096 ギルド長様のためにできること
明後日、ギルド長様は公開処刑とされてしまいます。その前に、どうにかしてギルド長を救い出さないといけません。
「イザヤ様。処刑を止めることはできないでしょうか」
「難しいよね。一応、事実として罪状に嘘はないから」
「んんん……やはり、情報を得たというよりも大きな印象を与える、わたしがテイマーだと明かすしか」
「それは駄目だ! チェリニさんとエミリアを比べるわけじゃないけど、エミリアを失いたくない」
「王家としてはわたしを手元に置きたいと考えると思うので、わたしが死ぬことはないと思います。だったら、命の危機が迫るギルド長様を助けるために動いた方が……」
「駄目だ。絶対に」
イザヤ様からは、頑として譲らない気持ちが窺えます。
ギルド長様を助けなければいけないのに、わたしは無慈悲な人間ですね。イザヤ様がわたしを失いたくないというお気持ちに、思わず笑みがこぼれます。
イザヤ様が真剣に、ギルド長様のことを考えていらしゃるというのに、わたしは。
軽く頬を叩いて正気に戻り、これからのことをさらに話そうとしたとき。
ケンデルお兄様が入ってきました。
「エミリア。魔術師長から話を聞いた。数日王都にいるんだろう? 寝る場所はどうする?」
「そうですね……このお部屋は使って良いと言われております。ここで天幕を張っても良いと思うのですが、イザヤ様はどう思いますか」
「確かに。いつもみたいに下が地面じゃないから体が痛くなるかもしれないけど、あまり移動時間を割きたくないもんね」
イザヤ様と相談していると、お兄様が信じられないことを聞いたと仰っているかのようなお顔になっていました。
「……エミリア。もう一度聞く。イザヤくんとは、別に将来を誓った仲ではないんだな?」
「そ、そうです。イザヤ様はわたしの師匠。イザヤ様には一途に」
「いや、それはいい」
イザヤ様の名誉のためにもきちんと訂正しておこうと思ったのに、頭を抱えたお兄様に止められてしまいました。
「……妹は少々、世間知らずなようだ。イザヤくんから説明してもらえるだろうか。普段、エミリアとはどんな風に夜を明かす?」
「はい。そ、それは……」
「イザヤ様? なぜ口ごもるのでしょうか。お兄様が知りたいとあれば、実際に見ていただけば良いと思うのです」
「エ、エミリア、ちょっと待って!!」
イザヤ様の躊躇いがわからず、わたしはイザヤ様の斜めがけ鞄から天幕を取り出します。そしてパパッと設営完了しました。
「お兄様。これが普段わたし達が寝ている、天幕、です……?」
天幕から振り返ると、イザヤ様はお兄様の様子を窺いながら戦慄していました。
そしてお兄様は、無言でわたしの手を引き部屋の隅へ移動しようとします。わたしは慌ててイザヤ様の手を取りました。
「エミリア。なぜイザヤくんの手を掴んだ」
「イザヤ様と離れてはいけないからです」
「エミリア?」
少し前まで、離れても大丈夫だったのです。お兄様が不審がるのも無理はありません。
わたしがイザヤ様を見ると、神妙な面持ちで頷いてくださいました。
「お兄様。今後の仕事がしづらくなってしまうと思いますが、聞いてください」
わたしはイザヤ様と一緒に、ドニー様からに仕掛けられている罠について伝えました。
話を聞いたお兄様は、長椅子に座り込んでしまっています。
わたしとイザヤ様は、反対側の長椅子に座りました。
「……エミリア。お前の話に嘘はないと感じたが、確かめさせてもらっていいか」
「何をでしょうか」
「人間性に難ありまくりの魔術師長が、心の底から腐った人間かどうか」
お兄様の意見に肯定も否定もせず、苦笑という対応をしておきました。
