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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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072 わたしは化け物

朝更新ですが、少し長めです。


 これからどこへ行きましょうか。

 王都には、行けませんね。たくさんの方々に姿を見られてしまいましたから。

 黒いローブを変えれば、また行けるでしょうか。

 ですがこのローブは、イザヤ様に買っていただいたものです。できるなら、このまま着続けたいのですが。


 四方八方から視線を感じ、その場から駆け出します。

 周囲の人々が粗相を起こすような地獄絵図にならないよう、血の温度は下げたままでいることを意識して。


 走っても走っても、視線から逃れられません。

 この視線は現実でしょうか。

 それとも、幻覚でしょうか。

 わたしはあと、どれくらい走れば良いのでしょうか。


 見たことのある、大きな茂みを発見しました。その茂みを見た途端、なぜか安心感があります。

 ここは、リンウッド辺境伯領から出たときに身を隠した茂み。

 多くの人に恐れられる、化け物のわたしを隠してくださいます。


 茂みの中に突入し、しゃがみ込みました。

 その瞬間、四方八方から感じていた視線はなくなります。

 その代わり、わたしがもう普通には戻れない化け物になったのだという気持ちが強くなりました。


「っふ、ぅ……」


 涙があふれて止まりません。

 ギルド長様がおっしゃっていました。上がったステータスは、元には戻せないと。

 つまりわたしは、一生化け物のままです。

 化け物のわたしは、イザヤ様と一緒にいてはいけないと思います。

 イザヤ様はお優しいので、会えば一緒にいてくださるかもしれません。


 ですが、わたしが耐えられないのです。

 イザヤ様から、他の方々のように恐怖を感じている視線を向けられるのが。

 イザヤ様に、だけは。




 どれくらい泣き続けたでしょうか。

 あふれる涙も涸れる頃、ようやく冒険者証の震えを止めようと思いました。

 冒険者証に触れ、ステータス画面を開きます。

 メタン湿地での戦いは、わたしのレベルをかなり上げました。なんと一気に、10も上がっています。そのため、レベルは12になりました。


<攻撃力><防御力>等々ステータス画面で確認できる全ての項目が<+7~10>上がっています。特に<体力>は伸び率が高いようです。

 ですが、わたしは化け物なので。

 百万を超えたぐらいでないと、全ては端数となり体色値ぐらいしかステータスに反映されません。


 レベルが10上がるほど、魔獣を討伐しました。

 全ての項目のステータスが、上がっています。

 本来なら喜ばしいことですが、わたしには関係ありません。

 どれだけレベルが上がっても、どれだけステータスが上がっても、化け物のわたしには関係ありません。


「……いけません。わたしとしたことが、落ちこんでしまいました」


 落ちこんでも、何も変わりません。

 落ちこんでも、誰も助けてはくれません。

 どうせ落ちこむのなら、前向きに落ちこむのです。


「化け物は化け物らしく、化け物として特化しましょう」


 ステータスは戻せません。

 わたしは一生、化け物です。

 誰かから見たらそうでも、わたし自身が考えを改めれば道は開けます。


 アロイカフスを大量につけているのもありますが、見た目で恐れられるのはそれぐらいでしょう。

 化け物というのは秘めない力。桁違いのステータスです。

 ちょうど、レベルアップによって懸念事項だった体力も80を越えました。今までよりも、活動的に動けるでしょう。


 今後の方針が決まりました。

 わたしは化け物冒険者として、生きていきます。

 ドニー様に、イザヤ様と合流してアラバス王国で発生する魔獣の問題を解決するようにと言われています。

 ですが、わたし一人で動いても良いと思うのです。

 前向きに落ちこもうと決めたものの、イザヤ様に関わることだけは心の整理ができません。

 心の鍛え方がわからない以上、イザヤ様から離れるしかないと思うのです。


 まずは、活動資金を集めましょう。

 わたしはブロンズ級の見習い。等級をどんどん上げましょう。

 そのためには、街へ行かねばいけません。活動拠点は、どこが良いでしょうか。


 ラゴサとルコは、わたしのことを知っている方々がいます。王都も、わたしの噂が広まっているかもしれません。

 地理を考えると、アラバス王国の北の方は難しそうです。

 そうなると、南の方の街でしょうか。





  ▲


「うっひゃあっ」


 ドーンという音に驚くのは、くるくるの青い髪をした青年オービだ。


「何で僕が、何で僕が、何で僕が」


 オービが頭を抱えて蹲っているのは、地下の空間。これ以上崩れることのない、スカディの冒険者ギルドの地下だ。

 地上は、様々な魔獣があふれている。

 そんな場所にどうやって来たかといえば、最寄りの街ビリアの地下からスカディまでの地下道があるのだ。

 魔獣が怖いのならばその地下道から戻れば良いのだが、オービは将来の夢のために戻るわけにはいかない。


 アラバス王国一の冒険者ギルド長になるという、壮大な夢がある。

 そのために、誰もが一月も保たないスカディへやってきたのだ。

 水属性しかないオービは、冒険者時代は後衛だった。子供の頃から前衛職に憧れていたものの、力及ばず。

 それならばせめて、オービの下で働く冒険者達を伝説にしよう。

 そうすれば、自ずとオービの夢も叶う。そう思っていた。


 ビリアに一度でも訪れたことがあれば有名な、魔都スカディという呼称。誰が言ったか、言い得て妙である。

 ここは、魔獣があふれるために高い壁で覆われている場所。一応王国の管理下ではあるが、それはあくまでも、「一応」なのである。

 魔獣はあふれているが、なぜか壁の外には出ない。だから地上の建物が崩壊していても、街の消滅にはならない。オービのように、ギルド長になるための研修として選ばれるから。


 地下で怯えていたオービは、地上の音がしなくなったことを不審に思った。

 魔獣はいつでもあふれている。それなのに、その魔獣の気配がまるでない。

 オービは、恐る恐るといった様子で、地上に繋がる鉄の扉を上げた。


 そこにいたのは、圧倒的な存在感を放つ女性。黒いローブの下で、耳に大量に着いている装飾品がキラキラと朝日に照らされている。

 その女性が、駆け寄ってきた。

 圧倒的な存在感と、魔獣が一体もいない地上に立つ姿。状況からして、この女性が全ての魔獣を討伐したのだろう。

 だから、女性から聞いた話は信じられなかった。


 女性はなんと、ブロンズ級の見習いだったのだ。

 ブロンズ級の見習いは、ブロンズ級に上がるために付添人が必ずつき、冒険者としての心得を教えながらクエストをこなさないといけない。

 そんな決まりなんて、必要だろうか。

 たった一人であふれる魔獣を討伐する女性に、必要だろうか。

 いや、必要ない。


 オービは、女性が求めるままに等級を昇級させた。

 採取クエストを行うブロンズ級ではない。魔物討伐を行う、シルバー級に。

 冒険者証には名前が記されている。

 しかし、この女性の名前を確認しなかった。


 彼女は、恐らく神だ。圧倒的な力を持って、魔獣を討伐している。崇拝すべき相手で、そんな相手の名前を確認するなんて、烏滸(おこ)がましい。

 神は、神だ。

 そして神は、人々を助けるためにスカディを発った。


「……また、きっと来てくださる」


 神が発ってから一日。

 スカディはまた、魔都に戻っていた。

 オービは今日も、地下で過ごしている。


  ▼


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