48話 「最強の男の記憶④」
カヌス国からユーランシーに発ってから2日目。
あと数時間もすればユーランシーに着くところまで来ていた。
ここまで問題なく来れている。
カヌス国から出る際に、国外通報されている10人ほどの男達がいた。
理由は明確だ。
カヌス王は仕事が早くて素晴らしい。
昨日件でカヌス王は相当お怒りだったようだ。
死刑にするという案もあったがソフィア女王は寛大であり怪我も無かったためそこまではしなくても大丈夫ということで落ち着いた。
馬車の中でソフィア女王はウトウトとしている。
ここまで気を張っていて疲れてしまったのだろうな。
「ソフィア女王、眠かったら寝ていただいても大丈夫ですよ。
俺とディシィが警戒していますから」
「そんな訳には…いきませんょ…ぉ二人が…頑張っておられるのに…」
「ご無理は…」
言い切る前に俺は立ち上がり、耳を澄ませる。
「アビスさん…?どうかしましたか?」
ソフィア女王の問いに答えることなく集中する。
「ディシィ…」
「はい。何かが接近していますね」
やはり気のせいではなかった。
足音が…それも相当のでかさの生物だ。
ディシィも気がついているということはスクリムシリだ。
(解…いや、もしかして)
「ソフィア女王…起きてください。馬車を降ります」
「わ、分かりました」
ディシィが馬車を止め、ソフィア女王を降ろす。
(辺りは基本平原…南東方向に森…そして、音がするのも南東…)
すると南東方向にある森の木々が空へ吹き飛んだり、
折れたりし始める。
そして、姿を現す。
約1キロほど離れているがそれでも分かるくらいのでかさ。
「30メートルはある。アビスさん…ソフィア女王をお願いします。
恐らくこいつは獣型スクリムシリ 破 です。」
やはり 破 だった。奴はこちらへものすごい速さで近づいてくる。
(まずい…破 だ。勝てるか?ディシィに加勢すべきか?
いや、それだとソフィア女王が…どうすれば)
初めて見るスクリムシリ 破 の迫力に俺は恐怖から足がすくむ。
ディシィは 破 に向かって歩き始める。
両手に短剣を作り出し、片手を逆手に持ちに変える。
そして、破 が目の前まで来た瞬間に目で追えぬほどの速さで 破 の高さまで飛び、次の光景では既に 破 の太い首から上が切られ落ちる最中だった。
ディシィという男は前に、自分には守る力など無いと言っていた。
だが、それは自分を過小評価しすぎているだけだった。
この男は確かに強くなる必要が無いくらい強かった。
レベルが違った。
首を切り落とされた 破 は止まることなく体や前足を振り回しながら暴れる。
俺はハッとして 破 の前足がソフィア女王の方へと向かっているのに気づき、間一髪でソフィア女王を抱えて避難させる。
暴れる 破 の足をディシィがすべて切ってやっと動きが止まる。
「反応が遅れてすみません。お怪我はありませんか?」
「…はい!大丈夫です、ありがとうございます!」
「2人とも!お怪我は!?」
「ソフィア女王も俺も無事だ。助かったよディシィ」
「いえ、それが務めなので。もしかしたら他にスクリムシリが襲ってくるかもしれません。
馬車に戻りましょう。」
「分かった。行きましょうソフィア女王」
「はい…あ、あの、少し腰が抜けてしまって…その…」
遠慮気味に何かを言おうとするソフィア女王。
そんな姿に少し頬が緩む。
「失礼します」
俺はソフィア女王をお姫様抱っこする。
「す…すみません//重くないですか?」
「重くなんてないですよ。どこも苦しくないですか?」
「はい、大丈夫です」
ソフィア女王を抱えながら馬車へと歩み始める。
少しソフィア女王の様子に違和感がある。
なにか無理をしているような…それに少し息遣いも荒い。
「ソフィア女王…大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですよ。少し驚いてしまって」
「そうですか。何かあったら言ってくださいね」
「はい!ありがとうございます!」
ユーランシーに到着し、多くの民が出迎えてくれる。
ソフィア女王は笑顔で民に手を振る。
ホールディングスに着き、女王の間で守恵者、俺、ソフィア女王が集まる。
「ソフィア女王、ご無事にご帰還お疲れ様です」
「ありがとうございます!グレイさん。
グレイさんとジェミーさんにディシさんからお話があるみたいですよ」
ディシィが2人の前に出る。
ディシィも2人も互いに緊張している様子。
そしてディシィが口を開く。
「今まで…すまなかった」
「「え?」」
「過去を引き摺って、いつまでも前に進もうとせずに2人に辛く当たってしまっていた。
申し訳なかった。少しずつ、俺も前に進もうと思う。
その…これから仲良くしてくれると…嬉しい」
2人はポカーンとした表情を浮かべる。
今まで冷たい態度を取っていた奴が急にこんなこと言ったら誰でもこんな顔をするだろう。
「…当たり前だろ。俺はもちろん受け入れる。何かあったかは知らないがお前からそう言ってくれて嬉しいよ。」
「グレイ…」
「私も!もちろん仲良くしようね!」
「ジェミー…」
「よし!なら交流を深めるために飲みに行くか!
