088 エミリアの価値
わたしの価値。
それは、わたしがテイマーであることでしょう。テイマーは一千年前の戦争の、立役者。
そのテイマーがリンウッド辺境伯の出身者だったから、国は監視をしているのです。
では、その監視外のわたしが王都へ行ったらどうでしょう?
国としては、大きな力は手元に置いておきたいはずです。
「……イザヤ様。王都へ急ぎましょう」
「何か、案が浮かんだ?」
「わたしがテイマーだと、王家に明かします」
「それは駄目だ!! エミリアが、自由に動けなくなる!」
「わたしの自由が制限されるだけでギルド長様のお命を救える可能性があるのなら、安いものです」
「でもっ……」
イザヤ様は拳を強く握り、他に何か方法はないかと考えてくださっているようです。
イザヤ様は、いつでもわたしのことを考えてくださいます。それはとても嬉しく、ありがたいことでした。
「……本来なら、わたしが行きますと報告だけして行けば良いのです。ですがわたしは、ギリギリまでイザヤ様と一緒にいたいのです。これは、わたしの我儘です。イザヤ様、お付き合いいただけませんか」
「別に、我儘じゃない! おれだって、エミリアと一緒にいたい!」
「ありがとうございます。そのお言葉だけで、これから一人で頑張れます」
「そんな何もかも諦めたような顔をしないでよ、エミリア! 絶対、何か方法があるはずだ!」
「イザヤ様。わたしのために考えてくださり、ありがとうございます。ですが今は、まず王都へ向かいましょう。すぐに実行はされないと予測されていましたが、その保証はありません」
「わ、わかった。とりあえず、王都へ向かおう」
わたし達は王都へ急ぎます。
ラゴサから王都までは、馬車で三日。
わたしが一人で動くなら、半日もあればアラバス王国の北端から南端まで行けます。
ですがそれでは、イザヤ様と別行動ということになってしまいます。
今後、もしかしたらイザヤ様と一緒にいられなくなるかもしれません。
そうなってしまうかもしれない直前まで、わたしはイザヤ様と一緒にいたいです。
急ぎたいのは山々ですが、イザヤ様と別行動もしたくない。
わたしは、悪い人間です。ギルド長様を助けるためと言いながら、自分の欲望を優先しているのです。
こんな卑しい考えのわたしが、清廉潔白なイザヤ様と共にいられる時間は、あとどれくらいあるでしょうか。
「どうかした、エミリア?」
「イザヤ様と一緒に過ごせる時間は、宝物のように大切な時間だなと思っていました」
「そんなことっ……お、おれだって、エミリアと一緒に過ごせる時間は、幸せなことだらけだよ」
「ありがとうございます、イザヤ様。疲労回復をするためにも、今日はもう寝ましょうか」
ラゴサから可能な限り進み、野営地にて天幕を張っています。
わたし一人ならば<治癒>をかけてそのまま動き続けるのですが、イザヤ様から提案がありました。急がなければいけないけれど、睡眠を取らないことで判断が鈍らないようにしないといけないと。
それもそうだと、今日は休むことになりました。
イザヤ様はいつも通り中央に愛剣を置き、わたしに背を向けるような形で横になります。
わたしはまだ、眠れません。
今後のことはわかりませんので、もしかしたらイザヤ様と離れる選択を迫られる可能性があります。
だから少しでも長く、イザヤ様を見ていたいと思ってしまうのです。
今日は、ファラに<付与>をしてもらい、火を起こしています。
道中、はぐれ魔獣のような鳥型魔獣と戦い、ファラの<状態異常>を確かめました。
一度目は火傷、二度目は麻痺。そして三度目は毒でした。そこでテイムしようと思いましたが、イザヤ様にはテイマーの弱点も伝えています。イザヤ様がサペリカを討伐してしまいました。
毒の状態までになるとサペリカはかなり弱っており、テイムするとわたしが肩代わりするダメージも大きくなってしまうという判断のようです。
わたしは天幕の奧で、技能牧場を開きました。
ファラのスキルは<付与>と<状態異常>を使っています。
合計、四箇所の開拓を進めましょう。
<防御力Ⅰ>の、右から六番目と五番目。
<攻撃力Ⅰ>の、右から五番目。
<忠誠Ⅱ>の、右から五番目。
まだ開拓はできますが、<Ⅱ>の項目は<+%>。
ステータス画面に反映されませんが、<忠誠>も<∞>。今は、<+1%>であったとしても上がり幅が跳ね上がります。
ファラも、全てを開拓できるようになってしまいました。
全開拓できる状態であったとしても、名前を赤く点滅する名前を触らなければ、個々に開拓ができることはわかっています。
間違えて全開拓をしないように、慎重にファラの技能牧場を開拓しましょう。
<器用Ⅱ>の右から五番目と六番目。
<技能Ⅱ>の右から六番目。
<幸運Ⅱ>の右から六番目と七番目と八番目。
<敏捷性Ⅱ>と<防御力Ⅱ>は右から七番目。
火属性のマークを技能牧場上で再現します。全てを開拓できる状態なので、飛び地でも問題ありません。ですが、マークを再現することはファラがずっと望んでいたことです。間違いがないように、頭の中が混乱しないように、開拓を進めます。
<技能Ⅱ>の右から八番目。
<器用Ⅱ>の右から八番目と九番目。
<忠誠Ⅱ>の右から九番目。
<攻撃力Ⅰ>は右から九番目と十番目。
<防御力Ⅰ>は右から十番目。
<敏捷性Ⅰ>は右から十番目と十一番目。
<幸運Ⅰ>、<技能Ⅰ>、<器用Ⅰ>、<忠誠Ⅰ>までを全て右から十一番目。
<スキルⅢ>を右から十一番目と十番目。
<スキルⅡ>を右から十番目と九番目。
<スキルⅠ>を右から九番目。
開拓を進めまして、漏れがないかを確認します。
漏れがありました。
<スキルⅡ>の、右から四番目と三番目も追加で開拓です。
これで火属性のマークが完成しました。
演出の一部でしょうか。
技能牧場が、完成したばかりのマークを上から一マスずつ光らせます。そしてその光が一周する頃、一際強い光を発しました。
その光りは技能牧場上だけでなく、天幕内を照らします。




