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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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047 ララブル亭


 魔術道具研究所を出たわたし達は、水路にかかる橋まで進みました。

 研究所でそこそこの時間を過ごしていたらしく、水路が夕焼け色に染まっています。

 ルコで見た夕焼けとはまた違う景色で、こんな綺麗な景色をイザヤ様ともっと見たいと思いました。


「三日間、どうしようか」

「まず、夕食を取りに行きませんか」

「良いね。どこに行く?」

「その、ルトゥルーへ来たときに女将さんから提案されたララブル亭はどうでしょう?」

「そうだね。そこに行ってみようか」


 イザヤ様がゆっくりと歩き始めました。

 手を差し出していただけなかったことに、少し気分が落ちこみます。


 な、何を考えているのでしょうか、わたしは。手を繋ぐことが当たり前ではないのに。


 イザヤ様は、わたしの歩調に合わせてくださいます。そのため一定の速度で進んでいくわけですが、手を伸ばせばイザヤ様の左手がすぐそこに。


「ララブル亭って、門兵の人に聞いたらわかるかな」

「っ、そ、そうですね!」

「どうしたの、エミリア?」

「い、いえ、お気になさらず!」

「そう?」


 イザヤ様がまた進み始めます。

 イザヤ様の左手ばかりを見ていたわたしは、自分の中にある一つの気持ちに気がつきました。


 ……わたしはなぜ、イザヤ様と手を繋ぎたいのでしょうか。


 イザヤ様の右手は、これまでの訓練を物語るように厚く硬いものでした。

 しかし左手は、右手と比べると少し柔らかかったです。それでもわたしの手とは比べものにならないぐらい大きくて、しっかりとしていました。

 自分と違う手に興味を持ったのでしょうか。

 自分の気持ちのはずなのに、謎は深まるばかりです。


 それから先は、イザヤ様の左手を見ることを止めました。見ていると、また繋ぎたくなってしまうので。


 イザヤ様と街の入口まで戻り、門兵の方からララブル亭を教えていただきました。ちょうど交代の時間らしく、ララブル亭まで案内してもらえるようです。

 門兵の方を先頭に、夜を迎えるルトゥルーの街を歩きます。

 各家に明かりが灯され、赤茶の建物が昼間とは違う装いを見せます。ランタンの明かりが届かない場所には影があり、それがまた味わい深いものになっているようです。

 歩道と馬車が進む道が分けられているため、街の様子を見ながら歩いても轢かれる心配はありません。


「ここだよ」

「ありがとうございました」


 グッと親指を立てた門兵の方は、お手本のような笑顔で去って行きました。イザヤ様のお言葉の後に、わたしも会釈します。


 ララブル亭は、とても繁盛しているようです。扉を開けると、中からは宴会のような賑やかなお声が聞こえてきました。


「いらっしゃい! あら、お二人さん。ようこそ、ララブル亭へ!」

「「ようこそ、ララブル亭へ!」」


 女将さんが店に立っており、早速お声をかけていただきました。その挨拶を復唱するように、従業員の方々が元気よく迎えてくださいます。


「うちの店に来てくれたってことは、オススメを出して良いかい?」

「お願いします」

「熱い心は果てなき想い。二人で挑むパルフェ()ジュース! パルジュー一つ、頼んだよ!!」

「「おまかせあれ!!」」

「お二人さんは、この席で待っていておくれ」


 わたし達がローブを被っていたからでしょうか。女将さんは店の奧の席に案内してくださいました。

 店内には女性同士や親子もいますが、人数の比率としては男女の組み合わせが多いように思います。

 その内の、偶然視界に入った男女を見て言葉を失いました。


 ……もしかしなくても、イザヤ様を困らせてしまうのでは!?


