131 幼竜から成竜へ
友獣になったばかりのラーゴを開拓しておこうと、技能牧場を開きました。
通常通りの開拓として、<スキルⅠ>の右端を選択しておきます。
風属性の個別スキルとなる<スキルⅡ>の項目を見てみると、ラーゴは<気配探知:対人>となっていました。今はまだ開拓をできませんが、これから活用できそうなスキルです。
技能牧場を閉じようと思ったとき、初めての表示を発見しました。
ラーゴと名前が書かれていますが、その名前を囲むような線があります。
「 」の場合は、五感を強化する効果がありました。名前が囲まれている場合は、何が起こるのでしょうか。
触ってみると、ポンッと小さな画面が表示されました。
「<ラーゴに魔力を注ぐことで、幼竜から成竜になります>……?」
「ドニーさんがラーゴに拘っていた理由じゃない? 成竜にすると、魔王の元へ連れて行ってくれるとか」
「なるほど。しかしわたしはテイマーで、魔力はないのですが……」
「それはあくまでも冒険者証の表示上の問題だよ。実際、エミリアは四属性持ちなわけだし。フスラン帝国では、テイマーも魔力表示が普通ってミッチーさんも言っていたし」
「それもそうですね」
魔力を攻撃力と仮定した場合、注ぐとは何をすれば良いのでしょうか。
疑問に思いましたが、とりあえずサラーゴを撫でてみます。気持ち良さそうなお顔をされていますが、技能牧場の上に表示されている小さな画面に変化はありません。
ではどうすれば良いのでしょうか。
何か解決の手がかりはないかと、小さな画面を触ります。
「<魔力がラーゴの体内に入ることにより、主を決定します>……。どういうことでしょう?」
「うーん……エミリアのスキルを与えるとか?」
「スキルを与える??」
「いや、ごめん。おれも提案しておきながら意味不明だと思ってる」
「スキルを……」
アラバス王国内であれば、テイマーに魔力表示はありません。ですので、魔力を注ぐというのがどういうものかわかりませんでした。
イザヤ様が何気なく仰ってくださったことが、手がかりになるような気がします。
これまで数多くのスキルを使ってきましたが、使った箇所にわたしの力が残っているのかは考えたことがありませんでした。
しかしもし、使った箇所にわたしの力が残るとしたら。
仮説を元に、わたしは地面に<発育>をかけます。
するとラーゴは嬉しそうな顔をして、伸びた草を食べました。
技能牧場を見ると変化が起きていて、<残りの属性も注いでください>と表示されています。
今行った<発育>が地属性のスキルでした。
この場でできる他の属性を考え、イザヤ様に革の水筒をお借りします。
水をこぼし、そこに<修復>をかけました。
するとサラーゴも、その部分の地面を舐めます。
二つの属性は、これで完了しました。
しかし、風属性と火属性は難しいです。日常的に使えるものではありますが、魔力を注ぐという点においては扱えません。
「残りの二つはどうするの?」
「そうなのです。それが、問題なのです」
「ラーゴは風属性だけど、攻撃は火を吹くよ。だから火属性に関しては、友獣の誰かに火をつけてもらったやつを口にしてもらえれば良いと思う」
「二属性持ちだなんて、ラーゴは本当に特別な子なのですね」
「だからこそ、魔王の強大な魔力にも耐えられるって思われているのかも」
イザヤ様の提案により、火属性の問題は解決しました。
蝶の状態のファラを出し、すぐ近くの草に火の粉の渦を出してもらいます。
ラーゴは美味しそうにその草を食べました。
ファラを指輪に戻します。
残りは、風属性。
風属性のスキルは<風読>、<気配探知>、<気配消散>。これでは、ラーゴが口にできません。
次なる可能性は、風属性友獣の攻撃方法でしょうか。
鳥型友獣は、空中から水中に飛びこんで獲物を捕獲し、放す方法。
人型友獣は、爪で切り裂いたり翼で吹き飛ばしたりですね。
蜜蜂型友獣はおりませんので、その二体でどうにか考えないといけません。
痛くなさそうなのは、翼で風を起こして、それを食べてもらうことでしょうか。
わたしは左の一番前のアロイカフスを触ります。
イルとゴルが出てきました。
「イル、ゴル。極弱めに、翼で風を起こしてもらえますか。風をぶつけ合って、滞留させてください」
やってほしいことを伝えると、イルとゴルは頷いてくださいます。
そしてお互いに向き合って、翼をバフッと動かしました。イルとゴルが繰り出した風はぶつかり、その場でくるくると回っているように見えます。
「さぁ、ラーゴ。この風を食べてください」
<ブフゥ>
ラーゴは滞留している風の手前まで行くと、その体からは想像できないような強力な吸引で、風を体内に取り込みました。
技能牧場の上に出ていた小さな画面に、<魔力注入完了……成竜になるまで、残り僅か……>とあります。
イザヤ様と一緒に、その瞬間を待ちました。
「イザヤ様! ラーゴが成竜になるようです!」
ラーゴがオレンジみのある温かな白い光を放ちます。
その光が収束すると、卵になる以前に見たときよりも一回り大きいと思えるような成竜のラーゴがいました。
ラーゴが、大きなお顔をわたしに近づけます。
<ブフゥ。主、すぐに向かう?>
「魔王様のところ、ということでしょうか」
<ブフゥ。そう。魔王様>
「イザヤ様。ラーゴが魔王様のところへ連れて行ってくれるようですが、どうしましょうか」
「行って話ができるなら、話してみよう」
「かしこまりました。ラーゴ、わたしとイザヤ様を運んでくださいますか」
<ブフゥ。主良い。そいつ、嫌だ>
「そんなこと言わないでください。ね?」
頭を撫でながら根気よく説得し、ようやくラーゴも承諾してくださいました。
わたしが前に乗り、イザヤ様が後ろという体勢になるようです。
わたしが乗る部分は程良い弾力がある首の後ろの部分で、背もたれのような小さなこぶがありました。
イザヤ様のところは硬く、体勢を崩したら落ちてしまうような状態のようです。




