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天使とサイナス  作者: 七数
1章 【易】
13/56

12話 「水の王国」

夜が明けると同時に村を出発する。

木々の間から弱い光が差す。

ディシは結局一睡もすること無く世を明かし、

馬車を操縦してくれている。

私は結局、見張りをしているディシの横で寝てしまった。

起きた時に肩にもたれかかってしまっていたのだが

ディシは首が痛くないかを確認してくれた。

優しすぎませんかね。

迷惑をかけた立場で言うことでは無いが朝起きた瞬間からディシの匂いを嗅げてとても良い気分だ。

変態だな私…


少し道が荒い中、馬車を走らせているためガタガタと揺れる。

私の正面では、メアリー女王が座りながら姿勢よく眠っており、メアリー女王の膝を枕にスーラが眠っていた。

自分に自前の毛布をかけるのではなく眠っているスーラに掛けているところを見ると本当に面倒見が良い人なのだと思う。

昨日の時点で気がつけばスーラはメアリー女王に懐いていた。

元々子供が大好きなこともあり、完全に母性を働かせている。

子供と一緒に眠るメアリー女王は朝日に照らされていることもあって美しい。

メアリー女王と同じ歳になった時に私もこのように美しくなれているだろうか…


「揺れは大丈夫か?」


「うん!大丈夫」


出発をする前に今日の目的地の話し合いを軽くした。

メアリー女王は朝に弱く少し寝ぼけてはいたが、

会話はちゃんとできる程度だったため普通に始めた。

今日はできることなら山の麓を半分以上進みたい。

正直この時間に出たのなら山の反対側に行くのは容易いだろうが問題は馬達の疲労度合いだ。

ただでさえ荒い道のりなために足への負担も大きいだろうから休憩を少々多めに取るべきと判断した。


「途中に川がある。そこで休憩を挟もう」


「分かった!」


1番疲れているのはディシだろうに常に私たちの心配をしてくれている。

少しでも力になろうとしてもスクリムシリとの戦いの時でも分かる通りに私は身体能力が常人以下。

成人女性よりも無いかもしれない。

天恵の技術で何とか身体強化して、ディシについて行く時もあるが非効率なためにディシに無理しなくて良いと言われてしまったことがある。

天恵の上限は種族によって決まっているがため、技術が物を言うのだが、それでも無駄が多いと不利益(ディスアドバンテージ)になってしまう。


2時間ほど経っただろうか。

綺麗な水が流れる川がある場所に着いた。

見た感じ魚も泳いでいるし、とても綺麗な水だ。

山の方から流れてきた水だろうか…。

鉄で作られた小さめの水入れに川の水を汲む。


「川のお水は飲んでも大丈夫なのですか?」


すっかり目を覚ましたメアリー女王が水を汲む私に話しかけてくる。

その疑問はあって当然。川の水などなんの菌があるか分からないから飲むのは躊躇われるだろう。


「安心してください!汲む時に私が水の状態を人間が飲んでも問題無いように綺麗にしているので」


「そんな技術まであるのですね。知りませんでした」


「私もこういうことが出来るのを知った時には驚きましたよ!」


実際驚いたのは事実。

この 意思 を宿った時に使い道はいまいち分からなかった。

なぜこの 意思 が4つの意思の1つに選ばれるのか分からないくらい使い道がないと感じた。

だけど、万物の状態を自在に変えるというのは言い換えれば なんでも出来る という事だ。

石を消したければ、その石を目に見えないほどの

小ささまでにバラバラにすれば良いだけだ。

それは人間も同様。

この能力は危険すぎるから最初は嫌いだったが、

守恵者の皆と関わるうちにこの力は皆のために、そして皆と対等になれる唯一の手段という認識になれば自然と好きになっていった。

能力だけの若い小娘なんて自分と対等な立場として受け入れ難いはずなのに3人は私を受け入れてくれた。


「ん、どうした?なんでニヤついてる?」


「え、あ、いや!ニヤついてた?」


「ああ、初めて見たよ。今の顔」


「ちょっと嬉しい記憶を思い出しちゃっただけ!」


「まぁ、いいけど、そろそろ出発するから準備しといてくれ」


「分かった!」


(ニヤニヤしちゃってたんだ。恥ずかしいから気をつけないと…)



