037 初めてのレベルアップ。
「イザヤ様。冒険者証が震えたようなきがするのですが」
「本当? エミリア、レベルアップだよ」
「養獣場での戦闘の影響でしょうか」
「そうかもね。エミリアはテイマーだから、テイムした数かなと思っていたけど、普通に冒険者として討伐数も経験値を稼ぐ方法になっているんだね」
「ステータスは技能牧場で、レベルは他の方と同様に。やはり、テイマーは素晴らしい職業だと思います」
「エミリア。ステータスを確認してみて」
ワクワクとしているイザヤ様に促され、ステータス画面を開きます。
<攻撃力><防御力><体力>がそれぞれ、<+2><+3><+3>上がったようです。
上昇値をイザヤ様に報告しました。
「初めてのレベルアップにしては、良い数値だと思うよ。<+1>の時もあるしね。<体力+3>に関しては、体力を底上げするためにやったことが一回だけだったからかも」
「ということは、あの訓練を繰り返せばもっと数値が上昇するということでしょうか」
「そうだと思う。おれの実体験が他の人にも適用されるなら」
「これは、ますますこの先のステータス上昇が楽しみになりましたね」
イザヤ様と一緒に、ラゴサへ戻ります。
その道中、冒険者証の仕組みについて教えていただきました。
冒険者証は魔獣の討伐数、クエスト達成率をわけて登録されるようです。
今回のクエストで、合計四十体倒しました。その後のサッチェロは、正確な数はわかりかねますが、恐らく三十体ほどでしょうか。
つまり初めてのレベルアップは、三十前後の討伐数でなるということ。
この数はレベルが上がるごとに増えていきます。なので、冒険者の等級がゴールド級でもレベルが低いということもありえるようです。
全てを覚えようとすると複雑な仕組みのような気がします。しかし、テイマーはその仕組みすら超越してしまうと思いました。
ゴールド級相当のステータス値。そこへ到達するまでの努力なしに、高いステータスになっています。
テイマーの恐るべきことは、これがほぼ初期値ということです。
今後、テイムする数が増えたりスキルを使ったりして、さらなる上昇が見込めます。<Ⅱ>の項目の一番右端なんて選んだら、どれくらい上昇するのでしょうか。
そして、上がった数値に対してさらなる上昇。
「イザヤ様。ふと思ったのですが、ステータス値に上限はあるのでしょうか」
「どうだろう。おれも四桁を越えた数値はまだないからわからない。999で終わりかもしれないし、9999かもしれない。もしかしたら、上限値もないかもしれない」
「わたしのステータスで試してみてもおもしろいかもしれませんね」
「そうだね……エミリアが強くなり過ぎちゃうとちょっと悲しいけど……」
「イザヤ様? 申し訳ありません。小声の部分が聞き取れませんでした」
「ううん。気にしなくていいよ」
イザヤ様はたびたび、小声で話されます。
弟子としては、師匠の一言一句逃したくありません。聴力は、どのステータスが上がると鍛えられるのでしょうか。
イザヤ様と一緒に、ラゴサへ戻ります。
冒険者ギルドにてクエスト達成の報告を終えた後、報酬として一人銀貨三枚いただきました。
その後、防寒着のため服飾店へ行きます。そこで冒険者証をかざすと直近のクエストがわかるようになっているらしく、割引がききました。
通常は銀貨三枚のところ、冒険者証によって銀貨一枚になってお買い得です。
武器屋でも同じように割引がききました。サコニリの角は剣作成時の触媒になるようです。
イザヤ様のように剣を扱うことも考えましたが、わたしは剣士ではなくテイマー。あくまでも友獣と一緒に戦う職業です。
そのため、小さな剣……というより、ナイフを購入しました。
銀貨の残りは、これであと一枚。
今後も冒険者として動くことを考えると、いつまでもイザヤ様に全てを持っていただくことはできません。
魔法鞄のように高価なものにはまだ手は出せませんが、身の回りのものなどは自分で持つようにしたいです。
銀貨一枚で買える、一番大きなリュックを購入しました。
明日はギルド長様が戻られるでしょうか。もしまだならば、このリュックを背負った状態で訓練したいものです。
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(抜き打ちで養獣場を視察してみたけど、良い収穫だったな。久々にイザヤ君を見れたし)
ラゴサへ向かっていくイザヤとエミリアのすぐ後ろにいた人物は、その二人が小さくなるまで見送った。
そして、周囲の景色に溶け込むような靄が円に囲まれた六芒星とその中央に文字を描く。すると、黄緑の長い髪を一つにまとめて横に流す男性が出現。黒い瞳を隠すようなぶ厚い眼鏡をしていた。
(あの女の子、テイマーだっけ。今まで無関心だったけど、ちょっと面白そう)
テイマーには何ができるかな。
そう呟く男性の目は、好奇心しかなかった。
(ふふっ。イザヤ君の反応も込みで、新しい実験道具になりそう)
テイマーの情報を集め、エミリアの情報を求め、イザヤの心情を探る。
日々の実験の息抜きになりそうだ。
男性は堪えられない笑みを浮かべ、指先に魔力を込める。そして王都がある方角へ体を向けると、二重の円に囲まれた六芒星を空中に描く。その中心に何か文字を書くと、男性は忽然と姿を消す。
空気中に残った靄は、やがて風に流されて霧散していった。
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