4話 「入団」
目を覚ますと見知らぬ景色があった。
ディシの家のベッドは寝心地から高級感溢れるシンプルなベッドだが、私が今寝っ転がっているベッドはディシのベッドに屋根のようなものが付いてる。
天蓋付きベッドと呼ばれるものだろうか。どちらにせよ高級ベッドだろう。
(そんなことより…身体のあちこちが痛い…)
どうやら私は疲労と天恵の使いすぎで倒れたみたいだ。
(疲労とか天恵の使いすぎ以前にミリィノさんにボコボコにされすぎて身体が痛い。
あの時、あの一瞬、ミリィノさんは…)
そんなことを考えているとドアが開く。
入ってきたのはディシと…スタシアとミリィノさん!?
「起きたみたいだね、ヨーセル。体は大丈夫?」
「ディシさん…大丈夫です。そ、それよりここは」
「ここは私の屋敷です。闘技場から1番近くだったのが私の屋敷だったのでここで治療させて頂きました。」
ここはミリィノの屋敷だったみたいだ。
「ヨーセルッ!心配したよ!身体のあちこちがボロボロで気絶しちゃってるんだもん!」
「スタシア、ヨーセルは怪我人なんだから抱きつかない」
ミリィノがベッドのすぐ側まで来て私を真っ直ぐに見つめる。
「ヨーセルさん。試験とはいえやりすぎてしまいました。すみません。」
ヨーセルは軽く頭を下げる。
やりすぎてしまった…か。本当にそうだろうか。
あの瞬間、ミリィノは私の攻撃をわざと掠めさせた。
当事者同士しか気づけないであろうあの一瞬で、適切な間合いを測りわざと自分で…。
ミリィノであればあれくらいの攻撃は容易く躱せたはずだ。
だったらなぜ…。私を合格させるため…?
「いえ、ミリィノさんはなんも悪くありません。私が弱いだけです。」
「それよりヨーセル…身体全部アザだったんだよね。お互い剣は本物だったよね?ヨーセルはミリィノちゃんにかすり傷つけられたけど、ヨーセルはなんで切り傷無いの?」
確かに、戦っている最中は気にしていなかったがミリィノが使っていた剣は何でも切れる。そう直感していた。だが、私の体にあるのは打撲痕ばかり。
「それは…私が剣を天恵で覆っていたからですね。いくら試験とはいえ重傷者などを出すわけにはいきませんし、誤ってヨーセルさんを真っ二つにしていたら私がディシさんに殺されるので。」
怖っ。というかディシに殺される?守恵者怖すぎるでしょ。だが、私を気遣ってくれての事だったのか。
「ミリィノはそんなミスしないと思うけどね」
「保険ですよ。戦ってわかりましたけどヨーセルさんは強かったです。天恵の使用の仕方さえマスター出来れば騎士団の中階級は優に行けますよ。」
「そ、その…私は騎士団に合格したのですか?」
「もちろん!良くやったね。ヨーセル」
私はひとまず胸を撫で下ろす。安心した、スタシアとディシに教えてもらったことを最大限出せたとは思う。これからはスクリムシリとの戦いだ。やっと…やっとだ。
「傷が完治したら騎士団の講習をするからね。完治した位には入団試験も終わってるだろうしそこで皆と合流して騎士団の説明があるから、日時と場所はまた改めてアンレグに伝えさせとくよ。あと、ミリィノの屋敷は完治するまで使ってていいらしいよ」
「窮屈かもしれないですが…」
「そんなことないです!ありがとうございます。」
「ヨーセルまたね!」
3人が部屋から出ていく。
私は静かにガッツポーズをする。
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部屋を出たあと、俺たちは廊下を歩きながら話し始める。
「なんで、わざと喰らったんだ。最後の攻撃」
「バレていましたか…ディシさんには」
「え?何の話?」
スタシアは気づかなかったようだ。まぁ当然と言えば当然か。俺も偶然、ミリィノが無駄な動きをしたのを見つけただけだから。
「お前はそういう甘いことはしない人間かと思ってたけどな」
「怒ってらっしゃいますか?」
