038 真面目なお話
ギルド長様が戻るまでもう一日かかりそうということ。なので残りの一日を、イザヤ様と体力を上げるための訓練をしました。
今度は、ルーガを出さずに<治癒>をします。心臓や肺の上付近に青い指輪を当て、回復できました。
服の上からだったので効き目は少々落ちましたが、あくまでも訓練。完全回復してしまうと上限値を上げるために走り込む時間を多く費やしてしまうので、ちょうど良かったです。
その訓練の中で<治癒>を三回使用しましたので、技能牧場も三箇所開拓しました。
既に開拓している、<防御力Ⅱ>の右から四番目。そこの右側三つを開拓です。
<+512%>、<+1024%>、<+2048%>の上昇です。
従って、<防御力205,219>。
え、合っていますか?
まず<防御力139>だったので、そこに<+512%>しまして<防御力850>。
そこから<+1024%>するので、<防御力9554>になってしまいました。
さらに<+2048%>になる開拓を進めてしまったので、<防御力205,219>。
どうやら、ステータス値の上限はないようです。
イザヤ様に恐る恐る報告しました。
「ふふっ……。すごいね、その防御力。防御力は体の丈夫さを表すから、この先絶対体調を崩さないよ。怪我もしないと思う」
「イザヤ様。わたし、恐ろしくなりました。わたしは、まだ人間ですよね?」
「大丈夫。エミリアは人間だよ」
「それなら安心しました」
「ねえ、エミリア。明日チェリニさんも戻ってくると思うしさ、ステータス画面を見せて驚かせようよ」
いたずらっ子のような笑顔を見せるイザヤ様は、とても新鮮です。
しかし、大丈夫でしょうか。ギルド長様、驚きすぎて腰が抜けてしまうのではないでしょうか。
翌日。
ギルド長様にルコへ出発してから今日に至るまでのことを伝えました。白い首輪に関しては、今すぐに結論は出せないとのことです。
それからステータス画面を見せたところ、わたしが予想していた通りになってしまいました。
現在、ギルド長様は長椅子に横になっています。体の上で手を組み、顔の上には濡れた布がある状態です。眼鏡の上に布がありますが、視界は問題ないのでしょうか。
「チェリニさん。おふざけはそのぐらいにして、今後のことを話しましょう」
イザヤ様とギルド長様の仲の良さが窺えます。イザヤ様に指摘されたギルド長様は、濡れた布を取り、パッと風の魔法をかけて眼鏡を乾かしました。
ギルド長様のお名前を呼べるような心情には、まだなれませんね。イザヤ様ぐらい親密にならないと。
「……正直、テイマーがそこまですごいとは思わなかった」
「おれも同感です」
「これはボクの推測だけど、テイマーは恐らく、すごすぎて扱いが難しい職業になったんだ」
ギルドを留守にしているとき色々と調べてくださったようです。
ギルド長様曰く、テイマーが活躍している隣国フスラン帝国でも使えるスキルは一日一回まで。それを越えた場合は厳罰を下されるのだとか。
そしてアラバス王国でテイマーが活躍していたのは、確認できた資料で一千年前。経年劣化しない魔術道具を開発した、当時の道具技師の日記のようなものに数行かかれていたらしいです。
「一千年……そんな昔なのですね。もはや、時間が長すぎてよくわかりません」
「本当にね。一千年前なんて、淑女教育でもやらないんじゃない?」
「はい。わたしは聞いたことがありません」
「一千年前の活躍……アラトル戦争かな?」
「「え」」
ギルド長様とお話をしていましたら、イザヤ様がぽろりと言います。何てことはないというように軽く言われましたので、わたしとギルド長様は思わずその言葉を疑ってしまいました。
「強くなるためにはどうすれば良いかって考えていたときに、王都の図書館で色んな本を読んだんです。で、そこの司書の方と仲良くなって、歴史書を特別に読ませてもらったんです」
「あらとる戦争って、なんだ」
「アラバス王国と、隣国トルガルとの戦争ですね。その戦争で勝ったから、今のアラバス王国の領土があるらしいですよ」
