063 レタリア様のお力。
レタリア様のドレスを選び終えまして、次は着替えです。しかしそれよりも前に、体を清めないといけません。
「レタリア様。お風呂へ行きましょう。案内していただけますか」
「おふろ?」
「えぇと……。まさか、お湯がたっぷり入った場所には行ったことがない、なんてことは」
「ないよ」
「ですが、レミリア様は不潔ではありません。日々の清めは……毎日の体を綺麗にすることを、やっていますよね?」
「ギレルモ、水持ってくる」
「なるほど……。ギレルモ様は土属性。お湯は作れませんね」
わたしは今、お湯を作れる状態です。ギレルモ様にお水を運んでいただき、レミリア様の見ていない所でお湯にしましょう。
早速お水を頼もうと、部屋の外へ出ました。すると、まだ髪が湿っているギレルモ様が桶を持ってきてくださっています。
レタリア様の部屋の中に入れてもらい、ふわふわの浴巾を受け取りました。
「さぁ、レタリア様。わたしがある仕掛けをいたします。少々後ろを向いていただけますか?」
「わかった!」
素直なレタリア様は、くるりと背を向けます。
そしてわたしはナイフを手に取り、左の薬指を二度触りました。
<付与>をしてもらおうと思いましたが、ファラが出てきません。
「えっ、何で……」
こんなことは、一度もありませんでした。
ファラと出会って十年。指輪に入ってからも、ファラとはずっと一緒でした。
いつ、ファラとはぐれてしまったのでしょうか。
「エミリア様。何かあった?」
「あっ、えっと、申し訳ありません」
「謝る、わからない。レタに話す」
レタリア様は、心配するようにわたしを見ます。
わたしはナイフを持ったままだったことを思い出し、仕舞いました。
しかし、ファラがいません。ずっと一緒にいてくれた、ファラが。
どこではぐれてしまったのかと考え、ディポポに丸呑みされたときだと思いいたります。
わたしは、薄情者です。ファラが一緒にいてくれたから、ウォルフォード家でのことも耐えられたのに。
レミリア様が気遣うように、わたしの手を握ってくださいます。
「エミリア様、落ち着く。レタに話す」
「レタ様……そうだ、レタ様! レタ様、ディポポを出してください!! わたしの相棒が、その先にいるかもしれないのです!!」
「できない。ドニーといるときだけ」
「ドニー様が……ドニー様はいらっしゃいませんでしたが、どこかへ行ってしまったのでしょうか」
「わからない。ドニー、いつも白いのとどこか行く」
「白いの、というのは白い魔獣のことでしょうか」
レタリア様に質問をしながら、わたしはなぜか白い魔獣もレタリア様が出したのではと考えていました。
魔獣が、レタリア様の気持ちによって生成される。だから、白い魔獣も生成されるだろうと。
あれ、おかしいですね。魔獣はわたしを襲いましたが、ディポポはわたしを襲わなかったです。
それどころか、わたしの意に沿って動いてくれていました。
となると、白い魔獣はレタリア様が生成したわけではないということでしょうか。
考えるのです、エミリア。
わたしは疑いなく、白い魔獣も生成されると思っていました。
それには、必ず根拠があるはずです。
考え、わたしはある可能性を思い浮かべます。
レミリア様は初め、顔の半分を黒い布で覆っていました。それから藍色の部屋へ移動し、その布を外しています。
わざわざ移動したのですから、そこに意味があるはずです。
「……もしかして、レミリア様は藍色を見ると魔獣を生成できるのでしょうか」
「エミリア様、頭良い。ほぼ正解」
「ほぼ、というのは?」
「レタ、感情で変わる」
「感情で……ということは、藍色の部屋ではわたしに負の感情を抱いていたから魔獣が出たということでしょうか。部屋の外で魔獣が出現していなかったのは、藍色がなかったから……っは! もしかして、ディポポを出したときはドニー様の眼鏡の縁を!?」
「正解。ドニー、レタといてくれる」
もしかしたら、レタリア様はドニー様に恋をしているわけではないのかもしれません。
ただ一緒にいてくれて、話してくれるから。憧れはあるかもしれませんが、それよりももっと前の段階。
レタリア様にとって敵ではないから、ドニー様のお顔が近かったから、お顔を赤くされていたのかもしれません。
「では、藍色を捜しましょう。色とりどりのリボンがあるお部屋です。捜せば一つくらい……」
「ダメ。あの部屋だけ」
「あの部屋……最初にいた部屋だけ、ということでしょうか」
「そう。ドニーと一緒」
「そして、ドニー様がいらっしゃらないとダメだと……。ドニー様は、次はいついらっしゃいますか!?」
「わからない。ドニー、いつも突然」
ファラがわたしの傍にいません。
この収まらない不安は、ドニー様がいらっしゃるまで解消されないようです。




