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天使とサイナス  作者: 七数
3章 【予】
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47話 「最強の男の記憶③」

あれから数時間、俺たちはカヌス国城壁の入国門の前で馬車を止めていた。

ユーランシーのような石の城壁に囲まれており、その高さはユーランシーよりも高いように感じる。

入国する際に確認のために騎士団員2人が馬車を覗いてくる。

ディシィがカヌス国の王からの招待状を見せると荒い手つきで招待状を取り、適当に見た後に投げてディシィに返す。

この行動だけでカヌス騎士団の品が知れる。

馬車から離れながら


「通れ」


と鋭い口調で言われる。


(舐めた態度をとりやがって)


なんてイライラしつつも思っているとソフィア女王が笑顔で騎士団兵2人に向けて


「ありがとうございます!」


と言い放つ。

この2ヶ月ほどで何十回もその笑顔を見たが未だに慣れず見惚れてしまう。

それくらい綺麗だ。

当然、初めて見るであろう2人の騎士団兵はその美しさに目が釘付けになる。

誇らしくも不快にも感じて、俺は馬車の窓のカーテンを閉める。


「ソフィア女王…正直に言いますが貴女は綺麗です」


「…えっ!?//…ど、どうなされたのですか…突然。」


「なのであまり優しい笑顔を他国の民に向けすぎると変な勘違いをさせてしまうかもしれません。

ダメ…とは言いませんが、出来るだけ控えるようにしてください」


俺は、自分の美しさを自覚していない目の前の女性に呆れながらもそう伝える。


「アビスさんは…私が他の人に笑顔を向けるのは好ましくないのですか?」


「もちろんです」


「もちろん!?」


「はい。嫌ですよ。なので気を付けてください」


「は…はいぃ//」


ソフィア女王は口角が緩み、ニヤケながらソワソワし始める。

何か解釈の違いが生まれていそうだが、まぁ良いだろう。


(ソフィア女王が他者に笑顔を振りまいて、それで勘違いした奴がソフィア女王に危険を及ぼすようなことをしたら当然嫌だからな。)◀︎アビス


(い、意外と…束縛的なんですね…//

そ、そんなところも、素敵ですけど…)◀︎ソフィア女王


(何見せられてるんだ)◀︎ディシィ




馬車をゆっくりと走らせながら俺はカヌスの街並みを見ていた。

家の壁などは全体的に赤レンガ系で統一されており、

屋根は暗い色だ。

寒い地域な為に熱を集めやすいように設計されているのだろうな。

そのせいか街は少々暗めの印象がつく。

道もしっかり整備されて石レンガが使われている。

街並みだけ見たら相当綺麗で俺は意外と好きな構造だった。

だが…家と家の間にはボロボロで痩せこけた人の集団がチラチラと見える。

道を歩いているのは基本的に綺麗な服を着た、ソフィア女王が言うにある程度暮らせる以上の金を持っている人達だろう。

貧困層と比べてそれらの連中は子連れで笑顔で話していたりと目立つ。

道の脇には小さなコップや皿を地面に置いて金を恵んでもらおうとする者もいる。


「あちらを見てください」


ソフィア女王が窓の外を指さしながら言う。

目を向けるとボロボロの服を着て、髭なども汚れが目立つ男が恐らく貴族階級であろう男にすがりついていた。


「お金を…どうかお恵みください…!もう数日ほど…何も食べていないんです…」


「黙れ汚らしい!貴様のようなゴミが私に触るでない!」


そう言いながら身なりの綺麗な男はボロボロの男の腹を蹴り飛ばす。

蹴られた男は痛みから地面に倒れて動かない。


「ソフィア女王…我慢してください。

この国ではあれがいつもの光景です。

一々対応していたらキリがありません。

ソフィア女王はお人柄がよく、無視するなんて出来ないかもしれませんがここはどうか抑えてください」


ディシィがソフィア女王にそう言い放つ。

冷たくも感じるが言っていることは正しい。

あの状況が日常と化しているカヌス国であのような状況は当たり前なのだろう。

それに対応して変なことに巻き込まれるのはごめんだ。


「はい…」


