21話 「無能は嫌いだ」
マリオロに行くまで残り1週間ほど。
私は現在、アレル邸の前にミリィノと共にいた。
スタシアは任務があり居ないが早朝に任務を終わらせたミリィノさんが仲良し作戦に協力してくれている。
昨日、スタシアはアレルに一緒にお茶をしようと言っていたらしい。
誰と とは言っていないらしいが…
ミリィノがドアをノックするとドアが開き、アレルが顔を出す。
「こんにちはアレル!お茶会をしに来ましたよ!それでは中入りますね!」
ズカズカと中に入って行こうとするミリィノをアレルは止める。
「まてまて。なぜルシニエもいる?それに言い出しっぺのスタシアはどうした?」
「スタシアさんは任務ですよ?」
「任務ですよ?じゃないだろ。
あいつが無理やりお茶会をするとか言って俺の屋敷に茶葉を置いてきたんだろ。」
「仕方ありませんよ。任務なんですから」
「それはまぁ、分かったとして…なぜルシニエがいる?お前がいるとは聞いていない」
「ですが、誰が来るかは言っていませんよ?
ですのでヨーセルさんを連れてきても問題ないと思いますが…」
スタシアもスタシアだが、ミリィノもミリィノでだいぶ良い性格をしている気がする。
まぁこの作戦に乗ってる私も同罪なのだろうけど。
「言い出しっぺのスタシアがいないなら今日は中止だ。
帰れ」
相当嫌なのだろう…なんだか傷ついてしまう。
するとミリィノがアレルの耳に口を近づける。
「そんなこと言うならスタシアさんにこのこと報告しますよ。
きっといつも以上にめんどくさい事になるかもしれませんね」
ミリィノが顔を離すと絶望したような顔をするアレル。
「…入れ」
入れてくれるらしい。
何を言ったのだろうか…あれほどの絶望顔を見たのは初めてだった。
「ヨーセルさん!緊張しなくていいですからね!
ゆっくりのペースで話せば大丈夫です!」
「は、はい…」
一室に案内されると円形のテープルに椅子が4つ等間隔で置いてあった。
その1席に座る。
ミリィノは私の右隣の席、アレルは私の対面の席に座る。
「お前たちは何を飲むんだ」
「私は紅茶をお願いします。ヨーセルさんはどういたしますか?」
「私も紅茶で…」
そうか と言いながら部屋を出る。
部屋の外で何かを指示している声が聞こえる。
そして戻ってきてまた私の対面に座る。
「それで、あのガキは来るのか?」
「もうアレル!ヨーセルさんの前でスタシアさんのことをそのような呼び方してはいけませんよ!」
スタシアの事だったのか…。
なんか前はすごく仲が悪かったと聞くが今も仲悪くないか?と思ってしまう。
「それで、何の用だ」
「なんの用とは?」
「とぼけるな。いきなりお茶会をするなんて何か用があったからじゃないと許さんぞ」
「ありませんけど…」
「…はぁ。最近、お前たちは俺を舐めすぎている。
スタシアの馬鹿みたいな言動はまだ許容してやるが、
俺も暇ではないんだ。
大して話したこともないどうでも良い低階級騎士団員とテーブル囲んでお茶を飲むほど俺は寛容では無い。」
「どうしてそのようなことを…」
「ミリィノは黙れ。選べルシニエ・ヨーセル。
今ここで俺に半殺しにされて出ていくか、大人しく自分から出ていくか。」
恐ろしい殺気と鋭い目つきだった。
冗談…には感じない、
「どちらの選択肢も選びません。
私はアレルさんとミリィノさんとお茶を飲みに来ました」
「そうか…話が早くて助かる」
アレルは立ち上がると同時に机が破壊される。
驚いて目を閉じてしまった…。
目を開けるとミリィノの背中があった。
アレルの手にはディシと同じような短剣が1本あり、それをミリィノに…いや、私に向けている。
ミリィノが自身の剣でアレルの剣の突きを抑えていた。
ミリィノがいなければ…
「アレル…ふざけるな。やりすぎだ。
何故そこまでヨーセルさんを嫌うのかは知らないが同じ国に住む同じ騎士団員だ。
それなのに剣を突きつけるというのは…規則違反です」
「俺は甚だ疑問だ。なぜそこまでルシニエにお前たちがこだわるのか。
メルバル総戦1つやりきれないような無能。
ましてや人1人守れずに1ヶ月も眠る。
騎士団にいても邪魔なだけだ」
「だからといって剣を突き立てるのは間違っている。」
「ふっ、当てるつもりなどない。
顔をかすめるだけのつもりだったが…そこの判断もできないようじゃ、お前も成長してないな」
ミリィノが悲しそうな顔をする。
どうしてだろうか…自分が言われている時は 確かにそうかもしれない と思ってしまったが、ミリィノが言われるのは違う。
そう思ってしまったと同時に怒りが湧き上がる。
「確かに、私は今のところ騎士団に何も貢献出来ていません。
仮に出来ていたとしてもミリィノさんやアレルさんには決して貢献度は届かないと思います。
そこは自分でも自覚していますし、否定する気もありません。
ですが、ミリィノさんは違います!