アビスも来るか?」
「いや、俺は気にしなくて良い。3人で行ってこい。」
俺とソフィア女王は3人の笑う姿を見て共に頬を緩ませて笑う。
「アビスさんのおかげですね」
「いえ、俺は何も。変わりたいと思ったのはディシィ本人ですから」
ふふっと笑うソフィア女王に目を向ける。
意図せず…視界に入り違和感を覚えドレスのスカート部分に目が行く。
紺色のドレスに縦長のシミのようなものがついていた。
「ソフィア女王…そのシミはどうなさったのですか?」
「え、あ、いや!これは、少し汚れてしまって…。
汚いですよね、すぐに他のお洋服を…」
ソフィア女王は焦りながら立ち上がり出口へと向かおうとするが階段のところで転んでしまう。
俺は咄嗟にソフィア女王を支える。
「大丈夫ですか?」
「は、はい!ありがとうございます!」
(いや、大丈夫な訳ない。
今のは躓いたから転んだわけじゃない。
明らかに足を引き摺ってた…。)
俺は異常なまでに動揺するソフィア女王に疑念を抱く。
「失礼します」
俺は、地面に座り膝を曲げて座るソフィア女王のスカートを膝の高さまで捲り上げる。
「あっ!だめ!」
ソフィア女王の横ふくらはぎに膝から足首辺りまで伸びる引っ掻き傷があり、しかもそこからの出血が酷かった。
「これ…いつですか?」
ソフィア女王は何も言わない。
「俺が…スクリムシリの攻撃から、ソフィア女王を守った…ですか?」
目を合わせようとせずに下を向くソフィア女王。
「どうして…黙って、、」
俺はカヌス国での自分の言葉を思い出す。
『初めての護衛任務だからソフィア女王には怪我なくユーランシーまで連れていきたくて。
必ずこの任務は成功させてみせますね。
そしたら次の護衛任務の自信にも繋がると思いますし。』
「もしかして…俺のために…?」
「…すみません…どうしても…アビスさんに成功という体験をさせてあげたくて」
その後、ソフィア女王は治療を受けるために医務室へ運ばれた。
医務室の前で俺は壁に寄りかかりながら地面に座り頭を抱えていた。
「アビスさん…すみません。
俺がすぐに 破 にトドメを刺さなかったから、」
いつの間にかディシィが俺の隣に立っており、謝ってくる。
「いや、ディシィは悪くない。
俺が…俺が…俺の…実力不足で…」
腹の底から気持ち悪さが込み上げてくる。
自分の無力さと悔しさで頭がおかしくなりそうだった。
「強く…ならないと。もっと…誰にも…負けないくらい、、」
「アビスさん…?」
「もっと…もっと…」
(そうだ、1度でも負けたら死なんだ。
俺は強くならなければいけない。
何が初の護衛任務成功だ…甘い考えを持つな。
ソフィア女王を守るためなら命を削れ。
覚悟が足りてなかった。
強くならなければ…強く、強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く…)
「アビスさん!」
俺はディシィの声でハッとする。
「すまない…失礼する。」
俺は立ち上がり自室へと向かう。
治療室からソフィア女王が出てきてディシィと目が合う。
「お怪我…大丈夫ですか?」
「はい、ペースは遅くなってしまいますが歩けはしますので」
「すみません、俺が」
「違います。ディシさんもアビスさんも悪くなんてありません。
私がもっと離れた場所にいれば良かったんです。
私の方こそすみません」
「謝らないでください…」
「アビスさんは…大丈夫ですか?」
「相当、ショックを受けていました。
