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天使とサイナス  作者: 七数
2章 【番】
29/57

27話 「本当の優しさ」

今日は2本投稿させていただきます!

今朝、ミュレイからジャレンへ手紙が届いたらしい。

内容としてはマリオロにて守恵者程の実力者を確認したとの事だった。


「で、僕はユーランシーに行けばいいんだな?」


「そう言ってる。黙って行け」


僕は何故か、このド畜生童顔女と茶会をしていた。

まぁ、単純にジャレンからの連絡をセルシャ本人が伝えに来てくれただけなのだがな。


「ったく、人使い荒いなぁ。そもそも何を見てくればいいのさ」


「街の構造、人間の数、地形」


「ハイハイ、アビスに会って僕が殺されても文句は言わないでくれよ?」


「あの男に対抗できるとしたらお前だけだ。

ランスロット」


「まぁ、相性的にそうだろうけどね。」


あの化け物は天恵を分解するという体質な為にやつの体に天恵を含めた攻撃をしても分解されて効かない。

だが、僕の 意思 ならば違う…。

セルシャや信愛が分かりやすいだろうか。

空虚も信愛も天恵を含めた攻撃であるがために、アビスの間合いに入った瞬間にその能力は無に還る。

だが、アビスの体に干渉しない能力ならば話は別だ。

それが…僕の事象の意思というだけ。

1つ問題があるとすればアビスという化け物は、

その体質に加えて圧倒的な近接戦闘技術を兼ね備えているが為に相性が良い僕でも負ける可能性の方が高いということ。


「まぁ、アビスがユーランシーを留守にした時に見に行くから多分会わないとは思うけどね」


「好きにしろ。用がある、帰る。」


いきなり来て茶を要求して本題話したら即帰るとかこのガキ普通にヤバすぎるだろ。

まぁガキといっても天帝の中では最年長なのだが…。


(今度からは敬意を持って童顔ドライババアと呼んでやる。)


「お前、殺されたいか?」


「なんで思考読めるんだよ」


「お前の考えていることくらいわかる。しょうもないことを考えている暇があるならユーランシーへの準備をしろ。」


冷たくそう言うセルシャに適当に返事をしながら僕はユーランシーへと向かう準備をする。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ヨーセルとアレルがユーランシーを出て5日が経つ。

恐らく、アレル達はマリオロには昨日の段階で着いており、マリオロで1晩を過ごしただろう。

上手くやっていれば良いのだが…

いつものように任務を終え、ホールディングスにてメアリー女王に報告を終えて、ホールディングスの一室で紅茶を飲みながらくつろいでいるとアビス師匠が部屋に入ってくる。


「アンジ。お前に頼みたいことがある」


「頼みたいことですか?」


「俺は明日から西の方へ長期任務がある。」


「はい、聞いております。オロビアヌスへ1週間ほどですよね」


「ああ、それにはキャスも着いてくる」


「え?それは初耳です。メアリー女王からの指示ですか?」


「そうだ。キャスは3日のみの滞在だ。

往復の期間も含めて2週間ユーランシーを留守にするということ。

キャスも1週間留守にする。」


何やら意外と深刻そうな問題が起きているみたいだな。

オロビアヌスは。

今までにアビス師匠とナルバンがどちらともユーランシーに居ないということはありえない事だった。

だが、メアリー女王の指示による物だとしたらオロビアヌスに緊急な何かがあるということ。


「オロビアヌスで何があったんですか?」


「それを確かめに行くんだ。」


「そうですか…。お願いというのは…?」


「2つある。

1つは俺とキャスが留守にしている間に天帝がユーランシーに来る可能性がある。

その天帝に警戒をしておけ。

俺とキャスがいないということはお前が指揮を執るんだ。判断はお前次第。」


「天帝…」


確かに、今までこの2人がユーランシーを同時に出ることは無かった。

アビス師匠はそういう事態を想定しているのか。

だが、天帝が仮にユーランシーに来たとしても攻撃を仕掛けてくる事は無いだろうな。

スタシアがユーランシーにいる限り下手に動けないはずだ。


「それで、もう1つは?」


その質問をした途端、空気が重くなり、ピリつく。

アビスの表情は冷たく今まで以上に鋭い目をしている。


「オロビアヌスに向かう俺とキャス…そのどちらか、

もしくは、その両方が… 死んだ時 は頼んだぞ」


その発言の後、少しの間沈黙が続く。

俺はその言葉の意味の理解に時間を有した。

何を言っているんだ…?

