050 アロイカフス
シャミー様から求められた三日間。
これがアラバス王国であれば冒険者としてクエストをこなせば良いのですが、ここはフスラン帝国。
国が違えば冒険者の仕組みも異なるため、冒険者として働くことはできませんでした。
その代わり、イザヤ様にお付き合いいただきまして、フスラン帝国で働く友獣達の活躍を見学しました。
様々な友獣達を見ながら学び、常に冷静でいられるように心掛けます。
初日は友獣を見て気持ちが高まってしまいましたが、三日目になると自分の傾向がよくわかりました。
そして、三泊した後。
わたしとイザヤ様は、魔術道具研究所へ向かいました。
玄関にミッチー様がいらっしゃり、また所長室へ案内してくださいます。シャミー様は三日連続で働いていたそうで、所長室の一角で体を休めていると伺いました。
魔術道具を託されたミッチー様より、説明を受けます。
「えー、合金式耳挟み装置という名前がありますが、アロイカフスで良いそうです。こちらのアロイカフスを両耳に装着していただければお求めの能力を得られるようです」
差し出されたのは、十八個のアロイカフス。四属性の色を模した小さな宝石が二個ずつ着けられています。
内訳は、同色の組み合わせが各属性四つずつ。赤と黒、青と緑の組み合わせが二つ。
宝石は全部で三十六個ついていますから、それと同数の友獣をテイムできるということになります。
「三十六……すごいね」
「はい。もう、想像すらできないです。そういえば、この宝石のお値段及び魔術道具の制作費はおいくらでしょうか」
「後でチェリニさんからいただくようですよ」
「え゛。それは申し訳ないです。借金をする形にはなってしまいますが、お支払いします」
「気にすることないさ!」
ギルド長様の等身大の人形で元気を取り戻したのでしょうか。シャミー様が所長室の一角から出ていらっしゃいました。
「義兄さんからは、年が明けてからの五日間を一緒に過ごしてくれるという確約を得ているんだ。五日もだよ!? 姉さんと結婚してからもこちらに顔を見せない義兄さんが!!」
興奮している様子のシャミー様を見ていると、ギルド長様が難しいお顔をされていたことを思い出しました。
きっと、シャミー様の義兄弟愛が大きすぎて大変なのでしょう。
「ボクにとって魔術道具を作ることは朝飯前さ。それに今回は、義兄さんが素晴らしい案を提示してくれた。これはフスラン帝国のテイマーにも流行ると思うよ! また使いきれないお金が貯まっちゃうね!」
「と、いうことなので、料金はお気になさらず。そしてアロイカフスですが、エミーさんの魔力を流すと耳の形にぴったりと合った状態になります」
「あの、魔力を流すというのはどういうことでしょうか」
「? エミーさんはテイマーですよね? ステータスに魔力表示がされていませんか」
「アラバス王国では、テイマーがいないので……」
「なんと。しかしテイムリングを装着していますし、テイマーであることは間違いありません。なので、エミーさんが触れば問題ないと思います」
「かしこまりました」
「研究所内で装着してしまった方が良いかと思うので、別室へご案内します」
シャミー様はギルド長様と過ごす五日間のことを妄想されています。独自の世界に入っていらっしゃるようなので、所長室を出る際に会釈をしておきました。
ミッチー様に案内され、イザヤ様と一緒に部屋を移動します。
通されたのは、大きな手鏡が置かれた部屋でした。
「所長より、『二人で協力して装着してね。アロイカフスにいる友獣のスキルは、念じれば無詠唱みたいに使えるから』と伝言を預かっています。全て装着できましたら、また所長室へ来てください。玄関までお送りするので」
「は、はい。ありがとうございます」
ミッチー様はアロイカフスを机の上に置くと、部屋を出ていってしまいました。
部屋に窓は着いていますが、こじんまりとした部屋の中でイザヤ様と二人きり。
大きいといえども手鏡以外に鏡がなく、イザヤ様に着けていただくしかないように思います。
いいえ、まだ希望はあるはずです。わたしが触れば耳にぴったりと合うのならば、片手で鏡を持って着ければ、あるいは。
「そ、その、イザヤ様。ひとまず自力でやってみます」
「わかった。無理そうなら頼ってくれて良いからね」
「はい。そのときは、よろしくお願いします」
イザヤ様にご迷惑をおかけしないように、わたしは大きい手鏡の前にある椅子に座りました。
左手で手鏡を持ち、右手でアロイカフスを持ちます。
が、しかし。
シャミー様の策略を感じます。大きな手鏡は重たくて、片手で持つとプルプルと震えてしまうのです。
両手で持つと安定する、ということは。
「も、申し訳ありません……。わたしの体力がないばかりに、重たい鏡を片手で持てません……」
「わかった。友獣を出すときにどこに何の宝石があるかわかった方が良いと思うから、エミリアはそのまま鏡を持って確認してて」
「かしこまりました……。よろしくお願いします……」
イザヤ様がわたしの横に立ち、フードを外すため前髪の付け根辺りに手を置きました。
ぞくっとした、くすぐったさがあります。思わずブルッと震えてしまい、イザヤ様にすぐ謝罪します。
わたしは一度手鏡を置き、フードを外しました。
「お待たせしました。では、お願いします」
普段から、行動の邪魔にならないように髪を纏めています。項をイザヤ様に晒すような状態になり、少し恥ずかしいです。
いえ、いけませんね。ここで心を乱しては、またイザヤ様のお命を危険に晒します。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせました。
落ち着かせたのですが、落ち着きません。
イザヤ様の、少しかさついた手が、わたしの耳に当たります。
いえ、アロイカフスを着けていただくのでそれは当たり前です。
当たり前なのですが、心がざわつきます。
イザヤ様が着け、わたしが手鏡を置いて耳に触り定着させます。そのとき、何度もイザヤ様の手にも触れてしまうのです。
何度も謝罪するため、イザヤ様の手間を増やしてしまっています。
イザヤ様が手を引かれた後にわたしが触れば良いのですが、そうするとアロイカフスがぽろりと外れてしまうのです。
だから、イザヤ様の手と重なるようになってしまいます。
「お、お疲れ様でした……」
片耳に九個ずつ、両耳で十八個のアロイカフス定着終了です。
体力を削られるような仕事をしたような疲労感がありました。
イザヤ様も、同じような状況のようです。
ローブを被り直し、イザヤ様と一緒に所長室へ戻ります。
休んでいるシャミー様の代わりに、ミッチー様に玄関まで送っていただきました。その際、ギルド長様への言伝を預かります。
カメオをつけていてほしいと。
その言伝を了承し、魔術道具研究所を出ました。
本日、もう一つ更新します。