「隣国……ウォルフォード辺境領とは反対側の、西南の辺境地ですね」
ウォルフォードでは淑女教育の一環として歴史はありますが、それは主にウォルフォードの功績を学ぶものでした。二言目にはリンウッド辺境伯領は下だと発言する講師の方でしたから、戦争が一千年前だとしても、そんな大きな功績は知ろうともしなかったでしょう。
イザヤ様の記憶力、恐るべしです。
「アラトル戦争での功績を称え、リンウッドの名と領地を与える。そしてトルガルの監視役を任せる王命を下す……と書かれていたと思います」
「リンウッド家は、アラバス王国最大の功労者ということになりますね」
「そうだね。もしかしたら、エミリアの力はリンウッド家の血が出ているのかもよ」
「どういうことでしょう?」
「一千年の時間の中で、ウォルフォード家とリンウッド家の人が恋仲になったこともあるかもしれない。それが巡り巡って、エミリアの力になっているのかも」
一千年という時間は、確かにそのようなことが起きても不思議ではありません。
「イザヤ。一千年前に活躍したのがテイマーだとしたら、大変なことをしてしまったかもしれないぞ」
ギルド長様は、警告します。
リンウッド家のテイマーが、一千年前の戦争で活躍したと仮定した場合。
戦争の功績という言葉を使っていますが、下された王命はリンウッドを出るなとも取れると。
トルガルが侵攻してこないように監視役を任せると言えば聞こえは良いですが、監視できているかどうかを監視する人員も割かれているのではないかと。
すなわち、テイマーはリンウッドの中にしかいないのではないかというお話です。
「冒険者の中で魔獣を討伐することは力試しと思われている。それは当然のように思われ、疑いもしない。魔獣の死に際を考えるとありえなくないが、誰がそれを言い始めたのか」
一千年も経っていれば、最初に言い始めた人物のことなんて忘れられているでしょう。それが例え、王家の誰かだとしても。
「……こう言っちゃ何だが、王家は権威を示したがる。だからイザヤ達を英雄とし、その英雄は手中の駒だと世間に思わせているんじゃないか」
「冒険者はイザヤ様のお名前を聞いて英雄様だとわかりますが、一般の方々はどうなのでしょうか。わたしの双子の姉エレノラと王太子ボルハ様の婚約発表はありましたが、貴族が集まる場でも英雄様だと明確に発表していません」
「貴族なんて、庶民と比べたら数は多くないからね。冒険者が各地のクエストで庶民の悩みを解決。その冒険者が英雄と知っているというだけで、良いのかもしれない」
王家は権威を示す。権威とは、強さの象徴。強さを持っているからこそ、王家。そう考えると、テイマーの力を持っているとされるリンウッド家を監視することで、最大の力も手にしていたということになります。
「……リンウッド辺境領の外での、テイマーの活動。それはすなわち」
「王家の監視外の、漏れた力」
「どうしましょう。わたし、拘束されてしまうのでしょうか」
「過ぎてしまったことは取り消せない。だからルコでの一件は、王家に知られないと願うしかないね」
「エミリアの防御力は六万越えです。他のステータスも同じように上げて、手を出せないようにすればいいのでは?」
「そうするしかないか……ステータスは初期化できない。上がったステータスは冒険者の誇りだったが、エミーに関しては文字通り自分を守る方法になる」
今後の方針は、なるべく迅速にわたしのステータスを上げる。そしてそのためにスキルを使ったり、新たにテイムしたりしていく、ということに。
その話の流れで、テイム時に増える指輪の話題になりました。指輪が増えると日常的にも不便になるかもしれないと。
ということで、指輪以外の方法がないかと探ります。
現在のステータス
<攻撃力、301>
<防御力、205,219>
<敏捷性、396>
<幸運、326>
<技能、368>
<器用、699>
<体力、51>
<スキルⅠ、102>
<スキルⅡ、78>
<スキルⅢ、78>