ナルバンはまだ百歩譲って分かるが、アビス師匠が死ぬ?

そんなことは有り得るのか?


「な、なんの冗談ですか…?」


アビス師匠の面白い冗談かと思いそう苦笑いしながら言ったがアビス師匠の表情は変わらず冷たく真剣。


「ただの予感だがオロビアヌスでとんでもないことが起きている気がする。

俺ですら対処しきれぬほどの事態かもしれん」


アビス師匠の勘は恐ろしい程によく当たる。

これが事実ならば…


「了解しました。ですが、こちらも1つお願いがあります。」


「?」


「必ず、無事に戻ってきてください」


「…ああ。」


アビス師匠は部屋を出る。

俺はソファに寄りかかりながら髪をかきあげて天井を見上げる。


(なんなんだ…最近は。)


この短期間のうちに予想外のことが起きすぎている。

思い返せばヨーセルをユーランシーで保護した時から

何かが変わった気がする。

スクリムシリの人型の出現の増加、スクリムシリによるユーランシー以外の国の襲撃。

そして、ザブレーサで確認した天帝の動き。

俺ですら嫌な予感を感じるほどだ。


ここ最近のスクリムシリの異常な程活発になった行動はまるで、近いうちに最悪が起こると言っているようなものだ。


と、ドアがまた開く。

開いたドアの間から顔をヒョコっと覗かせるスタシア。


「スタシアか…どうかしたか?」


「アビス師匠と話してたの?」


「まぁな。」


「実は、途中から聞いていたんだけど…アビス師匠が死んじゃうってどういうこと…?」


「俺も分からん…。

あの人が死ぬなんて神でもそう容易できることでは無い。

それなのにあの人は自身の身を按じている。」


「そっか…。私ね、ここ最近、ずっと嫌な予感が止まらないの。」


スタシアも嫌な予感を感じているのか…。

何かが起きるのはほぼ確定と言っても良いだろうな。


「今はマリオロの兵4人、ザブレーサの兵が30人くらいユーランシーに来てて、それにアレルさんとヨーセルだってマリオロに行ってる。

凄く、狙ったようなタイミングでのこの嫌な予感。

ねぇ…ディシくん。皆…無事にまた集まれるよね…?」


スタシアは歳相応の心配そうな顔をする。

俺はスタシアの頭に手を伸ばし撫でる。


「当然だ。安心しろ。」


その言葉を聞いてスタシアは少し安心したような表情をする。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

マリオロに来てから私は積極的にマリオロの兵と関わるようにしようと決めていた。

慣れない地で、消極的に動くより人に認められるように積極的に動く方が良いと判断したからだ。

そして、マリオロに来て2週間が経つ頃には

マリオロの騎士団員の大半と仲良くなっていた。

中でもとても仲が良いのがミューレラこと ミュー と

ハーバセンチスこと ハーバ だ。

この2人はあれ以来、人が変わったかのように人に対する態度が良くなった。

ユーランシーを馬鹿にするどころか、尊敬をしてくれているほどだ。

マリオロ兵でユーランシーをバカにする人がいたら私よりも先に怒るほどには尊敬してくれている。

そして、そんな2人と今日も飲みに来ていた。

前から少しずつだがお酒を飲むようになった。

本当に少しだからまだ弱いかどうかすらも分からないが同じものを飲んでいるというだけで楽しい。


「今日の任務も疲れたなぁ。マリオロは結構広いからな〜。

1周するのも一苦労だよな」


「ねぇ〜。今日は数体のスクリムシリと出会ったけど

相変わらずヨーセルが凄すぎて私たちのやること無かったもんね」


「でも今日、2人はスクリムシリを倒してたじゃん」


2人はスクリムシリ 番 を1体ずつ倒していた。


「ヨーセルのスクリムシリに比べたら大した事ないよ…。

ぶっちゃけ、なんであそこまで動けるんだ?

