087 新年、明けまして!?
<幸運、∞>が効きまして、年末年始の忙しい時期に冒険者ギルドの上にある宿に泊まることができました。
わたしとイザヤ様は、それぞれ個室に入ります。
そして、日付が変わり新年を迎えました。
外では魔法を使える方々が夜空に魔法のお花を咲かせているようです。皆さんも起きているのでしょう。ドンと音がするたびに歓声のようなお声が聞こえました。
イザヤ様に新年の挨拶を一番にしたかったので、立つのがやっとなくらいの小さなテラスから隣の部屋の様子を窺います。
イザヤ様もわたしと同じような気持ちでいてくださったのでしょうか。
ひょっこりとお顔を出してくださいました。
「イザヤ様! 明けまして、おめでとうございます」
「明けましておめでとう、エミリア。今年もよろしくね」
「はい! こちらこそ、よろしくおねがいします!」
小さいとはいえテラス越しに話していると、イザヤ様との出会いを思い出します。
正確に言えば十年前……年が明けたので十一年前ですね。そのときに出会っていますが、イザヤ様をイザヤ様として認識したのは、昨年からです。
「こうしてエミリアと話せるようになってから、まだ半年も経ってないんだね」
「えっ!? そうでしたか。イザヤ様とご一緒だと毎日の時間が濃く、もっと長く共にいると思っていました」
「エミリアがもう良いよって言うまでは、一緒にいてもらえると助かるな」
「それは、こちらこそ! イザヤ様がわたしと離れたいと思うまでは、よろしくお願いします」
「そんなこと、思わないけどね」
「そっ……それは、ありがとうございます」
夜空に輝く魔法のお花に、イザヤ様のお顔が照らされています。そのお顔に浮かぶ笑みは、ぐっと引きこまれるような魅力的な笑顔でした。
以前にも、似たようなことがありましたね。
ルコで起きた一回目の、次元の裂け目の発生後。月の光に照らされるイザヤ様のお姿が、まるで知らない誰かを見ている気持ちになりました。
夜に照らされるイザヤ様は、どこか目を離せない雰囲気を纏います。
「あ、明日からはギルド長様と今後のことを話し合います。もう、寝ましょうか」
「そうだね。おやすみ、エミリア」
「おやすみなさい、イザヤ様」
自分で解散を提案しておきながら、イザヤ様と一晩でも別れてしまうのが寂しいと思ってしまいました。
今まで、野営で同じ天幕の中で過ごしています。あの距離感に、慣れてしまったのでしょう。
そういえば、天幕で過ごすと必ずわたしよりも先に起きて訓練をしていますね。イザヤ様はきちんと睡眠を取れていたのでしょうか。
「エミリア。考え事は部屋でして? 夜は寒いから」
「は、はい! イザヤ様、おやすみなさい」
「うん。おやすみ、エミリア」
イザヤ様に見送られ、わたしは部屋に戻りました。
翌朝。
イザヤ様と合流し、宿に鍵を返してから食堂へ行きました。
活気があふれる食堂ですが、何やら様子がおかしいです。新年早々クエストを受注しようと冒険者があふれていますが、受付の方が二人しかおりません。
三人いるはずですが、お休みでしょうか。
窓際にいる冒険者の方々が、何やら外を気にしています。
イザヤ様と一緒にギルド内から確認すると、一目で兵士とわかるようなお姿の方が何人もおられました。まるで、重罪人の誰かを護送するかのような雰囲気を感じます。
「待ってください! 私も共犯者です!」
受付の奧から、叫ぶような声がしました。もう一人の、受付の方でしょうか。
何があったのだと、わたし達はもちろん、この場に居合わせた冒険者の方々も奧に続く扉を見つめます。
バンッと勢い良く扉が開かれたと思うと、受付の女性が乱雑に背中を押されました。
「彼女はボクに命令されただけだ。乱暴に扱わないでほしいな」
「黙れ罪人が」
女性の後ろにいたのは、両脇を兵士の方に固められているギルド長様でした。胸元にはカメオをつけています。あれは、シャミー様が作ったカメオでしょうか。
兵士の方々は、冒険者の注目を集めていると知り、言います。
「この男は国家反逆、機密情報の取得、及び漏洩の罪により、第一級犯罪者として王都へ連行する! 現時点を以てラゴサのギルド長の任を解くものとする! 冒険者ギルドを存続したい場合は速やかに次の長を選出せよ。ただし、第一級犯罪者を出したギルドのため、今後は王都より監視されることを心得よ!」
新年早々何を言っているのかと、兵士の方に抗議しようとしました。
しかし隣で苦しそうな顔をしているイザヤ様に止められてしまいます。
