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【感謝!8万pv!】双子の出涸らしの方と言われたわたしが、技能牧場(スキルファーム)を使って最強のテイマーになるまで。  作者: いとう縁凛


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141 今がそのとき


 アンシアでテイマーを育成していると、エレノラとボルハ様の結婚式の招待状が届きました。

 それとは別に、ケンデルお兄様から結婚式へ参加する前にお兄様の屋敷へ来るようにという手紙も受け取ります。

 お兄様と最後にあったのは、竜型友獣(ラーゴ)を成竜にした頃でしょうか。忙しくて会いに行けていませんでしたから、ちょうど良かったです。


 エレノラとボルハ様の結婚式に呼ばれているのは、貴族の方々と各街のギルド長だそう。

 ということは、ウォルフォードでギルド長を務めているイザヤ様に、久しぶりに会えるということです。

 気持ちを伝えると決めてから、忙しかった毎日。

 イザヤ様にお会いできるのは、二ヶ月ぶりでしょうか。これから王都へ向かうためエレノラの結婚式まであと数日あるのに、イザヤ様に会えることが待ち遠しいです。

 わたしは結婚式に参列してくることを冒険者ギルドの受付の方に伝え、アンシアを発ちました。


 テイマーを育成するようになってから、まだ二ヶ月。ですが街道は、少しずつ整備されているようです。

 今まで王都へ直通の街道はありませんでした。だから一から作っている状態ですが、二ヶ月でそれなりに整えられていると思います。

 アンシアから王都まで、整えば馬車で四日ほどでしょうか。

 ですがわたしは、<∞>のステータス。ぴゅっと走れば、すぐに王都へ到着します。

 走る途中、どこかで漆黒の旋風様だと聞こえたような気がしましたが、その名前はまだ呼ばれているのでしょうか。

 そんなことを思いつつ、門から王都へ入ります。


 門兵の方々に見送られながら入った王都は、実に華やかでした。

 王都全体でエレノラとボルハ様の結婚を祝っているのでしょう。王都内の様々なところに祝福の飾りが置かれています。

 お城が見える噴水広場も、様々なお店が出店しているようで、とても賑わっていました。

 わたしが<発育>をかけた天然の要塞もそのままありましたが、所々光っているように見えるのは、そこまで飾りをつけているということでしょうか。


 お祝いの雰囲気であふれている王都内を進み、お兄様の家に向かいました。

 結婚式の招待状に書かれていた日付は、三日後。馬車で移動すること前提の日程だったため、二日分はアンシアで仕事をしていました。

 しかし、お兄様の世話係兼料理人のミミリー様は、早くても前日に来ると思っていたのでしょう。

 到着が早いと驚かれてしまいました。

 なぜミミリー様が驚かれるのかと思っていたら、お兄様の補佐兼庭師のビィーロ様に以前お借りした部屋まで連れて行かれます。


 その部屋に、一着のドレスが置かれていました。

 隣には、同じ意匠の燕尾服。裾の模様や色合いが同じで、夫婦もしくは婚約者同士のような関係性の二人が着るものだと思います。

 なぜこれを、と思っていると、お兄様が部屋までやってきました。


「エミリア。来たか」

「お兄様。お久しぶりです」

「ああ。話は聞いているぞ。アンシアで忙しいんだってな」

「はい。幸いなことに、多くの方が学びに来ていらっしゃいます」

「そうかそうか。それはそうと、あれからイザヤくんとはどうだ? 勝手に同じ意匠にしてしまったが」

「あの、イザヤ様もここに?」

「イザヤくんにも手紙を送ってある」


 手紙が届いているのならば、イザヤ様はお兄様の家にやってくるでしょう。

 ですが、揃いの服を見てイザヤ様は何を思うでしょうか。


「……まさかとは思うが、忙しすぎて?」

「はい。その通りです」


 お兄様が言葉を濁すように質問してきました。

