034 体力をつける方法
水属性魔獣の暴走によって、長く滞在したルコを出発しました。
食堂の女将コノル様とそのご子息ソトム様に見送られ、ラゴサへ向かいます。
イザヤ様と話し合った結果、一度現状の報告と今後の相談をギルド長様としようということになりました。
ラゴサへの日程は、のんびりと行って十二日かかります。急ぐ必要はないかもしれませんが、移動時間を無駄にしないための方法を伺いました。
「体力を上げる方法? そうだね、一番簡単なのはレベルを上げてステータスを上昇させることかな」
「レベルとは、どれくらいで上がるものなのでしょうか」
「冒険者自身のレベルは、どれだけ魔獣を倒したか、かな。エミリアはテイマーだから、どれだけテイムしたかになるのかな?」
「ファラ、ルパ、ルーガ、パルタ。四体ではまだまだレベルが上がらないということでしょうか」
「エミリアの場合、友獣と一緒に戦ってもレベルは上がりそうだけど」
テイマーとしては、なるべく多くの魔獣をテイムできた方が良いのでしょう。
魔獣が暴走していたり、意思疎通できなかったりというようなことを除き、友獣を増やしたいとは思います。
「友獣が増えていくと、指輪が増えます。今はまだ左指だけですが、右指や足の指などに指輪が装着されてしまうと、動きづらくなってしまうと思うのです」
「そうだね。その辺りも、チェリニさんに相談してみようか」
ということで、指輪のことが解決するまではなるべく友獣を増やさず、体力を上げることになりました。
体力。それは持久力や筋力のこと。この数値が高ければ長く戦えるし、重たいものも持てるようになるそうです。
イザヤ様の体力はほぼ四桁の989。ここまで来ると疲れ知らずだそうで。一人で行動する分には、十日連続で歩き続けても戦える力が残っているらしいです。
もはや超人ですね。
イザヤ様は細めの体つきのような気がしますが、その内側には無駄のない筋肉があるようです。
「エミリアはそこまで鍛えなくても良いと思うんだ。技能牧場は体力に反映されないし」
「いいえ! イザヤ様の弟子であるわたしが、師匠を待たせるわけにはいきません! 可能な限り、体力を上げたいです!」
「んー……そんなに、上げたい?」
「もちろんです! その方法をご教授ください!」
イザヤ様は、わたしの体力値を上げることに乗り気ではないようです。
想像するに、それはとてつもなく厳しい訓練をしなくてはいけないのではないでしょうか。
「……一応ね、おれも個人的に研究をしたんだ。レベルだけに頼ると、そんなに数値が上がらないから」
「<+17>で五回ほどレベルを上げたとおっしゃっていましたね」
「そう。だから、方法は教えられる。でも……」
「弟子は師匠の方針に従います! どんなにつらくても、イザヤ様の隣にいるために頑張ります!」
「気合は十分だね。んー、まあ、一回その方法をやってみて、つらければ地道にレベルを上げる方法にすれば良いかな?」
イザヤ様の方針が決まったようです。
わたしは、どんな訓練になるのかとワクワクした気持ちで待ちます。
そして、提案された体力を上げる方法。
魔術師で言うところの魔力切れを起こすと攻撃力が上がるように、体力も限界を超えて休養することを繰り返すのだそうです。
人は、自分の体が壊れないように無意識に制御しているとのこと。なのでまず体力の限界まで動き、その一歩先の極限状態を越えることで、体力が上がるという仕組みのようです。
イザヤ様によれば、体力値が上がったかどうかの確認はレベルアップしたときだそう。レベルアップのときまでに何度も限界を超えることで、ステータス数値の上昇率が変わるという独自の研究結果が出ていると教わりました。
普通の冒険者は、頻繁にステータスを確認しないらしいです。数値の変化は、レベルアップだけなので。
ですがわたしはテイマーなので、スキルを使ったりテイムしたりしたときに技能牧場を開拓するときにステータスを見ます。結果は早くわかるかもしれません。
と、いうことで。
体力値を上げる訓練開始です。
ラゴサまでの道のりを、わたしの全速力で走ります。
<敏捷性396>のわたしは、少し動いただけでかなりの距離を移動できました。しかし<体力48>のため、すぐに足がもつれてしまいます。
「危ないっ」
わたしよりも数値の高いイザヤ様は、なんなく追いつき、転倒しそうになったわたしを支えてくれました。
「今の状態が、エミリアの体力の限界だね。もし続けるなら、ここからさらに走ってもらうけど、どうする?」
「やります!」
「それなら、ここから先はいつ倒れるかわからない状態になる。おれが手を引くから、エミリアはできる限り頑張って走って」
