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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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071 ファラの主は、わたし


「……ファラ。あなたが飛んできた場所はどこだかわかりますか」


 海から近い街を一つ、大きな街を一つ、そして湿気を感じる場所を通過してきたそうです。

 以前イザヤ様と別々になってしまったときのことを思い出し、ファラが通った道筋を考えました。

 恐らく、わたしが行った島はアラバス王国の東。そこからファラがわたしを求めて飛んだとすれば、海から近い街はアンシアという名前でしたでしょうか。

 そこから考えると次の大きな街は王都ですね。

 湿気を感じる場所がどこだか記憶にないですが、湿気があるならば水気があるということ。そこでの火事の心配はなさそうです。


「王都は確か石造りの建物が並ぶ場所だったと思うので、心配なのはアンシアでしょうか」


 イザヤ様と合流したいですが、アンシアの状態も気になります。そこへ行くには、どうすれば良いでしょうか。


 周囲を確認し、現在地を把握します。

 背後に見えるのは、ララゴの街明かりでしょうか。

 となれば、王都は逆の方向ですね。

 王都に行けばアンシアへの馬車が出ているかもしれません。まず、王都へ向かいましょう。

 ファラを指輪に戻し、王都へ行きます。




<治癒>をかけながらずっと歩き続け、王都に着いたのは二日後のことでした。

 王都の入口の門兵の方に冒険者証を見せ、王都へ入ります。

 夜にも関わらず人の出入りは多く、門兵の方に馬車乗り場を聞くことは難しそうです。

 王都にも冒険者ギルドはあると思いますので、そちらで聞いてみましょうか。

 とはいえ場所はわからないので、冒険者と思われる方に場所を聞きましょう。


 冒険者といえば、体つきが逞しい方か、立派な武器を持っている方か。もしくは、歴戦の猛者のような雰囲気のある方か。

 そんな予測を立て、それらしい方を捜します。

 しかし、いません。

 門の近くでは通行の妨げになると思い進みましたが、この辺りには冒険者らしき方はいないようですね。

 門の方へ戻るか、他の方に聞くか。


 わたしはすぐ横を通り過ぎようとしていた男性に声をかけました。

 しかし、その方は体調が優れないようです。街の明かりだけではないように思える、赤い顔をしていました。

 体調が悪い方には<治癒>をかけてさしあげたかったですが、再び話しかけようとしたら何やら聞き取れない奇声を上げてどこかへ行ってしまいます。

 ガットの力で聴力は上がっているはずなのですが、全てを聞き取れるわけではないようですね。


 その後何人かお話を聞こうと声をかけましたが、全員最初の方と同じような反応をされたました。

 普段はイザヤ様と一緒にいるために意識していませんが、もしかしてわたしは話すことすらイヤだと思われているのでしょうか。

 いえ、それならもっと表情に出ると思います。

 そう、思いたいです。


 夜のため、女性は出歩いていません。これでは、冒険者ギルドの場所もわかりませんね。

 時間の都合上、開いているのは酒場ぐらいでしょうか。

 一応、わたしも自分が女性であると自覚しています。夜の酒場は、行ってはいけないでしょう。


「んー……詰んでしまいましたね」


<幸運、200万>も機能しないなんて、と思っていると、とんでもない方を引き当てました。

 門の方角から、冒険者のような方々がたくさんいらっしゃいます。その中で女性がいるパーティーに声をかけました。お連れの方は男性が二人。

 その方々は、アンシアから来たそうなのです。そして冒険者に出ているクエストから帰ったばかりだとか。

 そしてそのクエストは未だに継続中で、体力回復のために王都へ戻ったようです。


「そん、な……」


 わたしは冒険者の女性から話を聞き、その場に頽れてしまいました。

 その姿は目立ちます。後から来た冒険者の方々に心配されてしまったので、その場から移動しました。

 ふらふらと歩き、ベンチのある広場に出ます。そこで心を落ち着かせようとしますが、酔っぱらった男性が近づいてこようとしていました。


 もはや街中では落ち着けないと思い、流れてくる冒険者の方々と逆方向へ行きます。

 黒のローブを着ていたおかげで、夜の暗さの中に紛れ込めました。




 この惨劇も、わたしの……。


 誰にも話しかけられることなく、現在も継続中のクエストの場所、メタン湿地に着きました。空が明るくなっています。

 夜が明けているのもそうですが、メタン湿地では青い炎が燃え続けていました。だから、明るい。

 青い炎の中からは、次々と魔獣が出てきています。冒険者の方々は、その対応に追われていました。