 わたしが答えると、お兄様は気まずそうに頭を掻きます。しかしすぐに考えを切り替えたらしく、にかっと笑いました。


「ま、お前達二人は見ていてもどかしいくらい両想いだと思ったから、成就する前でも問題ないだろ」

「えっ!? そ、それは本当ですか!?」

「本当って、どこに対して聞いているんだ?」

「あ、えっと、その……」


 両想いなのかどうか。

 告白をする前の、非常に重要な部分について伺おうとしたら、ビィーロ様がイザヤ様の到着を告げました。


「おっ。イザヤくんも来たみたいだな。エミリア。二人で話せ。もし成り立たなかったら、そのときは特注じゃないが他の服を用意できるから」

「ぃぇっ、ありがとうございます」


 お兄様が部屋を出るのと同じ時機に、イザヤ様がやってきました。

 未婚の男女二人が部屋にいることになるので、扉の部屋は開けられたままです。


「……エミリア。久しぶり」

「お、お久しぶりです」

「手紙では教えてもらっていたけど、アンシアはどう?」

「そ、そうですね。少し前に、ギレルモ様が初めての独立者としてリンウッドへお戻りになったと思います」

「そっか」


 イザヤ様はわたしと話しつつ、何度も揃いのドレスと燕尾服を見ます。

 えぇ、そうですよね。視界に入ってしまいますよね。わたしも、気になります。


「その、イザヤ様はどうでしたでしょうか。元実家の方は、ご迷惑をおかけしていないでしょうか」

「それは、まあ。あまりにもちょっかいをかけられるものだから、王様に直訴したんだ。そうしたら、王命でウォルフォードの当主が変わったよ」

「セインお兄様でしょうか」

「そう。初めはセインさんもウォルフォードの人だなって思ったけど、エミリアのお父さんと比べると若いからかな。柔軟に対応してもらっているよ」

「そうですか。それは良かったです」


 当たり障りのないような話をしてきましたが、いよいよドレスと燕尾服について触れなければいけないでしょうか。

 それに触れるということは、わたしの気持ちも伝えることと同意。

 お兄様から聞いた話で舞い上がってしまっていますが、もう少し落ち着いてから切り出したいです。


「あ、あのっ」

「どうしたの、エミリア」

「そ、そのっ。今王都はエレノラとボルハ様の結婚をお祝いする雰囲気で盛り上がっていますね」

「そうだね」

「わ、わたしが<発育>をかけた天然の要塞も飾りつけられていたように思います」

「ああ、あの光でしょ? なんかね、ここ最近発見されたみたいだよ。エミリアが<発育>を重ねがけしたことで圧縮された木に、力を加えると光るんだって」

「へ、へぇ! なるほど。不思議なこともあるものですね」

「そうだね」


 わ、話題が尽きてしまいました。

 もうこれ以上は、気持ちの先送りができません。


 わたしが黙ると、イザヤ様も口を閉じます。

 まるで何か言いたいような、言えないような。そんな葛藤を感じました。


「「あの」」


 二人で同時に、声を出します。

 それからお互いにどうぞと譲り合い、わたしが先に話すことになりました。


「あの、イザヤ様」

「う、うん」


 先に話す機会をいただいたのに、言葉を句切ってしまいます。

 わたしが揃いのドレスと燕尾服を見ると、イザヤ様も釣られて視線を動かしました。


「あ、あの、イザヤ様!」

「う、うん!」


 気持ちを伝えるのなら今だと、つい力んでしまいます。

 そんなわたしに調子を合わせてくださるように、イザヤ様も緊張されているように感じました。

 何度も区切ってしまうからよけいに緊張するのだと思い、深呼吸をして覚悟を決めます。


「イザヤ様。わたしは、イザヤ様のことが好きです! 今まで支えてきてくれてありがとうございました! まだまだ至らぬ点はあると思いますが、もしよろしければ、わたしの本当の恋人になってもらえませんか!!」


 勢いで気持ちを告げて、バッと頭を下げました。

 なのでイザヤ様の反応がわかりません。


 イザヤ様とは両想いだと思います。たぶん両想いでしょう。両想いですよね?


