表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使とサイナス  作者: 七数
1章 【易】
10/57

9話 「サイナス」

北西の方で明らかに見覚えのない天恵の力を感じた。

私は指揮を聖者の1人に任せて北北西の方に向かって本気で走り出す。

この天恵の力…なんとなく何者かの想像はついていた。

ディシとスタシアが遭遇したという人型のスクリムシリだと直感していた。

実際に遭遇したことがなかったし、どれほどの力を所有しているかなどは分からないが自分よりも経験が豊富なディシと守恵者の中だとダントツに強いスタシアが警戒する相手。

私は走るスピードをさらに加速させる。

北北西に着くと騎士団員がスクリムシリと激しく戦っていた。

怪我人は多くは無いがいることにいるようだ。

死者は分からない…数える余裕は無い。

北北西指揮官であるカルナに話しかける。


「カルナさん、大丈夫ですか?」


「ミリィノ様!?どうなさったのですか?」


「少々、感じたことの無い天恵がこちら側で感じ取れたので」


その言葉を聞き、カルナは驚いた顔をする。

天恵の感知範囲は聖者以上の実力者であれば超広範囲に感知できることが出来る。

だが、ミリィノが守っているのは北であり、北から北西の方までの天恵の流れを感知したということになる。


(普通に言っているが…化け物だ。)


