027 ルーガの力
ルコの街の外に天幕は一つしかなかったので、そこにイザヤ様がいるはず。
そう思い、天幕へ駆け寄ります。ルコで購入したのか、結界石が四方に置かれていました。
天幕の中を覗きます。
「イザヤ様!?」
天幕の中でイザヤ様が俯せに倒れていました。
慌てて駆け寄り、ぐったりとして体が熱いイザヤ様をどうにか仰向けにします。
「イザヤ様! イザヤ様! わたしの声が聞こえますか!」
「……えみりあ?」
「そうです。意識はあるようですね」
高熱でうまく話せないようです。
舌っ足らずな話し方が少し可愛いと思ってしまいましたが、今はそんな悠長なことを考えている暇はありません。
目が潤んでいる様子を見て、思わずゴクッと唾を飲みこみます。
いえ、ですから、今はそんな場合ではなくて。
「水……そうです、昨日ルーガをテイムしました。水属性ならば、水を出せるのでは」
冒険者証を触り、ステータス画面を開きます。そして右上の白く点滅したボタンを触りました。
スキルファームも三回目です。要領はわかっていますので、<忠誠>の右の方を触ろうと思います。
しかし先に、ルーガがどんなスキルを持っているか確認しましょう。
<スキルⅠ>の項目を触ります。
「治癒……治癒!? まさに今、これを求めていました!」
水魔法を扱えるエレノラが、六才の祝福時に聖女様にもなれると絶賛されていたと思い出しました。
これは天の采配。治癒を獲れということですね。
そう思いましたが、最下段の草を触る前に思い止まります。
<忠誠>を触り、開拓できる草を増やした方が良いのではと。
「仮に<忠誠>の右端を選択したとして、恐らく数は<+12>。5を越えると追加で開けましたが……ダメですね。<忠誠>を開けたとして、隣接している場所しか開拓できません。<スキルⅢ>は<スキルⅡ>を開拓してからでないと選択できなかったはず。そうすると、<スキルⅠ>の右端の方、をっ!?」
あれこれと悩んでいると、高熱のイザヤ様が寝返りを打ちました。そのとき、まるで抱きつくようにイザヤ様の熱い額がわたしの足に当たります。
驚いたわたしは、うっかり<スキルⅠ>のどこかを触ってしまいました。
小さいルーガが、草を食べる演出が入ります。
その場所は、幸運にも<+9>の表示が出ました。
スキルは友獣で共通となっており、今出たばかりの<+9>を足すと十六回使えるということになります。
<治癒>の説明を読むと、主の魔力量にもよりますが、主が定めた任意の相手もしくは自分の病気やケガを治すと書かれていました。
ステータス画面を確認します。
わたしはテイマーだからか、ステータス画面に魔力の項目はありません。魔術師を職業としていれば、攻撃力の部分が魔力になるのでしょうか。
その考えでいくと、わたしの攻撃力は4。低すぎる数値ですが、その分を回数で補いましょう。
「……ルーガを出してしまうと、天幕が潰れてしまいますね」
ルパに<宝検知>をしていただいたときは、ルパを指輪から出しました。しかしルーガを出すとなると、ルコの門兵の方々にその姿を目撃されてしまいます。
どうすれば良いのかと思っていたら、昨夜からわたしのローブの中に隠れていたファラから意思を感じました。
「え、本当ですか?」
どうやら、友獣が行うスキルもあれば、テイマー自身が使えるスキルもあるようです。
そして友獣を出さずにテイマーが使う場合、対応する指輪をテイマーが触りながら対象の相手にも指輪に触れてもらわないといけないと。
やり方は三種類あるらしいのですが、ファラがなかなか教えてくれません。
「ファラ、一番効力が大きい方法を教えてください」
足に当たるイザヤ様の額が熱いです。一刻も早く、治癒しなければいけません。
「ファラ。お願いします」
もう一度問いかけると、ファラはようやく教えてくださいました。
そしてその様子を見たくないのか、指輪に戻せと伝えてきます。右手で左の薬指に触り、ファラが赤い指輪に入りました。
「で、では、やりましょう」
右手で青い指輪を触りながら、イザヤ様のお顔へ左手を伸ばします。しかし、怖じ気づいてしまって手を引っこめました。
「っ、ちょ、ちょっと待ってくださいね!」
ファラから教わった、スキルを最大限に活かす方法。それは。
テイマーのわたしと、スキルを受ける対象者のイザヤ様が指輪に触れること。
つまりは、わたしの手をイザヤ様の口元へ持っていかねばいけないのです。
えぇ、ファラから説明を受けました。なぜ口元が最大限にスキルを活かせるのかと。イザヤ様の体内に、<治癒>の力を送るからだと。
しかし、どうしても恥ずかしさが勝ってしまうのです。
イザヤ様の熱い吐息が、ローブ越しにわたしの足に当たります。
わたしは、自分の頬を叩いて覚悟を決めました。
「何をしているのですか、エミリア。あなたは、イザヤ様を助けたいのでしょう!?」
こういうことは、躊躇ってしまうからダメなのです。
勢い、大事。
わたしは、青い指輪を触りながらバッとイザヤ様の口元へ左手を近づけます。
ふにっと、熱く柔らかい感触なんて、気のせいです。
「<治癒>、<治癒>、<治癒>!!」
わたしは左手でイザヤ様のお顔を見ないように隠し、何度もスキル名を唱えました。それはもう、がむしゃらに。
スキルとして使える数は、全部で十六回。しかし全てを使い切る直前、全身全霊でスキル名を唱えた後、わたしは急激な頭痛に襲われ、倒れてしまいました。
本日、もう一つ更新します。
第一次ステータス無双確認! そう。これはまだ始まったばかり……