自分を責め立ててもいました。
まるで別人かのように…」
「そうですか、」
「今は…アビスさんの気持ちが落ち着くまでそっとしてあげましょう。」
「…分かりました」
「もっと…強くならないと、失いたくない、怖い。
ソフィア女王…」
(アビス・コーエン…お前は何も出来ない。
女性1人すら怪我なく守ることのできない無能だ。
笑うな…悲しむな…感情などというものは強くなる事において障害でしかない。
強さのみを求めろ。
お前の命なんてどうだっていい…どうでもいいから…)
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俺はそれから笑えなくなった。
俺はソフィア女王の護衛として強さのみを求め続けた。
交友も最小限に抑えるようにした。
皮肉なものだ。
強くならないように人との関わりを捨てたディシィを立ち直らせた俺が、強さを求めるために人との関わりを捨てた。
だが、そんなものは苦では無かった。
ソフィア女王の平穏を天秤にかけた時に勝るものなど無かった。
そんな生活が約1年続いた。
あれから俺の精神面を皆は心配してくれたが俺はただ一言問題無いと言ってそれ以外は会話せずに自分のするべきことをした。
飲みにだって誘われたし、休暇も与えられた。
だが、その時間も全て自分を高めるために費やした。
スクリムシリ 破 などの出現はあれど獣型のみで天帝の出現などもなく平穏そのものだった…はずだった。
翌週にはソフィア女王の誕生祭があり、その影響でユーランシー内は祭りやらで盛り上がっていた。
そんな時にそれは起こった。
報告(緊急)
ユーランシー内にて 事象の意思 を有する天帝の襲撃。
結命の意思者 及び 剣韻の意思者 が東地区にて戦闘。
その結果、天帝(事象の意思)は2人を圧倒し、追い詰める。
追記:現地にて…アビス・コーエン 着
「ん?あらあら…凄いわね。
ユーランシーにこんな人間がいたなんて…初耳よ」
「…」
「あ、アビス…さんっ!こいつはっ、天帝ですっ!
1人では、危険です!!逃げてくださいっ、!」
「アビス!ソフィア女王の護衛のために…ホールディングスへ戻れっ!!」
「へぇ、アシュリエル・ソフィアはホールディングスという場所にいるのね。
あの中央のお城かしら。教えてくれてありがと」
ディシィとグレイはボロボロだった。
ディシィは片腕がもげており、再生途中だった。
グレイは内蔵を損傷したのだろう…血を吐き、治癒に時間が有しそうな状況だ。
「何者だ」
「私は天帝慈刑人 事象の意思者 ハーランド・ティナ。
あなたのお名前を聞いても?」
「アビス」
「アビスって言うのね!
素敵な名前っ!あなたを見た瞬間から私の全身は鳥肌が止まらないわ!
守恵者程度では楽しめないと思っていたのだけれど…嬉しいわぁ!ほんと、あなたに出会えてよかった!
故に…殺すのが少しもったいないわ」
ティナと名乗る女…天帝は吸い込まれそうな程の黒い瞳孔。
肩まで伸びている髪には返り血が付いている。
初めて天帝を前にしてその圧倒的な存在感、力…同じ人間とは思えないほどの…悪意。
こいつは生かしてはいけない。そう直感した。
だが…俺は目の前の圧倒的な存在を前にしても恐怖などしなかった。
こいつを前にしても退屈の2文字しか浮かばなかった。
俺はなぜだかこいつに負ける想像がつかなかったのだ。
「目的はなんだ」
「そんなのアシュリエル・ソフィアの抹殺に決まっているでしょう?
