041 追加の実験
長めの文量です。
ウォルフォード辺境領を横断して三日目。
明日はついに、ネレピス山脈の麓にある関所を通ります。
イザヤ様曰く、冒険者証は関所でも身分証として通用するとのこと。
各街での通行料もいらず、関所も通れる。冒険者証、なんて便利なのでしょうか。
本日の野営地は、ネレピス山脈の麓、関所には歩いて一時間ぐらいで行ける場所です。
周囲は開けていますが、少し行けば森もあります。
天幕の準備を手伝えました。
「エミリア。明日はフスラン帝国に行くけど、その前に確認しておこう」
「何をでしょうか」
「何かあってもエミリアのことは絶対に守るけど、念のために。チェリニさんも気にしていた、同時に複数の友獣を出せるかどうか検証してみようよ」
「かしこまりました。どの子を出しましょうか」
「エミリアを守りつつ、攻撃できるような組み合わせが良いかな」
「ということは、ファラとルーガでしょうか」
左薬指と、左人差し指を二回素早く触ります。
ファラとルーガが同時に登場しました。
「うん。いけるみたいだね。スキルとか、攻撃とかもできそう?」
「やってみます。ファラ、雑草に向けて火の粉の渦をお願いします! ルーガのお力を借りますね。<擬態>!」
ルーガの住居、青い指輪をつけた左手で前髪を撫でます。
その間、ファラは伝えた通りに火の粉の渦を作ったようです。
「どうでしょうか、イザヤ様。わたしの前髪、色が変わっているでしょうか」
「いや……いつもの通り、オレンジみのある白くて綺麗な髪だよ」
「おかしいですね。これで<擬態>できているはずなのですが……」
「もしかしたら、色を指定してないからだめだとか?」
「なるほど! イザヤ様のように大樹のような焦げ茶色に<擬態>します!」
色を指定し、先程と同じように前髪を撫でました。
その様子を見ていてくださったイザヤ様の反応からするに、今度は成功したようです。
「色を指定しないといけないのですね」
「そのスキルも、繰り返していればもっと簡単に使えるようになるかもね」」
「そうですね。精進あるのみです」
本日の訓練は終了となり、ルーガを先に指輪へ戻します。そして<擬態>した髪も元の色に戻しましたが、スキルは二回使った判定になるようです。
ファラを戻す前に<付与>をしてもらい、本日も火起こしを完了させました。
ルーガが二回、ファラが一回、技能牧場を開拓できます。
イザヤ様が夕食の準備をしてくださるそうで、わたしは天幕の中で技能牧場を開きました。
回数の多いルーガから開拓しましょう。
<防御力>と<敏捷性>を上げたので、次は<攻撃力>を上げましょうか。
いえ、それは早計かもしれません。三桁の<攻撃力>。これはゴールド等級に匹敵します。今上げなくても、ひとまずは問題ないような気がします。
となると、他の項目ですね。
<幸運><技能><器用>もしくは、スキルを開拓するか。
そういえば<技能>は具体的にどんな効果が得られるのかと、その項目に触れます。
<技能>は、物事を行うときの技術上の能力だそうです。はい、そのままですね。
<技能>を具体的に想像できないでいると、夕食の支度をしてくださったイザヤ様が天幕の中に入ってきました。
「エミリア? 何か悩み事?」
「はい。イザヤ様、<技能>というのは、具体的にどんなものなのでしょうか」
「<技能>はね……そうだな。剣士のおれで言うと、その数値が高いほど剣の技が多彩になるかな」
「剣の技が! それは、具体的にはどんなものなのでしょう?」
「んー……広範囲を薙ぎ払うとか、逆に狭い箇所を的確に突き刺すとか、色々」
イザヤ様は少し照れたようにはにかみます。そのお顔の、何て尊いこと。
わたしはイザヤ様の訓練を見たことがあるので、知っています。剣を振るうお姿がとても目を引くものだと。
訓練とは違い、実際に技を繰り出すときはどんな様子なのでしょうか。
「……エミリアが望むなら、技を出してみるけど」
「ぜひ! 拝見したいです!!」
「わかった。じゃあ、ひとまず技能牧場を閉じて天幕の外に出てくれる?」
「かしこまりました!」
わたしは急いで技能牧場の画面を閉じます。
そして先に出ていたイザヤ様のお姿がよく見えるような位置に移動しました。
プラチナ級まで上り詰めたイザヤ様の剣技、どのようなものなのでしょうか。
わたしが技能牧場の画面を閉じている間に、取ってこられたのでしょうか。イザヤ様は集中力を極限まで高めたようなお顔で、脇に抱えていた小枝を、上空へ放射状に撒きました。
「<地平線飄風>!」
技名を叫ぶと同時に、イザヤ様がご自身の足を軸にぐるりと回転しました。
薙ぎ払われた小枝はそれぞれ四分割されています。一周したと思いましたが、もしかして四周したのでしょうか。
