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天使とサイナス  作者: 七数
2章 【番】
25/57

23話 「承認欲求」

7話 「初任務」のディシのセリフの一部で

スタシアと言うはずのところをミリィノと言っていたため、訂正しました。

申し訳ございません。

朝日がユーランシーを照らす中で私はマリオロからの迎えの馬車に乗り、ユーランシーを出ようとしていた。

目の前にはアレルが ムスッ とした顔で腕を組んで目をつぶっている。

進行方向と逆を見れば多くの民達が歓声を上げながら送り出すのが見える。

その中にはディシ、スタシア、ミリィノ、メアリー女王もいる。


「ヨーセル〜!!アレルさん〜!!気をつけてね!!無事帰ってきてね〜!!」


スタシアが手を振りながら大声で言う。

私はそれに対して小さく手を振って返す。


「行っちゃった…」


「アレルとヨーセルさんならきっと大丈夫ですよ。

私達もマリオロ兵を迎え入れる準備をしましょう」


「そうだね!」


大体、マリオロまでは普通に行けば1週間と数日かかるらしい。

だが今回は最速で着くようにマリオロの王である、

アウグス王が何やら色々と手配してくれたらしい。

マリオロまでの道中で新しい馬車が用意されているらしく、そのポイントに着いたら新しい馬車に乗り換えるというのをマリオロまで繰り返していくらしい。

これならば馬の疲労も気にすること無く走り続けられる。

夜の間でもマリオロで開発された広範囲に明かりをともすことの出来る道具で安全に進むことが出来るのだとか。

本来、1週間と数日かかるのが今回は4日ほどで着いてしまうらしい。

さすがは中央国…お金の使い方が贅沢だ。

馬車をこんなに一度に動かせるなんて…私のお給料何年分なのだろうか…。


到着まで大体、4日…

馬車が走り始めて数十分…私とアレルに会話は一切ない。

時々、馬車を操縦してくれているマリオロの方が話題を振ってくれるがそれでも会話していない時間の方が長い。

正直、めっちゃ気まずい。

こういう時こそ自分から話の広がる話題を出さなければ!


「アレルさんって何かご趣味とかありますか?」


「無い」


会話終了。

速攻で会話終わらせられちゃった…。

こんなにも私を嫌うのは過去が関係しているとミリィノが言っていた。

でも、過去が関係しているからと言っても他人からここまでの拒絶を受けたことの無い貧乏田舎娘のパッとしない系フィジカル女の私は傷ついてしまう…。


いや、ここで諦めてはいけない!

ディシのように同性のノリで…はちょっと難しいから、

スタシアのように明るく粘着質…に行くともっと嫌われそうだから…ミリィノのように謙虚で尚且つ明るく!


「私、ユーランシー以外の国に行くのは初なんです。

なんだか緊張しちゃいますね。

アレルさんはユーランシー以外の国に行ったことありますか?」


「…」


会話終了。

さっきよりもショックが大きい…

はい か いいえ で答えられる質問で無視されるのが1番辛い…。


(やっぱり…仲良くなるのは無理なのかな…。

でも、ミリィノさんと約束したし。)


私はアレルの方をチラッと見るととても切ない顔をしていた。

外の景色を横目に見ながら何かの思い出にふけっている様な…。


「アレルさんは…大切な人が、いらしたんですか?」


この質問がして良いものだったのかは分からない。

ただ、アレルの表情を見てこの質問が浮かんだ。

アレルは驚いたように私の顔を見る。


「なぜ、そんなことを聞く?」


当然の疑問なのだろうけど、アレルは単にその質問をされたことに疑問を感じているのでは無さそうだった。

どうして分かった? とでも言いたいような表情。


「アレルさんの表情は…大切な人を失った時の私と同じ顔をしていたからです…」


「…お前とは、、違う。一緒にするな」


否定されてしまった…。

私の気のせいだったのだろうか。

村が襲われて、生き延びて、目を覚ました時…私は生きるのがどうしようもなく嫌になる感覚になった。

そんな時に、ディシが私を助けてくれた。

人は人の助けないがと生きていけない。

私はそれを痛感したからこそ、今目の前にいる悲しい顔をした男性の助けになりたい…。


「いつでも…お話を聞きますので。」


それに対するアレルからの返事は無かった。

そして、そこから私とアレルは一切会話をすることなく馬車に揺られながらマリオロへと向かう。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ジャレン様…何か御用ですか?」


「来たか、ミュレイ。お前にセルシャから任務が来た」


「セルシャ様からですか?」


突然、私が仕えるジャレン様から至急部屋に来いと言われたため行ったらそのようなことを言われた。


(セルシャ様と言えば天帝の中でも一線を画した神の領域に近いお方!