休憩を挟んでまだ馬車を走らせる。

その間はスーラのことについて色々聞いてみた。

ほとんどがあまり覚えていなかったらしいが、故郷のことを聞くと少し嬉しそうに話してくれる。


「色々な人がいてね!えっと…気さくなお兄ちゃんとか!あとは…水に入って泳ぎを見せてくれる人とか!変顔してくれるお姉ちゃんとかもいるの!」


「色々な人がいるんだね!お姉ちゃんも今度遊びに行ってもいい?」


「お姉ちゃん来てくれるの!?やったぁ!来て欲しい!」


「良かったですね!スーラさん」


「お姉さんは来ないの?」


「私ですか?私は…そうですね!私も今度訪れてみますね!」


「うん!」


メアリー女王は少々ぎこちない笑顔を取りながら言う。

メアリー女王の立場ではユーランシーからは重要なことが無い限り出ることが出来ず、仮に出ることが出来たとしても護衛が何人も着いてきてしまうため

何も気にせず楽しめることなんてほぼ不可能だろう。




「そういえば一つ気になっていた事があるのですが、今回の国王会議ではどの国の王達が集められたのですか?」


「今回は六ヶ国の国に招集がかけられました。

ユーランシー、ザブレーサ、カルメラ、マリオロ、

オロビアヌス、ヴェルファドの六ヶ国です。

この国の招集理由は恐らくですが、スクリムシリからの襲撃を受ける範囲にいる国と思われます。

今まではユーランシーのみがスクリムシリの対象となっていましたが、以前にマリオロが襲撃を受けたことで他国も危機感を覚えたのかもしれませんね」


中々のメンツと言ったら良いだろうか。

発展具合で言ったらユーランシーが下位争いをするくらいの豪華さだ。

いつもは九ヶ国が集まるのだが今回の会議は緊急だったこともあり、危険度の高い国を集められてようだ。

何を基準で集めたのかは分からない…。

これらの国の特徴を軽く確認しておこう。


ザブレーサ…水の王国とまで言われる程に水の面識も多く、国は巨大な湖に浮かんでいる。

国1つを丸々囲っている湖はそれはもう海なのではとか思ってしまうが湖らしい。


マリオロ…中心国家であり、1番重要視されている国。

大陸の中心部にあるがために商人や物資の輸出入が1番多いと言われている。

他の国はマリオロの王には頭が上がらないのだとか…。

スクリムシリからの被害度合いが気になるところだが…。


カルメラ…ユーランシーを除けば1番の武装国家。

人口が最も多くその分、騎士団の数も多い。

恐らくだがユーランシーの倍はいるだろう。

物資の輸出では大陸でトップである。


オロビアヌス…今回の会議に集まる国の中では

最長老国家でカルメラやマリオロができたのは当時のオロビアヌスの王が一国に経済圏を集中させるのは危険とみなしたかららしい。

私はあまり知らない国だ。


ヴェルファド…新建国国家。催しが多く、今や別名

娯楽国家とも呼ばれている。

その名の通り、娯楽の限りを集めたような国であり

冒険をするもの達にとっては楽園のような国らしい。

ユーランシーには無かったり数少ないお店が沢山あり、大陸全体から参加者を募る剣術大会もあるほどだ。

ユーランシーは参加はしたこともないしするつもりもない。



今回開催されるのはザブレーサ。

水の王国がどのようなものなのか少し気になっていたのでちょうど良い。



数時間ほど走っていただろうか。

合間合間で休憩は取りつつも、だいぶ馬車を走らせただろう。


「そろそろ今日の目的地につくよ」


「分かった。」


前方を見ると、村らしきものが見えてきた。




「着きました。少々村長とお話してくるので待っていてください」


「かしこまりました」


ディシが髭をもじゃもじゃに生やした杖をつくおじいさんに話しかける。

互いに笑顔が生まれているのを見ると顔見知りかなんかなのだろうか。

時々、ディシは本当に何者なんだろうってなる。


「空き家をお借りしました。馬車をそこまで移動させますね」


馬車が止まったのは恐らくこの村で1番豪華な家だろうか。

これが空き家?と思ったのだが恐らくだが客人が来た時用の家だろう。

よく見れば昨日泊まった村よりもこの村は栄えている。

客人がよく来るのかもしれない。




すっかり暗くなった頃、ディシは相変わらず家の前で見張りをしてくれている。

眠いはずなのに、疲れているはずなのに…

何かご褒美的なのをあげたいなと思いながら外にいるディシを見ていたら


「スタシアさん」


メアリー女王がいつの間に後ろにいた。


「ど、どうしました?」


「ディシさんの事、想っておられるのでしょう?」


「うっ…はい…」


「それでしたらこの旅がチャンスですよ!手始めに今からアピールしてみてはいかがですか?」


「アピールですか?」


「例えば…」


メアリー女王は私の耳に口を近づけて小さい声で話し始める。

メアリー女王から言われたことを脳で理解するのに数秒有した。

理解した途端に顔が暑くなるような感じがする。


「な、え、な、なに、え?」


動揺が隠せない。見張ってくれているディシくんにそのような事をして迷惑にならないだろうか?