その後お兄様は、風属性魔法の気配探知を行います。少し驚いたようなお顔をされていましたが、お兄様曰く、わたしとイザヤ様の首を繋ぐように、鎖のような形をした術が施されているとのこと。
「……解除方法は?」
「ドニー様が命を落とすか、もしくはドニー様の性格を考えたらわかる方法だそうです」
「あんの糞上司……エミリアに何をしてくれるんだ」
「お兄様。言葉遣いが乱暴になっています」
「知ったことか。あいつ、自分がしたい研究だけして魔術師長としての仕事を全部丸投げしてくるんだ。それだけならまだしも、自分の欲望のためにエミリアを拘束するとは」
さすがに人殺しは駄目だろうと、お兄様が真剣な面持ちで悩んでいらっしゃいます。
「お兄様とはそれほど接点がなかったように思います。どうしてそこまで悩んでくださるのでしょうか」
「どうしてって、お前が妹だからだろ」
「えっ……ですが……」
「確かに接点はないが、妹を守るのは兄として当たり前だろ。なぜ不思議がる」
「あ、いえ、それは……」
長兄のセインお兄様はエレノラに甘いです。両親もエレノラばかり目をかけていたので、まさかわたしのことを考えてくれているとは思ってもいませんでした。
わたしが実家でのことを思い出したとわかったのでしょうか。お兄様はわたしの頭をポンと撫でてくださいます。
「お前が産まれたとき、その見た目が不思議で興味を持った。それを追求して今の立場になったからな。実家にいた頃は考察ばかりで構ってもいなかった。お前が不思議がるのも無理はないか」
わたしの頭の上から手をどかしたお兄様は、イザヤ様とわたしを見ます。
「二人が離れられないのはわかった。残念ながら、あの糞が魔術師長なのは類い希なる魔力を持つからだ。仕掛けられた術は、あいつよりも高い魔力値でないと無効化できない。すまない、エミリア。助けたいとは思うが、おれの魔力じゃあいつの足下にも及ばない」
「あの、ちなみにドニー様の魔力値はどれくらいかわかりますか」
お兄様曰く、魔塔では根を詰めすぎる魔術師の健康のため、年に一度様々な検査を行うようです。
その検査は、決まって年が明けてから。今年はまだされていないそうですが、去年の数値は。
「聞いて驚くなよ? あいつの魔力値は、脅威の100万だ」
「「100万……」」
イザヤ様と、思わず声が重なってしまいました。
四桁に到達すればすごいと言われるステータス値が100万ならば、確かに驚異的でしょう。ですが、それぐらいの数値ならば簡単に越えられます。
実際、わたしの今のステータス値が100万なので。
わたしとイザヤ様にとってはむしろ聞きなじみのある数値です。なので驚かなかったのですが、そんなわたし達の反応を見たお兄様が驚いています。
「あの、お兄様。先程高い魔力値であれば無効化できるということでしたが、それはどれくらい高ければ実効可能なのでしょうか」
「……エミリア、落ち着け。良いか? 100じゃないぞ? 100万だぞ?」
恐らく、お兄様の反応が普通なのでしょう。
わたしはイザヤ様を見ます。首を振られましたが、諦めずに見続けました。
イザヤ様は上を見上げた後、頭を抱えます。
「どうした、イザヤくん。驚きが遅れてやってきたか」
「……エミリア。やっぱり駄目だよ。お兄さんを巻きこんじゃいけない」
「巻きこむ? あの糞に執着されている以外で、まだ何かあるのか」
「そう、ですよね。せっかく副魔術師長という立場になったお兄様を巻きこむわけにはいきませんね」
わたしはイザヤ様の手を持って立ち上がり、移動しようとしました。
しかし、中途半端に聞かされれば気になってしまうのが人の性。よく考えればわかるのに、口に出してしまいました。
なるほど。こんなときに<念話>を使うのですね。
現実逃避をしようとしましたが、お兄様はそれを許してはくれませんでした。




