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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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093 自由奔放なドニー様。

かなり長めの文章量となってしまいました。


「すごいねえ、エミリアは。地属性の魔法も使えるんだ」

「ドニー様……なぜ、こちらに」

「なぜって、酷いなあ。魔獣が出たから来たのに」

「ドニーさんは、冒険者じゃない。別に、魔獣が出たからといって討伐する義理は」

「ぼくがいつ、討伐するために来たって言った?」


 ドニー様は、ニンマリと笑います。

 そのお顔を見た瞬間、今の騒動がドニー様の仕業だとわかりました。


「ドニー様!? もしあの大量の魔獣が討伐されなかったらどうするつもりだったんですか!?」

「まあ、その時はその時かな。でも、間に合ったでしょ?」

「それは、そうですけどもっ」

「怒らないでよ、エミリア。楽しい楽しい実験の最中だよ?」


 実験。不穏な響きです。

 何をされているのか問いつめようとすると、ドニー様がわたしのすぐ横に降りてきました。

 イザヤ様が戦闘態勢を取りますが、ドニー様が起こした強風で飛ばされてしまいます。

 忘れがちですが、ドニー様は風と地の魔術師。魔法使いよりも上位の存在です。

 そんな方に逆らってしまっては、イザヤ様も不意打ちされてしまいます。


「エミリア。ぼくの実験に付き合ってよ」

「……それは、わたしに拒否権はあるのでしょうか」

「あっは。良いね、エミリア。頭が回るのは良いことだよ!」


 飛ばされたイザヤ様が戻って来ました。

 そしてわたし達は、ドニー様の後に続くように言われます。

 わたし達は多くの冒険者に見送られながら、王都の門をくぐりました。


 アラバスという国の名前の元となっている、半透明の白壁。その建材は国の全土で取れますが、主に使われているのは王都です。

 光を反射する白壁は、重ねていくと不透明になっていきます。磨いて薄くすると鏡のように使えると、以前淑女教育で学びました。


 光の当たり方、重ね方によって色味の違う白壁の街の中、ドニー様についていきます。

 王都の外周を行くように進み、広い敷地がある場所へ着きました。

 広い庭のような地面と、その中央にある十階建てのような塔。おどろおどろしいように見えてしまうのは、外壁にヒビが入っているからでしょうか。それとも、蔦が這っている壁があるからでしょうか。

