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天使とサイナス  作者: 七数
2章 【番】
26/59

24話 「中央国・マリオロ」

ユーランシーを発ってから4日。

ずっと馬車に乗っているせいでおしりがすごく痛いし、

結局あれからアレルさんとは会話がほとんど無いままだ。

アレルは相変わらず腕を組み目をつぶって座ったままだ。

アレルのこれ以外の体勢を今のところ見ていないのだが体は痛くならないのだろうか…?


「マリオロが見えて参りましたよ」


馬車を操縦している方がそう教えてくれたため、私は荷台の窓から顔を出すと前方には大量の馬車が並んでおり、その先にはユーランシーと同じ位の高さの石城壁が続いていた。


「すごい馬車の量ですね」


「そうですね、中央国なだけあって貿易が盛んな国なため他国から多くの馬車が行き交うんですよ」


すご… と素直に感心しているとあることに気づいく。


「あの壁…厚みがありますね」


「ここからお気づきになられたの凄いですね。

そうなんです、マリオロはこの大陸内でも重要な国家として扱われるため高い防衛力が求められているのですよ。

マリオロを囲う壁は何層にも重なっていて厚みがあるんです。」


壁に厚みを持たせることで防衛力が高くなるかどうかは置いといて、さすがマリオロなだけあって予算がユーランシーとは桁が違いそう。

ユーランシーはそれなりに発展している方だが、他国と比べてしまうと発展度合いがまだ遅れている方。

メアリー女王がとてつもなく優秀であるがために他国と上手くやっていっているが予算も決して高くない。

と、アビス師匠が仰っていた。


「そろそろ検問ですので軽い受け答えの方だけお願いします」


「分かりました。アレルさん、検問だそうなので受け答えを軽くお願いしても宜しいですか?

もちろん私もしますが」


「ああ」


初めてアレルにポジティブ返事を受けた…というよりこの人起きてたんだ。


馬車が止まり、1人の兵が槍のようなものを持ちながら、馬車を覗いて私たちに話しかける。


「どこから?」


「ユーランシーです」


「何をしに来た?」


「アウグス王の命により護衛として参りました」


「アウグス王の?そちらの男は?」


「アレル・ドレイ。4日ほど前にマリオロから騎士団兵がユーランシーへと向かい始めたと聞いている。

それの入れ替わりだ」


兵は一旦、戻り他の兵と何やら話した後こちらに来て


「通れ」


と許可を出してくれた。


厚みのある門をくぐり抜けた先には綺麗な彩りの家がいくつも並んでいる。

既にユーランシーよりも人口が多いと思わせるくらいの人が行き交っている。

その中には笑顔で歩く親子、鋭い目で見回りをする騎士団員、質の高い服を着る貴族階級の人が分け隔てなく歩いている。

その光景に物珍しさを感じてしまう。

ユーランシーは意外にも階級を重んじており、騎士団内にも低、中、高階級騎士団員と階級ごとに分けられている。

民の中でも、貴族階級、騎士階級、平民階級というものがある。

日常生活であまりその階級差が感じないのは貴族階級や騎士階級の人達はその立場に関係なく平民階級の人達と気さくに接しているからだ。

ユーランシーは他者を個人として重んじている人が大半を占めているため逆に階級を重んじすぎると浮いてしまうとかなんとか。


(まぁ、国の王であるメアリー女王があんなにも心優しい人なのだから民も自然と心優しい人が生まれてくるのは納得だ。)


マリオロのその景色を見て、階級制度というものが無いのだろうかと思ってしまうほど笑顔が多い。

良い国だなぁ と思っているとアレルが小さい声で言う。


「この国…腐っている」


「え?」


突然そんなことを言うアレルに動揺する。

どう見ても笑顔があるいい国ではないだろうか…。


「どうしてそのようなことを?