何か秘密とかあるんだろ?」


ちなみにこの質問はめちゃくちゃされる。

メアリー女王を始めとする守恵者全員から 間違っても言ってはいけない と言われているため毎回濁すか教えないと言う。


「内緒!私からは言えないよ」


「ヨーセルのけちぃ〜」


「けちぃでもいいよ、もう。」


何回教えないと言ったら諦めてくれるのやら。


「あ、そーいえば、聞いた?アレル様のこと」


聞いたとは何をだろうか…。

というか 様?なんで 様?


「アレル様、また任務でマリオロ兵と協力を連携をせずに1人で任務終わらせちゃったらしいよ。」


「ん?それがどうしたんだ?」


ハーバと同じ疑問。


「いや、それがね、任務を早く終わるのは良いけど全く連携を取ろうとしないで1人で突っ走って行っちゃうから不気味で怖いって…マリオロの兵のほとんどから怖がられてるんだよね。

言い方悪くしたら…嫌われてる?って感じ」


そんなことか…と感じてしまう私は手遅れだろうか。

正直、ユーランシーでもアレルはそんな感じだし平常運転というかなんというか。

でも、マリオロとユーランシーの今後の騎士団の関係を考えるとそのようなイメージを持たれるのは困るのか…。


「私の方からアレルさんにもう少し連携を取るようにしてくださいって頼んでおくね」


「ほんと?ありがと!」


「てか、なんでアレル様って呼んでんだ?」


「だって、アレル様って凄く悪い男って感じでかっこいいし!

私、悪めの男大好きだし?」


アレルは全然悪い男では無いのだが…まぁ、ミューの気持ちを尊重して言わないでいてあげよう。


2人と別れて貸家に帰ると既にアレルがミカリエのために料理をしていた。

キッチンで料理をしているアレルの横に立ち、お手伝いを始める。

と言っても使った食器を洗うだけだが…。

アレルはそんな私を無視して料理を作り続ける。


「アレルさん…任務の時にマリオロ兵と協力しないというのは本当ですか?」


「それがどうした」


認めたし、自覚もしているのか。


「失礼なことを言いますが、もう少し協力というものを知るべきです。

このマリオロの滞在期間はマリオロを守るだけではなくて今後のユーランシーとマリオロの関係性も関わってきます。」


「ふぅ…さぞかし偉くなったもんだな。

たかが騎士団に務めて2、3ヶ月くらいの無能が。

俺はここに護衛として来ている。

そして、護衛としての役目を果たせるならばどんな手段でも文句は言わせない。

お前はマリオロの兵と協力している割にはここでスクリムシリを討伐した数は俺の半分以下らしいが…

やる気ないなら帰れ」


悔しいが言い返すことは出来ない。

実際、アレルは護衛としての任務は完璧にこなしている。

だが、そういうことでは無いんだと伝わって欲しい。


「そういうことではなく!」


「もういい。お前と話すのは疲れる。」


アレルは料理を皿に盛り付けて食事スペースの椅子に座り鼻歌を歌うミカリエに運ぶ。


(どうして…そんなに…)



翌日、私は今日はマリオロ内の警備の任務だった。

その為、一旦ノルザレン城で今日の任務を共にする兵と集まる。

マリオロに来た日に騎士団員全員が集まっていた広い部屋に入る。

そこには既に仲良くなった兵しかおらず、皆私を見ると気さくに挨拶して雑談をしてくれる。

すごく楽しい。


「てかさ〜、ヨーセルはよくアレルさんと同じ騎士団員で働けるよなぁ」


「それな〜。あの人、凄く仕事はできるんだけど何か言おうとしてもすぐに睨みつけてくるんだよな。」


「めっちゃ怖いよなぁ」


やはり、アレルの悪い印象が染み付いてしまっている。


「そんなこと無いですよ。

アレルさんは本当は凄く優しい人なんです。

あのような態度なのも色々事情があったらしくて…」


「ん〜、いくら事情があるからってな〜」


「うん、あの態度は無いよな」


ダメだ…私だけではこのイメージは払拭できない。

アレル本人が変わってもらわないと。


(でも昨日の感じ、アレルさんはどう思われているか分かった上で変わろうとしてないから無理そう)


私は肩を落とす。


その夜、隣の部屋からの物音で目が覚める。

そして、階段を下っていく音…が2つ?

