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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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070 再会の火の粉


 六体の友獣の力を手に入れたわたしは、ステータス値への認識の甘さをいまさらのように痛感します。

 野営だとか野宿だとか、夜を過ごすことを悩んでいました。しかしわたしは、<敏捷性、200万>なのです。

 今はドニー様に仕掛けられた手枷足枷もなく、血流の操作によって敏捷性が高くても普段通りの行動ができるようになりました。

 ということは、逆も行けると思うのです。


 どこかの島へ行ってしまったときは、その場所がどこだかわからず途方に暮れました。

 しかし今は、アラバス王国にいるのです。

 学んだ地理から、大体の現在地がわかっています。

 抑えるときは、足が重くなるような想像をしました。

 だからきっと、敏捷性を活かすときは逆の発想をすればいいと思うのです。


「行き過ぎてはダメなので、少しだけ血流を活発にするようにして……」


 六十数える間に全身へ血が巡るような状態から、五十数えるぐらいに変わるように意識します。

 全身の血流が変わったことを意識してから、ラゴサへ向けて移動しました。


「っ、とと」


 どうやら行き過ぎてしまったようです。

 想定ではラゴサの手前ぐらいの場所へ行く予定でしたが、今、わたしの目の前には崖があります。

 ここから落ちなくて良かったです。

 海に落ちなかったということは、まだアラバス王国内だと思います。

 しかし周囲を窺ってみても、来たことがない場所でした。移動速度を上げると、体の角度が少し変わるだけで大きく位置が変わってしまいます。

 わたしは正確に真後ろを向き、同じ場所に戻るため血流を変えずに移動しました。


「……はい。この大きな茂みには見覚えがあります。どうやら戻れたようですね」


 移動の起点とした茂みに戻りました。

 次は、もっと普段に近い血流を意識しなければいけません。

 五十を数えるぐらいで全身へ血が巡るようにと考えたら、行き過ぎました。

 そのため、次は五十五を数えるぐらいを意識します。

 体が向く角度も、頭の中の地図と照らし合わせてズレがないように調整しました。


「よし! 行きます」


 バッと移動し終えると、今度は見覚えがある場所まで行けました。

 ララゴとラゴサの中間辺り、という感じでしょうか。

 ラゴサに到着するつもりで血流を調整しましたが、まだまだ細かく確認していかないといけないようです。

 いえ、意外とちょうど良いかもしれません。急に街の門のところへ行くよりも、少し手前の方へ到着する方が目立ちません。

 早めた血流でこれ以上移動するとまたどこかへ行き過ぎてしまいますので、六十数える間に全身へ血が巡るような血流に戻します。


「!? ……ファラ?」


 ようやくイザヤ様と再会できるかもしれないと思っていると、ファラの意思が聞こえたように感じました。

 どこかの島で別れてしまってから、どれくらいが経っているのでしょうか。正確な日数はわかりませんが、七日以上は経っていると思います。もしかしたら、それ以上かもしれません。

 どこかの島から、ファラはわたしを求めて飛んできてくれているのでしょうか。


 ファラの意思が聞こえたような気がする方向へ、進みます。

 最初はゆっくりと、次第に駆け足で、ファラがいると思われる方向へ向かいました。


「ファラ!!」


 進むほどにファラからの意思が明確に聞こえるように感じ、空に星が輝くようになった時間帯。

 オレンジみのある白い蝶を、見つけました。


「ファラ……よく、わたしの元へ戻ってくださいました」


 ファラを包みこむようにして両手で持ち、顔を寄せます。

 ファラもわたしとの再会を喜んでくれているようです。ぱたぱたと(はね)を小刻みに動かしています。


「ファラ、ずっと飛んでいて疲れたでしょう? 指輪の中で休みますか」


 肯定の意思が伝わってきたので、左の薬指を触ってファラを戻します。

 すると、グッと胸を潰されるような疲労感を覚えました。

 リンウッド辺境伯領のときもそうでしたが、テイマーは友獣を戻したとき、ダメージや疲労感を肩代わりするような状態になるようです。

 ドニー様からテイマーの弱点と言われていますし、今後気をつけるようにしましょう。


「ファラ。お疲れ様でした」


 労るように赤い指輪の空中で手を動かしました。

 わたしに移された疲労感は、<治癒>で回復します。

 わたしが回復すると、ファラも元気になるのでしょうか。ファラが入っている赤い指輪の宝石が、点滅しています。

 以前ルコの街でしたように、ファラを指輪から出しました。


 そして、聞きます。

 ファラがわたしに再会するため本能のままに飛び、火の粉を撒き散らしてしまったと。





  ▲


 エミリアを求めて飛んでいたとき、ファラは本能のまま移動していた。

 そのため、ファラが通った道がわかるように、その場所には火の粉が舞い散った状態になる。



 島から脱出したファラは、アラバス王国の東の街アンシアの上空を飛んでいた。

 火の粉が、木造の建築に落下していく。


 防風林はあるものの、海から来る潮風によって乾燥しがちなその街は、建材に水分が残っていない。

 ファラが通った直線上に、火事が発生していく。乾燥している街中で、常に潮風が強く吹き込むような場所だ。火事は大きく広がり、街を呑み込んでいく。

 幸いにも昼間だったため、被害者はいなかった。


 唯一、煉瓦造りだった冒険者ギルドだけは残り、街中の人々が集まっている。

 次元の裂け目が発生したならば、各街へ修繕依頼を出せただろう。しかし、不可解な火の広がり方とはいえ、次元の裂け目は発生していない。

 不審火か、事故か、その他の原因か。

 火事の発生理由が不明。それはすなわち、火事によって街が焼かれてしまい被害を受けた人々が、自らの手で街を再生していかなければいけないのである。


 アンシアを出る人々もいた。

 しかしアンシアという街の場所は、最寄りの街から離れている。

 地図上では王都が一番近いものの、そこに街道はない。整えられていない道を進まねばならず、かといって他の街は例え馬車でも数日かかってしまう。

 街が運営する馬車屋の馬も、火事で失ってしまった。


 アンシアを出る人に火事による修繕依頼を届けてもらい、アンシアの人々はその助けが来るまでの間どうにか生き延びなければいけない。

 しかし、火事によって食料も失ってしまった街は、再生するよりも先に人々の命の灯火が消えていく。

 王都から支援が届く八日後には、誰も生きてはいなかった。


 年の瀬が迫る十二月。

 アラバス王国内の、一つの街が地図から抹消されることになった。理由は、住人の消滅と、街の壊滅。

 街は住人がいなければ機能せず、また、アンシアは立地が悪かった。移住者もいないため、街としての役割を終える。

 ただ一軒、元冒険者ギルドだった煉瓦造りの建物だけを残して。


  ▼




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