137 謁見
謁見の間に通されたわたし達は、陛下と王妃様がいらっしゃる前まで進みます。
わたし達が王都に来たのはつい先程なのに、謁見の間の壁際にはたくさんの人々がいらっしゃいました。時々貴族の方と冒険者方との小競り合いのようなものが聞こえます。その方々を抑えるため、兵士の方々が規制をかけているようでした。
「英雄イザヤ。そして救国の英雄、エミリア・ウォル……今は、ただのエミリアだったな。双方、もう少し前へ」
「はい」
わたし達は、玉座がある階下のすぐ前まで行きます。そして膝をつき、頭を垂れました。
「此度は、よくぞ国を救ってくれた。ソフィアからも話を聞いておる。其方らの活躍により、アラバスはまた大きな成長を遂げるだろう。褒美を授ける。何が欲しいか申してみよ」
わたし達が活躍したことは、多くの人が目撃したでしょう。ですがその内容には、触れていません。
発言を許していただけるよう、姿勢を正して手を挙げました。
「恐れながら、陛下。よろしいでしょうか」
「うむ。申してみよ」
「今回の騒動は、一人の魔術師が起こしたものです。それは三年前の騒動も同一の方が引き起こしておりました」
「だが、その者は死んだのだろう?」
褒美を受け取り、これ以上話を広げるな。そんな陛下の意思を感じる鋭い視線に負けず、わたしは続けようとします。
ですが陛下にもの申すということで、畏れから体が震えてしまいました。
そんなわたしを見たイザヤ様が移動し、安心させるようにわたしの手にイザヤ様の手を添えてくださいます。
イザヤ様が頷いてくださいました。
「わたしがテイマーであるが故に、その魔術師の計画に巻きこまれてしまった方がいます。その方の罪を考え直してはもらえませんか」
「む? それは初めて聞くな。そんなことがあったのか」
国家反逆罪というぐらいです。陛下が把握していないわけがありません。
「陛下がご存じないということは、その方の罪もなかったということでしょうか」
「そうなるな。この話はもう良いか。そなたらに褒美を取らせるという話だ」
話を切り上げられてしまいましたが、言質は取りました。これで、ギルド長様は国に戻ってこられるでしょう。
こちらの最大の要求は通りました。あとは。
「褒美、ということになるかはわかりません。ですが、陛下に決めていただきたいことがございます」
「なんだ。申してみよ」
「ありがとうございます。この度の騒動を収めるため、わたしは首謀者たる魔術師の命を奪いました。灰となりその遺骸を回収できませんが、きちんと人として弔いたいのです。どこか、適切な場所はないでしょうか」
「ふむ……。救国の英雄たるエミリアがそうしたいのならば、どこでも好きな場所で弔うが良い。王の名の下に、それを許そう」
「ありがとうございます」
要求が通ったことにより一安心しました。
そして重ねてくださっていたイザヤ様の手にわたしの右手を添えつつ、ファラのことがあってから考えていたことを伝えます。
「わたしは以前、テイマーの友である友獣と別れてしまっていた時期がございました。その際、アンシアを消滅させてしまっています。その贖罪もこめて、アンシアを復活させ、テイマーの街としたいのです」
「む? それはどういうことか」
「今回の騒動で、陛下はテイマーの力がどれだけのものか把握されたかと思います。この力を、わたし一人だけの力とするには惜しいと思うのです」
「それは、つまり?」
「国を守れる力は多い方が、アラバス王国のさらなる発展に繋がると思います」
わたしの発言に、謁見の間が沸きました。
あの力使える? そんなどよめきが広まります。
わたしの力は多くの方々に見られておりますので、あの力が使えるとなれば冒険者の方々の期待は大きく膨らむでしょう。
そしてその声を、無視はできないはずです。
陛下は熟考された後、謁見の間に集まった冒険者の方々にも伝えるように仰います。
「あい、わかった。ではエミリアをアンシアの長とし、テイマーの数を増やすことを許可しよう」
「ありがとうございます」
正式に陛下からテイマー育成の許可が出たことにより、冒険者の方々だけでなく貴族の方々も色めき立ちます。
冒険者をアンシアに斡旋することを考えているのかもしれません。それは純粋な考えではないかもしれませんが、様々な考えの方がいても良いでしょう。
沸き立つ謁見の間の中で、陛下だけがぐったりとしています。そんな陛下を王妃様が慰めているように見えました。
追い打ちをかけるようで申し訳ないですが、もう一つお願いしてみます。
「陛下。最後に一つだけよろしいでしょうか」
「なんだ。まだ何かあるのか」
「テイマーを育成するにあたり、各街に冒険者ギルドがあった方が良いと思います。そのため、ウォルフォードやリンウッドなどの辺境伯領にも冒険者ギルドを置くことを許可していただきたいのです」
「ああ、其方は元ウォルフォードだったな。それならば、ウォルフォードの冒険者蔑視も知っているだろう?」
「承知の上で、お願いしております」
「……わかった。其方は救国の英雄だ。今後のアラバスのためにも、全ての地域に冒険者ギルドを置くように王命を出そう」
「ありがとうございます。わたしからのお願い事は、以上でございます」
「うむ。それでは国のため、テイマーの育成に力を入れてくれ」
「かしこまりました」
わたしは立ち上がり、イザヤ様の手を取ります。
そして大歓声の中、謁見の間から出ました。




