062 レタリア様のご年齢
朝更新ですが、長くなってしまいました。
わたしは、レタリア様のお力を負の感情によって魔獣を生成すると推測しました。
藍色の部屋を飛び出したレタリア様は、羞恥という感情を抱いていたように思います。
藍色の部屋の外は魔獣であふれているかとおもいきや、一体もいませんでした。どうやら、わたしの推測は外れていたようです。
ではなぜ、藍色の部屋では魔獣が出現したのでしょうか。
疑問に思いつつ、レタリア様を捜します。
最初にわたしがいた部屋へ行きますが、ディポポもドニー様もいらっしゃいませんでした。
わたしは、この場所に初めて来ました。ですので、他にどこへ行けばいいのかわかりません。
「!」
一瞬影が差したような気がして、そちらへ目を向けます。
窓の奥に見えるのは、塔でしょうか。建物で考えると五階分ほどの高さの塔の周囲に、まるで受け皿のように巨大な平たい岩が展開されていました。
恐らく、ギレルモ様の魔法でしょう。
そして、その平たい岩はレタリア様の飛び降りを防いでいるのだと思います。
建物から出ると塔へ続く道があり、そこを駆けました。塔の下では予想通りギレルモ様が上空を見つめており、両手を上に向けています。
「ギレルモ様は、そのまま維持してください!」
ギレルモ様に言葉をかけ、わたしは塔の中へ入りました。
ぐるぐると螺旋階段を上り、扉を開けます。
「レタリア様! どうか落ち着いてください!」
「エミリア様!? あぁ、どうする!? 近づくな! 臭いレタは、エミリア様に嫌われる!」
「レタリア様の傍に行かせてもらえるのなら、嫌いになりません」
「っ、ぐぬぬっ。そ、それは、究極の選択っ!!」
確か、レタリア様は今、わたしを好意的に思ってくださっているはず。それならば、近づかせていただくお礼を伝えましょうか。
「レタリア様。近づく許可をいただければ、レタリア様のお望みを叶えます」
「っ、そ、それはっ……エミリア様が、レタを殴る!?」
「……レタリア様を悪いようにはしません」
「ではっ!」
交渉、成功です。
窓際から離れたレタリア様は、自らわたしの方へ近づいて来ました。そして目を閉じ、腰を曲げて右頬を差し出します。
レタリア様の期待を裏切ってしまいますが、わたしはレタリア様を抱きしめました。
「はっうぇ!?」
「わたしが近づくのではなく、レタリア様が近づかれたので、これは罰です」
「そ、そんなっ……こ、これは、ただのご褒美!!」
ふにゃっとしたお声を出したレタリア様は、力強くわたしを抱きつきます。ぐりぐりと頭をわたしに擦りつける様子は、さながら愛玩動物のようです。
背の高さはわたしとさほど変わりません。もし防御力が低かったら、レタリア様の頭蓋骨の固さで呼吸もままならなかったでしょう。
わたしの胸は豊かではないので、レタリア様の呼吸困難もなさそうです。
レミリア様が落ち着くように背中をポンポンと優しく叩いていると、レタリア様がお顔を上げました。
ニカッと笑う口元には八重歯が見えます。レミリア様は、笑顔が魅力的な方ですね。
「レミリア様。落ち着かれたようならば、わたしをレミリア様のお部屋へ案内していただけますか? ご一緒に、お着替えのドレスを選びましょう」
「本当!? レタ、エミリア案内する!!」
わたしの腕に抱きついたレミリア様は、率先して螺旋階段を下り始めます。
そして外へ出ると、ギレルモ様が呆気にとられたようなお顔をされていました。
「ギレルモ様も着替えてきてください」
「エミリア様! 早くー」
「レタリア様。そんなに引っ張らなくてもすぐに行きますよ」
ギレルモ様に伝えつつ、レタリア様に引っ張られて進みます。
最初にいた部屋と同じ階に案内されたわたしは、レタリア様のお部屋に入って言葉を失いました。
リボンやぬいぐるみが様々なところにあるのです。天蓋付きのベッドにも色とりどりのリボンがつけられており、ベッドの上には様々な動物のぬいぐるみがたくさんあります。中には年季の入ったものもあるようですが、レタリア様が愛用しているのでしょうか。
机や家具や絨毯も、全てがピンクで、机や椅子の足にはまた違うリボンが結ばれていました。