ソフィア女王からしたらこのような光景は苦しいだろうな。

前までは俺があちら側だった。

だから、プライドを捨ててお金を求めるのがどれほど辛いかは俺も痛いほどわかる。


馬車は中央の城の前で止まる。

街並みと違って白を多用した造りであり、精密に造られている。

相当な技術を以てして作られているとひと目でわかるほどに綺麗な城だった。

成人男性2人分位の高さの石の壁が城を囲っており、

中に入るための鉄の門にはスイレンの花の紋章があった。


「少々お待ちください。確認を取ってきます。」


ディシィは馬車を降りて、門の前に立つ2人の兵に近づき何かを話す。

了承を貰ったのか2人の兵は門を開ける。

ディシィはこちらに戻ってくる。


「城内に入る許可がおりました。

馬車を降りて行きましょう」


「分かりました。

ここまで馬車の操縦ありがとうございます!」


ソフィア女王は操縦者に感謝を伝え、ディシィの手を取りながら馬車を降りる。

帰国の際は操縦者はおらず、ディシィが操縦することになっているため操縦者とはここでお別れだ。


「お元気で!」


操縦者の方もそう笑顔で言いながら馬車を走らせる。


「それでは…行きましょうか」


ソフィア女王の雰囲気が変わる。

いつものふわふわとしながらも隙が無いような雰囲気から一変して、威厳があり堂々とした姿でまさに一国の王と言われても疑いようの無い佇まいだった。


そのような姿は初めて見たため驚いたが、同時に胸が高鳴る感じがする。

やはりこの方はとことん美しい方だ。



今回のカヌスの王との対談はめちゃくちゃ重要という訳では無いらしく、不可侵条約、友好条約、関税廃止協定の3つが100年起きに再締結する必要があり今回はそれの再締結のためだった。

そして、特に問題無く3つは改めて200年の期間での再締結となった。

ソフィア女王曰く、200年にした理由はこの200年の間にユーランシーにとって大きな変化が訪れる可能性があると予測し、その際に友好条約を結んでおくことはプラスになるという。


その後に俺やディシィも含めての食事会が開かれ無事に対談は終了した。


今日はカヌスに1日泊まり、明日カヌスを発つ予定だ。


ソフィア女王の部屋はめちゃくちゃ豪華でさすがに優遇されており、俺とディシィの部屋もソフィア女王程ではないがそれなりに綺麗な部屋だった。


俺は部屋のベッドで少し寝転がる。

ソフィア女王の部屋は俺とディシィの部屋に挟まれている。

ソフィア女王の部屋に辿り着くためにはどちらかの部屋の前を通らなければいけなく、もし誰かが通ったならば直ぐに気づける。

もちろんソフィア女王が泊まる部屋の中も隅々までチェックした。

特に問題は無かったが見落としている可能性もあるため今日も寝れないだろうな。


すると部屋のドアをノックされる。

ドアを開けるとソフィア女王とディシィが立っていた。


「よろしければ一緒にお食事をしに行きませんか?

カヌスで美味しいお店を知っているんです」


「良いですね。行きましょう。」



宿を出て数分歩いたところに人が行き交う場所に来た。

建物の明かりで夜ながらも昼間のように感じる。


「人が多いので気をつけてください。」


「はい、ありがとうございます」


ディシィは護衛に慣れているだけあって抜け目が無いなと感心してしまう。

すると俺の袖が掴まれる。

袖を見るとソフィア女王が俺の服の袖をつまんでいた。


「そ、その…迷子になったら危ないですし。

ダメ…ですか?」


「いえ、大丈夫ですよ。」


頬が赤くなっている。

このお方は人に頼むのが苦手なのだろうか。


「ここですね」


ディシィが足を止めた場所は苔が生えた石を壁に使う建物だった。


「古いように見えますね」


「実際古いですよ。ここのオムライス…すごく美味しいんですよ」


店に入ると満席で席は空いていなかった。


「空いておりませんね…」


「そうですね。今回は諦めましょうか。」


ソフィア女王は少し残念そうにしながら店を後にしようとすると店主らしき白髪のおじさんが呼び止める。


「もしや…ソフィア女王ですか?」


「はい…もしかして…店主さん?」


「お久しゅうございます!10年振りでしょうか?