「理由次第だな」
「彼女は…ヨーセルさんは…とても強かったです。いくら私が本気でなかったとしても一瞬だけ隙をつかれた。スクリムシリとの戦場において、一瞬でも隙をつかれたら負けです。なので私はあの瞬間負けました。ヨーセルさんは勝ったのです。こんな理由だと許されませんか?」
俺は立ち止まりミリィノに向き合う。俺よりも身長が15センチくらい低いミリィノは俺を見上げる形になる。
「…いや、自分を追い込むのが好きなミリィノらしい解答だと思う。俺たちは騎士団の中でも上の立場であり、皆を指揮して守らないといけない。入団試験試験も特別試験も上の立場として真剣に選別しないといけない。もし、ヨーセルに同情をしたからという理由なら、それ相応の処罰はしていた。」
「ま、待って!2人とも!喧嘩は良くないよ!」
スタシアが俺とミリィノの間に立ち、険悪な雰囲気を消そうとする。
するとミリィノが右膝を床に着け、頭を下げる。
「この度は軽率な独断的判断をしたことを謝罪します。私はヨーセルさんにこれ以上無い可能性を感じました。彼女は…あの戦闘内で、本気ではありませんでした。まだ、彼女には何か眠っている。それ故に彼女を騎士団に必ず入団させたかったです」
「み、ミリィノちゃん…」
俺は頭を下げるミリィノをずっと見つめる。
ミリィノにはミリィノなりの考えがあったことは理解している。しかし、その独断が大きな犠牲を起こしかねない。これ以上無駄な犠牲を出してはいけない。
「顔を上げてくれミリィノ。俺も少し短気になっていたよ。元はと言えば俺がヨーセルを推薦したからな!悪かったな、お前に試験を任せちゃって。」
「良いんです。私がヨーセルさんとやってみたかっただけなので。」
「何はともあれ、あとは入団試験だな。忙しくなるから気を引き締めないとな!」
「なら!この後飲みに行こうよ!ミリィノちゃんも行く?」
「おい、入団試験の準備するんだよ」
「ディシ君は張り詰めすぎ!ミリィノちゃん行く?」
「よろしいのであれば」
「決まり!アレルさんも誘ってみるね!」
「はぁ…まったく」
ヨーセルの特別試験が終わって1週間が経っただろうか。入団試験もまる2日かけて昨日終わり、合格者のリストアップも済ませた…のに、俺は任務に出されていた。
(労るという言葉を知らないのかね、あの騎士団長は)
今回の任務は聖者がスクリムシリ特有の強い天恵を感じたと情報が入ったからそれの調査、あわよくば討伐と言ったところだ。
今回の総員は俺含めて11人程、いつもより少々少ないが入団試験終わりで騎士団員たちも疲れているから仕方ないだろう。サクッと終わらせよう。
「あ!おーい、ディシくーん!」
聞き覚えのありすぎる声が後ろから聞こえてくる。
後ろを振り向くとスタシアが走ってきていた。
しかも、何故か守恵者用の戦闘服を着ている、嫌な予感がしながらスタシアに聞いてみる。
「何故ここに?」
「私もこの任務について行くことになったから!」
「帰れ」
「えー!なんでよ!!メアリー女王には許可もらったもん!」
なーんでこんな任務に着いてくる為だけに女王の許可をわざわざ貰いに行くんだこの童顔は。
「分かったよ。この任務に守恵者2人はオーバーな気がするけど、スタシアがいれば団員のやる気も上がるだろうしな」
チラッと団員たちを見るとスタシアが急遽参加したことに喜びあっていた。
「はぁ〜。行くぞ」
「はい!」
領地を出て20分ほど歩き、木々を抜けると情報のあった広い草原が広がっている。
「あれか」
「ディシ様、あの大きさならば大体…予 もしくは 解 程と思われます。どういたしますか。」
「ここで待機してろ。俺が片付ける」
俺は木々と草原の境に団員とスタシアを待機させて、1人で超巨大な四足歩行のスクリムシリに歩みを進める。
俺は自身の両手に天恵を集中させて短剣を2本生成する。1番得意な武器だ。