「……レタリア様は、可愛らしい趣味をお持ちなのですね」
「エミリア様、顔色変? この部屋、変?」
「い、いえ……レタリア様がこのお部屋をお好きならば、他人のわたしは何も言えません」
「んー。どっちでもない。レタ、ここにいるだけ」
「えぇと、それは、レタリア様の趣味ではないということでしょうか」
「そう」
ドレスを着ているのならば、レミリア様はどこかのご令嬢のはず。
貴族令嬢であれば、自分の趣味を言えないような親子関係なのかもしれません。
ここは二階建ての建物ですが、働く方を見かけませんでした。
いえ、もう一つ不可思議な点があります。
わたしは、塔へ向かうのに駆けました。しかしそれは、高い敏捷性を気にすることなく、普通に走るようにして移動できたのです。
最初にレタ様達と出会ったあの部屋でも、体が重くなる瞬間がありました。
もしかして、何か仕掛けがあるのでしょうか。
「エミリア様? どうかした?」
「あ、いえ……申し訳ありません。考え事をしておりました」
「問題ない。エミリア様、レタのドレス選んで」
「かしこまりました」
レタリア様に手を引かれ、クローゼットへ向かいます。
クローゼットは大きく、貴族令嬢らしい量のドレスが掛けられていました。えぇ。量は、あるのです。
クローゼットにあるドレスはどれも、リボンが大量に着けられているものばかりでした。
「……レタリア様。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「良いよ」
「レタリア様は、おいくつでしょうか。そのご年齢によって、どのドレスを選ぶか決めます」
「んー………。たぶん、レタは十八」
「え゛」
あどけない様子から、成長が早いだけの幼子だと思っていました。
しかし、聞いたお年は、まさかの十八。私よりも二つ年上です。
「えぇと……レタリア様をお世話する方がいらっしゃいますよね? その方は何もおっしゃらないのでしょうか」
「言わない。あいつが持ってきた」
「なる、ほど……」
レタリア様は貴族令嬢です。身嗜みを整えることは、侍女の仕事のはず。
今もいませんが、レタリア様の侍女はどちらにいるのでしょうか。職務放棄について、問いたださないといけません。
そこまで考え、改めます。
わたしはあくまでも一般人。ウォルフォードの名を名乗れません。仮に名乗れたとしても、余所様の事情に深く関わることはいけませんね。
考え事をしていたら、レタリア様がシュンとされていました。
「エミリア。レタのドレス、変?」
「えぇと、レタリア様は、お好きな色はありますか?」
「好き?」
「えぇと……これが良いなーだとか、これに惹かれるなーだとか、心が前向きになるような感情ですね」
「んー……よくわからない。でも、レタはエミリア様好き!」
「ありがとうございます。では、色は白でしょうか」
レタリア様の意見を聞き、白めのドレスを捜します。
クローゼットの中に、ちょうどオレンジのリボンもついた淡黄色のドレスがありました。厳密に言えば白ではありませんが、一番近いような気がします。
選んだドレスにも、胸元、袖、全体とリボンがつけられていました。これだけ大量のリボンがついているのは、逆にお高い気がします。
「……レタリア様。少々、リボンを外してもよろしいでしょうか」
「良い! エミリア様、自由に良いよ」
拙いながらも話せるということは、侍女と話もするのでしょう。もしくは、その他の侍従と。
貴族令嬢であれば、話し方は矯正されるはず。それもされないのならば、レタリア様は家の中で放置されているのかもしれません。もしくは、無関心か。
鋏の場所はわからないということだったので、どうにか素手で対応します。
<攻撃力、200万>ですが、リボンを取る行為は攻撃と見なされなかったのでしょうか。<技能、200万>と<器用、300万>が作用したのかもしれません。
わたしは淡黄色のドレスについた、大量のリボンを外します。
一部、レタリア様が反応した、胸元と裾にあるオレンジのリボン以外を除いて。
次、お昼更新です。
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