことが出来ない。

セルシャは余裕な表情を浮かべながらナルバンの攻撃を最小限の動きで躱す。

そして腹部に軽く拳をぶつける。

ただ本当にぶつけただけだったがナルバンは今までに感じたことの無いほどの激痛が走る。

何とか立ったまま耐えるがセルシャはナルバンの右肩に人差し指を押し付ける。


「破恵」


それと同時にナルバンの右肩は消し飛び、後方の建物までもが跡形もなく消え去る。

周りでは叫び声が飛び交う。

自然とセルシャから民たちは逃げる形となるがその動きはナルバン同様鈍く間違いなくこのままだと残り約2分40秒の間に範囲を出ることは出来ない。


ナルバンは直ぐに治癒を始めるがセルシャは目の前に立ち、次はナルバンの額に人差し指を押し付ける。


「私に殺されることを光栄に思え」


セルシャが破恵と言おうとした瞬間に近くの建物まで吹き飛ぶ。

顔を上げるとアビスが立っていた。


「ナルバン、すぐに立て。

そして民を範囲から出せ。絶対全員救い出せ。」


間髪入れずにアビスがそう言い放ち、ナルバンも軽く頷く程度で行動に移る。


「やはり、私の邪魔をするのはお前か…アビス」


「仲間はずれか?突然いなくなりやがって」


「良いだろう、1分で決着をつけてやる。」


「30秒で十分だ」


セルシャとアビスは再びぶつかり合う。

読んで頂きありがとうございます!

3章は全体的に戦闘シーンでの難しい表現が多いので伝わりづらい部分があるかもしれませんのでその際はご自身の解釈で大丈夫です!

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