アシュリエル家は邪魔なのよ。
だから私自ら手を下しに来たのよ。」
「…」
俺はこいつに対しての同情心を完全に捨てた。
ただ、目の前の人間を殺すことのみに全神経を使う。
「殺す」
「かかってきなさい」
「アビスさんっ、だ、め!そいつは。天命の意思の…!」
(なにか違和感があると思ったら…あははっ!
この男、天恵を分解する体質なのね!
面白いわ!ますます興味がでてきた!
こいつを殺してセルシャ先輩にあげれば喜んでもらえるかしら)
「さぁ、始めましょうか」
ティナは両手を合わせたあと、横に勢いよく広げると剣が現れる。
その剣は俺が今まで見た中ならグレイが生成する剣に匹敵するレベルだった。
ティナが最初にしかけてくる。
1歩踏み出せば既に俺との距離は1メートルくらいまで近づいている。
俺が防御の体勢を取りながらカウンターを狙う。
しかし、いきなりティナがおかしな軌道をしながら俺のカウンターを全て回避して剣を俺の首に振りつける。
その剣の側面を殴り、剣を弾けさせて回避する。
ティナは俺とまた距離をとる。
(…まるで、その動きをすればこうなるとわかっていたかのような動きだ。
なるほどな…これが事象の意思か)
「驚いたわ…こんなの初めて。
やはりあなたは生かしていたら驚異になりうるわね。
今本気で殺しに行ったのに殺せなかった。
それどころか私の事象の意思すらも…」
「ベラベラベラと…さっさと来いよ。ビビってんのか?」
「ふふっ、言うじゃない。
本気で殺しに行ってあげるわよ。サイナ…」
ティナがそう言いかけた瞬間、俺は即座に距離を詰めてティナの腹部に本気で拳を食い込ませる。
「っ!?!?ゲホッゲホッ…な、っ」
(み、見えなかった!?!?反応すらできなかった…。
事象の意思 ですら捉えられないほど…)
ティナはその場で四つん這いになりながら血を吐く。
顔を上げるとアビスが見下ろしてきた。
ティナは本能的に直感した。
こいつには勝てない。
2度目だ。
同じ生物を前にして、絶対に勝てないと分からされたのは。
空虚の意思 セルシャ・イオン…に続いて2人目。
(逃げないと、死ぬっ!やだ、死にたくないっ、
怖い、逃げないと!)
「うっ、うああ、あぁ、あぁぁ!」
ティナは恐怖からなのか…それとも痛みからなのか…
プライドなんて捨てざる得ないほどの圧倒的な実力差。
「こ、こっちに来るなぁ!!!」
ティナは事象の意思を天恵を大きく消費して使用する。
だが、次の結果には同じような結果しか無かった。
頭を潰される結果…首を切られる結果…心臓を潰される結果。
「おまっ…バケモ…」
ティナが言い終わることなくアビスはティナの頭を何度も殴りつける。
そう何度も何度も…やがてティナの頭の原型は無くなり、地面にはただ潰されたドロドロと地面にこびり付く肉の塊と体だけが残った。
その死体を見つめながらアビスは棒立ちをする。
その一部始終を見ていた2人の守恵者。
まるで草食動物を襲う肉食動物のように一方的なその光景に2人は開いた口が塞がらなかった。
アビスのその後ろ姿はまるで堕天使そのもの。
「ディシィ、グレイ…大丈夫か?」
「あ、ああ…大丈夫、だ。助かったよ」
「アビス…さん?ですよね?」
「あぁ?…そうだよ。アビスだが?」
ディシィは目の前の狂気じみた男に恐怖すら感じていた。
この1年でこの男は自分の体に何をしたんだ。
天帝を一方的に…それも 天命の意思 を宿った者をここまで何もさせずに殺すことが出来たことがあっただろうか。
被害は最小限に抑えられた。
アビスがトドメを刺したがアビスが着くまでにディシィとグレイが粘っていなければその被害は修復不可能のレベルまで行っていたと予想される。
「アビスさん、ディシさん、グレイさん。
感謝いたします。
天帝を倒すことが出来たというのは百数十年ぶりの事です。
アシュリエル家代表として感謝申し上げます」
「勿体ないお言葉感謝します」
3人は多くの民や騎士団兵の前で表彰を受けていた。
表彰式が終わり、ソフィア女王がアビスに話しかける。
「アビスさん…その…ありがとうございました!