その凛とした佇まいからは感じられぬほどの圧倒的な天恵技術!

1度お話してみたいけれどいざ話すってなっても恐れ多くて話せなそう…。

それに加えて、他者への興味をまるで示さないクールさ!

セルシャ様に憧れてクールな女の人を演じているけど、あのかっこよさは出せない!

そんなセルシャ様から直々に任務ッ!!

セルシャ様はもうセルシャ様とお呼びするのも失礼!

愛おしき我が最愛の女童・セルシャ様!

ジャレン様からの任務よりも何百倍も嬉しい…)


「おい、なんか失礼なこと考えたか?」


「いえ、そのようなことは。

それで愛お…セルシャ様からの任務というのは…?」


「マリオロの完全破壊だ」


空気が一気に張り詰める。


「珍しいですね。私にそのような任務を与えてくださるのは」


「マリオロはでかい国だ。お前のような破壊力のある、尚且つ側近という地位に立てるほどの強さの者が適任だ。

嫌とは言わせないぞ」


「滅相もありません。久々の任務で少々張り切りすぎてしまうかもしれません」


「構わん。だが油断はするな。

セルシャの見立てではユーランシーの兵がマリオロの護衛をしているとの事だ。」


「守恵者でしょうか?」


「そこまでは分からん。ただ、守恵者がいた場合はこちらに手紙をよこせ。」


「それはまたどうしてですか?」


「マリオロに守恵者が1人でもいたらユーランシーへランスロットが潜り込む。」


中々に面白そうなお話だ。

どちらかと言うならばユーランシーに潜り込む方をやりたかったのだがせっかくのセルシャ様からの任務。

必ず遂行しよう。


「守恵者がいた場合、戦闘の許可は下ろして頂くということでよろしいですか?」


「ああ、構わん。必要であればランスロットから簡易型のスクリムシリを数体貰っておけ。」


「かしこまりました。」


ランスロット様がお作りになられたスクリムシリは頭が良くて凄い。

私のような自然発生のスクリムシリは天帝の方々が作り出したスクリムシリに対して嫌悪を抱いてしまうのだが、

ランスロット様が作り出すスクリムシリほどの完成度ならば文句のひとつも出ない。


「それと、破壊する前にマリオロで少しお買い物してもよろしいですか?

