132 ラーゴの導き
体勢を低くしてくださったラーゴにわたしが乗り、その後すぐにイザヤ様が乗りました。
わたしは絶対にお腹が緩まないように力を入れ、緊張しながらイザヤ様の手を掴みます。
「イ、イザヤ様っ! 移動するまではあ、危ないのでっ、遠慮なく! わたしに掴まっていて、ください!!」
「えっ、でも……」
「わ、わたしはっ、ラーゴの首にしがみつけば問題、ないです! ですがイザヤ様はっ、危ないのでっ」
「わ、わかった。それじゃあ、掴まるね?」
「は、はい!!」
わたしの緊張が伝わったのでしょうか。イザヤ様も上擦ったような声を出し、恐る恐るといった様子でわたしの脇の下に手を伸ばしてきます。
「っ」
「ご、ごめん!」
「い、いえっ。問題ないですっ。し、しっかりと掴まっていてくださいっ」
覚悟をしていましたが、イザヤ様の手がわたしの腹部に来ると身構えてしまいました。
イザヤ様が慌てて手を引いたので、わたしは顔に熱が集まっていると自覚しつつ、イザヤ様の手をわたしの腹部にあてます。
「で、では、行きます。ラーゴ、よろしくお願いします」
<ブフゥ>
ラーゴがいささか不満げな声を出したような気がしましたが、実際のところはどうなのでしょうか。
そんなわたしの疑問は、ラーゴが羽ばたいた瞬間になくなります。
ぐっと下から上にかかる力を感じたかと思うと、ふわっとした浮遊感がありました。ラーゴは速度を上げ、天然要塞に空いた穴から空へ出ます。
「うわぁ……。イザヤ様! すごい景色ですね!」
「そうだね! 気持ち良い!」
眼下には、<発育>をかけたことでできた天然要塞と王都があります。壁はこれまで通りの王都なのに、そこには枝組みの天井。不思議な組み合わせになっていました。
上空の空気は冷たく、肌を刺します。しかしそれ以上にアラバス王国を上空から見ているという興奮と、腹部に感じるイザヤ様の熱で寒さはあまり感じません。
ラーゴは一度バサッと翼を動かすと、滑空するように大空を進んでいきます。
<∞>のステータス値があり、わたしも国内を瞬時に移動できる状態です。ですが、ラーゴはそれ以上に早いのではないでしょうか。
眼下の景色が、すぐにアラバス国内から海に変わります。
本日の海は波もなく、とても穏やかな状態のようです。
アラバス王国には港はありますが、浜辺はありません。
いつかどこかで、イザヤ様と海を堪能できたら良いなと思います。
「エミリア? どうかした?」
「い、いいえっ」
イザヤ様を見るために、振り返ってしまいました。
思いのほか距離が近く、イザヤ様の唇とぶつかってしまいそうになります。
慌てて、顔を前に戻しました。
わたしは、<治癒>の仮定でイザヤ様の唇の柔らかさを知っています。
いつか、その柔らかさを実感するときが来るのでしょうか。
脳内に浮かんでしまった妄想画像を消すため、頭を振ります。
「エミリア!? ちょ、危ないから!」
「も、申し訳ありませんっっ」
突然暴れたわたしを抑えるため、イザヤ様が体全体で包みこむようにわたしを抱きしめてくださいました。
腹部だけで感じていたイザヤ様の熱を、背中全体で感じます。
ラーゴに乗って上空を進んでいるのに、首元には確かに感じる、イザヤ様の吐息。
背中越しに伝わる、鍛えられたイザヤ様の筋肉。それでいて見た目は、細いお体。
全身でイザヤ様を感じるほど、くらくらと目眩がしてきました。
しかし、わたしが今気を失うわけにはいきません。
気合を入れ直すとき、腹部が膨らまないように注意しました。
イザヤ様のように弛みのない体つきにしましょう。
そんなことを思っていると、ラーゴが海を越えました。
眼下に、一度来たことがある島が見えてきました。
年が明けてもまだ季節は冬。ですがそんな季節を感じさせないような、常緑樹が広がっています。
常緑樹の先の、島の中心。そこには白い神殿があり、神殿前には広場もあります。
ラーゴが、その広場におりました。
「デ! デ!」
「マッ、デデ、デ」
以前わたしを運んでくださった、巨人様二体もまだいらっしゃいました。
あのときのように下げられた頭を撫で、強制的に移動させられてしまうような万が一に備え、ラーゴをアロイカフスに戻します。
それから、イザヤ様と一緒に神殿の中に入りました。