「ご安心ください!今のは冗談ですから!」


ふふっ と笑いながら おやすみなさい とスーラと共にベッドに入るメアリー女王。


「じょ、冗談…?」


私はその場でポカーンとする。

良く考えれば冗談だということなんてすぐに分かるのに、無駄に慌てふためいたせいでメアリー女王に真に受けたと見られた。

恥ずかしすぎ…。


私は肩に暖かい小さめの毛布を羽織ながら外へ出る。

ディシの横に座る。


「今日は寝ておいた方がいいんじゃないか?」


「いや!今日は寝ないように頑張る!」


「なんでそこまで頑張るんだか…寝れば良いのに」


「ディシくんに申し訳ないじゃん…。寝てないのにずっと見張りも馬車の操縦もやってもらって。」


「気にするな。結命の意思 で何とかなってるから」


「そっか…」


嘘だ。

馬車の時も、見張っている時も、ご飯を食べる時も常に周囲を最大限に警戒しておりそれに加えて結命の意思 の常時使用。

疲れるなんてレベルをとっくに超えているはずだ。


「あんまり無理しないで欲しいな…ディシくん」


「…無理をしないと守れないものがあるから」


「なら…無理をしてもいいけど私を頼って欲しい」


「頼ってるさ。メアリー女王を1番安全な状態にいさせてあげられるのはスタシアがいるからなんだよ」


「…そっか」


やはり説得してもダメか…。

休んで欲しかったのだが、ディシは時々頑固な性格になる時があるからこうなってしまったらどうしようもない。


(やっぱりなにかお礼をしたいな)


そう考えた時にメアリー女王の言葉を思い出す。

私はディシの横で勝手に思い出して勝手に恥ずかしがる。

覚悟を決めよう。


「ディシくん…見て。今夜は月が綺麗だよ」


「…そうだな。届きそうなくらいに近く感じるな」


「…なら」


「スタシア?」


「今なら、届くかもしれないよ?」


やばい…ディシの顔を見れない。

月が綺麗ですね と殿方に言うというのは ある地域では

告白という意味らしい。

メアリー女王に先程教えてもらって初めて知った。

ディシくんの顔をチラッと見る。

月を見つめていた。

その表情は笑っているようで少し悲しそうな顔。


「本当に届けばいいな…。誰にも邪魔されない時に」


その言葉の意味は分からなかった。

ディシは前々から月が好きなことは知っていたから

きっと月に行ってみたいのかなとか思った。

やっぱり遠回しすぎて伝わらないよね…。

少し残念な気持ちになりながらも立ち上がろうとする。

もう一つ、メアリー女王に言われたことがある。


ここまで来たら最後までやってやるの精神で私はディシの横で膝を着く。

そして、ディシの頬に唇をそっと触れさせる。

ディシは正面を向いたまま驚いているようだった。


「おやすみ、ディシ」


私は、ディシを呼び捨てにするのは初めてだった。

家の中へと入り、ベッドに潜り込んで、枕に顔を突っ込む。

出来ればこのまま大声を出したかったが隣ではメアリー女王も寝ているため控える。


(忘れよう、それが一番だ、明日気まずくなるのが1番まずいから無かったことにしよう)


頭の中で呪文のように唱えながら私はベッドで目をつぶる。


(ふふっ…どうやら上手くいったみたいですねっ!)




(…しまった。少し気が抜けてしまった。

落ち着かせ…乱れるな。護衛を第1優先に考えろ。)




夜が明ける少し前に私は目を覚ます。

昨日のことを思い出す前にディシに話しかけに行く。


「よく寝れたか?」


「うん…ディシくん大丈夫?」


「大丈夫。2人を起こしてきてくれ。少し遅れ気味だから早めに着くようにしたい。」


「うん、分かった。」


ディシに目を合わせた瞬間に昨日のことがフラッシュバック。

平静を装いながらメアリー女王とスーラの元まで向かう。

2人を起こして、馬車に乗る。

この間の体感時間、2秒。


(やってしまった…後先考えないで行動するとこうなってしまう。

私としたことがとんでもない行動をしてしまった。)


