022 ルパの技能牧場
そこそこ長めの文量です。
ヨークボ様との婚約解消を目指していましたが、ウォルフォード家からの追放ということになりました。
ウォルフォード本邸から離れる中、イザヤ様と話します。
「……結果としては、これで良かったのでしょうか」
「エミリアを追放することであの人達の名誉を守ったことになるけど……」
「やはりイザヤ様もそう思われましたか? 我が家……元我が家のいざこざに巻きこんでしまい、申し訳ありませんでした」
「気にしないで。これでエミリアは自由だよ。ウォルフォード家がこれからどうなろうと、エミリアが手を出せないほどすごい人物になっても、エミリアには関係ないってことになる」
「わたし、称賛されるような存在になれるでしょうか」
質問をすると、イザヤ様は優しげな笑みを浮かべてくださいました。
「少なくてもおれは、エミリアをすごいと思っているよ。さっきは、おれのために怒ってくれてありがとう」
「い、いえっ……! 弟子として当然のことをしたまでです!」
「……今は、それでも良いかな……」
「今、なんと?」
「気にしないで。とりあえず目的を達成したし、どこか人目につかない場所を捜そうか。そこでルパの技能牧場を開拓してみよう」
テイマーは公の仕事ですが、その秘めた可能性は明らかになっていません。いずれ発表されるようになると思いますが、それは今ではないです。
そのため、わたしとイザヤ様は宿へ向かいました。イザヤ様に任せきりになってしまいましたが、フードを被っていたおかげで恋人と間違われたようです。
イザヤ様と同室の、ベッドが一つしかない部屋に案内されてしまいました。宿主の、見守るような温かな視線を見たら断れません。
「も、問題ない。おれが長椅子で寝れば良いから」
「何をおっしゃっているのですか。ベッドで寝られるときに寝てください。硬いところで寝るよりも疲れが取れると思います。というか、わたしが長椅子で寝れば万事解決です」
「それは駄目だ! エミリアは女の子なんだから、睡眠はしっかり取らないと!」
「ふふっ。このやり取りは前もしましたね。大きいベッドですから、二人で寝ても問題ないと思いますよ。そんなことより」
「そんなことより!?」
「他に誰もいないのです。ルパの技能牧場を開拓してみましょう」
「うん、そうだね……」と話すイザヤ様は、元気がないようです。心配でしたが、問題ないと言われてしまいました。
深掘りしない方が良いときもありますので、ルパの技能牧場を開拓しようと思います。
冒険者証を触り、ステータス画面を開きます。そして右上の白く点滅しているボタンを触りました。
半透明の板が出てきます。そこにはファラと同じように、属性を示す石のようなマークと友獣ルパの記載、下に開拓する牧場が広がっていました。
項目は、七項目のⅠとⅡ、それにスキルがⅠからⅢまでと、こちらも同じです。
ファラのときはステータスを上げる項目を開拓しましたから、ルパのときは最下段の<スキルⅠ>の項目を開こうと思います。
迷いましたが、ファラのときのようにルパに示してはもらえません。それも仕方ないことなのでしょう。今いる場所に土はないですし、そもそも黒の指輪から出していません。
「エミリア。どこを開拓するか決めた?」
「はい。<スキルⅠ>の中央、右から六番目にします」
復活したらしいイザヤ様から聞かれた後、該当する草を触りました。
ファラのときのように、小さいルパが草を食べる演出があります。
そして、<+7>と表示されました。
「<スキルⅠ、+7>ですね。ルパの場合はまだ忠誠の項目を開拓していないので、一回だけのようです」
「ルパのどんなスキルを持っていたの?」
質問を受け、技能牧場の<スキルⅠ>の項目を触ります。すると<宝検知>と出ました。
「宝検知……何かを捜すもの?」
「はい。技能牧場の説明によりますと、地中の価値あるものを捜すのだそうです」
「<+7>は、回数?」
「そうみたいです。ただルパだけでなく、スキルを使える回数は友獣全てで共通しているようです」
「面白そうだね。明日、どこかで試してみようよ」
「はい。何を捜せるのでしょうね」
わたしはワクワクしながらベッドへ行きます。
イザヤ様も、同じ時機に入ったと思ったのですが、翌朝はまたお隣にいませんでした。
宿を出たわたし達は、ひとまずルパをテイムできたことを報告するためにラゴサに向かいます。
そしてルパのスキルも、ギルド長様の前で披露することになりました。
ウォルフォードを出て、野営で一泊してからラゴサへ到着。
今度は冒険者証があるので、通行料を支払うこともありません。