武器を生成した時に天恵を使用したことにより、スクリムシリがこちらに気づく。
スクリムシリは口を大きく開くとそこに天恵が収束されていき、圧縮された天恵の塊をこちらに向かって放ってきた。
俺は歩きながら右手に持っている短剣で軽く一振して、真っ二つに切断する。
切断された天恵の塊はそれぞれが左右に大きな爆発を起こして俺の周辺一帯が更地になる。
「確かに…解 はありそうだな、無駄にでかいし。」
右手の刀をクルッと回し逆手持ちをし、スクリムシリに向かって走り出す。
獣型であるスクリムシリの弱点は左右の動きが鈍いというところ。
それに加えて全長は30メートルはある。身体の下に潜り込まれたら着いては来れないだろう。
スクリムシリは向かって来る俺に対して、さらに天恵を収束させて攻撃してくる。が、俺はそれを容易く避けながら接近する。
スクリムシリは自身の背中から触手のようなものを6本生やすとその触手の先が本体の顔に変形し、本体と同様に口に天恵を収束させる。
(攻撃の量を増やしたのか。あの範囲の攻撃をこの数撃たれたら自然が破壊されてしまうな。)
「良いことを教えてやる。攻撃をする時は量より…質だ」
俺は自身の足に天恵を集中させ強化しスピードを上げる。その勢いのまま攻撃を放つ前にスクリムシリの触手を全て切り落とす。
切り落とすと同時に上に飛びその落下を利用して、首を切り落とす。
「でかいスクリムシリは俺の専門外なんだけどな…」
「おぉ!さすがディシ様!」
「一発で!」
(おかしい。ディシ君が強いのは当然でスクリムシリを一発で殺せるのは当たり前だけど。聖者が感じ取った天恵はこいつじゃない…なら)
俺がスクリムシリの死体の上から降りたと同時に死体が爆散する。
いや、正確には何かが殺したスクリムシリから生まれたという方が正しいか。
そいつは殺したスクリムシリより小さく、俺ら人間と同じサイズでなんなら俺らと同じ人間のような形だ。
手があり足があるしかし、人間では無い。間違いなくスクリムシリだ。
(さっき殺したやつより…圧倒的に強いな。)
「なんだアイツは」
「あのでかいやつから出てきたよな?」
「皆さん、今すぐユーランシーへ引き返してください。急いで!」
(間違いない…破 レベルだ)
俺はチラッとスタシア達の方を見る。流石スタシアだ。即座に相手の強さを判断して団員たちを引かせてくれたか。
なら、気兼ねなくやれる。
(いや、あいつの中から出てきてまだ動きは無いか。周りには誰もいない。一旦スタシアの方まで引くか。)
俺は、天恵をもう一度足に集中させ、スタシアの元まで引く。
「スタシア、あいつだが」
「うん、間違いなく 破 だね。私も戦う?」
「俺だけでいいよ。それより先に帰した団員達を追ってあげて欲しい。ここまでの力、他のスクリムシリがよってくる可能性もある。」
「…分かった。気をつけてね」
スタシアは団員達を追うために木々の中へと入っていった。
「知性は無いか。能力は不明だが、さっき殺した奴の中から出てきたってことはあいつをサナギとして自分を成長させてたって感じかな。」
「に…にんげ…にんげん。」
「!?」
喋った?おかしい、このレベルなら知性は無いはず。
変異種?それよりこいつはなぜ何も攻撃してこないんだ…。
「しね」
と思ったら奴は両手を広げ、先程のスクリムシリの様な触手を腕から生やす。
さっきのやつと違う所があれば触手の数が倍以上であり、天恵を収束させるまでのスピードが早い。
奴の攻撃は辺り一面を抉りとるほどの破壊力だった。
俺は攻撃を全て避けて木々と草原の境目のところまで下がる。
砂埃が消えるまで俺は一切油断しないようにする。だが、俺の警戒も無駄に終わったようだ。
砂埃が消えるとやつの姿は居なくなっていた。
残っているのは抉られた地面、首を切り落とされ身体に大きな穴があいている巨大なスクリムシリの死体のみ。
