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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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064 気持ちの転換の仕掛け。

長めの文章量です。


 ファラがいない不安を何かで補おうと、わたしはレタリア様のお世話をします。

 力の解放によって生じた結果を清め、レタリア様にはわたしが選んだドレスに着替えていただきました。


 そして次に、伸ばしたままだったレタリア様の髪に手を入れます。

 櫛を通されたことがないようなギシギシの髪を整えようと、<治癒>を行いました。しかし一度の<治癒>でできるのは、指の太さの分だけ。

 効率的に行うため、使われた形跡はなくクローゼットの奧の箱に入っていた櫛に<治癒>を施します。

 イザヤ様のときは叶わなかった、道具への<治癒>。今回は、成功しました。

 櫛を通すごとに、レタリア様の明るい茶色の髪は艶を増していきます。

 やはりイザヤ様の右腕の症状は、<治癒>が効かない特殊な状態ということですね。


「エミリア様? 疲れた?」

「申し訳ありません……」


 わたしの魔法ですよと伝えて喜んでくれていたレタリア様が、突然しゃがみこんだ私を心配してくださいます。

 イザヤ様のことを考え、すぐにお会いしたくなりました。一度その姿を思い浮かべると、あのお優しい笑顔を見ないと心にぽっかりと開いた穴が塞がりません。


「エミリア様、ぎゅー」

「ありがとうございます、レタリア様」


 レタリア様が、わたしを包み込むように抱きしめてくださいます。

 そのお陰で、少しだけ心の穴が埋まりました。


 その後。

 ギレルモ様が持ってきてくださった夕食を食べ、レタリア様と同じベッドで眠りにつきました。


 翌日、さらに次の日とドニー様が来訪されるのを待ちます。

 ドニー様が再び来訪されたのは、最初に出会ってから三日が過ぎた頃でした。

 ドニー様はレタリア様の様子に驚いた様子でしたが、レタリア様を褒めるように頭を撫でます。ドニー様と会うときは黒い布をつけるようにと言われているようで、白い魔獣は生成されませんでした。