こんな私でもずっと気にかけてくれています。
自分の任務で疲れているはずなのに、私がリハビリをしているところを見かけたら必ずサポートしてくれます。
いくら辛くても疲れていても顔に一切出さないし、弱音も吐かない。
ミリィノさんのことを悪くいうのは許せません。
謝ってください」
(似ている…やはりこいつはあの人と…)
『アレルって本当に凄いよね!全然弱音とか言わないし!辛くても疲れていてもずっと頑張る姿…凄くかっこいい!』
「…許さないからなんだ。無能のお気持ち表明でしかないだろ。
俺は無能が嫌いだ。常に貢献し続けるのなんて当たり前だ。
出てけ」
私とミリィノは屋敷を追い出されてしまう。
(言ってしまった…1週間後には一緒にマリオロに行くのに、抑えられなかった…)
「申し訳ないです」
ミリィノが私に頭を深く下げる。
「え?か、顔を上げてください!どうしてミリィノさんが謝るんですか!」
「私がもっと上手く立ち回れていれば…。
きっとスタシアさんならこんなことにはならなかった。
私のせいです…すみません」
「そんなことは絶対にありません!
アレルさんの私に対して仰っていた事は事実です。
確かに私は無能です。
スタシア、ディシさん、ミリィノさんに助けられてばかりです。
謝るのは私の方です。
すみませんでした。」
「ヨーセルさんは無能なんかじゃないですよ。
メルバル総戦の時だって 解 のスクリムシリを倒してくれました。
新入りの騎士団員が です。」
ミリィノは私を優しく慰めてくれる。
この人のこういうところが大好きなんだ。
「それと、アレルとのマリオロ派遣は無しにしてもらうように私から頼んでおきますね。」
「え?」
「きっとこのままマリオロに行っても気まずいだけで任務に集中できるか分かりませんから。」
「…」
確かに、このままマリオロへ行ったとしてもまた今回なことが起こりかねない。
辞退するのが普通の選択肢だろう。
だが、私はここで終わっても良いのだろうかと疑問に思ってしまう。
アレルは時々とても悲しい顔を私に向ける。
何か辛いことがあったんでは無いのだろうか…
何か力になりたい…辛さから救ってあげたい。
ディシがしてくれたように…。
「ありがとうございます。けど大丈夫です。信じてみてください。
必ずアレルさんと仲良くしてみせますから!」
どうやら断られるとは思っていなかったらしく驚いた顔をするミリィノ。
しかし、私がこう言って同時に嬉しかったのだろう。
笑顔で ありがとうございます と感謝される。
「アレルは決して悪い人ではないんです。
ただ、彼の過去が関係しているんです」
「過去…ですか?」
「はい。申し訳ないですが私の口からは言うことが出来ませんが…アレルはすごく辛い記憶を抱えていてそれがトラウマになってしまっているんです。
本当に、アレルは悪い人ではないんです。
何気ない優しさだったりがすごく素敵な人なんです。
なので、怖がらないであげてください」
「怖くなんてないですよ。人はみんな等しく優し心を持っていると私は考えています。
アレルさんが何かあったというのは顔を見れば察せます。
私はアレルさんと仲良くなりたいと心から思っていますので。任せてください!」
「ッ!!はい!任せますっ!」
「ところでミリィノさんはアレルさんの事を好いておられるのですか?」
「な、な、な、何を急に!?」
「アレルさんの良いところを必死に伝えているのを見てそうなのかなと…」
「べ、べべべべつに好きではありませんよ??
