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天使とサイナス  作者: 七数
1章 【易】
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16話 「生存と帰還」

手に温もりが感じる。

頭がぼーっとするが意識はあり、目を覚ます。

柔らかいベッドに寝ているとすぐに理解した。

頭を少し起こして手元を見ると誰かの手が私を包み込んでいた。

手を辿って行って顔を見るとメアリー女王だった。

メアリー女王は背もたれのある椅子に姿勢よく寄りかかりながらも目を瞑って少し頭を前に傾けて眠っている。

寝起きに見るには贅沢すぎる綺麗さ。

私が体を起こす際にメアリー女王の手から私の手を抜くとメアリー女王がそれに気づいて目を覚ます。

メアリー女王は口を開けて驚いたようにこちらを見つめる。


「おはようございます」


そんなメアリー女王の様子を気にする暇が無く、

普通に挨拶してしまう。

驚いた顔からだんだん涙目になり泣くのをこらえるような顔になる。

そして、ベッドに足を伸ばして座る私に抱きつき泣きながら言う


「良かった…良かった…目を覚まさなかったら…

どうしようかと…本当に良かった!」


敬語じゃなくなるほどの必死さ。

それほどまでに心配してくれたのだと嬉しくなる。


「ご心配かけてすみません。

メアリー女王はお怪我はありませんか?」


「はい!私は傷一つ無いです。スタシアさんとディシさんが守ってくださったおかげです」


「良かったです…。あっ、ディシくんは!?ディシくんは無事ですか!?」


その時、部屋のドアをコンコンとノックされる。

そしてドアが開くとディシが入ってくる。

縁に手拭いがかかっている底の浅い水の入った容器を両手で持っていたが私と目が合った瞬間、

容器を地面に落とし、地面に水が広がる。

ディシはこちらに早足で寄ってきて私を抱き寄せる。

何が何だかよく分からずに動揺してしまう。


(え?え?何が起きてるの?いい匂い…じゃなくて、

甘えたい時期?でもなくて、なんで??)