 もしくは、わたしのことがばれたら監禁されて研究材料にされるかもしれないと、事前に聞いていたからでしょうか。


「ようこそ、魔塔へ!」


 活き活きとした笑顔を見せるドニー様は、意気揚々と魔塔の中へ入っていきます。

 ドニー様は魔術師長のため部屋は自由に選べるようで、一階の入口から一番近い場所に自室があるようです。


「エミリアとイザヤ君は何を飲む? 紅茶で良いかな」

「……お構いなく」

「構うに決まってるじゃん? 特に、エミリアは」


 ドニー様はニマっと笑うと、一瞬だけイザヤ様を見て指を弾くような仕草を見せます。


「ちょっと紅茶を頼んでくるねー」


 ドニー様は上機嫌で部屋を出ていきました。

 ドニー様の魔力は高いですが、属性は風と地。恐らく、普段はお茶を飲まないのでしょう。普段から飲むのなら、魔術道具もあるでしょうから。


「……今なら、抜け出せるよ」

「いいえ、ダメです。そんなことをしたら、イザヤ様が」

「おれが?」

「あ、いえ、えっと……」


 確証もないことをイザヤ様に伝えても良いのかどうか。

 考え、むしろなぜ確証がないのに恐れているのかと思いいたります。

 わたしは今、鳥型友獣(ペリカ)のスキル<気配探知:対空気中>を使えるのです。ドニー様がいない今、確かめる絶好の機会では。


 イザヤ様周囲に限定して魔力を探知できたら、それはイザヤ様にドニー様の術が仕掛けられているということです。

 ですが、もし仕掛けられていたらどうしましょうか。イザヤ様の首元を擦ったら、無効化できるものでしょうか。


 疑問はありましたが、わたしはイザヤ様に伝えます。

 ドニー様から術を仕掛けられている可能性を。そして、もし確認できたら、その術を解く努力をしてみると。


 了承していただきまして、早速<気配探知:対空気中>を発動します。

 そして、残念ながら術が仕掛けられていました。仕掛けられていないだろうと思わず、ドニー様に歯向かわなくて良かったです。

 果たしてわたしが解除できるのか。

 イザヤ様の隣に座り、首元へ手を伸ばします。


「あー。魔術師長は席を外したため……」


 見方によってはわたしがイザヤ様に迫っているかのような、そんな状態のとき。

 森と海を混ぜたような緑青色の髪と瞳が印象的な殿方が入室してきました。そのお方は長い髪を雑にまとめています。

 目の下に(くま)があり何日もまともな睡眠を取っていないかのように見える、このお方は。


「……エミリア、か? ここで何をしている」

「お、お兄様? ここで何をされているのでしょうか」

「あー……そうか、エミリアは知らないのか。おれはここで、副魔術師団長をしている」

「副魔術師団長……お兄様、そんなにお偉いお方で」


 ケンデルお兄様のお声を聞くのは、いつぶりでしょうか。わたしが子供のとき以来かもしれません。

 恐らく、五歳かその前だったと思います。六歳の祝福のときには、すでに離れた小屋で過ごしていましたので。

 子供の頃は、鋭い目つきによく怯えたものです。お兄様には、怖いという印象しかありません。

 わたしたち兄妹の邂逅を目の当たりにしたイザヤ様は、立ち上がって深く頭を下げました。


「初めまして、イザヤといいます。エミリアさんと一緒に冒険者をしています」

「そうか、冒険者を……」


 お兄様がイザヤ様を睨みます。いえ、観察しているのでしょうか。その眼差しは強く、やはり怖いと思ってしまいます。

 記憶のせいで身構えてしまいますが、お兄様から冒険者に対する嫌悪感のようなものはありません。

 お兄様は考えこむようなお顔をされていましたが、ハッとされました。


「申し遅れた。おれはケンデル・フォード。好きなように呼んでくれて構わない」

「フォード? ウォルフォードでは?」

「ああ、それは研究の功績が認められて一代限りの男爵を名乗ることを許されている。そのくせ自分で名乗る名を考えろと言われたから、実家の名前からもじった」

「なるほど」

「お兄様は、どんな研究をしていたのでしょうか」

「ああ、おれは属性別の魔法を色覚化することに成功したんだ。そのおかげで――」


 お兄様が、まだお話をされています。

 だというのに、わたしはお兄様から聞いた言葉が引っ掛かってしまいました。それはイザヤ様も同じなようです。

 わたしとイザヤ様が知っていること。そう考えたとき、イザヤ様も思い出したようです。


「ケンチー様!」「ケンチーさん」

「……なぜその忌まわしい呼び方を知っている?」


 どうやら、お兄様はシャミー様の呼び方が気に入らないようです。

 見てすぐにわかるほど、お顔に苛立ちの表情が浮かんでいます。

 わたしは、アロイカフスを見せながらシャミー様と知り合いだと伝えました。


「……エミリアはイザヤくんと結婚するのか」

「は、はい!? お兄様、突然何を仰るのですか!?」

「いや、一応実家からの手紙でエミリアのことを聞いている。その上で一緒にいるのならば、お前のその見た目を気にしないでくれる相手なのかと思ってな。違ったか」

「お兄様! イザヤ様には一途に思っているお方がいらっしゃいます!! イザヤ様はわたしの師匠! 優しきお方です!」

「そ、そうか? それはすまなかったな?」


 お兄様が、なぜかイザヤ様を見ます。つられてわたしも見ると、イザヤ様は作り笑顔を浮かべていらっしゃいました。


「イザヤ様。ご気分が優れませんか? <治癒>、服の上からかけましょうか?」

「い、いや……大丈夫」

「そうですか? ご気分が悪くなったらすぐに教えてくださいね。イザヤ様にはいつも助けてもらっていますので、大恩の一部でもお返ししたいのです」

「エミリア。そのぐらいにしておけ。イザヤくんが燃え尽きそうだ」

「イザヤ様が燃える? イザヤ様はお強いですが、火属性は持っていませんよ?」

「あー、そういうことじゃなくてな?」


 お兄様が、イザヤ様を労るような視線を向けます。そしてイザヤ様も、そんなお兄様の視線に感謝するかのような、そんなお顔になりました。

 なぜでしょう。お兄様はイザヤ様と今日会ったばかりだと言うのに、わたしよりもイザヤ様のことを理解されているような気がします。


 解せません。

 恐らくわたしの言葉が、お兄様とイザヤ様を和合させたのだと思います。

 わたしは当人なのに、わたしは蚊帳の外のような気がしました。

 これはきっと、以前からイザヤ様に出されている宿題が関わっていますね?


 うぬ? と考えていたとき、「ケンチー様」にお会いしたら聞いてみたかったことを思い出しました。


「お兄様はなぜ、属性別の魔法を色覚化しようと考えたのでしょうか」

「ああ、それはエミリアを見ていたからだな。大昔から、持っている属性ごとに色が決まっている。両親の属性が遺伝すると言われていて、うちは緑か青だ。それなのに、白なのはなぜか。白にはどんな可能性があるのか。それを考えるに辺り――」

「ま、待ってください! お兄様の情熱は充分わかりました!」

「そうか? これからその真骨頂を語ろうと思ったんだが」

「い、いいえっ。それはまた次の機会に!」


 お兄様と話していたら、イザヤ様が慈悲深い微笑みをされていました。

 今の兄妹の話のどこに、そんな要素が。


「イザヤ様? なぜそんなに笑顔なのでしょう」

「いや、嬉しくて」

「嬉しい?」

「うん。だって、お兄さんはエミリアのことを想ってくれているんだってわかったから」

「いや、それは違うぞイザヤくん。おれはエミリアを助けようと思ったわけじゃない。単純に、なぜ白が生まれたのかと疑問に思っただけだ」

「いや、そこは妹のためにしたということで良いじゃないですか。違うと思ったことは、はっきりと否定する。やっぱりエミリアと兄妹なんですね……」


 話している最中に、イザヤ様はなぜかダメージを負ったようにしょんぼりとしてしまいました。

 イザヤ様に声をかけようとしたら、お兄様に手を引かれます。そして、部屋の入口まで連れて行かれました。


「あの、お兄様?」

「エミリアは、イザヤくんのことをどう思っているんだ」

「イザヤ様のことを? それはもう、尊敬しています」

「それだけか? おれが入室したとき、お前、イザヤくんを襲っていなかったか」

「なっ……違います! そんなふしだらなことはいたしません!!」


 お兄様に誤解がないよう、ドニー様が仕掛けている罠について話そうと思いました。しかし、ドニー様はお兄様の上司。

 今後も一緒に働くことを考えると、これは言わない方が良いのでしょうか。

 うんうんと唸ったまま、結局ドニー様のことは伝えられませんでした。


 ドニー様が、戻られてしまったので。






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