仕方がないじゃん!好きが溢れたんだもん!とか

1人で言い訳をしていると馬車が動き出す。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ディシと微妙な距離感のまま3日が経つ。ユーランシーを出発して5日。

ザブレーサの目前で来ていた。

今回はどうやら遅れもせず早く来すぎもせずにピッタリに着きそうだった。

メルバル総戦もあった事でできる限りユーランシーで色々な事を終えてから来た。

既に湖は見えており、湖にはユーランシーほどではないが城壁が建っており入口らしき門までに巨大な石橋がかかっている。


「おっきい橋だね!すごーい!」


スーラが身を乗り出しながら見ている。

それを微笑みながら見つめるメアリー女王。

なんというか、この絵を何かに保存したい。

芸術としてユーランシー内でも飾ることが出来る気がするのだが。


石橋を渡り、門まで到着する。


「どこから?」


「国王会議のため、ユーランシーから」


「通れ」


門番の騎士団員は馬車の中を覗き、メアリー女王と目が合うと軽くお辞儀をしてすぐに通してくれる。



門が開くと、そこは本当に水の楽園のようだった。

中央にはホールディングス以上のでかい城

中央の城の周辺には川が流れており、その川が等間隔で半径を伸ばしながら広がっている。


「それぞれの区域で階級が決まっているのですよ」


私が景色を見ながら感心しているとメアリー女王が話し始める。


「中央の城・ミッド城を囲う川とその川を

さらに囲う川。ここでは第一川線(せんせん)と呼びますね。

第一川線とミッド城を囲う川の間にある土地は騎士団員や貴族などの位の高い市民が住みます。

第一川線と第二川線に挟まれている土地は剣や鎧、

食料などが売っていますね。

第二川線と第三川線では飲み屋だったり、第一と第二で働く人の家があったりしますよ。

階級ごとに分かれているという認識でも良いと思います」


なるほどな、と思った。

中央に近い土地ほど、その分ザブレーサ内での階級が高いのか。


「この川は少しの手入れでこんなにも綺麗なんですよ。なぜだと思いますか?」


「湖に囲われているから…とかですか?」


「不正解です!この国は基本的に寒い気候なので川の深くよりも表面の方が冷たくなってしまうみたいなんですよ。

その際に、冷たい水が川の深くへと行こうとする時に川のゴミだったりを下へ持っていくんです。

川底に付いた土地と土地を繋ぐ壁が歯車によって動き出して1周をして下に溜まったゴミを集めてくれるんです!あとはそれを回収するだけ。凄く便利ですよね!」


思った以上にユーランシーより発展していた。

水の王国なだけあって水を綺麗に保つということに特化しているように感じた。

川を渡る時は東西南北に付いている橋を渡る必要があるそうで貴族が住む土地に入る際は許可がいるのだとか。

私たちはもちろん許可を貰っているので渡ることが出来る。



そして、やっと着いた。

ザブレーサ中央城・ミッド

馬車を降りるとすぐに、騎士団数名が私たちに膝を着いて出迎えてくれる。

いや、私達というかメアリー女王に。


「遠いところから遥々と良くぞおいでくださいました。美しきメアリー女王。こちらへご案内致します」


「感謝いたします」


騎士団たちの後ろから、紺色の服の正装に身を包んだちょび髭を生やした男が話しかけてくる。


「あ、申し遅れましたね!カナックと申します。

以後お見知り置きを」


言葉遣いは丁寧なのだがどこか胡散臭い。

ひとまず着いていくと大きい扉を開き、中へと案内される。

案内された部屋は大きめの丸机が置かれており中心は穴が空いている。それぞれ等間隔に6つの椅子が置かれており、今回の会議の会場はここなのだとすぐに理解した。


長いようで短い、やっとここまで来た気がするようなあっという間のような。

スーラは別室で城のメイドさんが遊び相手になってくれるのだとか。

別れ際にメアリー女王がとても悲しい顔をしていた。


メアリー女王が一番乗りであり、席に座る。

私とディシは会議が始まるまでは椅子に座ってても良いとの事なのでメアリー女王の後方の壁にある椅子に座る。


他国とのスクリムシリの話し合いが今日初めて行われる。

スタシア大胆ですね。

ディシほどの仕事量なら自分は数日動けませんね


読んでいただきありがとうございます!

国の名前だったり、国の地形だったりを解説するのに少々ややこしい表現を使ってしまったと思うのですができる限り分かりやすく書いたのでご了承ください

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