ちょうど新しいお洋服が欲しかったんです」


「呑気なやつだな。好きにしろ。」


「それでしたら」


私はジャレン様に手のひらを伸ばす。

不思議そうな顔でジャレン様は首を傾げる。


「何だこの手は」


「お小遣いください」


ジャレン様から命を下され、すぐさま私はマリオロへの出発準備に入る。

ついでに新しいお洋服用のお小遣いも手に入れた。

いつの日か、セルシャ様とデートをする時のために可愛いお洋服を新調しておきたい。

お金を貰う際、


「お前、俺の事、舐めているだろ」


と少し文句を言われたが気にしないでいい。

こう見えてジャレン様とは付き合いが結構長いがため、こうして仕えているもののそこまで敬意は無い。

もちろん、ジャレン様に対する忠誠心は誰よりも高い。

仲の良い先輩みたいなものだと勝手に思っている。


ジャレン様の部屋を出て直ぐに、私はランスロット様のいる北の領地に向かう。

かつてここにはそれなりに栄えていたカヌスという国があったが、6年前に突然崩壊した。

誰の仕業なのか…そもそも何が原因で崩壊したのかすら分からず、カヌスは呪われた国として人間たちの間で口にするのは禁忌とされているらしい。

そして、そのカヌスの跡地をランスロット様が自身の住処としている。



元カヌス領…現ランスロット領に着いたのだが…。

相変わらず広大な土地で自然が一切無かった。

所々に家が崩れた跡があったりとカヌスの名残はあるもののほとんど原型はとどめてなかった。

この広大な土地の中に一つだけ小さく建つ家に目を向ける。

古く、小さく、人なんて住んでいないように見える家。

私はその家の扉をノックするとドアが開く。

中からランスロット様が出てきた。


「お久しぶりでございます。ランスロット様。」


「やぁ、ミュレイちゃん。ジャレンから話は聞いてるよ。

スクリムシリが何体か欲しいんだってね。

いいよ、上がって」


中へ案内されると見た目通り中はとても狭かった。


「以前来た時とお変わりありませんね」


「まぁね、家の外観と内装なんてどうでもいいからね。

それよりこっち」


ランスロット様は足を トントン と2回地面に叩くと

地面が開いて、下へ降りる階段が現れる。

相変わらず、どういった原理で動いているのかが全く分からない。

この方は頭が大変よろしいがために理解が出来ない。


「マリオロへは初めて行くのかい?」


階段を降りながらランスロット様は私に話しかける。


「はい。あまりジャレン様から国に行くような命令は出されないので」


「ジャレンも過保護だからね。君みたいな優秀な側近が居なくなるのは嫌なのだろうね」


ジャレン様が…?あの人がそのような事を思っているとは考えられないのだが。


「あの方は寂しがり屋ですからね。」


「あははっ!それ、ジャレンに言ってあげたら?」


「こんなこと言ったら殺されてしまいますよ…。

内緒にしておいて下さいね」


「ああ、もちろん。ミュレイちゃん、やっぱり面白いね。

確か、セルシャが好きなんだよね?

今度、セルシャに話してあげてって言っといてあげるね」


やばいやばいやばい!なんだその最高な提案!!

ランスロット様最高!!本当に神!!!

やっぱりこのお方はすごい方だ!


「よ、よ、よろしいのですか!?」


「ああ、いいよ。ミュレイちゃんは頑張ってるからね。

たまにはご褒美をあげないとだし。」


(くぅー!やはりこのお方は分かってらっしゃる!

ジャレン様ったら…少しはランスロット様を見習って欲しいものですね、まったく!)


