014 ラゴサへ
イザヤ様のおかげでしっかりと寝たわたしは、せめて天幕の片付けを手伝いたいと申し出ました。
しかし、イザヤ様はわたしと話ながらなのに、パパッと片付けを終了させてしまいます。その手際の良さには驚くばかり。
今日も秋晴れの空の下、わたし達はラゴサへ向かいます。
昨日は行程の半分以上を進めましたから、ラゴサまではあと数時間という所です。
そうしてイザヤ様と歩き、ようやくラゴサの入口が見えてきました。
前は馬車で止まらずに通り抜けたそこは、要塞のような壁とそれに見合った立派な門があります。
数人、入る前の順番待ちをしているようです。
馬車に乗っていたとはいえ、あれほど立派な建造物を見ていなかったなんて、周囲への無関心さに我ながらびっくりです。
「門兵は、引退した冒険者がなるんだ。実力がある人しかなれないから、安心して」
「なるほど。冒険者は、引退後もお仕事があるのですね」
「一部の人だけだけどね」
「はっ。そういえば、通行料はおいくらなのでしょうか」
「おれが払うから気にしないで」
「ありがとうございます。冒険者として稼いで、絶対にお返しします」
「返さなくても良いけどね」
気軽に言ってくださるイザヤ様は、斜めがけの鞄から小袋を取り出します。
そして二名いる門兵の方にそれぞれ、銀貨三枚を渡しました。そして追加で、一枚渡します。
え……銀貨、三枚? それを、二人に?? さらに追加で??
どうやら通行料は、銀貨七枚を渡さないといけないようです。
いえ、ですが、おかしいです。
順番を待っている間、前の方々はそんな大金を払っていなかったように思うのですが。
なぜ高額の硬貨を渡すのか考えてみましたが、わたしにはわかりません。
わからないことは、質問するのみ。
戻ってきたイザヤ様に、聞きます。
「イザヤ様、本来の通行料はおいくらなのでしょうか」
「銀貨一枚だよ」
「お一人に?」
「身分証がない人の分だけ」
「えぇと……つまり、六枚ほど多く渡しているということですね?」
「万が一のことを考えたんだ。ウォルフォードではエミリアのことを捜していないみたいだけど、もしかしたら時間が経ってから動くかもしれないでしょ? 連れ戻されないためにね」
「なるほど!! イザヤ様は、何手も先のことを考えているのですね」
ひとまず冒険者ギルドで冒険者登録をしよう。
そんなイザヤ様のお言葉の通り、わたし達はラゴサの街を歩きます。
壁に囲まれている街中で見覚えがあるのは、ほとんどありません。泊まったことがある宿屋ですら、外観を覚えていませんでした。
周囲に対して無関心でいたこと、今では後悔しています。
一人で生きるんだ、なんて目標を掲げていたのに、周囲の情報を得ようとしていませんでした。
ラゴサは、明るい壁色の建物が並ぶ、かわいらしい街のようです。
子供達が元気に走り回り、奥様方が道端で話を弾ませる。
門兵の方が守っているから、こんな平和的な光景を見られます。
そしてその門兵の方は、わたしがこれからなろうとしている冒険者の、大先輩。身が引き締まる思いです。
「後で露店に行ってみようか」
「! 実践、ですね!」
「冒険者ギルドは、こっちだよ」
先導してくださるイザヤ様に続き、路地へ入ります。路地と行っても暗くはなく、道幅も大通りに比べると狭いというぐらい。
イザヤ様の傍を卒業したときには一人で来なければいけません。周囲の建物の特徴を探し、覚えていきます。
進んでいくと、三階建ての建物が見えてきました。
煉瓦造りのその建物は、屋根から突き出た煙突から煙が出ています。何かお料理も食べられるのでしょうか。
「ここが冒険者ギルド。一応何部屋か泊まれるようになってるんだ。でも格安だから人気があって、おれは泊まれたことがない。冒険者であれば誰でも利用できる食堂も併設されているよ」
「とても、効率的です!」
「とりあえず、エミリアの冒険者登録だね」
「はい!」
元気良く返事をしたわたしとは違い、イザヤ様は何か思い悩んでいるようなお顔をされます。
「これからギルドの中に入るけど……気を確かに持ってね」
「はい。わかりました?」
何か良くないことでもあるのかと、冒険者ギルドへ入る前に緊張しました。
そしてわたしは、知ります。なぜ、イザヤ様がわざわざ忠告してくれたかを。