アビスさんがいなかったら私は死んでいたかもしれないんですよね」
「…俺が いない なんてことはありません。
失礼します」
「アビスさん…」
1週間後、この日はソフィア女王の誕生祭だった。
貴族連中が城に招かれ、ダンスや食事会などをするといった行事。
これは毎年恒例であり重要なことだった。
当然、アビスも強制参加だった。
しかし今のアビスにとってはこのような雰囲気に自分は場違い感しか感じられず、バルコニーの白い石でできたフェンスに酒の入ったグラスを置き、フェンスによりかかりながら外の景色を眺める。
中ではダンスや談笑や食事と盛り上がっている。
すると隣に人の気配がする。
横を見るといつも以上に美しいドレスを着た女神のようなお姿のソフィア女王がアビス同様にお酒の入ったグラスをフェンスに置く。
「中で、一緒に楽しまないのですか?」
「俺は…場違いなので。」
「そんなことありませんよ」
「…ありますよ。それより、主役が抜け出して良いのですか?」
「少し息抜きです!」
「そうですか」
「…アビスさん、1年前のことがあってから笑わなく無くなりましたよね…」
「強くなる事において笑うというのは邪魔なだけです。
あなたがいれば俺にはそれで十分。
ならば、ずっといてもらう為に俺は強くなる必要があります。」
「強くなんて…ならなくても。
私はずっとそばにいて欲しいですし、いたいですよ…」
「…え?」
「アビスさんが笑わなくなって、凄く寂しいんですよ。
あの優しい顔をしてくれなくなって…悲しくて…。
だって…大好きな人が、笑わないで苦しそうに過ごしてるところなんて…辛いに決まってますもん…」
「大好きって…誰が…?」
「そんなの、アビスさんに決まってます。
アビスさん、好きです。
私と結婚していただけませんか?」
「でも、俺は…だって、ソフィア女王にお怪我をさせてしまった…」
「そんなのどうでもいいんです!!
そもそもあれはアビスさんのせいなんかじゃないです!
アビス・コーエンさん…好きです。私と結婚してくれませんか?」
「俺で…良いんですか…?」
「アビスさんじゃないと嫌です…」
「…あれ、どうして…なんで、」
アビスの目から涙がボロボロと溢れ出てくる。
手で押えても押さえてもどんどんと溢れてくる。
(そうだ…そうだったんだな。
ずっと…辛かったんだ。
心のどこかで誰とも関わらない俺を そんなのはダメだ って誰かに止めて欲しかったんだ。
苦しくないって思い込んでいただけで…本当は死ぬほど辛かったんだ…)
アビスは涙を流しながらも笑顔を作る。
「お願いします」
「っ!!よ、良かった…良かったっ、本当にっ!」
ソフィア女王の目からも涙がボロボロとこぼれていく。
そして2人は向かい合い、手を取り、唇を合わせる。
「必ず、幸せにします。愛しています」
「っ!私もです!
1年後、俺とソフィアは女の子を授かった。
名はメアリー。
母にそっくりで既に美しく、綺麗だった。
それから16年後
グレイとジェミーが死んだ。
空虚の意思と遭遇し、2人で戦い、心臓を2人とも潰されて死んだ。
そしてさらに3年後
ソフィア女王が亡くなった。
当時19歳だったメアリーは母の死を悲しむ暇もなく新女王へと就任した。
その時、俺は立ち直れずに死のうかとも思った。
だが、メアリーは違った。
進もうとしている…母の意志を継いで。
ならば俺もそれに応えなければならない。
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俺は宿のベッドの上で目が覚める。
剣術祭まであと3時間と少し。
体を起こしノースアヌス学園へと向かう準備をする。
読んで頂きありがとうございます!
正直アビスの過去がこれだけ長くなるとは自分でも思っていなくてソフィア女王、メアリー王女、アビスの3人の幸せな生活も書きたいなぁと思っていたんですが中途半端になりそうで書けませんでした。
番外編などでもしかしたら書くかもしれないので気長にお待ちください




