046 シャミー様の実力
誤字報告ありがとうございました!
シャミー様は魔術道具研究所が始まって以来、最年少で所長になられたそうです。
魔術道具と言ってもその範囲は広く、火属性持ちではなくても火を起こせる火打ち石、水属性持ちではなくても水を出せる水石、映像と音声を記録できる記録石等々、ほんの少しの魔力があれば生活が楽になるようなものを開発されているそうです。
そんな数々の功績を認められ、所長になったと。
ミッチー様よりご説明がありました。
シャミー様は現在、そのミッチー様が飲ませた赤黒い液体を摂取して倒れています。何でも、興奮した精神状態を沈静化させる効能があるのだとか。
精神が高ぶっているほど効果が高く、倒れている時間が長いのだそう。
そのため、シャミー様はまだ目を覚まさないそうです。
「あの、ミッチー様。玄関先にて勝手に<治癒>をしてしまいましたが、お身体に異常はありませんでしょうか」
「全くありませんね。それどころか、冒険者をしていた頃に戻ったような筋肉を得ました。研究所で働き始めてから五年ほど経ちますが、これほど健康的な状態は久しく忘れていたぐらいです」
「それなら良かったです。ミッチー様は、冒険者だったのですね」
「ええ。所長が冒険者になるというので、その付き合いで」
ミッチー様とシャミー様は幼い頃からのお付き合いがあるそうです。シャミー様は冒険者だったギルド長様との決闘を経て、ギルド長様に心酔。
それから冒険者を経験し、引退してから魔術道具の研究所へ入ったとのこと。
ミッチー様は地属性を持っていますが、繊細な魔法は扱えず剣士だったそう。そしてシャミー様は後衛で回復役兼魔法使いとして活躍されたそうです。
「シャミー様は三属性を持っているのですね。違う属性の組み合わせの方法をご教授願いたいです」
「いえ、所長は三属性ではなく地と水持ちですね。緑の髪なのは、チェリニさんを崇拝しているので、<擬態>をかけています」
「えっ、そうだったのですね。<擬態>をかけ続けるなんて、魔力がかなり高いのですね」
「ボク、ふっかーつ!」
ミッチー様とお話していると、シャミー様がバッと体を起こしました。その勢いのまま立ち上がり、ミッチー様の顎にシャミー様の頭が衝突。双方の痛みを想像してしまいましたが、ミッチー様は平然としていました。
それどころか、頭頂部を抑えているシャミー様の旋毛の辺りに、指を高速で突きます。
「何するんだ、ミッチー!! お前のせいで下痢になったら責任を取れるのか!」
「所長が早く仕事へ戻れるよう、書類を整理しておきましょう」
「いや、そこは片づけておいてよ!」
イザヤ様とギルド長様も仲良しだと思っていましたが、シャミー様とミッチー様も仲良しさんですね。
いつまでも見ていられそうなやり取りでしたが、イザヤ様が咳払いをしました。
「いやー、ごめんごめん。ちょっと待ってね。ミッチー。四色装置、持ってきて」
「了解」
シャミー様の指示を受けたミッチー様が、左奥の扉の奥へ行きます。そして何かが崩れるような音がした後、十年前に見たような装置を持ってきました。
十年前、六才の祝福で見た属性診断装置よりも小型のような気がします。以前見たものは、指を置く場所と半円状に光るものがありました。
目の前にあるものは、その半円状のものがありません。
「エミーちゃん、これに指を置いてみて。どっちの手でも良いから」
「はい。かしこまりました」
シャミー様に言われるまま、左手を装置に置きます。すると、装置の右端に青、赤、黒、緑の順番で点灯しました。
その結果を見たシャミー様は、とても嬉しそうなお顔をされます。
「すごい! エミーちゃん、四属性じゃん!! 理論上は計測可能だけど、まさか生きている間に四属性持ちに出会えるなんて!!」
「この装置の説明をお願いします」
感動した様子のシャミー様に両手を取られそうでしたが、イザヤ様がその動きを察知して阻止されました。
その動きは素早く、ミッチー様は捕捉できていなかったようです。わたしの隣に座っていたはずのイザヤ様がシャミー様の隣に立っていて、驚いているように見えました。
「あははっ! 良いね、イッチー。さすがはイッチーだ。その気持ち、エミーちゃんに早く届くと良いね!」
「わたしに?」
「ははっ。これは確かに、義兄さんも苦労するわけだ! 良いよ、エミーちゃん。君はそのまま純粋でいれば」
「は、はぁ……」
上機嫌なシャミー様は、わたしの隣に座り直したイザヤ様を見て目をそらしました。
イザヤ様に目を向けてみると、にっこりと微笑んでくださます。優しいお顔ですね。
「んじゃ、イッチーに怒られない内に四色装置について説明するね」
シャミー様曰く、これは測定する人の魔力属性を強い順に点灯させるものらしいです。何でも、アラバス王国のケンチーなるお方が属性別の魔法を色覚化することに成功したようです。この装置はその技術を応用して作られたのだとか。
ケンチー様はなぜ、色覚化しようと思われたのでしょう。もしお話を伺える機会があれば、お会いしてみたいです。
測定装置によるとわたしの場合は、青、赤、黒、緑の順に強いとのこと。これは<治癒>をよく使うからでしょうか。
この装置は必ず四色を示すのではなく、三属性なら三色、二属性なら二色で点灯するようです。
シャミー様が指を置くと、青、黒の順に点灯しました。
わたしの隣にいたイザヤ様から、そわそわとした空気が伝わってきます。
「イッチーも置いてみる? もしかしたら魔力持ちかもよ?」
「ま、魔力は六歳の頃よりも十二歳頃の方が安定するというし、もしかしたら」
心なしか、お声が弾まれているような気がします。
そんなイザヤ様が装置に右の指を置きました。
「……」
「イッチー、気にすることないって! 義兄さんから聞いたよ? プラチナ級まで届いた実力者なんでしょ? それでいーじゃん」
「わたしは頼りきりですが、イザヤ様は魔力に頼らずとも実力で活躍されてきました。それはとても素晴らしいことです!」
「テイマーが活躍するこの国でも、魔力無しはいる。気にしなくても問題は、ない」
「……まあ、わかっていたことだし」
この部屋にいる三人から声をかけられたことが、逆にイザヤ様を落ちこませてしまったのかもしれません。
しょぼんと肩を落とす様子を見ると、何か他の言葉をおかけすれば良かったと後悔します。
どんな言葉をかければイザヤ様が元気を取り戻すか考えていると、シャミー様からこそっと教えていただきました。
ララブル亭で食事をすれば、イザヤ様が元気になると。
「エミリア? どうかした?」
「い、いえっ、何も!」
シャミー様と話していると、イザヤ様が少し復活されたようでした。まだ完全復活ではないものの、いつものお優しいイザヤ様に戻られたようです。
「これからボクは、義兄さんに頼まれた仕事をこなすよ。そうだな、三日もらおうかな。それまでルトゥルーを楽しんで」
作業を開始するため右奥の扉の奥へ行ったシャミー様の代わりに、ミッチー様が玄関先まで送ってくださいました。
三日後、また魔術道具研究所へ戻ってきます。




