044 ルトゥルーの街
フスラン帝国に入ってから二泊野営しました。よって、ファラの技能牧場を二つ開拓します。〈スキルⅠ〉の右から五番目と六番目に小さなファラが草を食べる演出が入りました。
〈スキルⅠ、117〉になったことを確認し、三日目にルトゥルーに到着です。
「わぁ……」
ルトゥルーは、思わず声が出てしまうような街でした。
家の壁は大きさの異なる赤茶の砂岩と、それを繋ぎ合わせる白いもので覆われています。イザヤ様に窺ったら、その白いものは漆喰という建材だそうです。
壁をつたう蔦、鉢植えの色とりどりな花、薔薇のアーチ等々赤茶の家々は美しく彩られています。建物には尖塔もあり、それがより街の可愛らしさを演出しているような気がしました。
ラゴサの冒険者ギルドは煉瓦造りでしたが、それとはまた違う雰囲気があります。
「エミリア。魔術道具研究所の場所を教えてもらったよ。移動しよう」
「あ、はい」
わたしが街の様子に心を奪われている間に、イザヤ様が門兵の方に聞いてくださったようです。
門兵、とはいってもフスラン帝国では身分を確認せず入れるらしく、馬車も数台通り過ぎていきます。
フスラン帝国での門兵の方のお仕事は、明らかに不審な人物を聴取することと、街案内をされることだそうです。交代の時機が合えば、そのまま街の中まで案内してもらえることもあるのだとか。
今回はイザヤ様が断ったらしく、二人で移動します。
「エ、エミリア!」
「は、はい! 何でしょうか」
「そ、その……知らない街ではぐれたら大変だから、手を、繋ごう」
「手を……?」
「あ、いや、ごめん。エスコートするなら手じゃ駄目か。腕を掴んでもらうんだっけ?」
人の波から少し外れた場所で、イザヤ様がお顔を赤くされているような気がします。
日陰ではありませんし、周りの壁も赤茶色ですが、イザヤ様のお顔の色は日差しに照らされただけではないと思います。
「ふふ。わたしはもう貴族ではないので、どちらでも構いませんよ」
「そ、そっか。それなら……」
すっと差し出された、イザヤ様の右手。緊張されているイザヤ様の気持ちが移ったかのように、わたしも緊張しながら、左手を重ねました。
イザヤ様が毎日訓練を欠かさないからでしょう。手の平の皮は厚く、硬くなっています。
自分の手とは違いすぎるイザヤ様の手に少しドキドキしながら、わたしの正面に立つイザヤ様を見ました。
「……イザヤ様、手を重ねてから気がつきました。これでは握手です」
「そ、そうだね!」
ぱっと右手を離したイザヤ様は、隣に立って左手を出してくださいます。その手に右手を重ねました。
「初々しいね! そんなお二人にぴったりの食事を提供できるよ! ルトゥルーで食事をする際には、ララブル亭に来ておくれよ!」
気さくに声をかけてくださったのは、お店の方でしょうか。女将のような親しみやすさを持った女性は、街の中央へ流れていく人の波に乗って行ってしまいました。
その女性だけでなく、数人の街の人や門兵の方などがわたし達を見ていたようです。不意に目が合ってしまい、そらされてしまいました。
ルトゥルーは、温かく優しい人柄の方々が多いようです。
「イザヤ様。魔術道具研究所へ向かいましょう」
「そうだね」
クッと、イザヤ様が優しくわたしの手を引きました。その力は強くありませんが、わたしの手が離れないようにしっかりと握ってくれています。
イザヤ様の先導の元、街を歩きます。
可愛らしい街並みの中、目にするのは黒、緑、赤、青の四色の友獣達。
イザヤ様は歩きながら、わたしが足を止めたときに友獣のことを教えてくださいます。
屋根と壁の隙間に何かを持っていく、蛇型友獣。
人が立てないような狭い場所で指示を受ける猫型友獣。
屋根から地上に降り、二本足で横歩きをする姿が可愛らしい猿型友獣。
これら三体は黒いので、地属性ですね。
さっと陰ったので顔を上げると、嘴の喉袋に物を入れて運ぶという鳥型友獣がいました。
あの子は緑なので、風属性ですね。
イザヤ様に手を引かれながら歩いていると、民家の裏手が見えました。そこでは鹿型友獣が大きくて立派な角に洗濯物を掛けられています。
カカカッという音が聞こえて目を向ければ、建設中の家の所に啄木鳥型友獣がいました。
サチェルもサピッキョも赤いので火属性ですが、なぜその分類になっているのか、通りがかりに見ただけではわかりません。
魔術道具研究所へ向かっていると、水路にかかった橋が見えてきました。
街の雰囲気に合っているその橋の下では、ルコの街で見かけた半魚人型友獣が水中で何か作業をしています。
サタルーガやサグランは大きいので、街中での活動は難しいのかもしれません。
「イザヤ様! すごいですね!」
「そうだね。ここでは、普通にテイマーと友獣が活動してる」
興奮のあまり、ギュッと強く握ってしまいました。しかしイザヤ様はお顔を顰めることなく、柔らかい笑みを見せてくださいます。
その笑顔に、胸がきゅっとしました。それは不快ではなく、心がポカポカとするような気がします。
不思議なその感覚に首を傾げつつ、橋を渡りきりました。
その橋から少し歩き、ようやく魔術道具研究所の門構えが見えてきたようです。
その場所は、ルトゥルーの街中にありながら小さな街のようになっていました。広い敷地の中にはいくつもの建物があり、どこを訪ねればいいのか迷ってしまいます。
「あそこで聞いてみようか」
「はい」
門から一番近い、平屋に尖塔がついている建物に向かおうとしたとき。
敷地の奥から、けたたましい音量の警報が鳴り響きました。そして、何かが破裂したようです。
その音はわたし達にとっては驚くものでしたが、ここで働く方々には日常茶飯事のようです。誰も外へ出てきません。
ひとまずギルド長様の義弟シャミー様に取り次いでもらおうと、イザヤ様と並んで平屋へ行きます。
そして、求めし人物は敷地の一番奥にある建物にいると教えてもらいました。
本日、もう一つ更新します。




