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天使とサイナス  作者: 七数
2章 【番】
19/58

17話 「意思の形」

ザブレーサから帰ってきて6日が経った。

俺とスタシアの天恵の消費分は既に回復しており任務にも出ている。

アビス師匠が長期任務からそろそろ戻ってくるため、

戻ってきたタイミングでザブレーサやマリオロへの騎士団派遣についての話し合いをするとメアリー女王が言っていた。

話し合いの内容は主に2つあり、

ザブレーサに聖者をまず何人、そして守恵者を派遣するかどうかとマリオロに派遣する守恵者を誰にするかを決めるとメアリー女王から軽く聞いた。

ザブレーサはさておきで、マリオロに派遣される守恵者が問題だ。

期間は未定だが凡そ2ヶ月くらいの想定なのだが、きっと他の3人も俺と同様に行きたくないと言うだろう。

そんなことをスクリムシリ 予 の死体の山の上で考えていると名前を呼ばれる。


「ディシさん!」


聞き覚えがある声で、声の方を向くとミリィノがこちらに歩いて来ていた。


「ミリィノか。任務終わりか?」


「そうです、任務が終わってユーランシーへ戻る途中でディシさんの気配がしたので来ちゃいました」


「任務の時に会うなんて珍しいな」


「確かにそうですね!私はどちらかというとユーランシーから近場になることが多いのでユーランシーから離れた場所の任務が多いディシさんとはあまり会いませんね」


「確かにそうだな。今日は遠出だったんだな」


「こちらからお願いしたんです。できるだけ多めのスクリムシリ相手をしたいと」


「それはまた何故?」


「最近、スクリムシリ 破 と久しく対峙して私の今のレベルでは天帝には絶対に敵わないと実感しました。

ザブレーサでディシさんとスタシアさんが戦った人型は聞いた限り恐らく私では勝てなかったと思います。

何故かスクリムシリの動きが最近活発になっていて少しでも犠牲を出さないためにも私はもっと強くならないといけないと思ったんです。」


痛いほど気持ちが分かる。

ザブレーサの人型は俺も正直スタシアがいなければ勝てるかは怪しかった。

周りに人がいなければスタシアは人型を苦労することなく殺すことが出来ただろう。

あの状況下で俺はスタシアの足でまといだった。

そのレベルの話だ。


「ザブレーサで戦った人型は俺も1人だったら怪しかった。

ミリィノの気持ちは痛いほど分かる。

もっと強くならないと…スタシアのレベルでも戦えるくらいに強くならければいけないな。」


俺とミリィノはそんな会話をしながらユーランシーの方向へと歩き出していた。


「そういえば先程、スクリムシリの死体の上で何か考え事をしていたみたいですが、何かお悩みがあるんですか?」


「ん?ああ、アビス師匠が帰ってきてからの話し合いについて少しな」


「マリオロへの派遣についてですか…。

こんな事言うのは良くないかもしれませんがあまり行きたくは無いですね…。マリオロが嫌という訳では無いのですが皆さんと離れるのは少々寂しいですね」


「大丈夫…皆同じ気持ちだ。だが、選ばれたなら任務は全うするというのは忘れるな」


「もちろんです。」


マリオロでどのような任務があるかはまだ分からないが恐らくマリオロ周辺でのスクリムシリの警戒だったり輸出入の馬車だったりの護衛だろうな。


「ディシさん。提案なのですが、アビス師匠ともう一度指導をしてもらいませんか?