 あまりにも反応がなくて、段々と不安になってきます。

 返事をいただく前に、耐えきれなくなって顔を上げてしまいました。


「っ、ちょ、ちょっと待って!!」


 パッと、慌てたように隠されたイザヤ様のお顔が、真っ赤に染まっています。

 それからお顔を隠すようにしゃがみ込んでしまいました。

 以前も、似たような状況になっていたような気がします。そのときはイザヤ様がお可愛らしいと思っただけでしたが、今日は違います。

 イザヤ様のお顔が見たいです。


 わたしは、イザヤ様と同じ高さの目線に腰を落としました。

 そして、イザヤ様のお顔を隠している両腕に触れます。ビクッと体を震わせて反応をしてくださったイザヤ様の、硬い防御を外しました。

 わたしの想像以上に、イザヤ様のお顔が真っ赤です。心なしか、涙目になっているような気もしました。

 そんな瞳がちらりと動き、わたしを見ます。それだけで、心臓を打ち抜かれたように震えます。


「イザヤ様。わたしの気持ちは、きちんとわたし自身が自覚しました。わたしは、イザヤ様が好きです。たぶん、出会った頃から。ですので、友獣方がイザヤ様に敵対するような状態だったのだと思います」

「ほ、本当に……? 本当に、エミリアが、おれを?」

「はい。大好きです。イザヤ様のすべてを。優しく気遣いにあふれたイザヤ様も、毎日の鍛錬を欠かさない努力家のイザヤ様も、剣技を繰り出すイザヤ様からも、わたしは目を離せません」

「ちょ、ちょっと待って……」


 またお顔を隠そうとされたため、わたしは両手を掴んでそれを阻止しました。

 逃げ場を失ったような目をされるイザヤ様を、まっすぐに見ます。


「イザヤ様。わたしはイザヤ様が大好きです。他の女性がイザヤ様の隣にいることも嫌です。そんなわたしですが、これからずっと一緒にいてくださいますか」

「そ、れは、当然っ……」


 パッと、ようやくイザヤ様と正面から目が合いました。

 イザヤ様はこれ以上にないほど顔を赤くしながら、決意を込めたような目をされます。


「エミリア。おれのことを好きになってくれてありがとう。おれも、エミリアのことが好きだ。出会った時から、ずっと好きだ! これから死ぬまで、一緒にいたい!」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします」

「エミリア!」

「そこまで!!」


 感極まったらしいイザヤ様がわたしに抱きつかれようとしたとき、お兄様が素早く動いてイザヤ様を止めました。

 過剰な接触は結婚式が終わってからだと、お兄様は言います。そういえば前にも、恋人として装うときにも止められていましたね。


 お兄様に止められてしまいましたが、少しだけホッとしている部分もあります。

 イザヤ様のことはすべて受け入れる覚悟はありますが、本当の恋人としてどう振る舞えば良いのかわかりません。


 ……あの寝間着は、まだ売っているでしょうか。


 ラゴサで見た、寝間着のお店。そこで売られていた、薄いピンクの寝間着。

 確かイザヤ様は、それをよく見ていたような気がします。

 あの寝間着を着たら、イザヤ様は喜んでくれるでしょうか。


「っっっ!!」


 つい、あの寝間着を着てイザヤ様と過ごす夜を想像してしまいました。その先の、時間も。


 お兄様と何やら真剣なお話が続いているらしいイザヤ様を見て、揃いのドレスと燕尾服を見て、わたしは指折り数えます。

 エレノラとボルハ様の結婚式は、三日後。

 それならラゴサまで行っても、余裕を持って戻って来られそうです。

 わたしのステータスは、<∞>なので。



長らくお付き合いいただき、ありがとうございました!

40万字越えの物語は、楽しんでいただけたでしょうか。


話としては成立しないぐらいの小ネタなら少しありますが、

『出涸らしテイマー』、これにて終了となります。


「★(いくつでも!)」、「いいね(など反応)」をつけていただけると、

次回作の励みになります。


ありがとうございました。


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