胸元にカメオをつけているギルド長様は、兵士の方々に連行されてしまいました。
ギルド長様が連れて行かれると、ギルド内は騒々しくなります。
「マジかよ、ギルド長がねえ……」「見た目は優しそうなのにな」「でも、だからじゃね?」
「あー、マジでラゴサの冒険者ギルド、どうなるんだろうな」「ほんと、それ」
各パーティで話しているのでしょう。似たようなことを話す方々の声が聞こえてくる中、誰一人としてギルド長様の心配をする方がいらっしゃいません。
わたしやイザヤ様のように、ギルド長様と親しくしている方は少ないのでしょう。もしくは、これから監視されるギルドになるということが不安感に繋がっているのかもしれません。
「……イザヤ様。ギルド長様は、大丈夫でしょうか」
「どうだろう。第一級犯罪者は、確か一番重い罰を与えられるはず。どうして、チェリニさんが……」
「い、一番重い罰というのは……」
「これから調査が入ると思うから、すぐではないと思うけど……第一級犯罪者は、極刑すらありえる」
「きょっ……え、ギルド長様を助けないと!」
「待って、エミリア! 国だって、何も証拠がないのに捕まえないよ。下手に動いたら、エミリアだって罰せられちゃう」
「ですがっ」
イザヤ様とお話をしているとき、受付で泣いている女性を見ました。
あの女性は、わたしが来たときに受付をしてくださった方ではないでしょうか。
それを思い出したとき、ギルド長室でのことを思い出しました。
イザヤ様の手を引き、人がいない路地裏まで行きます。
「エミリア? どうしたの」
「……イザヤ様。わたし、恐ろしいことを思い出してしまいました。イザヤ様の冒険者の等級を、ギルド長様の権限で変えていましたよね?」
「あー……確かに、そうだけど」
イザヤ様は元々凄腕の冒険者でしたが、王都を襲った魔王軍の魔獣討伐によりプラチナ級となっていました。
その等級を変える。それはすなわち、国の意向を無視するということ。
「……でも、等級を変えただけで?」
「そうですよね。確かに、それだけで罪を問うなんてできないと思います」
何か他に原因があるのではないか。
考え、思いいたります。
「……イザヤ様。申し訳ありません。ギルド長様が連行されてしまったのは、わたしのせいだと思います」
「どういうこと?」
「その、リンウッド辺境伯領で、ドニー様に言ってしまったのです。リンウッド家の情報を調べた方がいると」
「あー……そっか。あの情報か。でもそれにしたって、どうして急に」
「ドニー様は、王家から派遣されている監視員だと仰っていました。なので、ドニー様から伝わったのだと思いますが……」
問題は、なぜギルド長様が捕まって連行されるに至ったか。
「……もしかしてさ、チェリニさんが連行されたこともドニーさんの計画の一部なのかな」
「え、ですが、ドニー様からはアラバス王国で起こる魔獣の問題を解決するようにと」
「まあ、それも計画の一部なんじゃないかな。エミリアも、ドニーさんが何をしたいかって全てを教えてもらったわけじゃないでしょ?」
「それは、そうですが……ギルド長様に罪を着せるのはなぜでしょうか」
「それはわからないけど……ドニーさん、エミリアの力に興味津々だったから、自分の手元に置きたいとか?」
元々、イザヤ様やギルド長様から忠告されていました。
わたしの力が魔塔で働く方に知られると、監禁されるかもしれないと。
「……わたしは、どうすれば良いでしょうか」
「仮にドニーさんがエミリアを手元に置きたいとしても……チェリニさんは、それを望まないと思う。例え自分の命を捨てででも、エミリアを守ってくれると思う」
「それは、さすがに考えすぎではないでしょうか。イザヤ様を守るためならともかく、わたしも親しくしていただいていますが……」
わたしが指摘すると、イザヤ様が落ち込んでしまいます。
イザヤ様はギルド長様と仲が良いです。
だから、わたしを守ること。それがすなわち、イザヤ様を守ることに繋がるのかもしれません。
「イザヤ様。わたし達は何かできないのでしょうか」
「どうだろう。第一級犯罪者として連行されちゃったから、脱出する手助けをしたら、おれ達も同じ犯罪者として罰を受けると思う」
「それが、何だというのです!! ギルド長様にはお世話になりました! 今こそ、恩を返す時です!」
「でも、そんなことをしたらチェリニさんの厚意を無駄にすることになる」
「それは、そうですけどもっ」
ギルド長様を助けるために、本当に何もできないのでしょうか。
わたしは、改めて自分の価値を考えました。




