077 再会
ルコまで駆けていくと、次元の裂け目から出てくる魔獣方との戦闘は終わっているようでした。
門外にも人はおらず、門兵の方しかいません。
袖をまくり、シルバー級の冒険者証を見せました。
「おっ。もう修繕に来てくれたのか。今日は遅いから、明日の早朝から頼んだよ」
頭を下げ、街中に入ります。
さぁ、これからが本番です。
以前来た、一月以上前のときと比べるとわたしは化け物になっています。わたしのことを知っている方々に会うわけにはいきません。
化け物と、恐れられたくないので。
そもそも、わたしはルコで泊まる予定はありません。
わたしは今、蟹型友獣のスキル<修繕>があるのです。ルコの復興が早く終わるように、手が届きづらい場所からスキルを使っていきましょう。
今はもう完全に日が落ちているため、落日の余映は見られません。
あの素晴らしい景色を再び楽しんでもらえるよう、わたしは尽力あるのみです。
さて、どこから<修繕>していきましょうか。
次元の裂け目は、またルコの街を壊滅的な状況にしたようです。
海まで続く一本道、崩れて坂のようになってしまっている建物、散らばる瓦礫。
材料が運ばれ、人々の手で組み立て、作業をして。
前回のように、二十日ほどかかるかもしれません。冒険者方の実力によっては、もっとかかる可能性もあります。
それは、この街で暮らす方々が不便な生活を強いられるということ。年の瀬も押し詰まる時期ですから、すっきりとした気持ちで新年を迎えてもらいたいです。
次元の裂け目の発生は、わたしの責任ではありません。
ですが、わたしはアンシアという街を一つ壊してしまいました。
街が壊れる、ということ事態が、息のしづらさを感じさせます。
「!」
聞き覚えのある声が聞こえてきました。
いえ、ですが、ルコにいるはずがないのです。
それなのに、久しぶりに聞くそのお声は、弟子であるわたしが間違うわけもなく。
イザヤ様は、ソトム様や冒険者の方々と明日からの復興計画について話しているようです。
イザヤ様に見つかる前に、物陰にさっと隠れました。
「今、何か……」
イザヤ様が、わたしの方へ近づいてきます。
このままでは見つかってしまうと思ったとき、獲得したばかりのスキルを思い出しました。
イルとゴルの力、<気配消散>を使います。
このスキルは、本当に大丈夫でしょうか。本当に、気配を消せているのでしょうか。
今、わたしのすぐ目の前にイザヤ様がいます。少し動けば、吐く息が当たってしまいそうなほど近く。
息を止めていたわたしの限界が近い頃、イザヤ様が離れていきました。
ソトム様や冒険者の方々の所へ戻ります。
「そういや、イザヤくん。エミーちゃんのことは良いの?」
「良くはないけど……」
「なんだよ、英雄様ともあろう男が振られたのか」
「いや、別に、そういうんじゃ……」
「離ればなれになって、十七日だっけ。エミーちゃん、どこにいるんだろうね」
ここにおります。
とは、言えません。言えませんが、そんなにわたしはイザヤ様と離れていたのですね。
イザヤ様がルコにおられるということは、左腕で剣を扱っているのでしょうか。
イザヤ様であれば、利き腕ではなくても、断末魔を出す前に討伐できそうです。
ここにはたくさんの冒険者がいたでしょう。一人で全てを倒さなくても良いのです。連携して、一体を倒せば良いのです。
イザヤ様方は、冒険者ギルドの方へ歩いて行きます。
本当は、今すぐにでもイザヤ様にご挨拶がしたい。
ご心配をおかけしました、わたしはここですと。
しかし、それはできません。
わたしは化け物ですので。イザヤ様に、戦かれたくないのです。
イザヤ様にだけは。
ルコの復興は、明日から始まります。
もう、今夜は全ての人が寝られる場所へ行くでしょう。誰にも、わたしのことは見られないと思います。
わたしは一夜でできる限りのことをしようと、街の奧へ向かいました。
「ここから始めましょう」
わたしはグランの力、<修繕>を使います。
パラパラと細かな瓦礫が集まって、一階が倉庫のようになっている二階建ての建物が修繕できました。倉庫には、休憩するためでしょうか。椅子や机も置いてあります。
その隣も、そのまた隣も、同じような造りの建物を<修繕>していきました。
もし誰かが外に出ていたらばれてしまうかもしれませんが、今はいないはずです。
ルコには、イザヤ様がいらっしゃいました。早朝明るくなってイザヤ様に見つかる前に、ルコを去らないといけません。
そのためには、どんどん<修繕>を使っていきましょう。
五軒目の<修繕>が終わる頃、ザリッと足を擦るような音がしました。
誰もいないと思って油断していたようです。近づかれていたことに気がつきませんでした。
ですが今は、<気配消散>によってわたしの場所はわからないはずです。
ここへ来た誰かは、絶対に建物が建っていることに目が行くでしょう。その間に、移動すれば良いのです。
胸を張って堂々と、この場を離れようとしました。
「エミリア! どこに行くの」
イザヤ様が、わたしの腕を掴みました。
え、なぜ的確にわたしがいるとばれてしまったのでしょうか。
「エミリア。どうしたの? 何か、話してよ」
「……イザヤ様。なぜわたしのことが見えているのでしょうか」
「え? なぜって、逆になんで? 普通に見えているよ?」
イザヤ様から指摘され、わたしはまたスキル把握ができていなかったと痛感しました。
<気配消散>は、回数ではなく持続時間です。それも<スキルⅢ>のため、100秒しか保ちません。
そんなの、とっくに時間が過ぎているではありませんか。
なんということでしょう。イザヤ様に見つからないように焦り、重ねがけという概念を失念していました。
いえ、回数ではないのでそれも違いますね。
「エミリア。何か、混乱しているみたいだけど、どうしたの? 別々になっちゃってから、何かあった?」
イザヤ様は、相変わらずお優しいです。
そのお言葉はわたしの胸を熱くします。
イザヤ様は、お変わりありません。いっそ、このままわたしが化け物になったことを伝えなければ、今まで通りの関係でいられるのではないでしょうか。
わたしが何も話さないでいると、イザヤ様は気を利かせてくださったようです。
<修繕>したばかりの建物に手を置きました。
「それにしてもすごいね、エミリアは。また新しいスキルを手に入れたんだね。この辺の様子も確認したけど、全部瓦礫だった。その撤去からしなくちゃいけないと思っていたけど、ここの五軒だけ何もなかったように元通りだ」
月明かりに照らされるイザヤ様は、いつも通りです。わたしが知っている、いつものお優しいイザヤ様です。
イザヤ様に化け物だと戦かれたくありません。
ですが、イザヤ様なら。
すべてをさらけ出しても、受け入れてくれるような気もします。
「イザヤ様。わたしは……」
やはり、わたしはイザヤ様と一緒にいたいです。
勇気を振り絞り、伝えました。




