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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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098 王都の冒険者ギルドへ


 軽く放心していたお兄様は、扉が叩かれる音を聞いて居住まいを正しました。それから立ち上がり、扉の外へ話を聞きに行きます。

 すぐに戻り、わたし達に伝えてくださいました。


「エミリア、イザヤくん。王都に入る前に行った魔獣討伐で、王都の冒険者ギルドから呼び出しがかかっているようだ」

「えっ、何でしょうか」

「たぶん、大量に討伐したことの報告とか成績加算とかかな。あそこに冒険者がたくさんいたし、他の人から話が行ったんだと思う」

「なるほど。イザヤ様の貢献が認められたということですね」

「いや、おれよりもエミリアの方でしょ。一掃できるのに、他の人に配慮しておれの補助に回ってくれたじゃない」


 わたし達の話を聞き、もうお兄様は驚かなくなりました。

 わたし一人で一掃できるとイザヤ様が断言したからでしょうか。少し、遠くを見ているような気がします。


「エミリア。どれくらい時間がかかるかわからないが、食事も用意するように伝えておく。夜はおれの家で過ごしなさい」

「はい。お兄様、ありがとうございます」


 では冒険者ギルドに行ってきますとお兄様に伝え、外で待っていた補佐係兼庭師の逞しい体つきの殿方に玄関まで送っていただきます。

 王都の冒険者ギルドの場所はイザヤ様がご存じのようで、案内をお願いしました。



 白壁が続く街中で、煉瓦造りの冒険者ギルドは目立ちます。王都の外れにありましたが場所さえ覚えておけば、もう迷わないでしょう。

 今、ギルド長様はイザヤ様の冒険者等級を下げたことも罪の一つとして捕まってしまっています。イザヤ様が行っても大丈夫でしょうか。

 罪の内容として考えれば、イザヤ様は被害者扱いとなるかもしれません。


 わたし達は念のためローブを被り直し、冒険者ギルドへ入ります。

 その瞬間、わたし達にいくつもの視線が注がれました。


「……イザヤ様。ものすごく注目されているような気がするのですが」

「そうだね。忌避というよりかは、好奇心というような感じがするけど」


 イザヤ様と小声で話しつつ、周囲の冒険者の方々の様子を確認します。

 こうしてギルド内で注目される感覚は、なんだか久しぶりのような気がしますね。

 ラゴサの冒険者ギルドへ初めて行ったとき。わたしの攻撃力値がぽーんと跳ね上がったとき。それ以来でしょうか。

 イザヤ様と受付に行こうとしたとき、一人の冒険者様が近づいてきました。


「あ、あのっ!」


 勇気を出して話しかけてくださったのでしょう。殿方はガクガクと震えながら、手を差し出しています。

 なるほど、わかりました。

 イザヤ様は英雄様です。英雄様と握手をしたいということですね。


 わたしが推測を立てていると、イザヤ様がまるでわたしを守るかのように前に出ます。


「何?」

「あっ、いえっ……」


 イザヤ様に睨まれた殿方は、ビクッと盛大に体を震わせます。

 イザヤ様は今、血流を操作して高い攻撃力を抑えたままだと思いますが、何をそんなに怖がっているのでしょうか。

 イザヤ様の戦闘力はずば抜けていますからね。もしこの殿方があの現場にいたのなら、尊敬を通り越して畏怖の念を抱いていてもおかしくはありません。

 イザヤ様が慕われることは、とても喜ばしいことです。さすが師匠だと、弟子のわたしが鼻高々に自慢したくなりました。


 ここは、わたしが橋渡しをしましょう。

 そう思い、イザヤ様の後ろから前に出ようとしました。しかしイザヤ様が手を出し、わたしの動きを止められてしまいます。


「さっさと用件を言ってほしいんだけど」

「は、はいっ! オレ、駆け出しの冒険者なんすけどっ、漆黒の旋風さんと握手したくてっ」

「漆黒の旋風?」


 イザヤ様が疑問に思っている間に、他の方々も我も我もとわたし達の周囲に集まってきました。

 比率としては殿方の方が多いですが、女性も混じっています。その女性冒険者の方が男性に押し潰されそうになっていて、助けようと手を伸ばしました。

 その手を殿方に取られてしまった、瞬間。


「「「「「っ」」」」」


 イザヤ様の血流の操作によって、ギルド内が地獄絵図となってしまいました。

 わたしとイザヤ様以外、全ての方々が気絶し、粗相をしてしまっています。


「イザヤ様。わたしは手を取られただけですよ? なぜこのようなことにを?」

「ごめん……」


 イザヤ様が、シュンとなって肩を落としています。何だかそのお姿に、垂れた耳と尻尾が見えるような。

 いえ、イザヤ様は人間なのでそれはわたしの見間違いですね。そう思うのですが、一度見えてしまうと、目を拭っても見えてしまいます。

 落ち込んでいる様子のイザヤ様の頭へ、手を伸ばしました。


「イザヤ様はわたしを守ろうと思ってくださったのですよね? ありがとうございました」

「いや、守るというか……」


 イザヤ様が、少し気まずそうに鼻を掻きます。そんな仕草ですら可愛らしく見えてしまいました。


「ひとまず、この地獄絵図を解消しましょう」


 わたしは冒険者ギルドの床に指先を置き、<修復>をかけます。これで床も冒険者様方の服も元通りです。

 次に、<治癒>もかけます。これでこの状態から脱することができるでしょう。


 少し待つと、冒険者様方が体を起こし始めました。意識を取り戻す速さは、冒険者様方の強さの差でしょうか。

 冒険者様方はイザヤ様やわたしを見て、小さな悲鳴を上げて壁の方へ逃げてしまいました。

 そんな中、最初にお声をかけてくださった方はわたしから離れません。よほど、純粋なお気持ちがあるのでしょう。


「あ、あの、漆黒の旋風様! どうか、一度だけで良いので、握手をしてくださいませんか!」


 少々口調が変わったように思うのは、<治癒>による人格変化でしょうか。

 殿方の発言を聞き、他の方々も瞳に輝きを取り戻したようです。遠巻きにしながらも、期待するようなお顔をされています。


「イザヤ様……」

「ん、まあ……惨劇を繰り返すよりかは、良いかな?」

「ありがとうございます」


 ギルド長様を救出するため、時間はあまり取れません。ですが、先程のような地獄絵図を繰り返さないためにも、求められていることをやってからにしましょう。

 イザヤ様の主導のもと、わたしの握手会が急遽開催されることになりました。

 握手をしたい方々はたくさんいて、冒険者ギルドの外にまでその列が続いています。その中には、ギルド職員の方も何人かいらっしゃいました。


 流れるような作業になってしまった、握手会。それが解散になる頃にはすっかり日も暮れてしまっていました。

 イザヤ様がお隣にいたおかげで、つつがなく終わった握手会の後。

 わたし達は王都のギルド長ハンネス様の部屋に呼ばれていました。ホクホクとしたお顔をされているハンネス様のお手元には、わたしのサイン――というか何というか、漆黒の旋風と書かれた台紙があります。


 台紙を机に置いたハンネス様は、見たことのある魔術道具に手をかけました。

 そして、告げます。

 わたしとイザヤ様の、冒険者等級の変化を。




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