こんなに美しい女性になりまして…最初気づきませんでしたよ」


「店主さんもお変わりなくお元気そうで良かったです!」


「いやぁ、ソフィア女王のような美しい方を見たらまた寿命が伸びましたよ」


「ふふっ、相変わらずお上手ですね!」


「いやはや。もしやこの店でお食事を?」


「そうなのですが…空いてなさそうなので別のお店に行こうかなと」


「それでしたらこちらに来てください」


店主は着いてくるように俺たちに言うと店の奥へと入っていく。

どうしようかと顔を見合わせるとソフィア女王が


「ついて行ってみましょうか」


と言う。

店主に着いていくと、そこは個室の空間になっており、広く綺麗だった。


「ここは…?」


「実はこのお店はよくカヌス王も訪れるのですよ。

その際にこの部屋を使っております」


「良いのですか?カヌス王専用なのでは?」


「私かしたらソフィア女王の方が尊敬しておりますから!

ささ!どうぞ!」


「それではお言葉に甘えさせてもらいますね」


「注文は決まっておりますか?」


「私はオムライスの…大盛りで!」


「あの頃と変わらず食いしん坊なのですね」


冗談交じりで店主が言うとソフィア女王は 大人になったから食べるようになっただけですもん! と頬を膨らませながら言う。

この2人を見ているとなんだか平和を実感する。

ソフィア女王も古い友人にあえて嬉しそうで良かった。


「そちらのお二方はどう致しますか?」


「俺もオムライスで。普通のサイズで大丈夫です」


「俺はナポリタンを」


「わぁ、ナポリタンもいいですね!」


ディシィはナポリタンを頼むらしいがソフィア女王はそれにも反応を示す。

確かに食いしん坊だ。


「良ければ俺のナポリタン少し分けましょうか?」


「よろしいのですか?」


「ええ、もちろん。久々に来たお店なのですから好きなものを食べてください」


「ありがとうございます!」


なんだか子供に見える。



料理が運ばれてきて俺はオムライスを1口食べる。


「うま…」


意図せずそう口からこぼれる。

ふわふわな卵の蓋とそれにマッチした米の温かさ。

ケチャップの絡み具合がより口の中での風味を引き立たせている。

まさしく絶品だった。


「どうです?」


ソフィア女王が俺の反応を伺ってくる。


「とても美味しいです。今まで食べた料理の中で1番かもしれません…」


「ですよね!美味しいですよね!」


何故かソフィア女王が嬉しそうにしている。

正直、手が止まらないくらいには美味しい。

カヌスという国…恐るべし。


食事を終え、店主に挨拶をした後、俺たちは宿へと向かう。


「あ、すみません。宿の鍵を店に置いてきてしまったかもしれません。

取りに行ってもよろしいですか?」


「もちろんです。お気をつけてください」


「行ってまいります。アビスさん、ソフィア女王をお願いしますね」


「ああ。」


「ディシさんもドジですね」


「自分も良くやるので気持ちは分かりますね。

歳なんでしょうか…」


「アビスさんはまだ20代ですからセーフですよ」


「まぁ次の誕生日で30になりますけど。

結婚などを考えるくらいの歳らしいですよね。

このくらいの歳だと。」


「そうですね…ユーランシーは20代後半位で結婚する世帯が多いみたいなのでそうだと思います」


「まぁ、俺はソフィア女王の護衛が出来ればそれで十分ですからね」


「結婚…とかは興味無いのですか?」


「無い、という訳では無いのですが、如何せん相手がおりませんからね。

良い人いたら紹介して欲しいくらいです」


嘘だ…紹介されたとしてもきっと結婚なんてしない。

ソフィア女王を一途に愛すると決めたし、一途に護り続けると決めた。

結婚なんてする気無い。


「嫌です…」


「え?」


「良い相手いても教えませんから!

もし気になる方が出来たら私に教えてくださいね。」


「え、わ…かりました?」


「絶対ですからね!」


「怒ってます?」


「怒ってます!」


「何に…?」


「アビスさんにです!」


「えっと…すみません」


「許します!」


許すのかい。

なぜ怒っているのだろうか。

まだ婚約者がいないソフィア女王に結婚の話は禁忌だったか?

いや、でもソフィア女王は女神だ。

婚姻の申し込みなどは多く来ているはずだ。

なら、なぜ?


