015 冒険者ギルド
イザヤ様からのご指示通り、フードをさらに深く被ります。怪しい見た目にならないかと心配になりましたが、冒険者ギルドの建物内に入るとその考えを改めました。
ここが、冒険者ギルド……!
入って右手に掲示板、左手奥の方に食堂があるようです。
掲示板の前にいる方々はわかりませんが、食堂にいる方々はどこか気迫があります。
歴戦の猛者、という表現がしっくりくるような、体格ががっしりしている方ばかりです。
……? 少し、雰囲気がおかしいような?
イザヤ様の後に続いて細長い机が置かれた場所へ行きます。その途中、体験したことがあるような視線を感じました。
気になってその視線を確かめようとしたら、イザヤ様に肩を持たれてしまいます。
「目を合わせたら駄目だ」
「は、はい。かしこまりました」
イザヤ様はお声を抑え、わたしもそれに倣いました。しかし無声というわけにもいかなかったため、わたし達の話を聞いていた方々が反応しました。
ヒューと口笛を吹くお方。何やらわたしを指差して話しているお方。中には、じりじりと距離を詰めてきているお方もいるようです。
それらの方々の視界からわたしを隠すように、イザヤ様が細長い机がある場所まで導いてくださいます。
受付と書かれたその場所は、三人の女性が等間隔で並んでいました。その内の、一番右端にいる赤髪の方の所へ行きます。
「こんにちは。新規登録ですか」
「は、はい。お願いします」
「あらあら。緊張しなくて良いんですよ。銀貨三枚で魔力検査できますが、どうされますか」
「わ、わたしは魔力がないので、その検査はいりません」
「かしこまりました。それでは、魔術師以外の職業を登録しますね。ご希望はありますか」
受付の女性は、机の上に数枚の書類を出します。「冒険者にお奨めの職業」という装飾された文字を支える、人形のような可愛らしい絵が描かれたもので、少しほっこりしました。
そこには、魔術師、剣士(大剣、その他剣)、治癒師、タンク、弓師等々、様々な職業が書かれています。
しかし、わたしがなろうとしていた職業が見当たりません。
「あ、あの……テイマーはなれないのでしょうか」
「テイマー!?」
受付の女性が驚いたように声を上げました。
するとその声を聞いた周囲の冒険者の皆様方が、どっと笑い出します。
「聞いたかよ、テイマーだって!」「あの糞雑魚職業になりたいなんてやつ、初めて見たぜ」「魔獣なんて所詮は力試しの的にしかならねーのにな!」
なぜそこまで笑われてしまうのか、理解できません。
イザヤ様に教えを請おうと思ったとき。季節に関係なく袖無しの服を着ていそうながっしりとした体格の男性が、近づいてきました。
「お嬢さんよお、そんな糞職業を奨める連れとなんて別れちまえよ。俺と一緒に来れば、楽しい思いをさせてやんぜ」
「わたしは、イ……この方以外とは一緒に行きません!!」
「そんなこと言わずによ、ああ?」
わたしに近づこうとした男性の腕を、イザヤ様が掴みます。男性は睨みつけますが、イザヤ様は全く動じません。
それどころか、イザヤ様の手から逃れようとしているようですが全く歯が立たないようです。
さすがイザヤ様。お強い。
ギルド内では、男性が固まっていると思われているのでしょう。やってやれとケンカを推奨するような声が上がります。
わたしを担当してくださっている女性以外の受付の方が、一人奧へ行きました。乱闘騒ぎを察して上の方を呼んでくるのでしょうか。
イザヤ様は目立つ訳にはいきません。このまま上の方が来てくだされば、丸く収まる。
そう思っていたら、数人の方がわたしの後ろの方を見ている気がしました。
慌てて振り返ると、ローブを外されてしまいました。
わたしはすぐにローブを被り直します。
しかしそれが良くなかったのか、ローブを引っ張る手を取られてしまいました。
「きゃっ」
わたしの声に反応したイザヤ様が、一瞬で先に絡んできた男性を突き飛ばします。
そしてすぐに、わたしの手を掴んでいた男性の腕を捻り上げました。
「そこまで!」
男性のくぐもったような悲痛な声が聞こえたとき、夏の山のような緑の髪の、眼鏡をかけた男性が奧から出てきました。
「冒険者同士の私闘は禁じられている。今の騒ぎの当事者、及びそれらを囃し立てた者は全て問答無用で降格とする! ギルド長である私の指示に従わない者は冒険者登録を抹消するから、よく考えるように」
この場を収めたギルド長様は、騒ぎの原因になってしまったわたし達の元へ来ます。
イザヤ様もフードを被っているからすぐにはお顔がわからないはずですが、ギルド長様は気づかれたようです。
「……そこの二人は、すぐに奧の部屋へ来なさい」
そう言うと、ギルド長様は奧へ戻って行きました。
右端にいた受付の女性が、わたし達を案内するように先導してくださいます。
そして扉を開けて通されたのは、先程のギルド長様がいる広いお部屋。弾力性のありそうな長椅子が並んでいて、話し合いに向いていそうなお部屋です。
「こちらに座ってくれるかな」
「は、はい」
ギルド長様と向かい合うようにして、イザヤ様のお隣に座りました。
「……イザヤ。どういうことか説明しろ」
ギルド長様の声音が、厳しさを伴いながらもどこか優しく聞こえます。お知り合いでしょうか。
イザヤ様はまるで小さな子供のように、ぷいっとお顔をそらしています。
そんなイザヤ様を見て、ギルド長様は長いため息をつかれました。
イザヤ様から話を聞けないと思ったのか、わたしに目を向けます。
「お嬢さんのことを伺っても良いかな」
「は、はい」
「名前と、出身地を教えてくれるかな」
「はい。名前はエミリア・ウォルフォード。ウォルフォード出身です」
「そうか、君が……」
わたしの名前に何かピンとくるようなことがあったのか、ギルド長様はもの凄く嬉しそうなお顔をされます。
長椅子から立つと、一度部屋の外へ行きました。そして誰かと話すとすぐに戻ってきて、お盆に載せられたティーセットを机の上に置きます。
完璧な作法でお茶の準備をしてくださる間にも、イザヤ様を見てニコニコと微笑んでいます。いえ、ニヤニヤという表現の方が正しいかもしれません。
「あ、ありがとうございます……」
出されたお茶にお礼を言うと、ギルド長様は軽い足取りでイザヤ様の隣へ行き、フードを外してしまいました。
本日、もう一つ更新します。
次の回から、「テイマー」成分が出てきます。