それと手合わせもお願いしたいです」


予想外の提案に少し驚く。

ミリィノが守恵者になったばかりの頃はよく俺に手合わせをして欲しいと言われたが、ここ1年近くは忙しい事も相まってそういう頼みをされなくなった。

ちなみにだが、手合わせで俺は一度もミリィノに負けたことがなかった。


「もっと強くなるためには自分より強い方と戦いたいんです。

私と手合わせしてもディシさんは相手にならないかもしれませんがよろしければ御相手して貰えませんか?」


「ああ、もちろん。断る理由なんてないしな。

それに、ミリィノは以前より計り知れないほど強くなってる。

手合わせの相手として不足なしだから安心してくれ。」


「本当ですか?嬉しいです!」


「アレルとかも空いてたら誘うか。あいつが来るかどうかは分からないが」


「確かにそうですね。アレルは手合わせとかあまり好きじゃないですもんね」


「それと、アビス師匠にもう一度指導をつけてもらえるように俺から頼んでおく」


「ありがとうございます!」


ミリィノは剣のエキスパートであり、スピードだけならユーランシー内ではアビス師匠の次くらいだ。

それほどまでにミリィノは強い。



ユーランシーに戻り、メアリー女王に任務を完了した報告をした後にホールディングスの一室で(くつろ)ぐ。


俺はザブレーサから帰ってきてずっと考えていることがあった。

ザブレーサで会った天帝。

縛毒の意思…。

毒を操り、離れていても精密な攻撃をスタシアたちに向けて放っていた。

あの攻撃は恐らくだがスーラに感染させていた毒を目印に使って放ったのだろう。

問題はあいつの扱う毒だ。

あれは少しでも皮膚に触れただけでその部位は使えなくなるだろう。

傷口から体内に入ったら死は確実。

能力としては強すぎる…何か弱点があるはず。

10年以上前にスタシアの村で奴と会った時はそれほど強力な毒ではなかった。

そういえば…あいつ、必要以上にでかい声で話していたな。

それにこちらの声を無視するような言動もあったし、会話が成立しない時もあった。

あいつは 縛毒の意思 であらゆる毒に耐性があると考えるべきだろう。

しかし、その代償として五感のどれかの機能が低下しているとしたら…?

もしこの予想が正しいのなら大きなアドバンテージになる。


ソファに座りながら右膝に右肘をついて、おでこに右手を添えながら考えているとドアが開く。


「疲れたぁ!ディシくん!お疲れ様!」


スタシアが入ってきた。

任務終わりでメアリー女王に任務完了報告をしてきたのだろう。


「どうしてここにいるって分かった?」


「メアリー女王に教えてもらった!あと気配!」


「俺はお前が少し怖いよ」


「なぁんでぇ!?」


どうしてここまで俺に執着するのやら。

人間が大好き妹属性のスタシアなら誰かしら構ってくれるところに行きたいのだろうな。


「何考えてたの?」


「ザブレーサで出会った天帝について少しな…。

あいつの 縛毒の意思 の能力と弱点の確認をしてた」


「そうなんだ。それと?」


「それと とは?」


「だって、それ考えるならディシくんの屋敷でもできるしわざわざこの部屋で考えるのってなにか理由あるのかなって」


「あぁ、アビス師匠を待ってるんだよ。今日中には帰ってくるって手紙が届いたらしいからな。」


「派遣の話し合いについてのことなにか聞くの?」


「いや、アビス師匠にもう一度指導をして欲しいと頼むためにな…。」


「指導を?」


「ああ、ザブレーサで人型と戦った時に俺はスタシアの足手まといでしか無かった。

あいつに手こずってるようじゃ天帝には勝てない。

それに、もう一度初心に帰るっていうのは悪くないだろ?」


「ディシくんは足でまといなんかじゃ無いよ!

あの状況下ならディシくんが居なかったら勝てなかったし…」


「だけど、あの周辺に誰もいなかったら人型は瞬きをする間に殺せていただろう?」


「それは…」


「安心してくれ、ただ今より強くなりたいだけだから。

スタシアの隣に立っても足でまといにならないくらいに強くなりたいだけだから。

お前の役に立ちたい」


なんか語弊のある言い方をしてしまった気がするが

特に訂正はしなかった。

事実、そうであるからな。

スタシアはその言葉を聞いて口元が少し緩んでいる。


「そ、そうなんだ!なら、アビス師匠と2人きりは寂しいだろうから時々私も行くね!」


「いや、ミリィノもいるよ」


「は?」


おっと、なんか地雷踏んだようだな。

何がいけなかった?