私が戸惑っているとディシが口を開く。


「目を覚ましたんだなっ、、良かったよ…心配したぞ」


どうしてそこまで心配をするのだろうかと疑問に感じてしまうがその後にメアリー女王から真相を聞かされる。

どうやら私は思った以上に天恵を消費してしまっており、1週間くらい眠ってしまっていたらしい。

体の怪我は無かったものの天恵が回復せずに死の淵を彷徨っていたほどだったらしい。

メアリー女王は睡眠もろくに取らずにずっと私の手を握って目を覚ますのを願っていてくれたみたいだった。

ディシも同様に私がいつ目を覚ましても良いように部屋を掃除してくれていたり、着替えを用意してくれていたり濡らした手拭いを用意してくれていたらしい。


「そうだったんだ…。心配かけてすみません…」


「良いんです。目を覚ましてくれただけで良かったです」


私が起きる5日前にディシは目を覚ましていたらしい。

天恵の回復は個人差があるが能力も関係している。

私は天恵を主体とした戦い方でディシは近接戦闘を主体としている。

脳への負荷は前者の方が大きいというのも回復の遅い理由だ。

私が目を覚ましていない間の話を軽く聞いた。

私が目を覚まさない1週間で唯一、私のそばを離れた時がアダル王に今回の件と騎士団の派遣についての話し合いをするためだったそうだ。


騎士団の派遣についての話を抜きにすると内容は主に2つあるらしい。

1つはスクリムシリの強さについてだった。

スクリムシリの強さには6段階があり、今回の襲撃で確認したのは 破 ということを伝えたらしい。

どうやらもう1段階強いスクリムシリがいることに相当驚いていたらしく、今後の国の安全性を見直すとの事だった。

そしてもう1つが天恵についてだった。

これは何度も何度もしぶとく聞かれたが強く断ったとの事。

教えられない理由で 誰でも使うことが可能である 、

強力である分戦争の火種になりうる ということを

説得として言ったらしい。

天恵の強力さを目の当たりにしたアダル王はその説得に納得せざる得なかったらしく渋々諦めたらしい。


騎士団の派遣については簡単に話が纏まったらしく、

ユーランシーの騎士団寮の部屋数などには余りが結構あり、多めの人数を受け入れることが可能とのこと。

その際にユーランシーの騎士団員をザブレーサに派遣されてきた人数より少し少なめに送り出すとのこと。

その決断は確かに有意義な決定だろうと思った。

またザブレーサが襲撃を受けないとは限らないため

騎士団をこちらに派遣している間はこちらの騎士団で護衛を固めなければならないとメアリー女王は判断したらしい。

聖者も数名ザブレーサに送るらしい。

守恵者を1名送るかどうかはまだ悩んでいるのだとか。

とりあえず行きたくは無い。

綺麗な国だが守恵者のみんなやメアリー女王と離れるのは御免だ。

それと、マリオロの王 アウグス・トゥス王もその会議には参加していたみたいだ。

国王会議が終わり、メアリー女王とアウグス王以外はすぐに自国へと帰国して行ったらしいがアウグス王はスクリムシリと戦闘した地区の反対側にいたらしく被害はなかったみたいだ。

アウグス王との騎士団の派遣についての話し合いも無事に決まったらしい。

マリオロの中でも腕の立つ騎士団員を数名ユーランシーへ派遣するようだ。

その際にユーランシーの騎士団員の中でも同様に腕の立つ騎士団員をマリオロに派遣して欲しいと言われたみたいだ。

メアリー女王はそれに快く応じた。

マリオロには守恵者を1名送ると約束したみたいだ。

誰が送られるかは未定だがそれはユーランシーに戻ってから決めるらしい。

派遣期間は覚え次第ではあるがザブレーサもマリオロも大体2ヶ月ほど。

ユーランシーに帰ってからやることが沢山あり、また眠れなそうな日々が続くなぁとディシがため息をついていた。

そういえば、ユーランシーを出てからもう2週間ほど経つのだと思った。


(早くユーランシーのお酒の美味しい店で皆と飲みたいなぁ)


なんて思いながらベッドから出て立ち上がる。

ディシが 大丈夫か と心配して軽く支えてくれる。

まだ天恵は回復仕切っておらず手足に力は入りにくいが日常生活くらいなら何とかなるだろうと思った。


「そういえば…スーラは…?」


メアリー女王は暗い顔をする。


「スーラさんは…ザブレーサ内でお墓を作らせていただきました。

あの時、彼を守ってあげられなかった私の責任です。」


「メアリー女王はなんの非もありません!

私がそばにいながら、攻撃に気づけなかった。

すみません。」


「スーラは俺たちが責任をもって弔ってあげるべきです。

後でみんなでスーラの墓に行きましょう」


「そうですね」


ディシがそう言ったことで思い空気が少し軽くなる。


ひとまず今日はザブレーサに泊まり、明日私の体調次第ではザブレーサを発つと決まった。



その夜に私はディシの部屋を訪れる。

私の部屋を鏡で写したように部屋の構造が逆だった。


「どうした?」


「実は気になることがあって」


私はスーラの件についておかしい点があることに気がついた。


「スーラは森の中で毒に犯された状態で見つけたじゃん?

でも、よく考えたらおかしいと思うの。

だって、全く無関係の村の近くでなぜあそこにいるかを覚えてない状態で、毒が身体中に広がってたなんて。」


「確かに…。故郷の記憶は曖昧だがそれなりにあった。

だが、どうしてあんなところにいたのか…」


私とディシは頭を悩ませているとディシは何かに気が付いたかのように顔の血が引くような顔をする。

そして、怒りと残酷なものを見るかのよう顔を浮かべる。


「俺たちが、会ったスクリムシリ 末…天帝って毒を使ってたよな…」


私はその瞬間、血の気が引いた。

ディシが言いたいことが分かってしまった。

だけど、それなら、仮にそうだとしたら…そんな酷いことを…


「あいつはメアリー女王を見た瞬間、偶然会えたみたいな反応をしたが…もしそれが嘘でスーラに出会った時から全て計画通りだったとしたら…」


考えたくもなかった。

スーラは…天帝に利用され、毒を身体中に蔓延させられて、

挙句の果てに…スクリムシリを生ませるための…

私は怒りを通り越して恐怖していた。

なぜそんなに残酷なことを思いつくのか。

この予想が正しいのであれば…スーラの故郷はもう…


「恐らく、天帝がスタシア達に向けて放った地面からの急襲はスーラに向けて…そして、その攻撃に含まれている毒がスクリムシリになるトリガーだった…ということか」


全てが繋がった。

あの時、周辺には存在しない毒に感染していたスーラは全てあの天帝…ギャラリスという女に仕組まれてのこと。


(…絶対に許さない、あの女は絶対に殺す)