そのまま、冒険者ギルドへ行きました。そこへ着くと、イザヤ様はギルドの裏手へ行きます。何でも、ギルド長様と仲良くなってから個人的に話したいときは裏から入っても良いと許可を得ているのだとか。
という訳で、以前のように他の冒険者の方々に話しかけられることなくギルド長様の部屋へ行けました。
そしてルパのことを伝え、スキルのお披露目です。
冒険者ギルドの裏手には上の階にある宿の雑事のための庭がありました。そこが土だったので、そこの日陰へ行き、黒い指輪を触りました。
一度だけ触ったので、どんな演出なのだろうと期待して待ちます。
指輪を触った後、ポンッと空中に出てきたルパは弧を描くように地面へ入ると、イザヤ様の周囲の土を盛り上げました。
見たことのある様子に首を傾げましたが、初めて見るギルド長様は好奇心が溢れているようなお顔をされます。
イザヤ様とルパの攻防の後、ルパがわたしの足下に戻ってきて顔を出しました。
「ルパ。<スキル:宝検知>をお願いします」
<是>
今の低い声は、ルパの声でしょうか。ファラのように意思を伝えるだけかと思いましたが、ルパは声を聞かせてくれるようです。
しかしイザヤ様たちは特に何も聞こえなかったようで、ルパの声が聞けるのはテイマーの特権のようでした。
イザヤ様たちとルパの様子を見守ります。庭の地面を柔らかくしているようですが、それ以外の変化はありません。
「意外と時間がかかるみたいだ」
「エミリア。具体的に何がほしいって言ってみたら良いんじゃないかな」
「なるほど……ほしいもの、ですか」
「お金ならいくらあっても困らないんじゃない?」
「確かに。ルパ。お金を捜してください」
捜してほしいものを伝えたところで、この庭にお金が埋まっていなければ意味はないでしょう。
そう思っていましたが、ルパがある木の下に行って土を掘り起こしています。
「あっ。ルパが何か発見したみたいです」
「行ってみよう」
「あ、ちょ、ちょっと待ってもらえないかなー」
「どうされましたか」
「い、いやー……あの場所には、何もないと思うなー」
焦ったように言うギルド長様の様子を見たイザヤ様が、何か思いついたようなお顔をされます。
「これは、ルパのスキルを知るための検証ですよ? 何もない、不発。ということだったら、そういうこともあるとわかりますね」
「そうそう。何もないと思うよ」
「もし、何かがあればそれは、ルパのスキルを証明できますね?」
「もしあればそうだけど、何もないと思うな、あそこには」
「それなら、何かあったらルパの主のエミリアのものですね?」
「イザヤったらしつこいな。何もないって」
イザヤ様とお話している最中も、ギルド長様は焦っているように思えます。その様子はまるで、何かがそこにあると言っているようなものです。
イザヤ様もそのことをわかっているのか、渋るギルド長様にルパが示す場所から何かが出たら、それはわたしのものになると約束させていました。
笑顔が怖いです、イザヤ様。
そして、そこにあったのは。
使い古された布の袋。重たいので、それなりの額のお金が入っていると思います。
ギルド長様が「ボクのへそくりが……」と嘆いていらっしゃいます。どうやら、冒険者をやっていた時代から貯めていたお金のようです。
あまりにも悲しげに肩を落とす様子を見たわたしは忍びなくなり、ギルド長様に提案します。
「わ、わぁ! こんな所に落とし物がありましたね。落とした人はきっと捜してると思います! 返してあげましょう!」
「そ、そうだね! そうしよう!」
「エミリアは優しいね。でも、それじゃあルパの働き損だ。そうだな……拾得物ということで、金額の一割をお礼として受け取ったら良いんじゃないかな」
「一割も!?」
「落とし主はエミリアに感謝するだろうから、二割もらえるかもしれないね」
「一割でお願いします!」
ということで、ギルド長様からお礼として白金貨一枚をいただきました。
わたしはそれを、今までイザヤ様に支払っていただいた代金として渡します。
火属性のファラに続き、地属性のルパもテイムできました。ますます、全属性持ちの可能性が広がります。
何度も白金貨の数を数えているギルド長様は、次に行く場所を示してくださいました。
魔獣はどこでも現れる可能性があるものの、海の近くでは水属性が多く出現しているようです。そのため、次に向かう場所は海沿いの街、ルコということになりました。
明日、お昼更新あります。
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