イザヤ様の剣技はまだ続きます。
今度は先程の剣技で四分割にされた小枝の一部に剣先を向けました。
「<粒刺突>!」
まるで数多ある砂の中の一粒を突くように、真っ直ぐに剣を動かします。
イザヤ様の剣技の標的となった小枝は、突き刺された部分からぱっくりと割れました。
一連の流れはとても美しく、感動のあまりすぐに声を出せません。いつまでもその美しい剣技に浸っていたいような気持ちになります。
剣技を見せてくださったイザヤ様が、わたしの前まで来ました。その気配で、ようやく我に返ります。
「素晴らしいです!! <技能>の数値を上げると、これほどまでに美しい技を出せるのですね! 美しいだけでなく、攻撃としての機能もありました!」
「あ、ありがとう」
「イザヤ様。惚れ惚れするような剣技でしたが、技のお名前はどうやって決めたのですか!?」
「そ、それは……ええと、こういう技を使いたいってずっと考えていて、使えるってなったときに自然と出てきたって感じかな」
「なるほど!! 紡ぎ出されるお言葉は、イザヤ様の努力の証。真剣に向き合っているからこそ、的確なお言葉となるのですね。勉強させていただきました」
イザヤ様は褒められ慣れていないようです。先程までは凛々しかったお顔を、赤く染めています。
そのお顔を拝見して、なぜだかわたしの胸が踊りました。なんだか、顔も熱くなっているような気がします。イザヤ様の勇姿を見て気持ちが高ぶっているのでしょうか。
「エミリア、夕食にしよう。いつも干し肉でごめんね」
「いいえ! お気になさらず! わたし、干し肉は好みです。噛めば噛むほどお肉のお味が広がるような気がして……って、申し訳ありません! 味覚を失ってしまっているイザヤ様に何てことを言ってしまったのでしょうか」
「問題ないよ。味覚を失う前から、元々食に関心はなかったから」
「そう、ですか……」
わたしも、そこまで食に対するこだわりはありません。ですが、ルパと野菜系魔獣方と戦った後、お野菜の素朴な味を感じていました。
あの頃はルパもいましたが、話し相手ではありませんでした。こうして、イザヤ様とお話をしながら食べるものは、何でも美味しいと感じられます。
イザヤ様に渡された干し肉を噛みながら、考えました。味覚を失ってしまっても、味を感じられる何かがないかと。
そこで、ふと思いました。
<器用>が上昇した後、手先が器用になっています。もしかしたらその<器用>と<技能>を合わせることで、見た目を楽しめるような料理を提供できるのではないかと。
イザヤ様に残されている五感は、視覚と聴覚と触覚。その辺りの感覚を刺激できるような料理が、できるのではないかと。
わたしは早速、干し肉を全て食べ終えてから技能牧場の画面を開きます。
そして、ルーガの<技能Ⅱ>を二箇所開拓しました。右から二番目と、三番目です。
<+512%>、<+1024%>上昇し、<技能25,312>になりました。この数値ならば、わたしが考えたようにできるはずです。
そして、ファラのスキルも一度使ったのでそちらの技能牧場も開拓します。
開拓できている箇所と、左の項目を何度も見ました。すると、ファラも<技能Ⅰ>を開拓できるようです。
<技能Ⅰ>は二箇所開拓できますが、右から四番目を触りました。
小さなファラが草を食べる演出が出た後、<+9>と表示されます。
よって、<技能25,321>となりました。
<+9>も上昇値としては高いはずですが、ぐぐっと一気に上昇することに慣れてしまうと、ありがたさが減ってしまいますね。
<技能>の数値をイザヤ様に伝えた後、いつものようにわたしが天幕の奥へ行きました。
イザヤ様は愛剣をわたしとの境に置き、眠りにつきます。
わたしに背を向けるようにしているイザヤ様を見ながら、重大なことに気がつきました。
<器用>と<技能>を上げたことで、わたしは何でも思い描いたように作れるようになったと思います。
ですが、ステータスの数値はわたしの想像力を補ってはくれません。何を作りたいか、考えるのはわたし自身です。
様々なものを見聞きしないといけないですし、そうするためには莫大な資金が必要でしょう。
今はまだ、イザヤ様に頼ってばかりです。イザヤ様と行動を共にしますが、資金ぐらいは独り立ちできるようにならなければいけません。
わたしは改めて決意をし、目を閉じました。
本日、もう一つ更新します。
現在のステータス
<攻撃力、301>
<防御力、205,219>
<敏捷性、27,234>
<幸運、326>
<技能、25,321>
<器用、706>
<体力、51>
<スキルⅠ、102>
<スキルⅡ、78>
<スキルⅢ、78>