 本日も、あの部屋に行くようです。わたしもついて行こうとしましたが、ドニー様に止められてしまいました。


「ごめんね、エミリア。前は突発的な事故みたいなものでエミリアがいたけど、あの部屋にはレタと二人でいたいんだ」

「そう、ですか……」

「ドニー。エミリア様、ディポポ望む!」

「ディポポを? それはまたどうして」

「わたしは、ディポポに丸呑みされてあの部屋に来ました。そのとき、わたしの相棒とはぐれてしまったんです!」

「相棒って、イザヤ君?」

「い、いえ……イザヤ様ではなく」


 ファラがいないという緊急事態でしたが、イザヤ様との約束が頭をよぎります。

 魔塔で働く人――つまりは、ドニー様にわたしがテイマーだと知られるわけにはいきません。


「ふうーん? ぼくに言えないんだ?」

「そ、それは……」

「エミリア。随分と都合が良いね? ぼくに頼み事をしているんでしょ? だったら、ぼくが知りたいと思ったことを教えてくれないと」

「も、申し訳」

「ま、いっか。エミリアとイザヤ君の絆は、それぐらい深いってことだね」

「き、絆が?」

「まあとにかく、今はレタと二人きりにして」


 藍色の縁の眼鏡の奥に深淵を思わせるような黒い瞳を見せたドニー様は、レタリア様の肩を抱きながら部屋を出ていきました。

 わたしはドニー様に拒絶されてしまいましたが、ギレルモ様はついて行かれるようです。

 それはそうですよね。ギレルモ様は、レタリア様の護衛ですから。レタリア様は貴族令嬢ですし、殿方と二人きりにしてはいけないと思います。


 はて。ではなぜ、前回は遅れてやって来たのでしょうか。


 わたしの疑問は、すぐに解消されます。

 ギレルモ様を追いかけてわたしも部屋を出ると、侍女のお仕着せ姿の女性がいました。

 豊かそうな胸を惜しむことなくギレルモ様に寄せ、どこかへ連れて行こうとしています。

 ギレルモ様がその侍女を振り払えれば良いのですが、眉間にシワを寄せながらもそれができないようです。

 きっと、ギレルモ様は女性の扱いに長けていないのでしょう。どう動かせば、女性を刺激しないで腕を抜けるかわからないのだと思います。


 奧に目を向けると、ドニー様とレタリア様はあの部屋に入っていきました。恐らく二人きりで時間を過ごし、レタリア様が白い魔獣を生成するのでしょう。

 レタリア様が好きという感情をわかっていなかった以上、貴族令嬢が異性と二人きりになることはいけません。

 そもそも、と思い、ギレルモ様に質問します。


「ギレルモ様! レタリア様とドニー様は、婚約者同士でしょうか」


 ギレルモ様は首を振ります。

 それならば、わたしが取る行動は一つです。

 声をかけるまでわたしの存在なんて気にもしていなかった侍女が、わたしのことを睨むようなお顔をされています。

 わたしは、深呼吸をしました。


「そこの貴女(あなた)! なぜ職務放棄をしているのですか! あなたの主人が、婚約者でもない殿方に連れて行かれたのです!! 侍女として、務めを果たしなさい!!」


 貴族らしい威厳を出せたでしょうか。

 侍女は、ピンと直立した後すぐにレタリア様達がいる部屋へ駆けていきました。

 侍女とはいえ、どこかの貴族の令嬢のはず。淑女教育はされていなかったのでしょうか。


 いえ、わたしが言える話ではないですね。


 わたしはギレルモ様と共に、レタリア様達の元へ行きます。

 部屋に入ると、行ったは良いもののどうすることもできない侍女が困ったようにこちらを窺ってきました。

 本日は、まだ白い魔獣を生成していないようです。


「エミリア……そんなに、ディポポを出してほしいの?」

「そう願ってはいますが、それとは別件です。ドニー様、レタリア様と婚約をされていませんよね? それならば、二人きりはいけません」

「エミリアって、ウォルフォードのお嬢様なんだっけ? ……貴族令嬢って、めんどっ……」


 今までならば聞き逃していたような、ドニー様の小声が聞こえました。


「今は貴族籍ではありません。その部分は訂正させていただきます。それから面倒とは、どういうことでしょうか」

「えっ、聞こえたんだ? エミリア、耳が良いね」

「わたしの質問に答えてください」

「あー、はいはい。わかったよ。帰れば良いんでしょ?」

「そういうことでは、っ!?」


 ドニー様がレタリア様のお隣を離れる際、侍女に向けて指を弾きました。その瞬間、侍女が首を押さえて倒れます。


「貴女!? どうされましたか!?」


 泡を吹いて白目になっている侍女に駆け寄り、<治癒>をかけようとします。

 しかし、侍女はすでに息をしていませんでした。口元に耳を寄せても呼吸の音はせず、死んでしまったようです。

 もしかしたら、わたしの<治癒>ならばすぐに施せば息を吹き返すかもしれません。ですが、死人を蘇らせるなどという恐ろしいことはできませんでした。

 わたしが侍女と向き合っている間に、ドニー様は帰ってしまったようです。


 ドニー様。なんて恐ろしい方でしょうか。魔法を使ったなんてわからないような手さばきで、侍女の命を奪ってしまいました。

 目の前で死を目撃したレタリア様の心のケアをしようと思いましたが、レタリア様は落ちこんでいないようです。

 その様子からも、この侍女が常に職務放棄していたのだとわかりました。


 ギレルモ様に担架を持ってきていただくように言った後、わたしはレタリア様を自室へ送ります。

 そして準備ができたと告げたギレルモ様と死体を運ぼうとしました。しかしレタリア様が一緒に行くとおっしゃいます。

 三人で、侍女の死体を担架に乗せました。そして、死体を玄関まで運びます。


「死人が出てしまいました。教会へ連絡しましょう。ここから一番近い教会は、どこにあるでしょうか」


 ウォルフォード領での決まり事を伝えると、ギレルモ様が首を振ります。

 そして無詠唱で出した石板に、死体は埋めれば良いと書きました。


「え、では何も弔わず?」


 埋めるだけで弔うことになるのだと、ギレルモ様が石板に書きます。

 わたしはウォルフォード領のことしか知りませんから、ここではこの地の規則を守りましょう。


 三人で、屋敷の裏庭に死体を運びます。そこは以前も誰かが埋められたのでしょうか。

 木製の朽ちかけた十字架がいくつかありました。墓標の中には、二つだけ掠れてしまって読めない石碑もあります。

 昔、ここに住んでいた方でしょうか。


 わたし達は石碑の隣に担架を置き、穴を掘っていきます。ここでルパを出せば効率良く掘れたと思いますが、自重しました。

 効率よりも、弔う気持ちを持って行うことが大事です。それに、ドニー様と交流のあるお二人に、わたしがテイマーだとばれてしまうのもいけません。


 穴を掘り終え、死んでしまった侍女を入れて埋めます。

 全ての土を戻し、墓標代わりにリュックから出した石をいくつか重ねて置きました。

 その、瞬間。

 突然重たい荷物を背負わされたかのように、ずんっという衝撃が背中を襲いました。わたしはどうにか踏みとどまりましたが、レタリア様は潰れてしまっています。

 それなのに、ギレルモ様は何ともないようにレタリア様を介抱しようとしていました。


 この、重たい衝撃。

 これは、わたしとレタリア様だけにあったようです。

 この衝撃は、この場所に初めて来たときにも似たようなことがありました。

 そのときよりも数倍重く、わたしですら踏みとどまることで精一杯です。


 衝撃は、突然でした。

 しかし、侍女の死体を埋め終わって墓標代わりの石を置いてからです。

 恐らく、それが何かのきっかけになったのでしょう。


 わたしはどうにか体を動かし、潰れてしまったレタリア様に肩を貸します。

 ギレルモ様は自分だけ自由に動けることが不思議で仕方ないようで、屋敷へ向かうわたし達に何もできないまま着いてきます。


 死体を埋め、墓標を立てる。

 これが、何かの儀式を成立させてしまったのかもしれません。




次、お昼更新です。

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