「かしこまりました」
「じゃあ、行くよ?」
「は」
返事をし終わる前に、イザヤ様が走り始めます。その先はもう、声を出すことすらできません。
風速が、違うのです。目に映る景色など、視認したと思ったものはすぐに後ろへ流れていきます。
すでに体力の限界を迎えていたわたしは、イザヤ様に手を引かれて走る時間は五分と持ちません。
左足に右足が絡み、両足が宙に浮きました。
「はい。これで訓練終了。お疲れ様」
「お……お、つかれ、さま、です……」
わたしが転びそうになったところを、イザヤ様が軽々と受け止めてくださいました。
イザヤ様は全く息切れをしておらず、数値の違いを痛感します。
わたしは自分の足で立っていることすらできなくて、イザヤ様に寄りかかってしまいました。
「も、申し訳、ありま、せん」
「最初なんてそんなものだよ。手を引くときに気をつけたけど、腕は痛くなってない?」
「だい、じょうぶ、と、思いま、す」
「野営をするにはまだ早いけど、今日はこの辺りで一晩すごそうか」
イザヤ様の額には汗すら浮かんでおらず、体力の差は歴然としています。
イザヤ様はお優しいので、きっとわたしのことを気遣ってくださっているのでしょう。
わたしが、普通の冒険者ならばここで降参していたと思います。
ですが、わたしはテイマー。水属性の、ルーガをテイムしているのです。<治癒>を使えば、まだまだ走れるはず。
疲労困憊の中、左の人差し指を触ってルーガを呼び出します。
一度だけ触りました。ルーガは巨大な亀です。どんな演出になるのだろうと思っていたら、甲羅の中に頭と手足を入れた状態で回り始めました。そしてなぜか、その勢いのままイザヤ様の方向に進んでいきます。
イザヤ様は難なくルーガから逃げていますが、このままではテイマーの名折れ。
「ルーガ。こちらに来てください」
<わかったー>
のんびりとした、戦いを好まなそうな柔らかい声です。サタルーガは防御に徹するらしいので、それをよく表現していると思いました。
くるくるシュルンとわたしの元へ戻ってきたルーガは、友獣のため当然色はオレンジみのある白。しかしよく見てみても、白い首輪はありませんでした。
どうやら、テイムをすると白い首輪もなくなるようですね。
腕を上げることすら億劫になってしまっているわたしは、ルーガにお願いします。
「ルーガ。わたしを<治癒>してください」
<いいよー>
のんびりとした口調で返事をしてくれたルーガが、頭をわたしへ伸ばします。
「エミリア!?」
イザヤ様の焦るような声が聞こえた後、わたしはルーガにぱくりとされました。
口の中に入れられて数瞬。
体全体の疲労感はなくなりました。しかしその代わりに、ルーガの唾液でべとべとになってしまったのです。
これでは、動けるようになっても走れません。
結局、今日は最初に決めた野営地で過ごすことになりました。
ルーガは指輪に戻していますが、体はべとべとのままです。どうしようかと思っていると、イザヤ様が革の水筒を斜めがけ鞄から出してくださいました。
この水筒は、水筒版の魔法鞄のようなものらしく、制限はあるものの一定量の水を入れられるようです。
魔法鞄も相当なお値段でしたが、この革の水筒も値が張ると思います。
イザヤ様に天幕を用意してもらい、その中で体を清めました。火を付与できるようになりお湯にすることも可能だと思います。しかし、まだどれくらいの大きさの火になるのか、扱いはどうするのかなど試していません。
そして一番の問題なのは、十一月となり服が乾きづらくなってしまったことでしょう。一晩では乾かない可能性があります。
イザヤ様に相談したら、斜めがけ鞄の中に着替えがあるそうで、それをお借りすることになりました。
身長差でしょうか。イザヤ様の服は大きくてぶかぶかでした。
翌日。
イザヤ様はわたしを一切見ず、数歩先を歩いていました。
ラゴサまで行く道中、偶然ルコへ行くらしい冒険者と遭遇しました。<幸運326>の恩恵でしょうか。
その冒険者は女性もいるパーティーでしたので、その女性からイザヤ様が女性ものの服をお金と交換しました。
用意していただいた天幕の中で、着替えます。
それからラゴサへ進み始めましたが、服の大きさが微妙に合わず、体力作りは延期となってしまいました。
おかしいです。
イザヤ様と並ぶため、ご迷惑をおかけしないようにと望んだ体力値の上昇。
結果的に、ご迷惑しかかけていないような気がします。
精進せねばいけませんね。
その後、ラゴサへは十一日で到着しました。
行くときが十二日でしたので、一日しか短縮できませんでした。
鍛錬あるのみですね。