笑顔が多くて良い国だと思ったのですが…」


「視野が狭い。あそこを見てみろ」


アレルが視線を向けた先の建物と建物の間。

そこには痩せこけてボロボロの服を着た男女問わず子供が数人いた。

顔は頬骨が浮き出て目が虚ろの状態。

手足は木の枝くらいの細さしかなく、今にでも折れてしまいそうだった。


「酷い…」


アレルの言った通りだった。

子供は一人で生きていくことが出来ないのにどうして誰も助けずに放置をしているんだ。

メアリー女王が見たらどう思うだろうか…。

この状況を必ず許さないだろう。


「馬車を止めてください」


私は馬車を操縦してくれている方にそう言う。

そして、馬車を降りる。


「おい、どこに行く。勝手な行動は許さん」


「あの子達を見捨てることはできません」


「ここはユーランシーじゃない。恵まれなかった奴らはその人生を歩むしかなくなる。

俺たちが介入していいことでは無い」


「ですが、苦しんでいる子がいるのにほっとけと言う方が私にはできないことです」


アレルの制止を無視して私は屋台で食料を大量に買う。


「姉ちゃん沢山買うなぁ!一人で食べるのか?」


「いえ、これはあそこの子供たちにあげようかなと」


気さくに話しかけてきた店主に私は素直に貧しい子供たちにあげることを話したら店主の表情が険しくなり、


「ふざけんじゃねぇ、あんな汚ぇガキ共に俺の料理食わせんじゃねぇよ!」


突然のそのような罵倒に私は驚くと同時に怒りが湧いてきた。


「どういうことですか。あの子たちはお腹がすいて苦しんでいる。

なのにどうして助けてあげようと思わないんですか?」


「んな事俺の知ったことじゃねぇよ。

あいつらに食わせるんなら売らねぇ。とっとと失せな」


「ふざけないでください!子供は大人の助けなくして生きていくことなんてできません!

ここで互いに助け合うことは人間としての尊厳を守るのと同義です。

あなたのような最低な人間は初めて見ました」


感情のままに煽ってしまった。

私の言葉を聞いた店主は顔を真っ赤にさせて私を怒鳴りつける。

いつの間にか周りには野次馬が集まっており、私と店主を囲っている。


「おい、女だからって殴られねぇとでも思ったか?

あんまり舐めたこと言ってるんじゃねぇぞ!」


「女だからとすぐに舐めるのが人間として格を物語ってますね。

あなたみたいな人、私の住んでいる国だと誰からも相手にされないでしょうね」


「調子に乗るな!」


店主は私に向かって拳を向ける。

私は受け流して押さえ付けようと構えるがその必要は無かった。

アレルが私の目の前に立ち、店主の拳を握って止めていた。


「すまない、俺のツレが迷惑をかけた。

決して喧嘩を吹っ掛けたかったわけじゃないんだ。

この場は俺の顔を立てて見逃してくれ」


アレルは穏便に済ませようと自身の恥を忍んで言ってくれているとすぐに分かった。

その目の奥からは嫌悪感が伝わってくる。


「チッ、とっとと失せやがれ。他国のやつはこれだからムカつくんだよ」


私はアレルに強く引っ張られながら馬車へとまた乗り込む。

そして、服の襟の部分を強く掴まれて顔を近づけられる。


「お前、あんまり調子乗るなよ。言っただろ、ここは

ユーランシーじゃ無いって。

無能のくせに一丁前に俺の手間かけさせんな」


どうして私がここで責められるのだろうか…。

何も間違ったことはしていない。

ただ、子供を助けたかっただけなのに。


「私は…間違ったことはしていません。

私の言ったことは正しいです。」


「いいか?ここでは俺の命令に従え。

勝手な行動は許さん。

そして、最初の命令だ。手間をかけさせるな」


アレルは私の服を雑に離し、席に着いて腕を組んで目を閉じる。


私の中にはとてつもない苛立ちと疑問が残った。

何故、この国は人を助けるという行為に対してあそこまで過剰に怒りをあらわにするのだろうか。

そして、目の前の 守恵者 はどうしてそんな人たちを助けようとしないのか。

私達は人を助け、幸せを守る騎士団では無いのか?

ミリィノやスタシア、ディシなら真っ先に助けたはずだ。

それなのに…


マリオロに着いてすぐに私は既にこの国に対して嫌な感情が芽生えていた。



長い一直線の道を馬車で進むと恐らく、マリオロの中心街に入るであろう門がそびえ立つ。

マリオロはマリオロ全体を囲む壁と、マリオロの中心の巨大な城とその周りに建物をさらに囲む壁がある。

内側の壁の中を 中心街 と呼ぶらしい。

中心街は貴族の中でもより位の高い者達しか入れないらしく、中心街へ入る際には厳重な身体検査が行われる。

私達はアウグス王の招待を受けた騎士団兵であり、

事情を説明し、簡単な身体検査のみで通れた。


中心街はより一層に豪華であり、建物一つ一つの構造が細かく作られている。

ここまで通ってきた道が延長して、

中央の城である ノルザレン城に伸びている。

心做しか道も綺麗になった気がする。

ここまで、差が出るものなのか と動揺してしまう。

ユーランシーが特別なのか?