「スタシア…この事はメアリー女王には言わないでおこう。

これを知ったらメアリー女王はきっと酷く心を傷つける。」


「分かった」


心を落ち着かせてディシに返事をする。




翌日、ユーランシーへ出発する前にスーラの眠る霊園に来ていた。

スーラの墓石の前で膝をつき手を合わせる。


(必ず…君の仇は…君の無念は…私が必ず果たすから)


返事は当然ない。

しかし、私はスーラに託されたと強く心に刻み霊園を後にする。



「アダル王、何日も泊めて頂きありがとうございます。」


「いや、礼を言うのはこちらの方だ。

本当に助かった。騎士団派遣の件はまた手紙を出す。」


「分かりました。それでは失礼します」


来た時と同様にディシが馬車を操縦する。

私とメアリー女王が向かい合って座る。

会話は無かった。何故か寂しく感じるこの空間に私は心が痛くなっていた。


「ユーランシーに着いたらお願いしようと思っていたのですが、ユーランシーに戻ったら私に剣の指南をして頂けませんか?」


この沈黙をメアリー女王は予想外の発言で途絶えさせる。


「剣…ですか?それは、なぜですか?」


「今回の1件で身に染みて感じました…。私は自分の身1つ守れないただの足でまといなのだと。

スタシアさんやディシさんが戦っている時に何も出来ずに守られているだけで…悔しかったです。」


顔など見なくとも分かるほどに声色から悔しさが伝わってくる。

メアリー女王はスクリムシリの直接的な襲撃は初めてだった。

小さい頃に剣を扱おうとしても側近などに 怪我をしたらどうするのですか と注意を受けて、剣を触ることすらもさせて貰えなかったとディシから聞いたことがある。

しかし今回、自分で自分を守れるほどの実力を持っておくことがどれほど重要かを理解してこのような願いをしてきたみたいだった。

だが…


「メアリー女王はユーランシーを守る結界の要です。

メアリー女王にもしもの危険があったら、その時は私達 守恵者が命に代えてでもお守りします。

ですから、無理に剣を扱う必要はありませんよ」


メアリー女王はただでさえ忙しいお方だ。

それに加えて剣の訓練は身体的にもきついのでは無いかと気を使ってしまう。


「いえ、私はもう守られるだけの存在は嫌なんです。

スクリムシリとの戦闘の際に私を守るためにスタシアさんはディシさんの加勢を出来ずにいました。

そんなことはもうあって欲しくないです。

お願いします。剣を教えて頂けますか?」


メアリー女王が頭を下げる。


「頭をあげてください!!」


「良い返事を貰えるまであげられません。」


私はどうしようかと思っていた。

私自身、剣を教えられるほどの実力は無いのだが

ここで勝手に了承したらミリィノやアレルになんと言われるか…。


「俺が教えます。」


するとずっと黙っていたディシが喋り始めた。


「俺たちはメアリー女王が第一優先でありメアリー女王を護衛するのはもはや当然のことです。

仮にメアリー女王が自分を守れるほどの力を身につけたとしてもそれは変わらないと思います。

それでもよろしいですか?」


「はい!教えていただけるのなら」


ディシは ふっ と笑い言う。


「俺は厳しいですよ?」


「望むところです!」


メアリー女王は強く返事を返す。

その目からは強い決心が見えた。


「それでしたら私も時々お手伝いに行きます!」


「本当ですか?助かります!」


「お前来ても剣はその辺の犬くらいしか扱えないから意味ないだろ」


「あー!!ひど!!犬よりは使えるもん!!」


「犬よりはって…全く」


「何よその反応!ディシくんのばか!」


「ふふっ、スタシアさんには天恵の扱いなどを色々教えて貰いたいです!」


「もちろんです!ほら!私も行く意味あるじゃん!」


「ソウダナー」


揺れる馬車の中でしょうもない掛け合いをする。

少しだけ気持ちが楽になった気がする。





4日ほど経ち、ユーランシーに着いた。

民のみんなが出迎えてくれた。

思ったよりも長期になったため、みんな心配してくれていたようで予想以上のお出迎えだった。

ホールディングスに着くとミリィノとアレルも出迎えてくれた。


「やっとリラックス出来る!!」


「お疲れ様です!2人とも!ご無事で何よりです」


