134 魔王様の力を引き出すために
ラーゴに乗りアラバス王国へ戻ったわたし達は、今後のことを考えるため国の南東部に降り立ちました。
ここは街も何もなく、ただ平原が広がっている場所です。ラーゴから降りるときは、広い敷地がないといけません。
ラーゴにお礼を言ってアロイカフスに戻しました。
「イザヤ様。魔王様からいただいた力を、試したいです」
「魔王の力って、何だろうね」
右の手首についている、青黒い腕輪。これに魔王様の力が込められているということですが、どういうことでしょうか。
「魔王様といえば、魔獣を管轄するお方です」
「魔獣を召喚するとか」
「いえ。それはレタリア様のように藍色の瞳がないとダメだと思います」
イザヤ様に、あの島で見たことを伝えました。
「んー……エミリアもその血を持っているけど、そこまで強くないのかもね」
「思えば、最初からファラはわたしに懐いてくれたように思います。助けたからだと思っていましたが、多少は魔王様の血が関係していたのかもしれません」
「エミリアが四属性持ちなのもさ、魔王の血かもね。魔獣は四属性いるし」
「なるほど。ドニー様から先祖返りだと言われました。レタリア様とわたしが違うように、先祖返りにも力の出方があるのでしょう」
ドニー様の野望は潰え、魔王様も現世からいなくなってしまいました。
ドニー様がしようとしたことは、きっと子供の頃に見た処刑が影響しているのでしょう。
魔力とは何か。
その探究心だけで今まで生活をしてきたのだと思います。
「……イザヤ様。わたしがドニー様を殺してしまった事実は変わりません。ですがせめて、遺骸もありませんが、ドニー様のお墓を作りたいです」
「そうだね。まあ、正直ドニーさんにそこまで心を砕く必要はないと思うけど……そうしないと、エミリアの気が済まないもんね?」
「はい」
「たぶん、これからドニーさんがやってきたことが明らかになる。国全体を巻きこんだから、全ての人から嫌われると思う。だから人目につかないような場所か、もしくは誰も文句が言えないような場所にしないとね」
「それはどこが良いでしょうか」
「今はまだ答えが出ないから、先に魔王の力について考えよう」
先祖返りの力が違うように、わたしにはきっと、魔獣方を生み出す力はありません。
仮に託された魔王様の力で生み出せたとしても、安易に行うものではないと思います。
魔王様の力として想像できるもので、わたしがやりたいこと。
「っ! そうです、イザヤ様!!」
「わっ、びっくりした。どうしたの、急に大声を出して」
「申し訳ありません。わたし、思いついたのです! 魔王様の力で、わたしがやりたいこと、やれそうなことを!!」
「それは?」
思いついたことを実行するため、青黒い腕輪をイザヤ様の右腕に擦りつけました。
「どうでしょうか!!」
「んー……気持ち、少しだけ腫れが引いた感じかな?」
「少しだけ……うーん。何かやり方があるのでしょうか」
気持ち分だけでも腫れが引いたのなら、何度も繰り返せば元通りになるのかもしれません。
ですが、気持ち分というのは、興奮したわたしにイザヤ様が配慮してくださった分という可能性もあります。
もっと劇的に、本当に直ったとイザヤ様が自覚できるような変化が必要です。
「……ねえ、エミリア。これはあくまでもおれの想像で、関連づけて良いのかわからないんだけど」
「はい。何でしょうか」
「魔王の腕輪がついているのは、エミリアの右手首。そして魔王は、右腕を失っていたんだよね? でも確か、他にも失っていたんじゃなかった?」
「はい。左手首と、右の足の親指です」
「最後、魔王はどんな状態だった?」
「最後の確認はできていませんが、ドニー様と戦っているときは右腕以外が戻っていました」
わたしの話を聞いたイザヤ様は、納得したように手を叩きます。
「おれの仮説ね。アラバス王国内にあった、魔獣の発生地。そこには魔王の体の一部があって、それを壊すと封印されていた魔王の元へ戻る。でも今は、魔王がいなくなった。だったら、魔王の右腕が壊れたらそれはどこに行くんだろうね?」
「……あ!」
わたしが青黒い腕輪を見ると、イザヤ様が頷いてくださいました。
ウォルフォードにある魔の森。そこにある、かつて教会だった建物。そこに魔王様の腕が埋まっているはずです。
やることは決まったと思いましたが、イザヤ様の仮説から思ったことがあります。
わたしはすぐに、<気配探知:対魔獣>を発動しました。
魔都と呼ばれるほどたくさんの魔獣方が発生していたのに、スカディには魔獣方の反応がありません。
「……イザヤ様。以前スカディに行ったとき、右足の親指に違和感があったと仰っていましたよね?」
「そうだね。……あれ? さっき、エミリアは魔王の右腕以外が戻っていたって言わなかった?」
「イザヤ様。申し訳ありませんが、ウォルフォードの魔の森に行く前に、スカディに行ってもよろしいでしょうか」
「行こう。オービさんが心配だ」
習慣化してしまった、イザヤ様の背中をお借りして移動しようと思ってしまいました。
しかしもう、ドニー様から受けた術は効かなくなっています。イザヤ様とお互いに少々照れつつ、二人で走ってスカディへ向かいました。
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うっすらとした意識の中、オービのすぐ近くでエミリアとイザヤが話をしていた。
二人がスカディを去ってから、少し時間が経ち、オービはようやく自分の足で立ち上がれるようになる。
穴を掘っていたはずの場所には、土壁があった。そうだ、エミリアが何かをしていた。
そんな風に思ったオービは、土壁に向けて魔法を放つ。
「……え?」
オービの魔法は、せいぜい硬い土を柔らかくする程度だった。それがどうだろう。
一度しか放っていないのに、オービの目の前にあった土壁は中央がかなり奥まで貫通していた。
突然どうしたのかと、オービは自分の手を見つめる。
しかしそれは、ほんの一瞬。
今までにない力を手に入れたオービは、これでエミリアを手伝えると喜んだ。
穿ち、掘り進め、オービは青黒い靄まで到達した。
親指の違和感なんて、気づかないほど興奮していたのだろう。オービは青黒い靄に水魔法を当てて壊したと思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
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イザヤ様と一緒にスカディへ向かいました。しかし中へ入ろうとして、外からは地下へ入れないことを思い出します。
ビリアまで戻り、地下道からスカディへ行きました。
そして<修繕>したはずの場所に穴が開いているのを見て、その奥へ進みます。
そして魔王様の右の親指があったと思われる付近に、オービ様が倒れていました。
すでに、体は冷たくなっています。
「……あのとき、オービ様に意識があったのですね」
「かもしれないね。オービさんはエミリアを神聖視しているような感じがしたから、エミリアのために何かしたかったのかも」
「オービ様の勇気ある行動のおかげで、スカディは魔獣方が発生しなくなりました。ありがとうございます」
もう目を開けないオービ様に頭を下げました。
そしてイザヤ様が、オービ様を肩に担ぎます。
「せめて、ビリアに運ぼう。そこでオービさんの功績を伝えて、そこからオービさんの家族に連絡をしてもらったり、弔ったりしてもらおう」
「そうですね」
わたし達はオービ様を連れて、ビリアへ戻ります。
冒険者ギルドまで行き、オービ様がやり遂げたことを伝えました。
オービ様を冒険者ギルドに託し、わたし達はウォルフォードの魔の森を目指します。




