130 魔塔での救助
イザヤ様と友獣方と王都に降りたわたし達は、目についた被害から先に対応していきました。
そして魔塔がついに崩れたと聞き、現場へ急ぎます。
イザヤ様と共に駆けつけると、何人もの怪我人が出ているようでした。その中に、お兄様の姿も見つけます。頭から血を流し、同僚の方に肩を借りているようでした。
わたしはすぐに<治癒>をかけ、<修繕>も使います。そして友獣方をそれぞれの住居へ戻しました。
回復した喜びの声が上がる中、お兄様の元へ駆け寄ります。
「お兄様!」
「おお、エミリアとイザヤ君か。助かったよ」
「お兄様。魔塔に、ドニー様しか使っていなかったような場所はありますか」
「あの糞だけが? ……いや、すまない。わからんな」
「そうですか……」
「お兄さん。魔塔の中を捜索しても良いですか」
「あ、ああ。問題ないが、その間にあの糞が」
「ドニー様の脅威は、もうありません」
「そうなのか? おい、エミリア?」
わたしの話し方が違っていたのでしょうか。お兄様は心配するようにお声をかけてくださいますが、わたしはそのお声をあえて無視して魔塔へ向かいます。
今はまだ、ドニー様の命を奪ってしまったことの整理がついていません。
先に進んだわたしを追うように、イザヤ様が後に続きます。その距離で、お兄様もドニー様が亡くなったと把握されたことでしょう。
イザヤ様と一緒に、魔塔へ入ります。
以前来たときは全然警戒心がありませんでした。次来たときは、と思っておりましたが、すべてが終わった後になってしまいましたね。
副魔術師長であるお兄様が知らないとなると、人目につかないところでしょうか。
以前来たとき、ドニー様はどこかへ行っていました。あのとき、どこへ行っていたのでしょう。
ドニー様の部屋を調べましたが、手がかりはありません。
ドニー様のことですから、きっとルコの実験場以外の場所でも何かしているはずです。
<気配探知:対空気中>を使って捜してみようと思いましたが、上の階へ行く階段の横に、小さな扉がありました。
「っ、イザヤ様。この奥です!」
レタリア様のお声が聞こえました。
小さな扉を開けます。かがまないと入れないその場所は、地下深くに階段が続いているようです。
扉のすぐ近くにまで、半透明の白い壁がありました。
こんなわかりやすい場所にあるのに、お兄様はどうしてわからないと言ったのでしょうか。考えましたが、恐らくドニー様の術で入口が隠されていたのでしょう。
今はドニー様が亡くなっているため、その術も解けた。
小さな扉をくぐり抜け、地下へ行きます。
階段は最後まで続いておらず、途中で壊れていました。
その階段の先。白い瓦礫や青黒く見える岩のようなものの下から、レタリア様のお声が聞こえます。
青黒く見える岩のようなものが互いにぶつかり合い、空間ができているように見えました。
「レタリア様! いらっしゃいますか!!」
「エミリア! ギレルモが!」
壊れた階段から下へ飛び降ります。
先程<修繕>を使いましたが、力は水平方向のみに作用するようです。地下でも<修繕>を使い、元に戻しました。
しかし、青黒い岩のようなものがあるため完全には修繕できません。
よく見てみると、レタリア様を守るようにサタルーガとサグランが折り重なっていました。
イザヤ様にも手伝ってもらおうと思いましたが、すでに息絶えていたのでしょう。わたしが触ると、サタルーガとサグランは消えていきました。
「エミリア! ギレルモ助けて!!」
「かしこまりました」
わたしは、レタリア様を守るように覆い被さっていたギレルモ様を見ます。
頬や背中など、生きていることが不思議に思うほどの裂傷がありました。傷口は乾いていますが、失ってしまった血も多いでしょう。
「レタリア様。これから<治癒>をかけます。この先、ギレルモ様の人格が変わってしまうかもし」
「うるさい! 早くする!! ギレルモ、死ぬ!!」
説明は後でも良いですね。
わたしはギレルモ様に手をかざすようにして<治癒>をかけました。
最上級のやり方は口元へわたしの左手を持っていくことですが、今は<∞>の攻撃力値です。直接触れられるほど近づけば、充分効果は出るでしょう。
「ギレルモ!!」
<治癒>が終わると、それほど時間をかけずにギレルモ様が意識を取り戻しました。そんなギレルモ様に、レタリア様が勢い良く抱きつきます。
以前も思ったような気がしますが、ギレルモ様はステータス値が高いのではないでしょうか。冒険者として、活躍できそうです。
<修繕>時に直っていた、地上へ続く階段を四人で上ります。その途中、<治癒>による人格変化の可能性を伝えました。
一階に戻ると、お兄様が待ってくださっていたようです。
お兄様に地下の事を伝え、レタリア様達のことを頼み、わたしとイザヤ様は魔塔の外へ出ました。
「ドニー様が固執していた竜型魔獣は、地下で死んでしまったのでしょうか」
「どうだろう。地下はあくまでもドニーさんの実験場だったような気がする。魔王が現れた時、白い首輪を着けようとしていたでしょ? 魔王に繋がるサラーゴは、他の場所に匿っているんじゃないかな」
「確かに」
ドニー様が、何を思って魔王様に白い首輪を着けようとしたのかわかりません。
魔法を極め魔術師になったドニー様ですから、あの白い首輪を魔王様に着けて操ろうとしたのでしょうか。
ドニー様を殺してしまった今となっては、その野望もわかりません。
今はひとまず、サラーゴを捜しましょう。
<気配探知:対魔獣>を使います。
「イザヤ様! 反応がありました」
スキルに従い、サラーゴを捜します。
魔塔の裏側、魔塔がある敷地の一番奥に檻がありました。それを発見してから<気配探知:対魔獣>を終了し、駆け寄ります。
ガンッガンッと、まるで暴れるように体を打ちつけているサラーゴがいました。目が赤いので、王都に侵入した風属性の魔獣方が断末魔を上げたのでしょうか。
わたしは右手を伸ばします。
初めは警戒していたようですが、わたしがいつの間にか装着していた青黒い腕輪に顔を擦りつけました。そして瞳も、正常に戻ったようです。
いつもならばここでテイムするのですが、できません。
冒険者証を触ったときに出る、<YES or NO>の選択肢がないとテイムもできないようです。
それをイザヤ様に伝えると、不思議そうに首を傾げました。
「スキルは友獣の技。テイムは、テイマーの技。もしかしたら今のエミリアは、テイマーではないのかもしれない」
「冒険者証によって、職業が固定されていたということでしょうか」
「かもしれない。アロイカフスもそうだけど、魔術道具ってよくわからないことがあるから」
「ですが、困りましたね。あの騒ぎがあった後です。このままサラーゴを放置するわけにはいきません」
「一旦お兄さんに話しておいてさ、すぐに王都の冒険者ギルドで冒険者証を作り直してもらえば良いんじゃないかな」
「そうしましょう!」
直近の方針が決まりました。
わたしはサラーゴに少しだけ待っていてほしいと伝え、その場を離れます。
翌日。
早速プラチナ級の冒険者証をつけ直したわたしは、サラーゴの元へ向かいます。
そしてラーゴと名付け、新たな友獣として加わりました。