さっきまでの穏やかな雰囲気から一転、人でも殺しそうな雰囲気になってる。


「私の役に立ちたいのに…女の子と、しかも身近の女性と2人きり…?」


「スタシア、大丈夫か?」


「うん〜!大丈夫だよ?それよりディシくんってさっき私の役に立ちたいって言ってたよね?」


「いや、言ってないっす」


「じゃあさ!」






「そういえば天帝の能力ってどんな感じにまとまったの?」


「あいつの毒は傷口から少しでも体内に入ったら確実に死ぬような毒だった。

10年前に会った時よりもより強力な毒。

だが、戦っている時に少し違和感があったんだよな。

時々、会話が成立しないこととかこちらの声が聞こえずらそうとか。」


どういう状況なんだ今。

俺が座っているソファにスタシアが寝っ転がって俺の膝を枕にしている。

もっと酷い頼みをされると思ったが

役に立ちたいなら膝枕して頭撫でて! と意味のわからんお願いをされて今に至る。


「精神的病気を持っているか…耳が聞こえずらいってこと?」


「恐らくな。俺が予想したのは強力な毒を扱うことにより代償で五感の機能が低下しているとかだな」


「確かに、なんの代償もなしに強力な毒を使うなんて考えずらいもんね」


「まぁ、それで言ったらスタシアも十分強力だし代償ないだろ?」


「私の能力は天恵の技術がないとすぐに天恵を消費するか周辺の人を巻き込んじゃうから結構難しいんだよ?」


「そうだったな…お前はすごい努力していたもんな」


スタシアの努力量は常人の域をはるかに超えていた。

毎日、天恵がほぼ無くなりかけるくらいまでずっと天恵の技術の特訓をしていたのだ。

故にスタシアの天恵技術は一種の神の領域に行っていると言っても過言では無い。


「あの時はディシくんと一緒に戦いたいって目標に精一杯だったからね。」


「十分…偉いよお前は」


俺はスタシアの頭を撫でながら言う。

するとドアが開き、アビス師匠が入ってくるのだが、

俺とスタシアの光景を見た瞬間、ドアをスっと閉めてドアの向こう側から ごゆっくり と言ってきた。


「アビス師匠!?勘違いしないでくださいよ!」


俺は座ったままスタシアの頭を膝に乗せながら大声で言う。

そしたらもう一度ドアが開いてアビス師匠が入ってくる。


「いや、勘違いも何も…この光景見たらそうだと思うだろ」


「これは一種の罰なんですよ」


「あ!酷い!役に立ちたいって言ってたからたってもらってるのに!」


「うるさいぞ。それより、長期任務お疲れ様です」


「ああ、お前たちもな。いつくらいに帰ってきた?」


「6日前です」


アビス師匠は俺の対面のソファに腰を下ろす。

スタシアも体を起こして壁際にある棚で何かを作り始める。


「それで、用というのは?」


「単刀直入にお願いしますね。もう一度俺とミリィノに指導をお願いしたいです」


アビス師匠は呆気にとられた様子だ。

もっと重大な何かだと思ったのだろうか。


「なんだ…その程度のことか。構わん。

アンジとカウセルだな?珍しい組み合わせだが何かあったのか?」


これを説明するのは何度目だろうか。

一通り、アビス師匠にザブレーサのことを話した。

特に、天帝の能力を細かく伝えた。


「コーヒーです。熱いので気をつけてください」


スタシアがコーヒーをカップに入れて机の上に置いてくれる。

俺は軽く礼を言いながら自分の前とアビス師匠の前に置き直す。

スタシアは美味しそうにカップを飲んでいる。

砂糖を沢山入れたのだろうな。


「縛毒…10年前に会った奴か。今、1対1で戦ったらお前は勝てるか?」


「恐らく、勝てないです。やつは身体能力も飛躍的に上がっていました。

それに、俺の能力で奴の毒に高い耐性を持ったとしても体内に毒が入ってしまえば時間の問題です。」


「そうか、やつに相性の良いやつは?」


「奴の攻撃が当たらないように立ち回ると言った面ならミリィノが最適だと思います。

近接の戦いならミリィノに分があります。

当然ですが、スタシアなら油断さえしなければ確実に勝てる相手です」


「俺もそう考えた。冷静に考えられてるな。」


「はい」


淡々と話し合う中、スタシアはつまらなそうに俺の隣に座って甘いであろうコーヒーを飲んでいる。


「明日は俺は用がある。明後日からなら指導を開始してやれる。