「我々の配置にそのようなスクリムシリは現れてはいないと思われます!」


ミリィノは自分の気のせいなのかと思ったがあることに気づいた。

ヨーセルが居ない。

ヨーセルは北北西の配置と言っていたため今この場にいるはずなのだが姿が見えない。


「カルナさん!ヨーセルさんはどこにいますか!」


「ルシニエは北西側の小森林で護衛を指示していますが…」


私はそれを聞いて直ぐにその森林へと走り出す。




小森林内を走っていると拓けた場所があり、きっと元々はもっと小さい空間だったのだろうけど、

戦闘により木々が折れて空間が拡大されているようだった。

その拓けた場所の中心には血を流して倒れている人と首が切り落とされた 解 の力を持つであろう

スクリムシリの死体。


端の方に目をやるとディシから聞いていた特徴と合致する

容姿の人型スクリムシリがヨーセルの首を絞めあげていた。

その場で思いっきり踏み込み最大限のスピードを出し腰に着けている剣を抜き、ヨーセルの首を絞めている方の手を切断する。

危機一髪…ヨーセルは意識が朦朧としていた。

天恵もほぼ残っていない。

スクリムシリから離れた場所で、警戒しながらヨーセルに声をかける。

声は弱りきっていて、早く治療をしないといけない。

私は近くの木にヨーセルを寄りかからせながら座らせる。

ここまでの苛立ちは久々だった。

目の前の人間の形をしたゴミに対して隠すつもりもない殺意を向ける。


「許せない…。自分よりも弱い者を狙う…クソ野郎め」


今まで言ったことも無いような言葉遣い、敬語のクセを忘れてしまうほどに私は今、苛立ちを隠せていないのか。


両手を前に出し、剣韻の意思 によって普通に天恵で作る剣よりもより高い精度の剣を作り出す。


「ここからは私が相手だ」


「えーと、君はなんの意思なんダ」


「答えるわけが無いです」


「あー、そうだよネ。敵だからネ」


妙な雰囲気を感じる。

恐らくだがディシとスタシアが遭遇した時よりも一段と強くなっている。

ディシはまだあの人型は成長途中と言っていた。

だとするならば目の前にいる人型はディシたちが言っていた能力以外にも何か隠しているかもしれない。

先程切断した腕はもう再生されている。

再生する速度は特別早くは無い。


右足を前に出して地面を思いっきり蹴る。

一瞬で人型との距離を縮める、30センチも無いほど。

首に向けて剣を振る…が、反応をして避けられる。


「残念だったネ…スピードだけでは僕は…」


スクリムシリが話しているとヤツの首が3分の1ほど深さまで裂ける。


「驚いたナ、確実に避けたと思ったの二、君守恵者の中なら最速でショ。剣の振り見えなかったヨ」


驚いたのはミリィノも同様だった。

スピードには自信があり、初見で私のスピードの攻撃を避けられるのは他の守恵者でも無理だ。

喋り方といい、一々目の前のスクリムシリは癪に障る。


「んまぁ、攻撃のレパートリーで言ったらこちらの方が多いと思うヨ」


人型は右手の人差し指の先をこちらに向ける。

指先が第1関節辺りまで裂けると、血をダラダラと垂らす。

その血が60センチ程の長さで鋭く固まり、指からその血の武器を引っこ抜く。


「次はこちらが攻撃するゾ」


血の武器は宙に浮かぶと素早く回転を始め、放たれる。

私は、剣で叩き切ろうとするが直感でこの攻撃を流してはダメだと思い回避をとる。

血の武器は私を通り過ぎて木に当たった瞬間、血は大きく広がり木を全方向から刺す。


「あー、これ避けるんダ。危機管理能力というものかナ?やはり守恵者はすごいネ」


(今の攻撃、もし剣で叩き切ろうとしていたら私は全身穴だらけだった…。これがヤツの能力ならば聞いていた以上に厄介だ。)


ほぼ強制的に回避行動を余儀なくされる攻撃は戦いづらく、待ちの姿勢だと消耗戦になってしまう。

ならば…


(詰めて叩くのみ!)


足を天恵で強化し、先ほど以上の速さで間合いを詰め剣を振るう。

人型は驚いたことにこの速さでも反応を見せ、回避をしようとする。

だが私の攻撃の方が早く、腕を切断し追撃を加える。


(この速さにもついてくるのか、それにどんどん動きが早くなっている。適応する力もあるということか。

ならば、適応される前に勝負をつけるまで!)


「『同調』」


剣韻の意思

意志『同調』

・剣韻の意思によって構築した剣自体に自身の考えや動きを流し込み極限の速さを生み出す。

敵の攻撃にも剣が反応をし防御の動きを取る。


「さらにスピードが上がっタ」


スクリムシリは私の剣を防ごうと動き出すが、その動きは既に遅すぎた。

スクリムシリの胴体は半分に分かれる。

下半身は立ったまま、上半身が床に落下する。


私は後ろを向き、もう一度構える。


「残念だネ、スクリムシリや君達みたいな実力者の場合は殺すためには脳を潰すか心臓を破壊するかしないと死なないって分かっているだロ?」


スクリムシリは地面に落ちた上半身の切断面が立ったままの下半身の切断面へと伸びていき、再生が行われる。

上半身と下半身がくっついただけで切断された箇所の治癒はまだ時間を要するようだ。

ならば、治癒される前に殺す


私は先程と同様に強く踏み込み瞬きの合間に間合いを詰める。


「あー、それはもういいヨ。もうわかったかラ」


「なっ!!!」


予想外以外のなんでもなかった。

今度はこの速さに簡単に反応をしてきて剣を手で止めた。

このスピードに2度目ですぐに適応されるなどとは思ってもいなかった。

剣を止められ、完全に不意をつかれる。

人型は身体の中心部分が避けて歯がついた口のようなものが現れる。

そこに天恵を集中させて、ド近距離で私はそれをもろに喰らう。

ド近距離で喰らったことによってものすごい勢いで後ろに吹き飛ばされて何本もの木にぶつかっても勢いが収まらなかった。


私は1本の大木の木にもたれ掛かりながら座る。

頭から血が流れ、肋も1本折れただろうか。


「さすがは守恵者ダ。瞬時に全身を天恵で強化したカ。

致命傷になりうる攻撃を最小限に抑えたナ。だが、満身創痍なのは変わらなイ。

人間はスクリムシリよりも治癒に時間がかかるからナ。」


(意識が…、ヨーセルさんは無事かな、まずい、このままだと殺される。

ディシさんの言う通り、普通の 破 よりも格段に強い。

最悪、ヨーセルさんだけでも…)


意識が失いかける中である景色が脳裏に浮かぶ。

アレルと飲みに行った時?

なんで、死にかけの時にアレルを思い出すのだろうか…。





「ミリィノ…もっと自分を大切にすべきだぞ」


「どうしたの?突然」


「最近のお前は疲れが溜まっているように見える。

立場に甘えることなく働くのはいいことだが、詰め込みすぎるのは逆効果だと理解しろ」


「アレルはよく気づきますね。でも、ご心配ならないでください。私も私なりに息抜きなどはしていますから」


あぁ、この時か…。過去のメルバル総戦の前に飲みに付き合ってもらった時に言われたことだ。

なぜだか、この時の会話を今でも鮮明に思い出してしまう。

ただ、アレルが私の心配をしてくれているだけなのに。


「お前が嘘をつく時のわかりやすい作り笑いはクセか?誰にでも敬語を使うクセ以外にもあったんだな」


「そんな所まで気づくなんて、さすがアレルだね。私も本当はこのクセ直したいんだ…。

こう見えて私も年相応の女の子じゃん?