そんなことを考えていると、数人に囲まれる気配がして足を止める。


「アビスさん?」


「囲まれました」


周りを見るとカヌス騎士団兵10人程が俺とソフィア女王を囲っていた。

敵意が感じられるが殺意はない。

俺に対してでは無いが欲望にまみれた視線を向けられている。

恐らくソフィア女王。

騎士団兵の中に入国門で俺たちの招待状を確認した兵がいた。


「ソフィア女王…俺の後ろから離れないでください」


「は、はい…」


「何の用だ」


「大した用では無いさ。

そこのお嬢さんを渡してくれればお前には少し眠ってもらうだけだ。」


「断る。そもそもそんなことをして許されると思っているのか?

この方はユーランシーの王 ソフィア女王だ。」


「ほう。ならばソフィア女王を渡した後、お前は死んでもらうしかないな。

そして俺たちが楽しんだ後、その女も殺す」


「は?」


「俺たちはこの国の中でも貴族以上の権力がある。

ユーランシーの王が国内で事故によって死亡というのを捏造するくらい容易い。

さぁ、渡せ。

その女は顔が良くて胸もでかくて最高だよ。

抵抗するってんなら」


アビス達を囲うカヌス騎士団兵達は剣を抜き、2人に向けて構える。


「痛めつけながら殺す。」


「…」


「おーい、どうした?怖くて声も出ないか?

ハハハッ!情けねー!それでも護衛かよ」


「あ、アビス…さん?」


ソフィア女王はアビスを見て動揺、畏怖、安心を同時に感じていた。

その感情は全てアビスを見て来ているもの。

なぜなら、アビスは見たことがないほどに怒りを宿していたからだ。


騎士団兵1人がアビスへと剣を振り下ろそうとする。

が、両腕が振り下ろすよりも早く反対方向に折れ曲がる。

アビスは目に見えぬ速度で兵の肘関節を反対方向に殴り曲げたのだ。

騎士団兵は痛みで叫びながら地面に転がる。


「かかってこい。ゴミ共。」


「や、やるじゃえねぇか。だが、この人数相手に出来ると思うなよ!」


残りの騎士団兵全員が同時に剣を振りつけてくる。

だが、その騎士団兵1人を除いて全員の膝が逆方向へ折れ曲がる。


「…ディシィか。余計なことを」


「アビスさんを守った訳ではありませんよ。

ソフィア女王にお怪我があったら危ないので」


「な、お、何を…したんだよ…!」


「お前は…カヌスの騎士団の中でも偉い立場なんだってな?

どうする、その地位を捨てて今ここで死ぬか…

この転がってるゴミ共を連れてとっとと失せるか」


ディシィは腰が抜けて動けない騎士団兵に顔を近づけ睨みつけながら言う。


「わ、分かったっ!頼むから命だけは助けてくれっ!」


「ならばとっとと失せろ。…行きましょう2人とも。」


俺たちはソフィア女王を連れて直ぐに宿に戻る。

ソフィア女王の部屋で危険に晒してしまったことを謝罪する。


「すみません…もっと早く気がつけていれば」


「いえ、助けて頂きありがとうございます!

あの方々の件はカヌス王に私の方から報告しておきます」


「わかりました。」


「それにしても…アビスさんがあそこまで怒っているのを見るのは初めてで少々驚きました」


「うっ、すみません…。

初めての護衛任務だからソフィア女王には怪我なくユーランシーまで連れていきたくて。

必ずこの任務は成功させてみせますね。

そしたら次の護衛任務の自信にも繋がると思いますし。」


「ふふっ、そうですね!お願いします!」


先程の怒りが収まった訳では無いがソフィア女王が元気そうな姿を見ると心が落ち着いた。


「念の為、俺とアビスさんは今日は寝ないで警戒を緩めないようにしておきます。

ソフィア女王は安心してお眠り下さい」


「え、で、ですが…」


「問題ありません。慣れてますから」


「…分かりました。ご無理はなさらないでくださいね」


「はい」


そして俺とディシィは自室へと戻る。


(俺がもっと…早く奴らの接近に気がついていれば…。

俺の責任だ…俺が悪い…結局ディシィが奴らを片付けた。

俺は何もしていない…無力だ…俺にもっと…)


ハッとした時、外を見るとすっかり明かりも消えていた。

いつの間にか数時間経っていた。


「何を…考えていたんだ…俺は。」


何を考えていたかがどうしても思い出せない。

寝ていた?いや、警戒を緩めたつもりは無い。

だったらなぜ思い出せないのだろうか…。

俺は疑念を抱きつつもコーヒーを入れて1口飲み心を落ち着かせる。

読んでいただきありがとうございます!

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