カウセルの屋敷に来い。」


「了解です!お願いします」


一通り話はまとまり、アビス師匠は部屋を出る。


「ふぅ…」


「アビス師匠を前にするとやっぱり警戒しちゃうよ」


「なぜ?」


「だって、目の前に圧倒的な存在がいるんだもん。

反射的に警戒しちゃう」


「単にアビス師匠が怖いだけじゃないのか?」


「あの頃とはもう違うもん!」


そういえば、話し合いはいつ行われるのだろうか。

明日では無いし、アビス師匠の言いぶり的に明後日でもないだろう。

念の為、帰りにメアリー女王に聞いていくか。


俺とスタシアはホールディングスを出て街を歩き始める。


「ねーねー!このあと暇ならご飯一緒に食べに行こ!」


「そう言いながらお酒飲みたいだけだろ」


「バレた!?ねー良いじゃん!いこ?」


「別に構わないけど先に寄るところがある」


「どこ?」


「ヨーセルのところ。」


「帰ってきてから毎日行ってるよね。優しい」


「俺が騎士団に誘ったからな。起きるまで行くさ」


スタシアはこんなこと言っているがこいつもこいつで空いた時間は毎回ヨーセルの様子を見に行っているのを俺は知っていた。

歳も同じということもあって仲が良かったからな。心配になるのは当然だ。



ヨーセルの寝ている部屋は明かりが点いておらず、

窓からの光のみだった。

その光も日が沈みかけているということもあってあまり強い光では無い。

ヨーセルの寝ているベッドに近づき、そばに置いてある椅子に座る。

スタシアは反対側でヨーセルの頬に手を伸ばしている。


「ヨーセル…早く目を覚ましてね」


スタシアが優しく話しかける。

毎日、これを伝えている。

スタシア曰く、ヨーセルの体は天恵を馴染ませている状態であり、起きる頃には天恵がより正確に使えるようになると言っていた。


「私も、信愛 が宿ってから天恵の技術ばかりを訓練していた時に一度、天恵の消費のしすぎで倒れたことがあるの。

その時にね、夢で優しい、けどどこか異様な雰囲気の女性と話していたの。

夢とか目的とかを。

それを全部言い終えてから女性はこう言ったの。

「貴女にして良かったわ」って。

そして目が覚めた時にビックリするぐらい天恵が使いやすくなってた。

今、思うとあれは 信愛の意思 本来の形であって私にどんな目的があるかとかを確認してきたんだって思う。

ただの想像だけどね」


ヨーセルの頬に手を伸ばしながらそう話すスタシア。

古くの文献で見たことがあった。

意思 というものは概念その物であり何にでも形を変えることが出来る と。

人の形をすることでスタシアに話しかけてスタシアの力量を見極めたのかもしれない。


(意思の形…か)


そうなると俺は 意思 とそんな風に話したことは無かった。

宿った時は既に天恵をある程度使えていたし、

そもそも 結命の意思 自体が何を条件に宿るのかも分からない。

気になり出すと知りたくなるものだな。

この 意思 はどのような性格でどんな話し方をするのかなどを。


「ミリィノやアレルは 意思 と会話をしたことはあると言ってたか?」


「どうだろう。わざわざ話すことでもないと思うし、

してるかもしれないね。

2人とも自分から話すタイプでは無いし。

1つ分かるのは 意思 と会話をした時、初めて 意思 と本当に繋がれるということかな。」


「サイナスじゃないのか?」


「サイナスとは別の…思考が一致したと言った方が良いのかな。

私と 信愛の意思 は完全に繋がってるって分かるの。

言い換えるなら 意思の覚醒(ちょうえつ)。」


意思の覚醒…特別試験の時にヨーセルが覚醒者になった時とはまた別の 意思 本来の力。


「ヨーセルは 意思 が宿っている訳ではないと思うけど宿る可能性を秘めているっていう合図かもね!」


「だな。今は起きてくれることを願おう」

意思とはなんなのか…

難しい問題ですね


読んで頂きありがとうございます!

お久しぶりですね!

この空いた期間で番外編とかを書こうか悩んだんですけど、普通に忘れてました。

適当なタイミングで番外編とかも投稿すると思うのでぜひ読んでください!

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