「ランスロット様…今度から神様と呼ばせて頂きます」


「いや…そこまでじゃなくてもいいよ」


苦笑された。

私は ハッ とする。変な女と思われなかっただろうか。

セルシャ様のようにクールに振る舞うのを興奮しすぎて忘れてしまっていた。


そして、下に着く。

長い階段の下には小さい家の下とは思えないほど大きい研究室があり、ガラスのケースの中には液体とスクリムシリが入っている。

机には何やら難しいことが書かれた紙が何枚も置いてあり、私では理解できないとすぐに悟る。


「前来た時よりも広くなっていますね」


「そうだね。どんどん視野を広げた研究をしていきたいからより広いスペースが必要になるんだよね。」


ランスロット様は話しながら机の引き出しを開けて、

そこに天恵を流し込む。

すると、先程から気になっていた何も物が置かれていない壁が揺れながら下に沈んで道が開く。


「こっちおいで」


ついて行くと、薄暗い空間に出た。

そして、そこにある光景を見て私は言葉を失う。


「こ、これは…」


そこには数十体以上の 破 に相当するスクリムシリがガラスに入れられて綺麗に並べられている。

そして、3つのガラスのケースに近づき慣れた手つきで何かをする。

そして、そのケースがスクリムシリを入れたまま手のひらサイズに小さくなる。


「こいつらを持っていくといいよ。

知性は無いが命令に従うようにしてある。

何より、凶暴性が高く国を滅ぼすのにはうってつけだ。」


ニコッとしながら言うランスロット様に背筋が ゾクッ とする。


「このケースを割れば元の大きさになって動くようになるから。」


「ありがとうございます!」


このお方の凄さを再認識した。

セルシャ様は圧倒的な戦闘センスならばランスロット様は圧倒的な頭脳。

これが 天命の意思 を宿る者達の器なのか…。


私は、意思 という存在にそこまで興味がある訳ではなかった。

そもそも、強さに対して執着がある訳でもない。

ただ私が忠誠を誓った人に必要とされたい。

それだけだった。

最初生まれた時は自身が頭の良い個体なのだということに気が付かなかった。

そんな時にいつものように人間を殺して食べていたところにジャレン様が来た。

普通の人間の気配だったため殺そうとしたが気がつけば返り討ちに合い、両腕を引きちぎられていた。

だがジャレン様は私を殺すことなく連れて帰り、

当時の側近に綺麗にするように言った。

私は身体洗われ、服を着せられる。

その時、まだ言語を理解しておらずジャレン様やその時の側近がなんて言っているのかは分からなかったが敵では無いということを理解した。

そこから私は側近の方に言語と作法を教えてもらった。

私は頭が良かった。

すぐに教えられたことを全て覚えて、ジャレン様がそれを褒めてくださった。

嬉しかった。

それと同時にもっと褒められたいという欲が私を満たしていった

忠誠を誓った人にもっと求められたい、その人の1番になりたいと…。

そう考えるようになって、私はある行動に出た。

ずっと私の世話をしてくれていたジャレン様の側近を自分の手で殺した。

こいつがいると私が1番になれないから…褒めて貰えない。

正々堂々と勝負を挑んで殺した。

向こうは殺される瞬間に泣き叫んでいたがそんなものは関係ない。

弱ければ死ぬのなんて私がジャレン様に拾われる前から分かっていた自然の摂理。


側近を殺し、その死体の前で息を切らしながら立ち尽くしているといつの間にかジャレン様が後ろに立っていた。

そして死んでいる側近と血だらけの剣を持った私を見てジャレン様は私の頭に手を伸ばして撫でてくれた。


「今日から、お前が俺の側近だ。役に立て」


そう言われて心が躍った。

私の承認欲求が満たされていくのが感じた。

そこから熱心にジャレン様に尽くした。

私の立場を脅かすような存在が現れたなら直ぐに殺したりもした。

そう…私は頭が良かったから。


意思 が宿ってしまうと私は天帝となり今の立場がなくなってしまう。

誰かに必要とされる立場から誰かを必要とする立場になってしまう。

そんなものは私が望んでいる未来では無い。

私はずっとジャレン様だけに忠誠を誓っていくのだと思っていた。

だが、ある日天帝の方々の会議で1度ジャレン様について行った時にセルシャ様を目にした。

セルシャ様を見た瞬間に心が昂り、ジャレン様とは別の感情が芽生えた。

心臓の鼓動が早く、顔が熱くなるような感覚。


「あら、それはきっと恋よ」


ギャラリス様にそう言われてやっと自覚した。

綺麗な黒髪でその毛先は血に漬けた様に真っ赤に染っている。

何にも興味関心を示さないようなその目は高貴な品格を表している。

あの日から、私はセルシャ様に対しても忠誠を勝手に誓うようになった。

だが、セルシャ様には既に側近がいる。

あの忌々しい男。

恐らくだが、私よりも強いであろう。

ジャレン様の側近は辞めるつもりなんて一切なかったがセルシャ様に仕える側近がいることに対して私は苛立ちを覚えていた。

そして、ある時にそいつに決闘を申し込み…負けた。

本来ならスクリムシリ同士の決闘は負けた方が勝った方に魂を献上するというのが決まりなのだが、

その男は 弱い奴の魂などいらない と言って私を殺さなかった。


屈辱だった…抑えきれぬほどの怒りがしばらく私を満たして側近の仕事もままならなかった。


私は、ランスロット様から貰ったスクリムシリのケースをしっかりとしまってジャレン様領に帰っている。


(あの時は私もまだまだ未熟でしたからね…)


今、あの男と再戦したとしても勝てるとは言わないが当時よりかはいい勝負ができるはずだ。


「まずは…マリオロ。

守恵者いるといいなぁ…守恵者を殺したら、ふふっ。

きっと褒めて頂ける」


心昂りながらそうボヤく。

いい具合に頭おかしいですね…。


読んでいただきありがとうございます!

忙しい日がまた続きそうで出来るだけ早く投稿するようにするのですが遅れてしまったらすみません!

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