先程のも、ユーランシーが恵まれているだけで他国では普通の扱いなのだろうか?

マリオロに対する不信感はどんどん募っていってしまう。

ノルザレン城の前で私とアレルは馬車を降りて、操縦してくれた方に礼を言う。

ノルザレン城の入口に近づき、


「ユーランシーのメアリー女王の命により、アウグス王の招待を受けて来ました」


と伝える。 確認する と一言言われて待つこと数分。


「どうぞこちらへ」


と、中へ案内される。

ノルザレン城の内観はホールディングスよりも天井が高く、広かった。

廊下は何人に並んで歩いても余裕を持てるほどであり、壁には良さげの絵画が等間隔に並んでいる。

案内されて着いたのは大きな両開きの扉の前。

案内してくれた使用人がそのドアの前に立ち、


「ユーランシーからの兵士が到着なされました」


と言うとドアが両方とも開き、目の前にはマリオロの騎士団員が綺麗に整列しながら並んでおり、こちらに目を向ける。

正面の一番奥には豪華な椅子があり、その椅子に強面の50行ってるか行ってないか位の男が座っていた。


(あれが、アウグス王…)


私がその迫力に少し驚いているとなんの躊躇いもなくアレルが歩き出す。

大勢の騎士団員の前でいつもの平然とした顔でアウグス王の元へと向かい始めた。

私もその後に続いて行く。

歩いているとひそひそ話が聞こえてくる。

女が騎士団員? だったり 顔結構可愛いぞ だったりのコソコソ話が聞こえてくる。

セクハラ染みたコソコソ話も聞こえてきて気分が悪い。

特に深い意味は無いが、こいつらより強い自信はあるためいつでもボコボコにできる。

アウグス王の前に着き、私とアレルは片膝を着き頭を下げる。


「この度は受け入れてくださり感謝いたします。

アウグス王。」


「感謝するのはこちらの方だ。

わざわざユーランシーから来てくれたこと、感謝する。」


「勿体ないお言葉。ありがとうございます」


アレルが淡々とアウグス王と会話をする。

意外と気さくそうな人で少し緊張がほぐれた。


「任務の内容は後で別室にてそこにいるトーマスから聞くが良い」


「了解しました。」


挨拶を終えて、私達はマリオロの騎士団員達が並ぶ列とは少し外れた場所に立つ。


「お前達!良いか!マリオロの四精鋭騎士団員はユーランシーへと向かった。

その代わりにユーランシーの中でも実力のある者が派遣された!