もっと可愛くありたいしさ!」


「はぁ…ミリィノ、お前は充分可愛いぞ。」


「え?」


「だから、そんなお前の無理をしている姿は見たくない。

こうやって時々、飲みに付き合ってやるから愚痴でも何でも吐き出してくれ」


先程の言葉の真意は分からない。

だが、私は今まで剣しか握ってこなかった。

同じ歳の子達が公園で笑いながら遊び、家族とご飯を食べている時も、私は剣を握っていた。

女の子らしさだって、捨てるつもりだった。

だけど、どうしても捨てられなかった。羨ましかった。

可愛くありたいと思った…。

そんな時にアレルは 充分可愛い と言ってくれた。

アレルにとっては同情や慰めに過ぎないかもしれないが私にとってはとてつもなく嬉しかった。

初めて女性として見られたような気がした。


女性は剣を握ってはいけない。そんなみんなの固定概念を振り払ってでも剣を振り続けた。

そんな私に家での居場所なんて無かった。

帰る場所なんて無いに等しかった。

けど騎士団に入団し、変わらず努力を続け、守恵者になった時に温かさを感じた。

ここが私の家なんだと。


(私には…帰る場所がある)





ミリィノが吹き飛ばされた…直撃だった。

いくらミリィノでも無傷では無いはずだ。

私が、少しでもあいつの注意を引かないと…少しでも。

木を支えにしながらフラフラと立ち上がり、

折れた剣を持ってミリィノ達の方へと歩き始めるが身体が限界を迎えていた。

その場でうつ伏せに倒れる。

折れてない腕で必死に這いながらミリィノの方へと向かう。



ミリィノが飛んで行った方向を見ると、スクリムシリが木に寄り掛るミリィノに近づいていた。


「ミリィノさんっ!起きて!」





「帰る…場所が、ある」


「うン?あぁ、土に還してあげるネ…え、立ち上がるノ?肋折れてるよネ?痛くないノ?」


まだ立ちくらみがする、手足に力が入りずらい。

だけど、そんなものは諦めていい理由にはならない。


「私は!剣韻の意思者 カウセル・ミリィノだ!!」


私は心臓と脳に天恵を高速で循環させる。

体温が上がり、脳が熱くなる。

五感が研ぎ澄まされる。


「サイナス・『閃天(せんてん)の雫』」


剣身の持ち手の方から先端にかけて剣の側面に折れた左手腕の指先を添えながら滑らす。


ミリィノとスクリムシリは木々に囲まれた場所にいたはずがいつの間に白と黒の空間に隔離されていた。

その空間は無限に続くようですぐそこに壁があるようなそんな感覚になる。

上下の感覚が無く、バランスを保てずスクリムシリはその場で尻もちをつく。

しかし、ミリィノはバランスを崩すことなく立っている。

この空間を生み出したのはミリィノであり、上下の感覚はミリィノ以外の者に反映されるようだった。

スクリムシリはこの空間では不利であり、早くここから抜け出さなければと天恵の攻撃を放つが消失する。


「この場では、天恵は身体強化のみでしか使えない。

これは私の サイナス 。強制的に1対1の状況を作り出し、この空間に入った者は私を除いて上下の感覚を失う。

なにより、この空間はどちらかが死ぬまで解けることの無い。

さぁ、決着をつけます」


人型から先程の余裕とは違い焦りが感じられる。


「私ハ!あの方の命令を遂行しなければならなイッ!!!!」


なんとも天晴れだった。上下の感覚が失っているはずなのにスクリムシリは サイナス を使う前の私と同等の速さで私との距離を詰める。

剣に変形させた右手を振りあげて私に攻撃をしようとする。

だが、私は先程よりもより早く、鋭く、不可避な剣技をスクリムシリに振るう。

私とスクリムシリの背中は向き合った状態のまま制止、スクリムシリは武器を振り下ろす途中で動きが止まっており、私は自身の作り出した剣を拳で握りながら消失させる。


「アレル…確かに私は無理をしているのかもしれません。

無理をするのがクセになっているのかもしれないです。

けど…無理をしようと思えるのは貴方みたいな人がいるからなんですよ」