「スタシア、天恵を大きく使ったのか?ディシもだが天恵が減っている。」


「うん…色々あったの。今日さ!お酒飲も!色々話したいし!」


ザブレーサのことを改めて思い出し辛くなる。

必死の作り笑いをして明るく飲みに誘う。

きっと作り笑いをしていると気づいているだろう。

しかし、2人は何も聞かずに了承してくれる。


「ディシくんもだからね!」


「嘘だろ、俺めっちゃ眠いんだけど」


「お酒飲んだらもっとぐっすり寝られるよ!」


「はぁ、しょうがないな。」


私はガッツポーズする。

まだ時刻で言うと昼頃のため、夜までには時間があり屋敷に戻って休憩しようかなと考えていると


「そういえばヨーセルは?」


ディシがヨーセルの様態を聞く。

ミリィノは暗い顔をする。


「まだ、目を覚ましてないです…。天恵の消費が激しくて回復には時間がかかってるみたいなんです。

命に別状は無いんですがいつ起きるのかは分からない状態で…。」


「そうか…。」


ヨーセルは天恵を身につけてからまだ1ヶ月も経っていない。

回復に個人差はあるがそれ以前に体が天恵に完全に馴染んでいる訳では無い。

きっと目が覚める頃には体は天恵に馴染んでいるだろう。



私は屋敷に戻らずにディシと共にヨーセルの元に訪れる。

目を瞑って一切動かない。

メルバル総戦から既に2週間と少し。

無事とわかっていても心配になってしまう。

私はそっとヨーセルの手を握る。気のせいか、少し細くなっているように感じる。


「ヨーセル…起きてまた一緒にご飯食べよう。

ヨーセルに美味しい食べ物を教えてあげるの大好きなんだ。

食べた時のあの美味しそうな表情、また早く見たいよ」


私はヨーセルにそう声をかける。

返事は無い。


行こう とディシが私に言い、私とディシは部屋を出る。




夜になり、4人でご飯を食べながらお酒を飲む。

ザブレーサであったことを細かく話すとミリィノはもちろんのこと、アレルですら 気の毒だったな と言ってくれる。


「あのアレルさんが…そんな慰めの言葉を!?」


「お前俺をなんだと思っているんだよ」


そう突っ込まれてしまう。

実際、アレルがめちゃくちゃ優しいのは知っているが私が守恵者になったばかりの頃はめちゃくちゃ仲が悪く、よく喧嘩をしてはミリィノかディシに叱られてしまっていた。


「それにしても天帝ですか…。なんという 意思 だったんですか?」


「縛毒の意思…そう言っていたな。毒を操っていた。

俺と同じ短剣を2本使った戦い方であの剣に掠りでもしたら確実に死ぬ。

それほど強力な毒なのは確かだ」


「そいつはディシが前にスタシアを救った際に戦ったんだろ?その時は勝ったと聞いたが?」


「あの時の数段は強くなっていた。俺たちがザブレーサで戦ったスクリムシリ 破 の数倍は強かった。

街中でできる限り被害を出さないように気を使ってはいたとはいえあいつにですら手こずっていたから

正直今あの天帝と一対一をしても勝てるかは分からない」


「ディシさんがそこまで言うなら相当なんですね。」


「でも、それに関しては 意思 の相性にもよるよね。

その毒の天帝は聞いた感じアレルが相性良さそうだし」


「そうだな。スタシアみたいな理不尽な能力でも相性次第では何とかなるもんだからな。

現にスタシアとディシが戦ったら相打ちくらいにはなるだろうからな」


「確かにそうですね。その天帝もそうですが他の天帝が出現した際はしっかり情報交換をしておきましょう。適材適所ですね」


「うん!」


「それじゃあ、毎回恒例のお酒飲み対決しましょう!」


「おー!!」


「「えぇ…」」


盛り上がる私とミリィノを横目に明らかにテンションが下がる男性2人。

今回も負けるつもりは全くない!

ズルしてるけど…。


飲み対決が始まると周りのお客さんも応援してくれるからとても楽しくて大好きだったりする。


「ディシくん!勝負しよ!」


私はニコッと誘う一方でディシは本気で嫌な顔をする。

見ていただきありがとうございます!

1章はひとまずここで終わりです!

1〜2週間くらい間隔をあけてからまた2章を書いていこうと思うのでまたお願いします!

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