「消えた…?なんだアイツは」
俺はひとまずユーランシーへと戻る。
ユーランシーに着いてすぐにスタシアを連れて騎士団長 ナルバン・キャスに今回の任務の報告をしに来ていた。
巨大スクリムシリを殺した跡に出てきたスクリムシリのことも全て。
全て報告したあと、ひとまず休憩をしろと開放された。
「なんだったんだろう。あいつ」
「さぁな。知性がないと思っていたが…あいつは喋った。」
「スクリムシリで知性があって喋れるなんてそんなの…天帝じゃ、、」
「まだ分からない。あいつが天帝かどうかも。だが、予感がするんだ。あいつはまた現れるって。」
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特別試験が終わって約1週間が経った。
今日は前に言われていた講習の日だ。どうやら私が治療にあたっている間に2日かけて入団試験が行われていたらしい。家に帰ってきたミリィノが少しやせ細っていた。どうやら合否の判断と合格手続きを寝ずにやっていたらしい。
他人事に言わせてもらうと守恵者も大変だなと思っていた。
私はミリィノから借りたオシャレな服を着て、例の講習の場所まで向かう。
場所はホールディングスの一室。一室と言っても中々に広く、3人用の長方形机を横5列、縦20列程に並べて前に行くほどにどんどん低くなってきて後ろの人にも授業が見えるようになっている。
私は1番早く来たため1番前の席に座らせてもらう。
私は特別試験を受けたため入団試験を受けた人達とは初めて顔を合わせるため少々緊張する。
私が席に着いて他の新入りの騎士団員が来るまでボーッと待っていると隣に誰かが座る。
「特別試験を合格した ルシニエ・ヨーセルさんですよね?」
私が声の方を向くと、ディシがいた。
「何やってるんですか」
「反応冷たいなぁ。今日の講師は俺だからね。」
「そうなんですか…。守恵者は講師とかもやるんですね」
「まぁね。なんなら守恵者は騎士団の実技訓練の講師もやってるからね」
思ったより守恵者の仕事が多くてびっくりした。さすがに騎士団のトップの立場なだけあるなと思った。
それよりも…
「大丈夫ですか?悩みがあるように見えますけど」
「…、驚いた。ヨーセルはよく観察してるんだね。まぁ、近いうちに あれ も来ることだし一応報告しておく。俺は昨日、任務で厄介な敵に出会った。そいつは俺たちと同じ人間の姿で言葉を喋った。」
「言葉を…?スクリムシリって話せるんですか?」
「その事については改めて講習で話す。本題は…この年の新しく入った騎士団員達の初任務は…メルバル総戦。」
「これより騎士団講習を始める。
俺は騎士団守恵者 結命の意思 アンジ・ディシィ。この講習は騎士団のこと、スクリムシリの事を話す。騎士団に入るからには必ず覚えておいて欲しい。
まず初めに、スクリムシリについて。スクリムシリには6つの強さに分けられる。
スクリムシリ・易…大型犬程の小さい獣型で一般人数人で撃退が可能なレベルだ。
スクリムシリ・番…小〜中くらいの大きさの獣型で凶暴。低階級騎士団1人で撃退可能レベルだ。
スクリムシリ・予…10〜20m程の大きめの獣型または鳥型。低階級騎士団数人でギリ撃退可能レベルだ。
スクリムシリ・解…30mほどの超巨大な獣型または鳥型。聖者数人でギリ撃退可能レベルだ。
スクリムシリ・破…成人男性ほどの人型が基本だが例外もある。解 のように超巨大な獣の場合もある。
守恵者が1人で撃退可能レベルだ。
スクリムシリ・末…人型であり、 意思 を持つ。守恵者1人では危ういレベルだ。
そしてスクリムシリ・末は他のスクリムシリと違い意思疎通もできる。
我々騎士団はそいつらの事を『天帝慈刑人』と呼んでいる。約、5年前に1人の天帝慈刑人と2名の守恵者が戦い、2名の守恵者が殺された。」