空間が解除されて元のいた場所へと戻ってくる。

私がヨーセルの方へと歩き始めたと同時にスクリムシリは骨すら残らないほど細かく消し飛ぶ。


「はやく、ヨーセルさんの手当をっ、」





いきなり黒い空間が現れてミリィノとスクリムシリを閉じ込めた。

しかしその黒い空間は少し経ったら消えて、スクリムシリが剣を振り下ろすところで静止した状態だった。

ミリィノがこちら側に歩き出すと同時に木端微塵に弾け飛び、

スクリムシリがいた場所には血のみが飛び散っていた。


ミリィノが駆け足で私のところまで来る。


「ヨーセルさん、大丈夫ですか?」


「は、はい…それよりミリィノさん。血が」


「私の事なんて良いんです。それより、ヨーセルさんのお怪我の方が酷いんですから。」


「スクリムシリは…」


「殺しました。ひとまず、ヨーセルさんは北の方からユーランシー内へと送ります。この怪我ではどの道戦線復帰は不可能です」


「ミリィノさんは…?」


「私は、北西の方へ向かいます。あのスクリムシリは北西側から来たと思うので様子を見に行ってきます。」


「ミリィノさんっ、ホルトーを…ホルトーが、」


私たちのそばには心臓部分に穴が空いたホルトーがいた。

死んでいる。


「…今は運べません。ヨーセルさんを一刻も早く治療するために置いていきます。」


無慈悲と思ったが最善の選択。ミリィノだってこの選択をするのは苦しいはずだった。

だが、上に立つ者に求められるのはいつでも最善の選択。

私が立ち上がろうとすると急に意識が飛ぶ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目を覚ますと白い天井。どのくらい眠ったのか…。

気を失う前の記憶は曖昧だ…。

私が部屋の辺りを見渡すとドアの前に女性が立っていた。

その女性は驚いた顔をして部屋を出ていく。

数分後、部屋のドアが勢いよく開けられてディシが入ってくる。


「はぁ、はぁ、ヨーセル!良かったぁ!」


噛みしめるように安堵のセリフを言う。

そこまで心配させるようなことをしただろうか。


「ディシ…さん。ミリィノさん、は?」


「起きて直ぐに他人の心配とは、ヨーセルらしいね。大丈夫だよ。ミリィノはヨーセルが意識を失って運んでる時に既に天恵で治癒をしていたからメルバル総戦が終わる頃には完治していたよ。」


「そうですか…良かった。」


「ヨーセル。よく聞いてくれ。君は1ヶ月眠っていたんだ。脳のダメージが激しく、体もボロボロ。

肋は5本と右腕が折れていた。天恵も無くなりかけていて一時は死ぬかもしれなかった」


「どうして、生き残れたんですか?」


「体の損傷はスタシアが治してくれた。天恵の回復は元の量までの回復には個人差がある。

今回、ヨーセルは気を失っていたから天恵の回復もその分遅かったんだ。」


「そうだったんですね、、私…人型のヤツに出会って、ミリィノさんが来なかったら死んでいました…」


「あぁ、全部聞いた。よく頑張った…よく生きててくれた!本当に…」


ディシは私の状態を確認した後、私がもう一度眠るまでそばに居てくれた。

詳しいことは私がある程度回復してから説明すると言われたため、ゆっくりと治療を受ける。

こうして寝っ転がっているだけでも筋力などが下がったのが分かる。


「ホルトー…ごめんなさい、、」


ホルトーに対して申し訳ない気持ちが溢れる。

ユーランシーに来て、人を守る側になったのに結局目の前で殺されてしまった。

私が未熟なばかりに犠牲者が出てしまった。

悔しかった。

私は、目から一筋涙が零れる。

初の任務であるメルバル総戦が終わりましたね。

ホルトーがいい人だったので悲しい。


読んで頂きありがとうございます!

キャラの考えていることなどの切り替えの際や能力の解説の際の切り替え時には行を3、4行開けるようにしているのでご理解お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