 視界の中の男女は、ガラスの入れ物から二股に分かれている細い筒で喉を潤しているようです。その男女の顔の近さと言ったら、もう。

 人様の前で顔を近づけるなんて破廉恥だと思いつつも、目をそらせません。

 先程女将さんが仰っていたのは、お料理のお名前でしょうか。そうではないことを祈ります。

 わたしが目を離せないお二人の前には、色とりどりの果実が添えられているスイーツが置かれています。あの机にあるものが、パルフェとジュースだとしたら。


 恐る恐る、イザヤ様に目を向けます。

 イザヤ様も知らなかったのでしょう。呆然として、開いた口が塞がらないようです。


「も、申し訳ありません、イザヤ様! シャミー様から、このお店で食べればイザヤ様が元気になると教えていただいたもので!」

「ああ、うん……」


 イザヤ様の反応が鈍いです。

 イザヤ様の視線は、わたしが見ていたお二人に釘付け。わたしも再び見てしまい、すぐに目をそらします。

 女性の方が、男性へスイーツを食べさせていました。お二人はとても幸せそうに見えますが、今からわたし達があれをするのでしょうか。


「熱い心は果てなき想い。二人で挑むパルフェ()ジュース! パルジュー、お待たせ!」

「あ、ありがとうございます……」


 覚悟が決まらないまま、品物が机に並んでしまいました。

 女将さんが、期待するような眼差しでわたし達を見ています。


「イ、イザヤ様。ここはそれぞれお食事を楽しむということでっ」

「二人で協力すれば半額。完食できたら八割引だよ」

「八割引っ……!!」


 イザヤ様に無難な提案をしてすぐ、女将さんから魅力的なお言葉をいただきました。

 わたしはまだ自由に使えるお金がありません。イザヤ様に払っていただくのならば、安い方が良いに決まっています。


「イ、イザヤ様っ」

「エミリア。無理はしなくて良いよ。別に、割引じゃなくても問題ないし」


 イザヤ様らしくない、怒りをにじませているような声音です。その様子を見ると、このお店でのやり方に賛同していないように思います。

 八割引はとても魅力的ですが、無理やりやる必要はありませんよね。


「今なら初回特典で、完食すれば知り合いがやっている宿屋を紹介するよ」

「そ、それは……」


 もう夜です。今夜の宿を決めていないため、宿屋に行けるのならありがたいお話です。

 ゴクリ、と唾を飲むわたしに、女将さんが耳打ちします。


「……そして今なら、宿の料金も一割引になるよ」

「やります!!」

「エミリア!?」


 女将さんから囁かれた提案は、魅力的すぎました。わたしは反射的に、実行を宣言してしまいます。

 イザヤ様が、席を立ちました。厨房の方へ行こうとしたのを、熟年夫婦のような組み合わせだった男性が止めます。


「どこへ行くつもりかね」

「ふ、二人分のカトラリーを……」

「そんな無粋なことをしてはいけない。倹約家の彼女が、決断したのだから」


 男性からの圧により、イザヤ様は座り直しました。

 そして、値段を抑えるためにパルフェとジュースをいただこうとして、気づきます。

 先程わたし達が見ていたお二方や親子連れのお子様以外の方々が、見守るような温かな眼差しをわたし達に向けているということを。


 ……やはり、早まってしまったでしょうか。


 衆人環視の的になっている状態で、完食しなければいけないようです。


「イ、イザヤ様。パルフェの中の白いものが溶けてしまっています。早く、食べてしまいましょう」

「そうだね。うん、そうしよう」


 わたし達は先に、パルフェから取り組むことにしました。

 置かれていたスプーンを持ち、白いものを掬ってイザヤ様の口元に差し出します。それを、イザヤ様は恥ずかしそうに目を閉じながら口に含みました。

 次は、イザヤ様がわたしにスプーンを差し出してくださる番です。口を開けようとして、店内にいる誰かがぼそりと呟きました。


「間接キスね……」


 キス!?


 期待を込めるようなお声だからでしょうか。小声のはずなのに、その内容がしっかりとわたしの耳に届いてきました。

 キス。キスとは、将来を約束した二人が、することではないでしょうか。


「っ」


 なぜ今、淑女教育の一環として勉強させられた内容を思い出してしまったのでしょうか!


 思い出してしまったが最後、もう顔色を戻せません。

 わたしは今、顔を真っ赤にしているのでしょう。顔がとても熱いです。


「エミリア。エミリア」


 顔が熱すぎて涙すら浮かんできた頃、イザヤ様が優しくお声をかけてくださいます。

 そうでした。これはわたしだけの問題ではありません。

 衆人環視の的になっているのは、イザヤ様も同じです。むしろ、スプーンを手にしたままのため、わたしよりも注目されているかもしれません。


「エミリア。あーん」

「は、はい……っ」


 パクッと、勢いをつけて白いスイーツを食べました。

 顔が火照っているわたしにはちょうど良いような、ひんやりとしたものです。まだまだ顔の熱は引きません。

 一度しましたので、次は躊躇いなく口を開けました。


「っ……」


 イザヤ様が、開いている左手で口元を押さえました。そしてそれからすぐ、わたしの口元へスイーツを運んでくださいます。


 それから、わたしとイザヤ様はパルフェを食べさせ合いました。

 ジュースも、イザヤ様の息づかいが聞こえてきそうなほど近い距離で飲み干します。

 こうしてララブル亭の試練を乗り越えたわたし達は、八割引のお値段で支払いを終えました。

 そして、ララブル亭の女将さんが紹介してくださった、宿へ向かいます。



明日、お昼更新あります。

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