室内がザワめく。私も衝撃を受けた。守恵者…ミリィノと同等くらいの実力者が2人がかりで戦って天帝慈刑人に負けたというのか。
「その天帝慈刑人の宿る意思は 空虚の意思だ。容姿は幼い容姿に黒い長髪。毛先が血に染まったように赤い優しい顔をした少女。仮にその特徴の者と出会った場合、生きることだけ考えてくれ。」
ディシの声に怒りが見える。
「すまない。話を戻そう。皆が騎士団に入ってから最初にやる任務はもう決まっている。メルバル総戦だ。
ユーランシーには5ヶ月から半年の周期でスクリムシリの群れが攻めてくる。その量は普段の任務とは比にならない量だ。騎士団の全戦力を持ってしてそのメルバム総戦に毎回挑んでいる。メルバム総戦は今までの事から
あっても 解 が敵の最大の戦力だが油断はするな。
そして、その周期が訪れるのが2週間後だ。」
実際にまだ戦ったことはなく 解 がどの程度の強さかの正確なことは分からないが、村を襲ったあいつは 予 とディシが言っていた。あれで 予 か…
「その2週間でそれぞれの守恵者の下につくように皆をこちらで分けさせてもらった。守恵者によって東西南北の担当する地区も分かれる。」
その後は騎士団の武器の説明、結界の説明、役職の説明がされた。
騎士団の役職は元々知っている成績優秀者が守恵者の直属の部下になれるということのみだったが、それ以外に2つあるらしい。
領地外のスクリムシリ…つまり任務に出る役職と
街の警備をする役職。基本、これらは騎士団の気を緩めないため代わる代わる行われるらしく固定の役は直属の部下のみらしい。
それと、聖者についても説明された。これに関してもディシだかスタシアだかに前軽く説明を受けた。
聖者は天恵の技術が周りより突出しており、天恵を使用した攻撃に適しているものがなれるという。つまり私は無理ということだから関係ない。
「俺は…君たちにも、国民達にも…誰にも死んで欲しくない。だから、共に頑張ろうな」
ディシは強くそう言うと はいっ! と力強く皆が言う。
そして講習が終わり、それぞれがどの守恵者の下につくかの確認をしていく。
私は皆が見終わるまで席で待っているとディシが話しかけてきた。
「君の役職は特別に用意してある」
「え?特別…ですか?」
「あぁ。とりあえずどの守恵者につくかを確認したら女王の間に来てくれ。」
ディシはそう言うと部屋から出ていってしまう。
特別な役職…?私に?特別試験で合格したからだろうか。とりあえず、私がつく守恵者は…。
ミリィノ…さんか
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女王の間のドアが開かれると黒髪に毛先が白の美人が入ってくる。
以前、私と剣を交えた人。その才能は測りきれぬほどだとあの特別試験の時に分かった。故に私の下で育てたかった。
「ミリィノさん…とメアリー女王」
ヨーセルは女王に気づくとすぐに右膝を床に付けて右手を胸に添える。以前までは領地外の村に住んでいたという話だがこの国の決まりをしっかりと理解しているのは流石だなと感じる。
「今この場には私とミリィノさんとヨーセルさんしかいませんので楽にしてください。」
女王は気さくにヨーセルに話す。ヨーセルはそれを聞き静かに立ち上がる。
「その…ご要件はなんでしょうか」
「私から説明させていただきます。ヨーセルさんは私の下で他の騎士団員とは別で特殊な訓練を受けてもらいます」
「特殊な訓練ですか?」
「はい。我々守恵者には師匠がいます。その方は後日ご紹介いたしますのですが、その師匠にヨーセルさんはみっちりしごいてもらいます。」
「あの…どうして私だけ?」
「それは私から説明しますね。先程のディシさんの講習にて過去に天帝1人と守恵者2人が戦い守恵者2人が亡くなってしまったのはお聞きになりましたよね。守恵者2人が抜けた今、その穴を塞ぐことが出来る人はここ5年間で現れていません。