ただ、仲間としてですね!いい所があるなぁと思っているだけですからね!?」
そうだったのか…なんだかミリィノはアレルのことを好いているように見えたのは気のせいだったのかな。
アレルからミリィノを見る目もなんだか…という感じだったからそういう関係なのかとも一瞬思ってしまったのだが…
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俺は壊れた机の破片を全て拾って、捨てる。
散らかった部屋も綺麗に整えて天恵で丸机を作り出す。
先程のルシニエの発言を思い出す。
『ミリィノさんを悪く言うのは許せません。
謝ってください』
思い出すだけでもイライラする。
結局何が目的でお茶会なんて開いたんだ。
それにルシニエのあの雰囲気…
あれを見ていると昔を思い出してしまう。
1口、紅茶を飲み心を落ち着かせる。
「…俺は、1人でもやって行ける…1人でも生きていけなければいけない。
有能であり続けろ。
人の足でまといになるな…」
俺は声に出してそう自答する。
夜になり、俺は近くの飲み屋で1人でお酒を飲んでいた。
この飲み屋は1人でもよく来る行きつけだ。
時々ディシと2人で飲む時もあるが大体はストレスが溜まった時に1人で来る。
俺が窓際の2人用の席で酒を飲んでいると目の前にミリィノが座ってくる。
「マスター!私も同じの一つお願いします!」
いきなり来て同じものを頼む目の前の女。
見た目の割に図々しい性格なのは相変わらずのようだ。
「ここ、良い雰囲気ですね。とても落ち着きます」
「まぁな。1人でもよく来るからな」
「どうして誘ってくださらないんですか?」
「誰でも1人になりたい時はあるだろ」
「それでしたら次からは私を呼んでくださいね!
1人になりたい時以上に楽しませてあげますので!」
冗談なのか本気なのかよく分からないな。
「そうか、なら今から楽しませてみてくれ。
ちょうど今は1人になりたい時なんだ」
「どうして1人に?」
「それは本気で聞いているのか?」
「いえ、冗談です。昼間はすみませんでした。
さすがに失礼なことをしましたよね。
今度はスタシアさんもしっかり同席してもらった上でお茶会をしましょう」
「いや、本当にまじでしなくて良い。スタシアなら尚更」
ただでさえうるさくて鬱陶しいガキなのにお茶会なんてしたら今日以上にイライラしてしまうかもしれん。
「スタシアを呼ぶならせめて飲みだ。お茶会はしない。」
「そうですか…残念です」
俺は悲しそうな顔をするミリィノの顔をじっと見つめる。
「どうかしましたか?そんなに顔を見つめられると少し照れてしまうのですが…」
「お前…最近寝ていないだろ?顔に疲れが溜まっている」
「本当に毎回よく気づきますね。心配しなくとも休む時にはちゃんと休んでいますので。」
俺はそれになんの反応も示さずにお酒を飲む。
嘘をつく時の無理な笑顔、相変わらず分かりやすい癖だ。
「ミリィノ…」
「どうしましたか?」
「悪かったな」
「え?」
「昼間のこと。お前がずっと頑張ってきたのを知っていたのにあんなことを言ってしまった。
すまなかった」
小さい声で言ってしまったが…ミリィノに聞こえているだろうか。
そう思ってミリィノの顔を見ると驚いた顔をしていた。
「なんだよその顔」
「いえ…少し驚いてしまって。
昼間のことは気にしないでください!アレルさんに嘘をついたのは私たちの方です。
悪いと言えばどちらかと言うと私の方です」
許してくれるとは思っていたが自分の責任にするところまでがミリィノらしい。
その優しい性格がルシニエやスタシアに懐かれる理由の一つだろうな。
「それはそうだな。嘘をつかれたのはずっと根に持つぞ」
「もー!アレル!そこはお互い謝って終わりでいいんですよ!まったく!」
少し頬が緩んでしまう。
やはりミリィノと話していると心が落ち着く気持ちになる。
「ルシニエさんにもお互いに謝って仲直りしませんか?