私はそっと部屋を開けて、下を覗くとアレルとミカリエがいた。

何かを話しているようで聞き耳を立てる。


「どこ行くの?アレル」


「見回りだ。」


「私も行きたい」


「何言ってる、この時間にお前を連れて行けるわけないだろ」


「…ダメなの、?」


「…分かったから。大声は出すなよ」


「うん!」


夜の見回りはマリオロの任務の内容では無かった。

私は実はアレルが夜、見回りをしているのを数日前に気づいていた。

恐らくだが、マリオロに来てから毎夜に見回りをしている。

いつも紙袋に何かを入れて見回りに行くのだが、

ついて行ったことは無いため何を持って行っているのかは分からなかった。


だが、今回はミカリエがついて行くらしいので念の為私も気づかれないようについて行くことにした。


アレルはミカリエと手を繋ぎながら中心街を出る。

見張りの人も慣れた事なのか、軽くお辞儀をしてアレルを通してあげる。

会話が聞こえるくらいの距離間でついて行っているのだが2人には会話がなく静かだった。

十数分歩き、ある路地裏の中へと入っていく。


こんなところを見回る必要なんであるのだろうか?

と疑問を感じつつも後を追う。


路地裏の狭い道を抜けたらそこには小さな広場があった。

建物を建てる時のズレで生じた隙間と言ったら良いだろうか。

そして、そこに居たのは服がボロボロの子供たちだった。

恐らく、親を亡くした南の子供達。


子供たちはアレルを見るなり怖がることなく近づいていく。

アレルは持っていた紙袋からパンと飲み物を出して子供たちに配り、それと一緒に暖かそうな毛布も配る。

子供たちは毛布に包まりながらアレルから貰ったパンを美味しそうに食べる。

そんな様子を眺めながら壁に寄りかかる。

子供たちは笑っており、それを見るアレルの顔もどことなく嬉しそうだった。


私はやっと理解した気がした。

アレルに対する理解が甘かった。

この人は優しい人では無い。

めちゃくちゃ優しい人だ。

ミリィノが言っていたのはきっと前に見せた優しさではなく、この優しさのことだったのか。


「アレル、いつも来てるの?」


「ああ、子供に責任は無い。俺ができることはするべきだ」


ミカリエはそっとアレルの手を握りしめる。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「はぁ〜」


「どうしたのミリィノちゃん。」


夜、私とスタシアは私の屋敷に来ていた。

本人はお泊まり会をしに来た!と言っているが、

単純にヨーセルという遊び相手が居ないため私のところに来ているだけだろう。


「もうヨーセルさんとアレルがマリオロに行って2週間以上経つんだなぁと思いまして…」


最近はヨーセルがそばにいる生活を送っており、

その生活がとても心地よかったが為にヨーセルが居ないのはとても寂しい。

それに…


「あー、そういう事ね!アレルさんと早くイチャイチャしたいってことか!」


「ち、違います!!何言ってるんですか!

私とアレルはそのような関係ではありませんよ!」


「ふーん、じゃあ、アレルさんがマリオロで女の人達に

いやんいやん、むふふ ってされても良いの?」


私は衝動的に持っていたクッションを破り裂いてしまった。


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛」


「み、ミリィノちゃんから聞いたこともないような声が…」


アレルのことを想っているのか などと聞かれることがあるが自分でもよく分からない。

でも、他の女性と仲良くしているのを見るのは苦しい。


「でも、ヨーセルはどうなの?アレルさんと2人きりだよ?」


「いや、まぁ、ヨーセルさんは大丈夫ですよ…きっと」


アレルがヨーセルの事を良く思っていないからという訳ではなく、

ヨーセルはディシに想いを寄せているからだ。

まぁ、この事を同じくディシに想いを寄せているスタシアに言う訳には行かず濁してしまうのだが。


「えーなんだか曖昧〜。

ミリィノちゃんはきっと今はよく分かってないかもだけど、何かを起点に一気に距離が縮まることもあるから頑張ってね!」


(だから…私はそんなんじゃ…)


心の中で否定しつつも、私は枕に顔を埋めて耳を塞ぐ。

ミリィノは乙女ですね。


読んで頂きありがとうございます。

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