ですが、先日の特別試験でのヨーセルさんの戦いぶりを見て確信しました。貴女はその穴を塞ぐことが出来る…と。」
「ちょっと待ってください!1人ならまだしも2人分の穴を塞ぐのは私では不可能です!あの試験ではミリィノさんは私の攻撃をワザと掠めさせました…。結局、自分の力で合格した訳ではありません!」
気づいていたのですか…。女王にはそのことはもう伝えた上でこの現状のため許されてはいますが…
「いいえ。例えワザとだとしても、私の目には狂いはありません」
メアリー女王の人を見極める目は本物だ。本当にその人の内情が見えているのではないかと思うほどに正確に的中させる。
「ヨーセルさん、プレッシャーを感じないでください。ただ、あなたには強くなって欲しいだけ…ヨーセルさん自身はそう思っていてください。」
「わ、かりました…。」
ひとまずその場は解散することになった。ヨーセルは治療が終わってからディシの家に戻ったが、結局また私の屋敷へと来ることになる。
(ヨーセルさんには面倒をかけてしまいますね…。申し訳ないです…)
「ミリィノか…どうした?顔が暗いが」
「アレルさん…少々疲れが溜まっていまして…」
「…そうか。そういえば、ステーキ好きって言ってたよな。美味しいところがあるから行くか?」
アレルは私が騎士団に入ってからずっと気にかけてくれている。普段は無愛想で他の騎士団からは少々怖がられているが実際はとても優しい。
「…行きます」
アレルに案内された店は中々にオシャレなお店だった。しかも、私の屋敷がある北の地区にあるお店だった。最近は忙しくて街を歩く暇がなかったためこういう場所があることに気づけなかった。
内装は観葉植物や壁などにツルなどを少し生やして自然をモチーフにしているのだろうか。
他のお客さんはお酒を美味しそうに飲んでいるため確実に当たりのお店だろう。
「こんなお店があったのですね」
「意外と知られてないみたいだからな。俺は結構来るんだけどな」
「そうなんですか?でしたら誘っていただければよかったのに」
「最近、ミリィノは張り詰めすぎて誘える雰囲気じゃなかったからな。」
私たちは席に着くとお酒とステーキを頼む。
「どうして最近そんなに張り詰めるんだ?」
「…この国の3割の住民が元々はユーランシーの領地外で暮らしていて、その方々は故郷がスクリムシリに襲われたりしてユーランシーに引っ越して来ました。騎士団になる人は半分以上が故郷がスクリムシリに襲われてしまった人達です。私もその1人です。
そして、ヨーセルさんの村での出来事を聞きました。目の前で父を殺されて母はヨーセルさんを助けるために…。私はもうそんな犠牲者を出したくない。私が頑張ればそういう犠牲者を救えると思うんですよ」
自分でも嫌なほど分かる無理やり作った笑顔。
アレルにはどう写ったかは分からないが…。
ついつい本音を言ってしまった、アレルに話を聞いてもらうのはこれで何度目だろうか。同性のスタシアでも、恩人のディシでも良いでは無いかと思うが毎回アレルに言ってしまう。
「ミリィノが頑張ってもミリィノは救われるのか?」
「…分かりません」
「そうか…。俺が言えるのは一つだけだな、いつでも飲みに付き合う」
「…」
私はその返答に呆気に取られる。
そうだ、この人に相談しちゃうのはこういう返答が出来るからだ。変に 頑張らなくて良い とか 一緒に頑張ろう とか言うのではなく、シンプルにこういう返答をしてくれるから相談してしまうんだ。
私は何故かその返答に心が救われてしまうんだ。
「ぷっ!あはは!なんですかそのアドバイス!アレルさんって不器用なんですか?」
「うっせ。ほら、飲もう」
「はい!なんだか少し楽になりました!私…結構アレルさんのこと好きですよ」
「ぬかせ…」
ミリィノとアレルは仲が良さそうですね!
少々、キャラのセリフが仲間くなってしまうことが多いのですがご了承ください