 わたしも、冒険者です。この惨劇の原因も、恐らくわたしです。だから誰よりも、休まずに働かなければいけません。


「そっちにサメシュペルが行ったぞ!」

「何っ……き、消えた!?」


 自分が犯した罪で呆けていたわたしの方へ来た魔獣を、一撃で仕留めました。

<攻撃力、200万>の余波が及ばないよう、加減しています。しかしそれは一瞬の出来事で、サメシュペルを倒そうとした冒険者の方々には見えなかったのでしょう。


 わたしは、メタン湿地の周囲を回るように歩き始めます。

 その途中で冒険者の方々の包囲網から抜けた魔獣達を、一瞬で討伐することも忘れません。

 冒険者の方々の負担が減るように、魔獣を討伐していきます。


 ファラは、わたしを求めて飛びました。

 わたしに会うために、必死に飛びました。

 その結果は、アンシアの消滅。そして、メタン湿地の炎上。

 わたしは、ファラの主です。ファラがしたことは、主であるわたしの責任です。


 メタン湿地とはその名の通り、湿地です。湿地と言うからには、湖なりなんなり、水気があるところだと思います。

 ですがなぜ、こんなにも炎上してしまっているのでしょうか。


 わたしはまた包囲網から抜けた、サチェルとサゴイルを同時に討伐します。

 その様子は、その二体を追っていた冒険者の方々にも目撃されたようでした。

 わたしを見る目に、恐怖が浮かんでいます。

 少しばかり酷なことですが、その方々に質問しました。


「ここは、なぜこんなに燃えているのでしょうか。魔法や他の方法で火を消せないのでしょうか」

「ひっ」

「こ、ここには沼気(しょうき)があるんだ!」

「しょうき?」

「こ、この沼独特の、毒の霧のようなものだ!」

「なぜ、それが燃えるのでしょうか」

「しょ、沼気は、火種がなければ燃えない。だ、だが、一度火が着くと毒の霧がなくなるまで燃え続けるんだ!」

「なるほど。ありがとうございます」


 最初にわたしの顔を見て男性の後ろに隠れたのは、わたしよりも小さな男の子でした。

 冒険者になれるのは、確か十歳から。さすがにそこまで小さくはないと思いますが、そんな子供ですら駆り出されている事態になってしまっています。

 男性は男の子を守るように、わたしから目を離しません。二人は似ているので、もしかしたら兄弟でしょうか。


 冒険者ギルドの場所がわからなかったので、どんなクエストか把握できていません。

 ですが、予想はつきます。

 メタン湿地に行ける冒険者が全て集まっているのでしょう。

 それは、どれほどの数でしょうか。王都へ体力を回復しに来ていた冒険者の方々も、今も戦っている方々も。どれくらい、メタン湿地から湧く魔獣と戦っているのでしょうか。


 わたしが、ファラと離れなければ。


 後悔しても、事態は急変しません。

 燃え続けるメタン湿地から、魔獣が次々とあふれてきています。

 不幸中の幸いなのは、魔獣の目が赤くなっていないということでしょうか。ルコで遭遇したときのように、狂乱状態ではないようです。

 属性に関係なくあふれています。対応している冒険者の方々も、疲労感が拭えません。


 いけませんね。わたしが、責任を持って討伐しましょう。


 一発で仕留められなければ、魔獣は断末魔を上げます。そうすれば次元の裂け目が生まれ、被害はさらに大きくなってしまうでしょう。

 どれだけ強い冒険者でも、疲労からは逃れられません。各自連携して動いていらっしゃるようですが、それもあとどれくらい保つでしょうか。


 わたしは、包囲網から抜ける魔獣を倒しながら、近くにいる冒険者の方々へ声がけをします。

 風圧で火を消すことを試みるため、王都寄りに避けていてほしいと。


 突然何を言うのだと、抗議しようとしたのでしょうか。

 わたしに自ら近づいてくる冒険者の方もいましたが、わたしが素手で魔獣を討伐すると、黙って他の方に声がけをしてくださるようになりました。


 そして一周を歩きながら討伐を続けていると、わたしが伝えた通りに冒険者の方々が集まってくださいます。

 魔獣は人の気配に寄ってくるのでしょうか。メタン湿地から出てくる魔獣方は、真っ直ぐにこちらへ向かってきます。

 被害を最小限に抑えるため、わたしは早速、メタン湿地の青い炎に向けて握った拳を伸ばしました。

 直前で止めた「攻撃」は、巨大な風を起こします。広範囲の風圧は青い炎を消し、その場にいた魔獣方も討伐できたようです。


 そうしてメタン湿地の大炎上は、食い止めることができました。その沼に満ちていた毒の霧も、払えたようです。


「ひっ」


 終了したことを誰かに報告を頼もうと、振り返りました。

 屈強な男性が上げる悲鳴を聞くのは、悲しいものがあります。

 これ以上は、話しかけることも難しそうですね。


 わたしは見える限りの冒険者の方々に頭を下げ、その場を辞します。

 メタン湿地を離れるわたしの冒険者証は、ぶるぶると震え続けていました。





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