マリオロに行くのですからもう少しコミュニケーションを…」
「それは断る。俺は間違ったことは言ってない、」
「そう…ですか。」
「俺は俺が認めるまでは無能だと思って接する。
だから、マリオロでルシニエの実力を見分ける。
あいつが無能ではなかったらしっかり謝る。
それでいいだろう」
こんな提案…俺らしくない。
だが、たまには良いだろう…。
「はい!はい!それで大丈夫です!」
ミリィノはその提案を聞いて見を乗り出すように提案に肯定する。
「落ち着け…」
「ふふっ、ふふん!さ!お酒飲みましょ!」
楽しそうに自分の分と俺の分のお酒を注文するミリィノの横顔を見て俺は 死 を覚悟する。
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暗い空間…目の前には人間の手では開けられないほどでかい両開きのドア。
無駄に豪華なのは一体なんなんだろうか。
そのドアがひとりでに開く。
そして、奥から黒い正装に包まれた男が1人出てくる。
そして、僕の目の前に止まると片膝をつけて頭を下げる。
「お待ちしておりました。事象の意思者 様」
「他に誰が着いている」
「縛毒の意思者 様と 悪我の意思者 様がいらっしゃいます。
縛毒の意思者 様は先程、悪我の意思者 様は数時間前からお着きになっておられました。」
「そうか。セルシャ と ジャレン は?」
「まだお着きになっておりません」
「あの二人は時間なんて守らなそうだしな。
今回招集したのはセルシャなんだがな…」
しばらく黒い空間を歩いていると明かりの付いた広い部屋に出る。
明かりが付いたと言ってもちょっとした光の松明が無数に浮かんでいる部屋。
部屋の中心にはでかい円形のテープルがあり、5つの椅子が置いてある。
既に2つに女と男が座っている。
女の方がこちらに気づき不気味な笑みを浮かべる。
「あらぁ、ランスロット〜。会いたかったわぁ」
緑髪に黒が混ざった女は俺に抱きつこうとしてくる。
だが、俺はそのまま女を通り過ぎる。
「ちょっとぉ!どうして通り過ぎちゃうのぉ!」
「うるさい黙れ。今は可愛こぶる女性ノリが好きなのか?」
「何よ、面白くないわね。
あなた今日集められた理由わかるかしら?
捕らえた人間に毒の実験していたっていうのにセルシャが急に招集かけてお預けになったのよ」
「知らん。セルシャは言葉足らずなことが多い。
会議が始まったら分かる事だ」
「それもそうね。ところで、スクリムシリの生成は順調かしら?」
席につきながら僕にそう問いかけてくる。
先程からしつこく話しかけてくるこの女、
縛毒の意思者 ギャラリス・メア
一言で言うならば性格が最悪のサイコパス。
「程々だ。僕ら程ではなくとも守恵者と良い勝負をできるくらいのスクリムシリは作れている。」
「あら、なら1つ譲ってくれないかしら?
毒性のスクリムシリが作れるか」
「お前なぁ、作るのに結構苦労しているんだよ…。
まぁいい。無駄にはするなよ」
「ええ、もちろんよ」
僕は腕を組んで目を閉じながら座っている男に目を向ける。
悪我の意思者 ハインケル・ソッズ
痩せこけた体格に長身。
黒く短い髪を整えずにあまり身なりが綺麗では無い。
普段はもう少し綺麗な格好をしているのだが…
「ハインケル、また寝ていたのかい?」
「またとは心外ですよ。まるで私が働いてないみたいでは無いですか」
「事実そうだろう?」
「私は必要な時のみにしか動かないんですよ。
ギャラリスみたいに熱中するような実験もありませんし」
「あらぁ?だけど未だに殺した人間の心臓をコレクションしているのでしょう?」
「この前選別して特別印象に残った者の心臓のみになりましたよ。
血なまぐさくなってたまったもんじゃないので」
こいつもこいつで相当変わり者だ。
この2人は天帝でもだいぶキモイ部類だろうな。
「空虚の意思者 様と 災理の意思者 様がご到着されました。」
僕が入ってきた門とは反対の門から黒髪を長く伸ばし毛先が赤色に染った少女が歩いてきた。
顔は幼く見えるがここにいる誰よりも長く生きている。
空虚の意思者 セルシャ・イオン
筋肉質で身長が高く、顔も普通の時でも鋭い目つきをする紺色の髪の男。
災理の意思者 ジャレン・ノートス
2人は何も発言することなく残りの席へと座る。
「あら、遅れてきたのに謝罪のひとつも無しかしら?」
「ふっ、お前に下げる頭がある訳がなかろう」
「ああ?ジャレン、随分と生意気になったわねぇ」
ジャレンは結構強気な性格なため、同じく強気な性格のギャラリスとはよく言い合いをしている。
「うるさい。始めるよ」
なんの感情もこもってない話し方。
感情表現が乏しく、物事への興味が薄いセルシャは他人への思いやりという感情が欠如している。
セルシャが2人を一蹴し、会議を始める。
「そろそろ、人間を皆殺しにする計画を始めるよ」
天帝が遂に集結…
読んで頂きありがとうございます!
投稿が遅くなってしまい申し訳ないです。
今日からまたいつものペースで投稿するように頑張ります。
誤字脱字があるかもしれないですが、できるだけ無いようにするのでご了承ください!