ユーランシーの王であるメアリー女王は我が唯一賞賛に値すると感じた王だ。

その国の民であるアレル・ドレイ、ルシニエ・ヨーセルには失礼の無いようにしろ!」


アウグス王が大声で言う。

ひとまず流石はメアリー女王だなと感じた。


解散した後、私とアレルはトーマスという白い髭を生やした秘書のような格好をしているおじさんに別室案内される。


「任務の内容なのですが、主にマリオロ内の治安維持、外壁でのスクリムシリの警戒と討伐、その他では輸出入品を乗せた馬車をあるポイントまで護衛するというものです。

その際に、マリオロの兵を1人か2人付けさせるようにしますのでご理解お願い致します。

何か疑問点のようなものはありますか?」


「ここ数週間でのスクリムシリからの被害はどういったものですか?」


「マリオロ襲撃以来、スクリムシリからの襲撃はありません。

ですが、その1度の襲撃が大きく被害を出していましてここから南の方角なのですがスクリムシリの被害の影響で壁が崩れてその辺一帯の家は破壊されております。

その地区の復興は既に手をつけていますがスクリムシリに対する安全性が確立されていない為、職人達は安心して作業が出来ずに当初の予定から遅れているという現状です」


「分かりました。大体は理解しました。

俺からはもう大丈夫です。」


「ルシニエ様は何か不明点はございますか?」


「私も特には。あ、1つ…宿はどちらでしょうか?」


「そうでしたそうでした。それを説明しなければなりませんでしたね。

宿は中心街にある一家を使ってください。」


おぉ、まさか中心街の建物を使わせてくれるなんて。

…ん?一家…?ということは…、




綺麗で豪華な玄関で私は絶望に打ちしがれながら立ち尽くしていた。

中心街の建物を使わせてくれると聞いて胸が昂ったが…。

何故、アレルと同じ建物なんだ。

いや、確かにいくらユーランシーからの刺客だからと言って貸家を2つ使わせてくれなんて贅沢なことは言わないが…。

アレルと同じ貸家で暮らすなんて聞いてない…。

恐る恐るアレルの顔を見る。


(今まで見たことのないような絶望した顔をしている…。

普通、その顔するのは女性である私の方なのだが…)


一通り家の中を見る。

部屋は全部で3つあり、うち2つにはベッドや必要な家具が置いてある。

二階建で、1回には食事スペースがある。

なんというか…見た事がないような家の構造だ。

どこかの文化の構造を取り入れているのだろうか?

ひとまず、部屋に荷物を置き騎士団制服を脱いで私服に着替える。

胸を支えるサラシが緩んでいるためもう一度キツめに巻き直して、ミリィノに言われて一応持ってきた高材質の服を着る。


(うん!ピッタリ!持ってきておいてよかった。

しかもスタシアの選んでくれた服だからちゃんと可愛い!)


一応ここは中心街な為、それなりに綺麗な身なりではないと舐められてしまう。

部屋を出ると騎士団制服のままのアレルが部屋の前で待っていた。


「今日の任務は無いと言っていた。

俺たちはあくまでも護衛だ。街の構造を理解する必要がある。

俺は東回りで街を見る。お前は西回りで見ろ。

面倒事を起こしたら半殺しにするか覚悟しておけ」


アレルはそう言いながら1階へと降りていく。

怖すぎるんですけどあの人…。

ちょうど街を回りたいと思っていたところだし丁度いいか と思い、私も貸家を出る。

中心街を出て、馬車を捕まえて壁際の方まで送って貰う。

着いたのが早朝ということもあってまだお昼前な為、結構時間がある。

馬車を降りて、お金を払い、壁沿いを歩き始める。


(壁の厚みはやはりユーランシーの倍はある…。

スクリムシリ解 くらいなら確かに壊せるかもしれないけどそれ未満のスクリムシリなら打つ手は無さそうだ。)


相変わらず街は発展して賑わっているが、少し目を向ければ貧相な人たちが所々にいる。

壁沿いを歩いていると前から走ってきた子供とぶつかってしまう。

子供は何も言わずに走り去ろうとするが、私は手を掴んでその子を止める。


「財布、返してね」


「は、離せよ!離せよ!クソババア!」


私の頭に雷が直撃したかのような衝撃が走る。

今、このガキなんて言った…?

クソババア??

私まだ17なんですけど、??

確かにこの子よりかは大人かもしれませんけど、それでもクソババアはちょっと許せないな。


「んー、お姉ちゃんクソババアに見えるかな?

私こう見えても17歳なんだけどなぁ」


「うるせぇ!ババアはババアだ!」


はいこのガキ殺す。

生かしておけねぇなこのガキんちょ。


そんなこと考えているとその子が私の手を振り払って逃げて行ってしまった。

幸い、財布は取り返したからいいもののなんだか釈然としない。


(私の…どこが!ババア!なんだ!)


取り敢えずもう一度歩き始める。

だが、街を見るのに集中できない。

さっきのガキんちょの腕や足…少し見えたお腹。


(アザだらけだった…。それにすごく痩せていたし。)


さっきの子が頭から離れずにボーッとしながら歩いているといつの間にか南方面に来ていた。

そして、その光景に私は唖然とする。

聞いていた通り、壁が崩れておりその崩れた壁の瓦礫がその地区の色んな建物を潰しており、その被害は想像を絶する程だった。

南の地区はほぼ使い物にならないほどに機能していないと言っても良いくらいだろう。

スクリムシリ 解 がここで暴れ回ったのを想像すると

やはりユーランシーの結界というのはとても重要な役割を果たしているのだと実感した。


衝撃を受けながらも私は来た道を戻り始める。

マリオロ…闇が深そうですね。


読んで頂きありがとうございます!

キャラが増えてきたため、混ざってしまうかもしれないですができる限り分かりやすく書くようにしますのでご理解お願いします!

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