136 謁見まで
魔王様の右腕がなくなったからでしょうか。
外へ出ると、以前感じたどんよりとした空気がなくなっています。
周囲にいたサフンギも、いなくなっていました。
まず公開処刑の日から姿を消してしまった、ギルド長を捜しましょう。
ラーゴのスキル<気配探知:対人>を行うために、<風読>を使いました。それによると今日は、晴れのようです。
スキルを使いましたので、ラーゴの技能牧場を開拓しましょう。
そのまま、<スキルⅡ>の右端を開拓します。
これで、<気配探知:対人>が使えるようになりました。
「イザヤ様。ギルド長様を捜してみますね」
頷いてくださったイザヤ様を見て、早速<気配探知:対人>を発動します。
発動してみましたが、どうにも力を使えていないような気がします。このスキルは、何か発動条件があるのでしょうか。
人を捜す、ということで、具体的に思い浮かべた方が良いのかもしれません。
夏の山のような緑の髪と瞳をした、ギルド長様を思い浮かべます。ギルド長様は、眼鏡もかけていましたね。
奥様がいらっしゃって、フスラン帝国に義弟シャミー様がいらっしゃいます。
やはり人を捜す以上、その方のことを具体的に考えないといけないようです。
「イザヤ様。ギルド長様は国内にいらっしゃらないようです」
「シャミーさんのところ?」
「シャミー様の所かどうかまでは判断できませんが、フスラン帝国の方に反応があります」
「そっか。それなら良かった」
「えぇ。シャミー様のカメオのお力ですね」
「チェリニさんのことは、国内でのことが解決してから戻ってもらおう」
「そうですね」
ギルド長様の生存が確認できましたので、<気配探知:対人>を終わります。
ギルド長様が国に戻るためには、第一級犯罪者という立場が変わらないといけません。
確かにギルド長様はギルドの規定に則り、イザヤ様の冒険者等級を下げました。
わたしのため、様々な情報を調べてくだっています。
それらのため、国家反逆罪と機密情報の取得及び漏洩という罪をかけられている状態です。
これが冤罪だと証明できれば良いのですが、残念ながらその手立てはありません。
ドニー様の罪を暴いたところで、結果は変わらないのです。
「イザヤ様。どうしましょうか」
「んー……ずっと考えていたんだけどさ、機密情報っていわばテイマーのことでしょ? なんでテイマーの情報って機密扱いなのかな」
「それは……あれ。そういえば、なぜでしたでしょうか」
「思うに、おれはたまたま一千年前の戦争のことを知っていたけど、他の人は知らないじゃない? 知らないってことは、アラバス王国の起源も知らないよね?」
「なる、ほど……。国としての威厳を保つため、でしょうか。当時のテイマーが何人いたかわかりませんが、王家だけでは成しえなかった活躍をした。ですがその活躍した人が前に出ると、王家の威信が落ちる……という、感じでしょうか」
「で、リンウッド辺境伯領の人には爵位を与える代わりに外に情報が漏れないように監視していた、と」
最初から、そのことが懸念材料でした。
ルコで畑を作ってしまった後から、わたしの力が王家にばれると大変なのではないかと。
結果的に魔塔で働く方に監禁はされませんでしたが、王家の動きは把握していません。
「でさ、今回のことで結果的にエミリアの力が大多数の人にばれたじゃない? エミリアの力を知る人が多すぎて、もう機密情報として扱えないんじゃないかと思うんだ」
「確かに……。緊急事態だったので、惜しまずに力を発揮しました」
「メタン湿地でのこと。王都でのこと。各地で発生していた次元の裂け目のこと。挙げてみると、わりかし国内全域に影響が出てると思わない?」
「そうですね」
「で、だ。冒険者である以上、強さに敏感なんだ。一般の人よりも驚異的な強さに耐性がある……というか、憧れがあるんだ。今回のことで、一体何人の冒険者がエミリアの力を目撃したと思う?」
イザヤ様が、完全勝利を確信しているかのようなお顔をされます。
強さへの憧れ。それはわたしの強さはどこから来るのかと考えるでしょう。
そしてその情報を開示してほしいと、冒険者の方々は思うはず。その冒険者方は、国を支えているようなものです。
今後魔獣方の出方がどうなるかわかりません。ですがまだ、出るでしょう。それを討伐するのは冒険者の方々で、食肉のための材料調達も冒険者の方々が行います。
「テイマーが不遇だって言われたのもさ、たぶん、王家が操作したからだと思うんだ。でも、テイマーであるエミリアの隠せない活躍。それが、事実だよ」
「では、王都に戻ったら意外とすんなり解決するのでしょうか」
「たぶん。で、エミリアは今や救国の英雄。ドニーさんがしてきた悪事を暴くこと。それはエミリアの功績を明かすということになる」
「そうかもしれませんね」
「たぶんだけど、そこまで存在が大きくなったエミリアのことを王家がどうにかできるものでもないと思うんだ。エミリアは、全国民から支持されているようなものだと思うし」
「そこまでではないと思いますが……」
イザヤ様はいつでも、わたしのことを良く言ってくださいます。
大げさですねと思いつつ、その言葉が励みにもなりました。
「おれの考えは、見当違いってわけでもないと思うよ。それを証明するために、王都に乗りこんでみよう!」
溌剌とした笑顔を見せるイザヤ様のお顔は、なんて尊いのでしょう。
その笑顔に、従ってみようという気持ちになります。
イザヤ様の提案の通り、王都へ行きました。
そして門の所で兵士の方に、至急お城へ行くように言われます。
向かっている最中、お城から来たという迎えの馬車に乗り込みました。
そしてそのまま、陛下と王妃様と謁見という流れになります。




